ウェディング会場戦争〜今、笑っているのは誰?

ウェディング会場戦争〜今、笑っているのは誰?

大宮西幸 · 完結 · 16.0k 文字

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紹介

五年前、元恋人が私を捨てるとき、冷たくこう言った。「千鶴、君は僕の夢には相応しくない」

五年後、再び彼に会ったとき、彼はもうF市の新進IT企業家になっていた。一方私は、ただの地味な彫刻家。彼の新しい婚約者は名門令嬢で、私の質素な服装を見て冷笑した。「あなたみたいな格好で、最高級ウェディング会場を予約できるとでも思ってるの?」

彼女は私の会場を奪い、私の指を踏み折り、跪いて謝罪するよう強要した。「ここに相応しくないって言いなさい!」

元カレはそばで冷ややかに傍観していた。まるで五年前のあの雨の夜と同じように。

これが運命なのだと絶望していたとき、あの懐かしくも怒りに満ちた声が会場全体に響き渡った。

「俺の婚約者に手を出す奴は誰だ!」

私の婚約者が来てくれた。

今度は、誰が最後に笑うか見ものね。

チャプター 1

千鶴の視点

「この会場、私がいただくわ!」

 背後から、耳をつんざくような甲高い女の声が響いた。振り返ると、いかにも高級そうなブランド服に身を包んだ女が、私を傲慢な目で見下ろしている。

「すみませんが、ここは既に予約済みです」

 私は手元にある契約書を掲げて見せた。

 彼女はそれを鼻で笑うように一瞥する。

「予約? あんたみたいなのが、こんな場所を予約できるわけ?」

 私は来月予定している婚約者との挙式の詳細を詰めるため、ここ『F市プレミアム・オーシャンビュー・ウェディングサロン』を訪れていたのだが……まさか、こんな理不尽な手合いに絡まれるとは。

