崖のほとりで、もう一度

崖のほとりで、もう一度

大宮西幸 · 完結 · 25.3k 文字

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紹介

もし人生が二度目のチャンスをくれたなら――あなたは許しを選ぶ? それとも、復讐の計画を細部まで練り上げる?

海の氷のような深みから、息を切らして目を覚ました瞬間、私は一年前に戻っていた。
あの「婚約パーティー」まで、わずか一週間――妹の亜美と婚約者の拓海が、私を崖から突き落とした、あの日まで。

前の人生で、彼らは私がゼロから築き上げたウェディングプランニング会社を奪い取り、私の存在は風に切られた凧糸のように、あっけなく途切れた。

そして今。亜美が得意げに「私の」ウェディングドレスに身を包み、拓海が笑みを浮かべながら、毒かもしれない飲み物を手渡してくるのを眺めながら、私はグラスをゆっくりと回す。

「ねえ、妹よ」
読み取れない笑みを唇に刻み、私は低く囁く。
「地獄から這い上がった人間が……罠をもう少し仕掛けるのをためらうと思う?」

復讐という料理は、冷たくしてこそ旨味が増す――できれば、相手の恐怖をひと振り、香りづけに添えて。

チャプター 1

 秋の夕日が、岬ヶ丘町を金色に染めていた。

 私は展望台の端に立っていた。海風に煽られたドレスが、まるで囚われた白い蝶のようにひらひらと舞う。

 ここは、私自身のために設計した結婚式場。皮肉にも、ここが私の墓標となった。

「邪魔だったのよ、お姉ちゃん」

 背後から響いた亜美の声は、蜂蜜のように甘く――そして、冬のように冷たかった。振り返る間もなく、強い力で背中を突き飛ばされた。

 無重力になったその一瞬、時間が止まったように感じた。不気味なほど私に似た亜美の顔が見えた。勝ち誇ったような笑み。その瞳の中で、夕日が炎のように燃えているのが見えた。

 そして、私は落ちた。

 耳を満たすのは、打ち寄せる波の音。叫びたい、何かに掴まりたいと思っても、すべてはあまりに一瞬の出来事だった。岩、海水、焼けるような痛み――

 闇が、私を丸ごと飲み込んだ。

「理奈! 理奈!」

 はっと目を開くと、心臓が肋骨を激しく打ちつけていた。見慣れた事務所休憩室の天井が目に入る。ブラインドの隙間から差し込む太陽の光が、壁に影を落としていた。

 私、生きている……?

 テーブルでスマートフォンが狂ったように震えている。震える手でそれを掴んだ。画面に表示された日付に、血の気が引いた――

 四月十五日。

 一年前の、四月十五日。

 婚約パーティーの一週間前。

 ソファから身を起こすと、全身ががたがたと震えた。あり得ない。私はあの秋の夜、自分で設計した完璧な結婚式場で、亜美の手に突き落とされて死んだはずだ。

 なのに、私はここにいる。すべてが始まった、あの場所で。

 テーブルの上には、木村拓海との結婚式の計画書が置かれている。丹念に選んだ花々、数えきれないほど夢見た細部。そのすべてが、今では残酷な冗談のように思えた。私を愛していない男のために、決して実現することのない結婚式を計画していたのだ。

 前の人生では、馬鹿みたいにすべての嘘を信じていた。

 拓海が残業だと言えば信じた。亜美が私のことを心配していると言えば信じた。婚約パーティーの日、休憩室で二人がキスしているのを目撃するまでは。拓海の腕は亜美の腰に回され、彼の襟には亜美の口紅がべったりと付いていた――

 私は皆の前で、完全に我を忘れてしまった。壊れた人形のように泣きじゃくった。

 そんな私を亜美は抱きしめ、甘い声で囁いた。「お姉ちゃん、泣かないで。拓海も、男なら誰でも犯す過ちを犯しただけよ」

 その瞬間、会場中の視線が私に突き刺さった。憐れみ、同情、そして囁き声――「理奈って退屈だもんね、男を繋ぎ止められないのも無理ないわ」

 私は町の笑いものになった。

 不意にドアベルが鳴り、私は記憶から引き戻された。まだ覚束ない足で、無理やり立ち上がる。

 配達員が、茶封筒を手に立っていた。差出人の住所も名前もない。

 ドアを閉め、指で封筒の縁をなぞる。前の人生では、こんな配達物は受け取ったことがなかった。

 息を呑みながら、封筒を破り開けた。

 中には、数枚の写真が入っていた。

 海辺のホテルの前に停められた、拓海の車。ナンバープレートもはっきりと写っている。隅のタイムスタンプは、昨夜の午後十一時を指していた。

 二枚目の写真は、車の窓ガラスを写したものだった。ガラス越しに、拓海のシルエットが女のそれと絡み合っている。

 三枚目はさらに良い角度から撮られており、その女の横顔に、私は胃がひっくり返るような衝撃を受けた。

 亜美だった。

 私の婚約者と、腹違いの妹。婚約パーティーの一週間前に、二人で夜遅く密会していたのだ。

 もしこれが前の人生だったら、私はとっくに崩れ落ちていただろう。泣きながら拓海に電話をかけ、答えを求めて叫び、結局は彼の嘘に丸め込まれて、「きっと偶然だったんだ」と自分に言い聞かせていたはずだ。

 だが――今の私に残っていたのは、氷片のように鋭く、底まで凍りついた明晰さだけだった。

 指先で一枚、また一枚と写真を滑らせ、テーブルの上に並べていく。視線は証拠をなぞりながら、記憶の奥底に沈んでいた光景を次々と引きずり上げていった。婚約パーティーでの裏切り。結婚式の準備期間中に浴びせられた精神的な拷問。日に日に露わになっていく拓海と亜美の不貞――そして最後には、崖っぷちで私を死へと追い詰めた亜美の手。

「今度は、もう馬鹿な真似はしない」鏡の中の自分に、私はそう告げた。

 そこに映る女の瞳には、もはや弱々しさのかけらもなかった。一度死を味わい、裏切りの本当の顔を知った女は、二度も同じ嘘に騙されたりはしない。

 私はスマートフォンを掴むと、素早く文字を打ち込んだ。「話がある。今夜」

 送信先は、拓海。

 それから振り返ると、ライターを手に取り、結婚式の計画書に火をつけた。紙は丸まり、黒ずみ、灰となって崩れ落ちていく。美しかった夢も、無邪気な希望も、すべてが煙と共に消え去った。

 もう、必要ない。

 一分一分が、這うように過ぎていく。私は事務所で座ったまま、これから始まる会話を頭の中で何度もリハーサルした。手の内を見せてはいけない。彼らの企みに気づいたことを悟られてはならない。

 夜七時きっかりに、拓海がドアを開けて入ってきた。

 かつて私が好きだった青いシャツを着て、人好きのする笑みを浮かべている。昔は、その笑顔は私だけのものだと思っていた。今では、彼が出会うすべての女に向けるものだと知っている。

「どうしたんだ?理奈」彼はいつものように私の腰に腕を回そうと、近寄ってくる。

 私は一歩下がり、その手を避けた。

 拓海は一瞬固まったが、すぐに笑顔を取り戻した。「どうしたんだ?」

 私は答えなかった。代わりに、テーブルの上に一枚ずつ、写真を叩きつけた。

 乾いた音が、静かな事務所にパン、パンと響き渡った。

 拓海の顔から、笑みが消えた。

 彼の視線が、写真と私の間を忙しなく行き来する。その顔に動揺が走り、頭の中で必死に言い訳を探しているのが見て取れた。

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