浮気現場を押さえたつもりだった

浮気現場を押さえたつもりだった

大宮西幸 · 完結 · 20.2k 文字

858
トレンド
858
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

夫が浮気していると思い込んで、不倫現場を押さえに行ったら、結婚記念日の夜に彼が人を殺しているところに遭遇してしまった。

血まみれの手で私の赤い髪に触れながら、彼は「どうした?」と訊いてきた。

彼が伝説の「赤毛狩り」なのか?

翌日、警察が訪ねてきたとき、私はすべてを話した。

でも彼らは永遠に知ることはないだろう――あの夜、私が「この目で見た」殺人さえも、最初から最後まで、すべて警察に見せるための芝居だったということを。

チャプター 1

 今日は私とヴィニーの、結婚一千日目の記念日だった。

 彼が一番気に入っている青いワンピースを纏い、腕によりをかけてイタリアンのコースを用意し、テーブルには薔薇の花まで飾った。私はリビングに座り、壁の時計を睨みつけながら、彼の帰りを待っていた。

 七時、八時、九時半……。彼はまだ帰ってこない。

 胸がざわつく。ここ数ヶ月、ヴィニーの帰りは遅く、シャツからは他の女の香水の匂いが漂っていた。問い詰めても、返ってくるのは決まって「家族の用事」という言葉だけ。だが、そのジャスミンの香りには覚えがありすぎる――ソフィアの匂いだ。

 私の親切な従姉、ソフィア。表向きは私のことを気遣うふりをしながら、裏ではいつも、私の夫をねっとりとした視線で追っていた。まさかヴィニー、本当にあの女のところへ?

 考えると腹が立ってきた。私はソフィアから預かっていた合鍵を掴むと、彼女の家で待ち伏せしてやることにした。もし現場を押さえたら、もう言い逃れなんてさせない。

 ソフィアの家は真っ暗で、まだ帰宅していないようだった。二階へ上がり寝室に入ると、部屋中があの忌々しいジャスミンの香りで充満している。

 ベッドに腰を下ろして待っていたが、いつの間にか睡魔に襲われ、うっかり眠り込んでしまった。

 どれくらい時間が経っただろう。玄関が開く音で目が覚めた。

 意識が朦朧とする中、階下から足音と、ソフィア特有の甘ったるい笑い声が聞こえてくる。

「今夜は最高だったな、ソフィア」

 低い男の声。血の気が引いた――ヴィニーの声だ!

「デートに来てくれるって信じてたわ」ソフィアが得意げに笑う。「家で待ちくたびれてるあの女――ふふ、ヴィニー……あなたのニーズを理解してるのは、私のほうでしょう?」

「あいつの話はやめよう」ヴィニーの声には笑みが滲んでいる。「今夜は、君だけが欲しい」

 心臓が早鐘を打つ。私は慌ててベッドから転がり落ち、その下へと潜り込んだ。足音が近づいてくる。証拠を押さえるため、私は携帯電話を取り出した。

 寝室のドアが開く。シーツの隙間から、抱き合いながら入ってくる二つの人影が見えた。卑猥な水音が響く。

「たまらないな、ソフィア」ヴィニーの息が荒い。

「当然よ」ソフィアは鼻を鳴らし、甘い声で続けた。「私は誰かさんみたいに退屈じゃないもの……あっ……家で不機嫌な顔をして待つしかできない女とは違うわ」

「ねえ、ヴィニー……んっ……彼女より私のほうが、あなたを満足させられるでしょう?」

 再び、激しい口づけの音。

「答えは分かってるはずだ」ヴィニーが低く囁く。

 衣類が引き裂かれる音がして、ソフィアが淫らな笑い声を上げた。

「好きにして……ああ……そこ……もっと激しく」

 マットレスが軋み始める。

 ヴィニーが何か低く応じたが、よく聞き取れない。聞こえるのは、繰り返される接吻の音と喘ぎ声だけ。

 怒りで全身が震える。それでも耐えて、録音を続けた。

 だが、次に起こったことは、私の予想を完全に裏切るものだった。

 ソフィアの甘い喘ぎ声が、突如として絶叫に変わったのだ。

 ベッドが狂ったように揺れる。情事のためではない、彼女が必死に抵抗しているからだ。

「やめて! ヴィニー、気が狂ったの!?」

 ソフィアの叫びが夜を切り裂く。何かがベッドの端から滴り落ち、私の額に当たった。

 指で拭うと、それは生暖かく、粘り気のある液体だった――血だ!

 悲鳴を上げそうになり、慌てて両手で口を塞ぐ。

 私の夫。あの優しかったはずの男が、今まさに私の従姉を殺そうとしている!

