魔法学園の仮面悪役令嬢~覚醒システムで転生者を裁く!

魔法学園の仮面悪役令嬢~覚醒システムで転生者を裁く!

渡り雨 · 完結 · 38.5k 文字

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紹介

現代社会で暮らしていたモニカは、ゲーム『魔法学園の恋愛物語』の「悪役令嬢」に転生した瞬間から、非業の死を遂げる運命を背負っていた。

「愚かなモニカ…貴女は必ず、ダルジアに傷を負わされて人生を台無しにするのですわ!」

クラスメイトの嘲りと、王子ダルジアの「婚約破棄」、そして魔物に襲われて醜く変わり果てる未来が確定していた。

だが、ある日突然目覚めたゲームシステムが告げた衝撃の真実——

「貴女は悪役ではありません。この世界を操る転生者たちの駒に過ぎない」

転生者の王子ダルジアは前世の知識で試練を不正操作し、平民の聖女リリアンは「ゲーム攻略の障害」としてモニカを陥れていた。さらに二人は、モニカの存在そのものを「邪魔者」として抹殺しようとしていた!

チャプター 1

 黄昏の光が薔薇の花びらを透かし、石畳の小径に淡い影を落としていた。王国魔法学園の裏庭は、一面、金色の光を溶かしたような薔薇色に染まっている。

 私は白い薔薇が咲き誇る庭園の入り口に立ち、制服にあしらわれたローゼンバーグ家の紋章をそっと指でなぞった。淡い紫色の生地は、私の金色の髪をよく引き立ててくれる、お気に入りの一着だ。

 今日という日が、私にとってどれほど特別な意味を持つか。ダルジア様が、大事な話があると言って、この場所に私を呼び出したのだ。

「まさか、告白かしら……」

 思わず漏れた呟きと共に、きゅっと下唇を噛む。胸の奥で、甘い期待と痺れるような緊張が溶け合った。

 私とダルジア王子は、物心ついた頃からの幼馴染み。貴族の子弟として数多の夜会で顔を合わせ、この魔法学園にも共に進んだ。長年育んできたこの想いは、とうの昔に友情という言葉だけでは表せないものになっている。

 彼が私に特別な感情を抱いていることは、知っていた。私が彼を想うのと同じように。

「モニカ」

 薔薇のアーチの向こうから、聞き慣れた優しい声がした。私は逸る心を懸命に抑え、そちらへ歩みを進める。

 ダルジア様は、すでにそこで待っていた。王家特製の深青の制服を身にまとい、夕陽をその身に浴びて金の髪を光の糸のように煌めかせている。その腕には、大輪の赤い薔薇の花束が抱えられていた。私の姿を認めると、彼は穏やかに微笑む。

「今日の君は、一段と美しいな、モニカ」

「お褒めに預かり光栄ですわ、ダルジア殿下」

 頬が微かに熱を帯びるのを感じながら、私は淑女の礼をとった。

「ここには二人きりだ。そんなに堅苦しくしなくていい」

 彼は数歩近づくと、花束を差し出した。

「これを君に」

 ふわりと、むせ返るような赤い薔薇の甘い香りが立ち上る。花束を受け取ると、ずしりとした幸福な重みが腕に伝わった。一輪一輪がちょうど見頃で、花弁は肉厚で色鮮やかだ。きっと、丹精込めて選んでくれたのだろう。

 ふと、周囲からひそひそと囁き声が聞こえてくる。少し離れた茂みの陰に、何人かの同級生が隠れてこちらを窺っているようだ。

「王子とローゼンバーグ家のご令嬢、本当にお似合いですわね」

「なんてロマンチックなの、薔薇園だなんて……」

「ねえ、王子様、もしかして……」

 聞こえないふりをしながらも、胸の高鳴りはもう抑えきれない。まさか、本当に……?

「モニカ」

 ダルジア様が、ふいに真剣な表情になる。私をまっすぐに見つめ、ゆっくりと片膝をついた。

 心臓が、どくん、と大きく喉を打った。

 彼は懐からベルベットの小箱を取り出し、開いてみせる。中にあったのは、夜空の最も深い場所を切り取ったかのような、静謐な輝きを宿すサファイアの指輪。見覚えがある。王家に代々伝わる至宝だ。

「モニカ。幼い頃からずっと、君は私にとって最も大切な人だった」

 ダルジア様の声は静かだが、周囲の者たちにもはっきりと聞こえるように凛と響いた。

「我々はもうすぐ卒業する。どうか、私の妃となって、私と共にこの王国を治めてはくれないだろうか」

 わあっ、と感嘆の声が上がり、誰かがぱらぱらと拍手をし始めた。

 私は口元を覆い、こみ上げる感激に言葉を失う。この瞬間を、どれほど待ちわびていたことだろう。幼い日に初めてダルジア様に出会った時から、この優しい王子に恋をすると、わかっていた。

「わたくし……」

 『喜んで』と、そう答えようとした、まさにその時だった。

 ふと、彼の瞳に、氷の欠片のような冷たい光がよぎったのを、私は見てしまった。

 それは、愛する人に向けるものではない。まるで、道端の石ころでも見るかのような、見知らぬ眼差し。ほんの一瞬。けれど、私は確かにそれを見た。

 胸の内に、ちくりとした小さな棘が刺さる。それでも、きっと気のせいだわ、と自分に言い聞かせ、頷こうとした。

「それから、来週の『暗黒の森』討伐だが、君にも参加してもらいたい」

 ダルジア様は続けた。

「未来の王妃としての、君の最初の試練となるだろう」

 暗黒の森、討伐?