「恐れ入りますが、この会場は私が先に予約しています。正当な契約書もありますので」

「正当な契約書?」

 彼女はまたも私を頭のてっぺんから爪先まで品定めし、冷笑を浮かべた。

「その安っぽい格好を見てみなさいよ。ここでの食事代すら払えないんじゃないの?」

 私は深く息を吸い込んだ。彫刻家という職業柄、質素な服装には慣れている。だが、だからといってここで式を挙げられないほど困窮しているわけではない。

「私の服装はあなたに関係ありません」

「大ありよ! あんたみたいなのがここにいるだけで、お店の品が下がるの!」

 彼女の声のトーンが跳ね上がる。

「私が誰か知ってて言ってるの? 高木美音よ!」

 高木? F市三大名門の一つか。

 騒ぎを聞きつけて野次馬が集まり始めた。サロンのスタッフたちも美音の正体に気づいたのか、恐れをなして仲裁に入ろうとしない。

「たとえ名門のお嬢様だろうと、ルールは守るべきです」

「ルール?」

 美音は鼻を鳴らした。

「F市じゃ、私たち高木家こそがルールなのよ!」

「だからといって、他人の会場を横取りしていい理屈にはなりません」

「横取り?」

 彼女は嘲笑った。

「私の婚約者は、この街で最も権力のある男なのよ! 彼の一声で、あんたなんてこの街にいられなくしてやるわ!」

 私は眉をひそめた。

「その婚約者というのは、どなたですか」

「黒崎晴彦よ!」

 彼女は勝ち誇ったように宣言した。

「黒崎技研の社長! F市のテクノロジー産業の八割を牛耳る男よ!」

 黒崎晴彦……。

 世界が急速に静まり返った気がした。その名前は、重いハンマーで胸を打たれたような衝撃を私に与えた。

「……F市市立大学出身の、あの黒崎晴彦ですか?」

 私は思わず問い返していた。美音は眉を吊り上げる。

「あら、うちの晴彦も有名ね。そうよ、あの若き天才社長よ!」

 なんてこと。本当に彼だ。五年前に私を捨てた、あの男。

「どう? 怖くなった?」

 私の驚愕した表情を見て、美音はいっそう図に乗った。

「あんたみたいな底辺、晴彦なら指先一つでひねり潰せるのよ!」

 さらに彼女は畳みかける。

「今すぐ土下座して謝るなら、見逃してあげなくもないわよ!」

 彼女のあまりの厚顔無恥さに、怒りを通り越して笑いがこみ上げてきた。

「土下座もしないし、謝りもしません。この会場を譲るつもりもありませんね」

「何ですって?」

 美音は信じられないといった顔で私を睨みつけた。

「私に逆らうつもり?」

「なぜ逆らってはいけないんです?」

 私は冷ややかに言い放つ。

「予約も済ませて、支払いも完了しています。ここは正式に私が借りた会場です」

「この身の程知らずのクソ女!」

 美音は顔を真っ白にして激昂した。

「警告しておくわ。今すぐ出ていくならまだしも、これ以上逆らうなら晴彦に言って、あんたの一家全員F市から叩き出してやる!」

「ご自由に」

 私は肩をすくめた。

「ですが、この会場は譲りません」

 美音の堪忍袋の緒が切れた。

「いいわ! 上等よ! そんなに死にたいなら容赦しないわ!」

 彼女がいきなり私の首元に手を伸ばしてきた。一歩下がってかわそうとしたが、指が私のネックレスに引っかかる。

 プチッ、と嫌な音がして、ネックレスが千切れた。

 ダイヤモンドが床に散らばる。

「嘘だろ! あれ、カルティエの限定モデルじゃないか!」

「五千万円は下らないぞ!」

 野次馬の中から悲鳴のような声が上がる。

 床のダイヤを見下ろし、美音は小馬鹿にしたように笑った。

「最近の偽物はよくできてるわね、素人騙しには十分ってところかしら!」

 そう言うと、彼女はその高価なヒールを振り上げ、一番大きなハートシェイプのダイヤを悪意たっぷりに踏みつけた。

「貧乏人はこれだから嫌なのよ。見栄を張るにしてもお粗末ね!」

 しまった。あれは真治がくれた誕生日プレゼントなのに!

 理性が怒りの炎に飲み込まれた。

「ふざけるな!」

 私は反射的に彼女を突き飛ばしていた。

 美音はよろめき、信じられないという目で私を睨む。

「あんた……この私を突き飛ばしたの?」

「それがどうした」

「晴彦に言って破滅させてやるわ!」

 彼女は狂ったように襲いかかってきた。

「このビッチ! その顔、引き裂いてやる!」

 だが、所詮は温室育ちのお嬢様だ。動きがまるでなっていない。私は振り回された爪を軽々とかわし、逆に手首を捕らえた。

「きゃっ! 離して!」

 喚き散らす美音。容赦なく手首をひねり上げると、彼女は悲鳴を上げてその場にうずくまった。

「おい、マジかよ! 殴り合いだぞ!」

「早く撮れ! 高木さんがやられてる!」

 野次馬たちが興奮してスマホを掲げる。

 逆上した美音は、空いたもう片方の手で私の顔を引っ掻こうとしてきた。私は半身になってそれをかわし、勢いを利用して背負い投げの要領で彼女を地面に叩きつけた。

「ぎゃあっ!」

 美音の苦悶の声が響く。

 それでも彼女は諦めない。無様に這い上がると、再び私に向かって突進してきた。もはや取っ組み合いの喧嘩だ。私が腕を締め上げれば、彼女は必死に私の髪を掴んでくる。

「終わったな……高木家に喧嘩売るとか」

「あの女、もう死んだも同然だぞ」

 周囲の囁きなど、今の私にはどうでもよかった。

 互いに一歩も引かず揉み合っていると、サロンの外から慌ただしい足音が近づいてきた。

 入り口で、聞き覚えのある声が響き渡る。

「やめろ!」

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