 ベッドの上から、グチャッ、グチャッという音が聞こえる。鋭利な何かで肉を突き刺す音だ。ソフィアの叫び声は次第に弱まり、やがて完全に途絶えた。

 濃厚な血の匂いが充満し始める。私は目を閉じ、これは夢だ、悪夢だと必死に自分に言い聞かせた。

 数分後、ベッドの上の動きが止まる。ヴィニーが起き上がり、ライターを擦る音がした。紫煙の匂いが血臭と混じり合い、嘔吐感を催す。

 その時だ。私の携帯が突如として「ピン」と鳴った――死寂に包まれた部屋で、その通知音はあまりにも耳障りに響いた。

 ベッドの上が、瞬時に凍りつく。

「今の音はなんだ?」ヴィニーの声が鋭くなる。

 心臓が破裂しそうだ。震える指で携帯をマナーモードにし、見つからないでくれと心の中で絶叫する。

 ヴィニーがベッドを降り、部屋の中を歩き回る気配がした。

 シーツの隙間から見える彼は裸足だった。一歩踏み出すたびに、血の足跡が床に刻まれていく。音の出所を探しているのだ。足音が徐々に近づいてくる。

 突然、彼は激しく咳き込み始めた。聞き覚えのある咳だ。最近、夜中によく彼を苦しめていたものと同じ。

 発作が治まると、彼は寝室を出て行った。階段を降り、キッチンへ向かう音が聞こえる。

 私は必死に逃げ道を探した。窓から飛び降りる? 死なないにしても足を折れば、這って逃げることすらできない。

 他の部屋に隠れる? だが床は血の海だ。

 手の震えが止まらず、冷や汗が背中を濡らす。

 深呼吸をして、覚悟を決める――今しかない! 彼が階下にいるうちに走り抜けるんだ!

 一歩踏み出した瞬間、再び足音が響いてきた。

 心臓が口から飛び出しそうになり、呼吸すら忘れる。間に合わない! 私は慌ててベッドの下へ這い戻った。膝を床に強打し、激痛で思わず声を上げそうになるのを、唇を噛みしめて耐え、奥へと身を潜める。

 彼が戻ってきた。床に落ちた影が、手に大きな包丁のようなものを握っていることを告げている。

 そこからの二十分間は、まさに地獄だった――ソフィアの死体を解体する音、刃物が骨を断つ音、切断された四肢が床に落ちる鈍い音……。

 この悪夢もそろそろ終わるかと思ったその時、何かがころりと私の目の前に転がってきた。

 ソフィアの生首だ。見開かれた瞳孔、恐怖に歪んだ表情。その目が、じっと私を見つめている。

 悲鳴を上げそうになり、思わず手を伸ばして押し退けようとした。

 だがその時、ヴィニーが何かに躓き、その反動で生首がさらに私の方へと転がってきた。

 ヴィニーの動きが止まる。

「おかしいな……」何か違和感を覚えたように、彼が呟く。

 彼の足が、私から一メートルも離れていない場所で止まった。そして、ゆっくりとしゃがみ込む。心臓の鼓動が限界を超え、掌は汗でびっしょりだ。

 終わった。見つかる。私もソフィアのように殺されるんだ。

 その時、切断されたソフィアの指から金の指輪が滑り落ち、床に当たってチャリンと澄んだ音を立てた。

 ヴィニーが動きを止める。手にはまだ、血の滴る刃物が握られている。

 私は目を閉じ、心の底から祈った。神様、助けて。お願いだから見つからないで。こんなところで死にたくない……。

 ヴィニーが指輪を拾おうと身を屈めた、その瞬間だった。玄関のドアが激しく叩かれた。

 ドンドンドン!

「開けてくれ! 帰ったぞ!」

最新チャプター

おすすめ 😍

離婚後、本当の令嬢は身籠もったまま逃げ出した

離婚後、本当の令嬢は身籠もったまま逃げ出した

98.1k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
結婚三年目、彼は毎晩姿を消した。

彼女は三年間、セックスレスで愛のない結婚生活に耐え続けた。いつか夫が自分の価値を理解してくれると信じ続けていた。しかし、予想もしていなかったことに、彼から離婚届が届いた。

ついに彼女は決意を固めた。自分を愛さない男は必要ない。そして、まだ生まれていない子供と共に、真夜中に姿を消した。

五年後、彼女は一流の整形外科医、トップクラスのハッカー、建設業界で金メダルを獲得した建築家、さらには一兆ドル規模のコングロマリットの相続人へと変貌を遂げ、次々と別の顔を持つ存在となっていった。