 一瞬、思考が凍りつく。あれは上級生向けの、極めて危険な任務ではなかったかしら。参加者はとうに決まっていると聞いていたのに……。

 私が何かを言い返そうとした、その瞬間。

 目の前に、半透明の青い光のパネルが、世界に亀裂を入れるようにして現れた。

【システム起動……】

「え……?」

 驚きのあまり、腕の中の薔薇を落としそうになる。何、これ。幻覚?

【ようこそ、乙女ゲーム『魔法学園の恋物語』の世界へ】

【あなたの身分:悪役令嬢モニカ・フォン・ローゼンバーグ】

 悪役令嬢?『魔法学園の恋物語』?

 それって、前世で私がプレイしていた乙女ゲームじゃない!

 待って、前世?

 次の瞬間、脳を直接かき混ぜられるような激痛と共に、膨大な情報が濁流となって流れ込んでくる。そうだ、思い出した。私は元々、現代日本のオタクで、このゲームにハマって徹夜を続けたせいで過労死して……そして、ゲームの悪役令嬢に転生したんだ!

【現在シナリオ:第三章『求婚の罠』】

【結末予測:BADEND——容貌損壊、婚約破棄】

【対象キャラクター分析】

【ダルジア・フォン・エルクハルト】

【好感度:15/100】

【本心度:3/100】

【危険度:★★★★★】

 なんですって!?好感度がたったの十五?本心度に至っては、絶望的な三?

【警告!対象キャラクターは【スケープゴート計画】を実行中です!】

【目的:ヒロイン『リリアン』の身代わりとして、あなたを危険な討伐任務に参加させること】

 全身から、さあっと血の気が引いていく。

【来週の『暗黒の森』討伐——シナリオ概要:悪役令嬢は古代の魔獣に襲われ、顔に再起不能の重傷を負う。これを理由に、攻略対象は婚約を破棄する】

 さらに私を震撼させたのは、ダルジア様の頭上に、ふわりと浮かび上がった文字だった。

【現在思考:愚かな女め。これで堂々とリリアンと結ばれる】

 足元から世界が崩れ落ちていく。美しい薔薇園も、愛しいと思っていた人の顔も、すべてが色を失い、ひび割れていくようだった。

 そういうことだったのね。すべてが、偽りだった。彼は私の前に跪き、甘い言葉を囁き、王家の至宝を手にしながら、心の中では私を利用して、他の女と結ばれることだけを考えていた。

【リリアン・オーガスト】

【身分:ヒロイン】

【現在状況:ダルジアと密かに交際中】

【計画:負傷を装い、悪役令嬢を身代わりとして討伐へ参加させる】

 全てのピースが、はまった。

 リリアン——あの儚げで無害そうに見えた平民の少女が、とっくにダルジア様と裏で繋がっていたなんて。そして私、ローゼンバーグ侯爵家の令嬢は、彼らの恋路を彩るための、ただの駒に過ぎなかったのだ。

 必死で平静を装う。けれど、腹の底は怒りで煮えくり返っていた。ゲームのシナリオは、全て覚えている。悪役令嬢モニカの結末は、実に悲惨なものだった。古代の魔獣に顔をめちゃくちゃにされた後、ダルジア様は即座に婚約を破棄。最後は辺鄙な修道院で、孤独に死んでいく。

「モニカ?どうしたんだ?」

 ダルジア様が心配そうに顔を覗き込んでくるが、今の私には、その瞳に宿る偽善がはっきりと見えた。

 周囲の野次馬たちも、私がなかなか返事をしないことを訝しんでいるようだ。

 私は一度、深く息を吸い、無理やり自分を落ち着かせる。真相を知ったからには、もう筋書き通りに動いてやるつもりは毛頭ない。

「ダルジア殿下」

 私は優雅に立ち上がり、声にいつもの穏やかな響きを保たせた。

「殿下のプロポーズ、大変感動いたしましたわ。ですが、これほど重要な決断ですもの。数日、考えさせていただけますでしょうか」

 ダルジア様の表情が、僅かに強張る。私がそんな返事をすると、夢にも思わなかったのだろう。だが、彼はすぐに完璧な紳士の仮面を被り直した。

「もちろんだ、モニカ。君の返事を待っている。だが、討伐の件については……」

「討伐に関しましても、わたくしの実力で務まるかどうか、慎重に考えさせていただきたく存じますわ」

 有無を言わせぬ響きを込めて、私は静かに言い放った。

 皆が驚く視線の中、私は毅然と踵を返す。心にあるのは、ただ一つの決意だけ。

『誰かの身代わりになんて、もう絶対になってやらないわ!』

【ホストの覚醒意志を検知。システムは全面的な支援を開始します】

【新機能解放:キャラクター分析、隠しシナリオ閲覧、未来イベント警告】

 薔薇園を抜け、ようやく偽りの仮面を外す。腕の中の赤い薔薇が、夕陽の下でやけに目に刺さった。それは先ほどの偽りの求婚そのもののように、醜く見えた。

 悲劇は繰り返させない。

 今度こそ、私は自分の手で、運命を書き換えてみせる。

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