紹介
画面の向こうで、その女は妊娠検査薬を手にこれ見よがしに自慢している。夫の國友(くにとも)は、軽蔑しきった顔で私に怒鳴りつけた。「美香はたった一回で妊娠した。役立たずなのは俺じゃなくて、お前の体だったって証明されたな!」
たった今、妊娠初期と診断されたばかりのエコー写真を握りしめ、私の心は灰のように冷え切った。離婚を決意した。
しかし、國友が美香のために開いた祝賀パーティーで、私は突き倒され、流れ落ちる血がスカートの裾を赤く染めていった。
助けを求める私を前に、國友は冷ややかに傍観するだけだった。「演技はよせ。たかが生理痛だろ?みんなの興を削ぐな!」
チャプター 1
結婚記念日のあの日、出張で帰らない國友に、私はテレビ電話をかけた。
画面が明るくなった瞬間、目に飛び込んできたのは――上気して赤らんだ、黒川美香の整った顔立ちだった。彼女はサイズの合わない男物のバスローブを緩く羽織っている。見間違えるはずもない、それは私が先月、國友のために買ったばかりのものだ。
さらには背景に見え隠れする、艶めかしい間接照明の灯りと、乱れ切ったベッドのシーツ。
「あら、速美じゃない」
美香の声は、毒を混ぜた蜂蜜のように甘ったるい。浮気現場を押さえられたというのに、狼狽する素振りなど微塵も見せず、それどころか手にした妊娠検査薬をこれ見よがしにカメラへ向けて振ってみせた。
「ちょうど皆さんもいらっしゃるのね、私、もう本当に感動しちゃって……」
美香は瞳を潤ませ、声を震わせる。
「おじ様とおば様の前で、ちゃんと國友に感謝を伝えたかったの。十年来の付き合いになる彼が、私に男の子を授けてくれたことへの感謝を」
天地がひっくり返るような目眩を覚え、スマホを握る手が激しく震えた。
「美香、あなた……人の家庭を壊したことを勲章みたいにひけらかすつもり? 恥知らずにも程があるわよ!」
「速美、なんだその言い草は。お前の考え方はどうしてそう薄汚れているんだ!」
上半身をさらけ出した國友の髪は濡れそぼっており、シャワーを浴びたばかりなのは明白だった。彼は美香の背後に立つと、慣れた手つきでその肩を抱き寄せ、眉間に皺を寄せて画面越しの私を睨みつける。まるで、私こそが理不尽な罪人であるかのように。
「お前には分からんだろうが!」
國友はカメラに向かって怒鳴りつけた。その口調には、あろうことか「正義感」すら滲んでいた。
「美香は長年、身持ちを固く守ってきた完璧な処女だったんだ! 一生、女としての喜びを知らずに老いていくのは嫌だと、彼女は俺に泣きついてきたんだぞ」
彼は慈愛に満ちた眼差しを美香に向けた後、冷ややかな目で私を見据えた。
「俺は情にほだされて、彼女の夢を叶えてやっただけだ。本物の女になりたいという願いをな。これは友人としての男気だ。どうしてお前の口にかかると、そうも醜悪な話になる?」
「男気ですって? ベッドの上で発揮する友情なんて聞いたこともないわ」
怒りのあまり、乾いた笑いが込み上げてくる。痛いところを突かれたのか、國友の瞳に一瞬苛立ちが走った。だが彼はすぐさま、より悪意に満ちた言葉でそれを覆い隠そうとする。
「それに、結果が全てを物語っている。これは天命だ。美香は初めてだったが、まさかの一発妊娠だ。だというのに、お前はどうだ?」
彼は軽蔑しきった鼻音を鳴らす。
「俺たちは丸三年も無駄にした。三度の体外受精も全て失敗。はっきりしたじゃないか、欠陥品はお前の身体であって、俺の種じゃなかったとな! 美香のような純潔な身体は、お前のような弄り回して壊れた身体より一万倍マシだということだ」
「いい加減、白けさせるな」
國友は煩わしげに手を振る。
「外食は飽きたからと、美香が俺の好物のフレンチを作ってくれたんだ。お前のヒステリーに付き合っている暇はない」
私はバッグの中にあるエコー写真を握りしめた。つい昨日、自身の妊娠が判明したばかりだったのだ。わざわざ國友の両親を呼んだのも、この吉報を彼らに伝えるためだったというのに。
だが、今この瞬間――八年間の恋情も、結婚生活を維持するために耐え忍んだ六年間も、全てが終わった。私はついに、彼の手を放す決意を固めたのだ。
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爪が掌に食い込み、血が滲む。
けれど、手の痛みより、引き裂かれた心の痛みのほうが遥かに強かった。
冷たい風が、私の髪を揺らす。
その瞬間、ふと強烈な疲れを感じた。
ああ、もういいや。
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私は彼を許すのをやめ、自分自身を解放することにした。
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母も心労で入院している今となってはなおさらだ。
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しかし、運命は残酷だ。
病院で「白血病」という絶望的な診断を受けたその日。
震える足で帰宅した私の目に飛び込んできたのは、夫の裏切りの証拠だった。
私たちの神聖な寝室。
そのベッドの上には、無惨に引き裂かれたレースの下着がわざとらしく残されていたのだ。
それは明らかに、夫の愛人からの宣戦布告。
「あなたはもういらない」と嘲笑うかのような、残酷なマウントだった。
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