しかし、ある日誰かが暴露した。彼女の傍らにいる4歳の双子の小悪魔が、某CEOの双子にそっくりだということを。

離婚証明書を目にして我慢できなくなった元夫は、彼女を追い詰め、壁に押し付けながら一歩一歩近づき、こう尋ねた。
「親愛なる元妻よ、そろそろ説明してくれてもいいんじゃないかな?」
不倫が発覚した日、御曹司が私を連れて婚姻届を出しに行った

不倫が発覚した日、御曹司が私を連れて婚姻届を出しに行った

74.5k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
結婚式を目前に控えた前日、彼女は婚約者が二人の新居で浮気をしているところを発見した。恥辱と怒りに震えながら、彼女は衝動的な決断を下した。唯一、裏切り者の正体を暴いてくれた男性——たった一度しか会ったことのない男性と結婚することを選んだのだ。しかし、新たな夫が夫婦の義務を求めるとは、彼女は夢にも思っていなかった。

彼の熱い唇が彼女の肌を這うと、低く磁性のある声が響いた。「大人しくしていろ。すぐに終わるから」
離婚と妊娠~追憶のシグナル~

離婚と妊娠~追憶のシグナル~

71.2k 閲覧数 · 連載中 · 月見光
離婚して、すべて終わると思った。
伊井瀬奈は新生活を歩み始める决心を固めていた。
しかし、その時、訪れたのは予期せぬ妊娠——それも、最悪のタイミングでの激しいつわり。
瀬奈は必死に吐き気をこらえるが、限界を迎え……。
「お前……まさか……」
冷酷無比な元夫・黒川颯の鋭い目が、瀬奈のお腹へと向けられる。
あの日から、運命は、もう一度動き出していた。
跡継ぎ問題に悩む御曹司様、私がお世継ぎを産んで差し上げます~十代続いた一人っ子家系に、まさかの四つ子が大誕生!~

跡継ぎ問題に悩む御曹司様、私がお世継ぎを産んで差し上げます~十代続いた一人っ子家系に、まさかの四つ子が大誕生!~

91.2k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
六年前、藤堂光瑠は身覚えのない一夜を過ごした。夫の薄井宴は「貞操観念が足りない」と激怒し、離婚届を突きつけて家から追い出した。
それから六年後——光瑠が子どもたちを連れて帰ってきた。その中に、幼い頃の自分にそっくりの少年の顔を見た瞬間、宴はすべてを悟る。あの夜の“よこしまな男”は、まさに自分自身だったのだ!
後悔と狂喜に押し流され、クールだった社長の仮面は剥がれ落ちた。今や彼は妻の元へ戻るため、ストーカーのようにまとわりつき、「今夜こそは……」とベッドの隙間をうかがう毎日。
しかし、彼女が他人と再婚すると知った時、宴の我慢は限界を超えた。式場に殴り込み、ガシャーン!と宴の席をめちゃくちゃに破壊し、宴の手を握りしめて歯ぎしりしながら咆哮する。「おい、俺という夫が、まだ生きているっていうのに……!」
周りの人々は仰天、「ええっ?!あの薄井さんが!?」
離婚後つわり、社長の元夫が大変慌てた

離婚後つわり、社長の元夫が大変慌てた

211.9k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
三年間の隠れ婚。彼が突きつけた離婚届の理由は、初恋の人が戻ってきたから。彼女への けじめ をつけたいと。

彼女は心を殺して、署名した。

彼が初恋の相手と入籍した日、彼女は交通事故に遭い、お腹の双子の心臓は止まってしまった。

それから彼女は全ての連絡先を変え、彼の世界から完全に姿を消した。

後に噂で聞いた。彼は新婚の妻を置き去りにし、たった一人の女性を世界中で探し続けているという。

再会の日、彼は彼女を車に押し込み、跪いてこう言った。
「もう一度だけ、チャンスをください」
愛した令嬢は、もう他の男のものです

愛した令嬢は、もう他の男のものです

42.6k 閲覧数 · 連載中 · 塩昆布
彼の“日陰の恋人”として過ごした五年。
優しく、聞き分けの良い女でいれば、いつか彼の心を手に入れられると信じていた。

しかし、神様は残酷な悪戯を仕掛けた。
私に下された診断は、心不全。そして、余命数ヶ月という非情な宣告だった。

やがて、彼の“本命”が帰国する。
そして、私はあっけなく捨てられた。

騒ぎ立てることもなく、私は静かに彼の前から姿を消した。
彼から一銭たりとも、受け取らずに……。
離婚当日、元夫の叔父に市役所に連れて行かれた

離婚当日、元夫の叔父に市役所に連れて行かれた

157.5k 閲覧数 · 連載中 · van08
夫渕上晏仁の浮気を知った柊木玲文は、酔った勢いで晏仁の叔父渕上迅と一夜を共にしそうになった。彼女は離婚を決意するが、晏仁は深く後悔し、必死に関係を修復しようとする。その時、迅が高価なダイヤモンドリングを差し出し、「結婚してくれ」とプロポーズする。元夫の叔父からの熱烈な求婚に直面し、玲文は板挟みの状態に。彼女はどのような選択をするのか?
命日なのに高嶺の花とお祝いする元社長 ~亡き妻子よりも愛人を選んだ男の末路~

