紹介
「冷酷非情な王を攻略しなければ、元の世界には戻れません」
そうシステムに宣告されたけど――
頼むよ、王に近づくことすらできないのにどうしろっていうんだ!
だってこの体型、王の膝すら届かないんだぞ!?
(これは……まったく、無茶ぶりにも程があるぜ!)
チャプター 1
眩い光が、闇を引き裂く——。
弾かれたように目を開ける。視界に飛び込んできたのは、見慣れた病院の白い天井などではない。赤黒い炎を噴き上げる、巨大な篝火だった。
荒削りな石壁に炎の影が揺らめき、鼻をつく硫黄と血の臭いが辺りに充満している。
「ここは……?」
上体を起こそうとした刹那、腕に冷たい感触が走った——鎖……?
視線を落とし、私は呆然と言葉を失った。
あり得ないほどに細い腕。透き通るような白磁の肌は、淡い銀青色の光沢を帯びている。震える手で頬へ触れると、指先が確かな異形を捉えた。
——尖った、耳?
「嘘、でしょ……」
「静かにしろ!」
頭上で怒号が炸裂した。
巨大な掌が私の肩を鷲掴みにし、地面にめり込ませるほどの剛力で押し付けてくる。
顔を上げると、黒い鱗に覆われた剛腕が視界を塞ぎ、その先には金色の炎を宿した縦長の瞳がぎらついていた。
身長三メートルは下らない怪物。いや、龍族の兵士だ。
獰猛な相貌には細かな鱗がびっしりと並び、額の両側からは湾曲した黒い角が天を衝いている。
「エルフなら、エルフらしく大人しくしてろ」
彼は冷ややかに鼻を鳴らした。
「これ以上暴れるなら、その羽をむしり取るぞ」
羽? そこで初めて、背中の違和感に気づく。振り返れば、半透明の蝉の羽のようなものが、恐怖に呼応して小刻みに震えていた。
これは夢じゃない。
私は本当に、異世界転生してしまったのだ。
周囲から微かなすすり泣きが漏れ聞こえる。牢の中には、私と同じエルフ族が十数人ほど閉じ込められていた。
彼らは部屋の隅で身を寄せ合い、震えながら銀や金の長髪で顔を隠している。
「立て! 全員だ!」
龍族の兵士が槍の柄で鉄格子を荒々しく叩いた。
「今日は生贄の日だ。貴様らのような飾り物は、偉大なる龍王陛下に謁見するんだよ」
生贄? 龍王?
乱暴に牢の扉が開け放たれ、私たちは外へと追い立てられた。石段は高く険しく、一段登るだけで全精力を使い果たすほどだ。
この体はあまりに小さい。目測だが、身長は百十センチにも満たないだろう。
「さっさと歩け! ぐずぐずするな!」
背後から兵士が苛立ち紛れに叫んでいた。
歯を食いしばり、必死に列へと続いて、地下牢を抜け出した瞬間、目の前に広がる光景に、私は息を飲んだ。
そこは、火口に築かれた巨大都市だった。
黒曜石のような岩の建造物が層を成して重なり、そのどれもが雲を突き抜けるほど高くそびえ立っている。
通りを行き交うのは、身長三メートルを超える巨躯の龍族ばかり。彼らの鱗は陽光を浴び、金属的な輝きを放っていた。
それに比べて私たちエルフなど、彼らの目にはテーブルの脚ほどにしか映らないだろう。
「見ろ。また新しいエルフの入荷だ」
「今度のは上玉だな。あの銀髪の女、なかなか綺麗じゃねえか」
「どうせ陛下への献上品だ。俺たちは指一本触れられんよ」
龍族たちの会話が耳に入り、背筋が凍りつく。
列は巨大な宮殿の前で止まった。黒い火山岩のみで建造されたその宮殿の入り口には、今にも動き出しそうな龍の浮彫が施された、二本の威圧的な石柱が立っている。
「跪け!」
兵士が一喝した。
他のエルフたちは即座に平伏したが、私は一瞬の躊躇の後、仕方なくそれに従った。冷たい石畳が膝に食い込み、痛みが走る。
宮殿の奥から、重々しい足音が響いてきた。
一歩ごとに地面が微かに震える。空気そのものが凝固したかのように、エルフたちは息を潜め、龍族の兵士さえもが居住まいを正した。
巨大な陰影が落ちてきた。
私は思わず顔を上げた。
その瞬間、時が止まった。
身長三メートルを超える男が、私の前に立っていた。いや、「男」という言葉ではあまりに陳腐だ。
黒と金を基調とした龍鱗の鎧を纏い、その鱗の一枚一枚が完璧に肉体と一体化し、致命的なまでの美しさを放っている。漆黒の長髪は腰まで流れ、額の両側からは後方へ湾曲した龍の角が伸びていた。
だが、最も衝撃的だったのはその瞳だ。
血のように赤い、縦長の瞳孔。
冷酷で、鋭利で、感情の色がなく、すべてを見透かすかのよう。彼の視線が跪くエルフたちを薙ぐと、視界に入った者は皆、恐怖で小刻みに震え上がった。
「……これだけか?」
低く磁性のある声だが、絶対零度のごとく冷たい。
「はっ、陛下」
兵士が恭しく答える。
「今月、西の国境にて捕縛いたしましたエルフ族、その全個体でございます」
龍王——ドラグルーが、ゆっくりと近づいてきた。
彼が一歩踏み出すたびに、圧倒的な威圧感が波のように押し寄せる。私の前に立ったとき、心臓が口から飛び出しそうだった。
足が止まった。
血色の瞳が、私をロックオンした。
「顔を上げよ」
命令だ。
唇を噛み締め、私はゆっくりと顔を上げた。視線が交錯した瞬間、彼の方に微かな驚きの色が走ったのが見えた——私が他のエルフのように震えることなく、真っ直ぐに見つめ返したからだ。
勇敢だからじゃない。頭が真っ白で、恐怖を感じる機能すら麻痺していただけだ。
「……面白い」
ドラグルーが低く呟く。
彼が手を伸ばした。その手は、私の頭など簡単に握りつぶせるだろう。本能的に後ずさりそうになるが、鎖がそれを許さない。彼の指が軽く私の顎をすくい上げ、無理やり上を向かせた。
「名は」
「セ……セーラ」
声が震える。
「セーラ」
彼が一度繰り返した。
「よかろう。今日から、お前は私の『王室付き』だ」
……は?
周囲から、思わず息を飲む音がした。他のエルフたちは羨望と恐怖に曇った眼差しをこっちに向け、龍族の兵士たちも一様に呆然とした表情を見せている。
「陛下」
年配の龍族の長老が進み出た。
「伝統に則れば、新しく捕らえたエルフはまず血統浄化の儀式を……」
「私のものだと言ったはずだが」
ドラグルーは冷ややかに遮った。
「異論があるのか」
「……滅相もございません」
長老は即座に頭を垂れた。
ドラグルーは私の顎から手を離し、踵(を返した。数歩進んだところで足を止め、振り返りもせずに告げる。
「王宮の西翼へ連れて行け。相応の部屋を用意しろ」
「はっ、直ちに!」
こうして私は二人の龍族のメイドに抱えられ、生贄の広場を後にした。他のエルフたちが別の方向へ連行されていくのが見える。その目に宿る絶望に、私は身震いした。
【ピンポーン——《真心システム》、起動】
突如、無機質な女性の声が脳内に響いた。
【ホスト:セーラ】
【攻略対象:ドラグルー(龍王)】
【現在好感度:5%】
【任務:ドラグルーに真実の愛を抱かせること】
【完了条件:好感度100%到達、かつドラグルーからの自発的な愛の告白】
【報酬:元の世界への帰還】
私は呆気にとられた。何これ? ギャルゲーム?
【注意:対象者は血脈の呪いにより通常の感情がありません。どうか、慎重に行動してください。】
血脈の呪い? 感情がない?
ドラグルーのあの冷たい赤い瞳を思い出し、胸の中に複雑な感情が湧き上がった。
メイドたちに連れてこられたのは、私にとっては広間のように巨大な部屋だった。家具のすべてが龍族サイズで作られており、ベッドは梯子がないと登れず、机や椅子は遥か高みにある。
「陛下は相応の部屋をとおっしゃいましたが……」
一人のメイドが眉をひそめた。
「王宮にはエルフ用の家具などございません」
「仮設で何とかするしかないわね」
もう一人が言った。
「職人を呼んでくるわ」
彼女たちが去った後、ようやく思考を整理する時間ができた。
異世界に転生し、エルフになり、龍王の「王室付き」に選ばれ、謎のシステムが起動した。なにもかもが荒唐無稽だ。
けれど、元の世界に戻るには、任務を遂行するしかない。
感情を持たない龍王に真実の愛を?どだい無理な話よ!
窓の外から重い足音が聞こえた。窓辺に歩み寄り、爪先立ちで外を覗いてみると、テラスにはドラグルーが一人で立っていた。月光を背に、彼が兜を脱いでおり、完璧な横顔があらわになっている。
月の光の下、その表情は意外なほどに……孤独。
その瞬間、ふと気づく。この冷酷な龍王も、誰にも言えない苦しみを抱えているのかもしれない、と。
「セーラ……」
彼が私の名を呟くのが聞こえた。その声には、私には理解できない何らかの響きが含まれていた。
彼が振り返り、血色の瞳が私のいる窓を捉える。視線が合い、心臓が激しく跳ねた。
見つかった。
だが彼は何も言わず、ただ静かに見つめていた。まるで、壊れやすい宝石でも見るかのように。
【ピンポーン——好感度+2%。現在好感度:7%】
システムの通知音が再び鳴る。
私は胸を押さえ、激しい鼓動を感じていた。
(こ、攻略が始まったんだ……)
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(この小説を軽い気持ちで開くなよ。三日三晩も読み続けちゃうから…)
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笑わせないで。最初から、圧倒的に上の存在だったのは私のほうよ。