命日なのに高嶺の花とお祝いする元社長 ~亡き妻子よりも愛人を選んだ男の末路~

96k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
愛する娘は、夫と愛人の手によって臓器を奪われ、無残な最期を遂げた。

激痛の心を抱えた私は、その悲しみと怒りを力に変え、殺人者たちと運命を共にすることを決意する。

だが、死の瞬間、思いもよらぬ展開が待っていた――。

目覚めた私は、愛する娘がまだ生きていた過去の世界にいた。

今度こそ、この手で娘と私自身の運命を変えてみせる!
天才外科医のママと三人の子供、最強親子が都で大暴れ!

天才外科医のママと三人の子供、最強親子が都で大暴れ!

52.6k 閲覧数 · 連載中 · 塩昆布
北村萌花と佐藤和也は大学時代から愛し合い、結婚した。三ヶ月前、佐藤和也は京界市のトップクラスの名家に跡継ぎとして認められた。
たとえ佐藤和也の両親が佐藤家の傍流に過ぎなくても、佐藤和也が一文無しの平民から、トップクラスの名家の御曹司へと成り上がる妨げにはならなかった。
「北村萌花!お前に羞恥心というものはないのか?!」
降り注ぐ怒声が、北村萌花を春の夢から現実に引き戻した。必死に目を擦ると、目の前に立っているのが激昂した佐藤和也だと分かった。
ベッドに散らばった報告書を見て、北村萌花の瞳が輝いた。その中の一枚を拾い上げて差し出しながら言う。
和也、私、妊娠したの。見て、この書類に……」
佐藤和也は手を振り払った。「北村萌花!俺はお前に一度も触れていない。お前の腹の中のどこの馬の骨とも知れんガキは俺の子じゃない!」
あの夜、北村萌花と寝た男は誰だというのだ?!
離婚当日、元夫が復縁を懇願してきた件

離婚当日、元夫が復縁を懇願してきた件

66.6k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
彼女は代理結婚を強いられたが、運命のいたずらか、昔から密かに想い続けていた人の妻となった。

五年間の結婚生活の末に待っていたのは、離婚と愛人契約だけだった。

お腹の子供のことは誰にも告げず、我が子を豪門の争いに巻き込まないよう、離婚後は二度と会わないと誓った。

彼は、またしても彼女の駆け引きだと思っていた。

しかし、離婚が成立した途端、彼女は跡形もなく姿を消した。

彼は狂ったように、彼女が行きそうな場所を片っ端から探し回ったが、どこにも彼女の痕跡は見つからなかった。

数年後、空港で彼は彼女と再会する。彼女の腕の中には、まるで自分を小さくしたような男の子が。

「この子は...俺の子供なのか?」震える声で彼は問いかけた。

彼女はサングラスを上げ、冷ややかな微笑みを浮かべながら、
「ふぅん、あなた誰?」
離婚後、ママと子供が世界中で大活躍

離婚後、ママと子供が世界中で大活躍

150.3k 閲覧数 · 連載中 · yoake
18歳の彼女は、下半身不随の御曹司と結婚する。
本来の花嫁である義理の妹の身代わりとして。

2年間、彼の人生で最も暗い時期に寄り添い続けた。
しかし――

妹の帰還により、彼らの結婚生活は揺らぎ始める。
共に過ごした日々は、妹の存在の前では何の意味も持たないのか。
旦那様は億万長者

旦那様は億万長者

28.7k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
人生で最も幸せな日になるはずだった。しかしその日、私は手術台の上で、婚約者に裏切られていたことを知る。彼の企てた臓器売買という非道な計画は、すんでのところで現れた謎の男によって阻止された。

命の恩人であるその男に保護されて回復するうち、私は、危険な秘密と隠された思惑が渦巻く世界があることを知った。

この謎めいた救い主と共に、私は婚約者の裏切りの真相を暴く旅に出る。新たな事実が明らかになるたびに新たな危険が迫り、正義を求める一歩一歩が、私の命を救ってくれたこの男との距離を縮めていくのだった。