キラークッキー~母さんの愛情レシピ~

キラークッキー~母さんの愛情レシピ~

大宮西幸 · 完結 · 18.6k 文字

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紹介

クマちゃんのクッキーをオーブンから取り出したばかりなのに、娘のドーラが台所に駆け込んできた。

「ドーラ、おかえり!ママの特製クッキーが焼けたのよ!」

でも彼女はクッキーを見た瞬間、顔面蒼白になり、「やめて!やめて!」と叫んで逃げていった。

私は完全に呆然とした。そのときハーバートがちょうど帰宅した。

「ちょっと味見してみて、何か問題があるのかしら?」私はクッキーを指差して言った。

ハーバートは最初私を慰めようとしていたが、これが私がドーラのために作ったクッキーだと知ると、顔色が瞬時に異様に変わった。「本当に君が作ったのか?もしそうなら、すぐに離婚だ!」

「何ですって?」

ちょうど義母のアテナが物音を聞いて私を慰めに来ようとしたが、これが私が娘のために作ったクッキーだと聞くと、直接手で皿全体をひっくり返した。「これがあなたの母親としてのやり方なの?!」

クッキーの破片が床に散らばり、私はぼんやりとそこに立ち尽くし、何が起こったのか全く理解できなかった。

チャプター 1

 夜、家族は食事に出かけ、私だけが家に残された。

 私はキッチンの床に膝をつき、散乱したクッキーの破片を一つひとつ拾い集める。涙が止めどなく溢れてくる。このクッキーは、どう見ても普通のはずだ。こんがりとした黄金色、愛らしいクマの形、そして食欲をそそる芳醇なミルクの香り。

 一体、何がいけないというの? どうして最愛の娘までが私を避けるの?

 残った数枚の無事なクッキーを、慎重に箱へと戻す。怒りと悔しさが込み上げてくる。もう気が狂いそうだ。おかしいのは私なの? それとも、この世界の方なの?

 親友のカーリーに会いに行こう。彼女ならきっと、答えを見つけてくれるはずだ。

 路上で、クッキーが割れていないか確認するために箱を開けた。すると、通りがかりの人々がまるで化け物でも見たかのように、さっと私から距離を取った。ベビーカーを押していた母親に至っては、私に向かって「変態」と罵声を浴びせてきたのだ。

 心臓が早鐘を打つ。私は慌てて箱を閉じると、逃げるようにしてカーリーのカフェへと走った。

「ジェイシー?」

 私の取り乱した様子を見て、カーリーがすぐに歩み寄ってくる。

「なんてこと、どうしたの? 顔色が真っ青じゃない」

 私は堪えきれずに泣き出した。

「ハーバートもお義母さんもおかしくなっちゃったの。娘まで……」

「そんなに酷いの? クッキーごときで、急に態度を変えるなんて」

 カーリーの声には、信じられないという響きがあった。

 悔しさと悲しみで、涙が止まらない。

「そうなの。それに、いろんな人に聞いてみたけど、最初はみんな『普通のクッキーだ』って言うのよ。でも、私が娘のために作ったって言った途端、みんな様子がおかしくなるの」

「もう頭がおかしくなりそう。私が間違ってるの? それとも世界中が狂ってるの?」

 カーリーは慌てて私を慰めた。

「心配しないで。一体どういうことなのか、私に見せてみて」

 私は震える手で箱を開けた。

 カーリーはそれをじっくりと観察し、顔を近づけて匂いまで嗅いだ。

「よく見たけど、全然問題ないじゃない! ただのクマのクッキーよ」

 その言葉を聞いて、ようやく胸のつかえが取れた。

「そうでしょ! 私、もう何年も焼き菓子を作ってるのよ、失敗するはずなんて……」

 文句を言い続けていた私は、カーリーの動きが突然止まったことに気づかなかった。

「このクッキー、本当にあなたが娘さんに作ったの?」

 その言葉を聞いた瞬間、全身の血が凍りついた。

 なぜなら、誰もがその質問をした直後に、態度を一変させたからだ。

 カーリーの笑顔がすっと消えた。彼女はいきなり、手に持っていた布巾を私の顔に投げつけた。

「あなたがそんな人間だったなんて! よくもそんなおぞましいものを私の店に持ち込めたわね? 出て行って!」

 その眼差しは、嫌悪と恐怖に満ちていた。

「あなたとなんて知り合わなければよかった、心底そう思うわ!」

「自分の娘にこんなことをするなんて、鬼畜よりひどい! 出て行け! 今すぐ消えろ!」

 私は呆然とした。ついさっきまで慰めてくれていた親友が、今は最もあくどい言葉で私を罵っている。

「カーリー、意味がわからないわ……」

「消えろ! 二度と私の前に顔を見せるな!」

 彼女は出口を指差し、その声は怒りで震えていた。

 私はよろめきながらカフェを出て、生きる屍のように街をさまよった。人々の言葉が頭の中で反響する――「気持ち悪い」「変態」「鬼畜」……。

 私が一体何をしたというの? どうして一番親しい人たちまでが、こんな仕打ちをするの?

 深夜、家に帰り着くと、リビングにはスーツケースが積み上げられていた。夫のハーバート、義母のアテナ、そして娘のドーラが荷物をまとめ、出て行こうとしている。

 その光景を目にした瞬間、私の世界は完全に崩壊した。私は駆け寄り、ハーバートの腕を掴む。

「どこへ行くつもり?」

 彼はまるで疫病神でも払うかのように、私の手を荒々しく振り払った。

 次に娘に手を伸ばしたが、ドーラは怯えてアテナの背後に隠れ、私を見ようともしない。

 絶望のあまり、私はその場に泣き崩れた。

「お願いだから教えて、一体どうしたのよ? たかがクッキーのために、どうして出て行かなきゃならないの?」

 三人は冷ややかな目で私を見下ろすだけで、誰も答えようとしない。

「私はあなたの妻でしょ、ドーラの母親なのよ! 私が何か間違ったことをしたとしても、せめて理由くらい教えてくれたっていいじゃない!」

 私は声を枯らして泣き叫んだ。

 ついにハーバートが口を開いた。床に這いつくばる私を見下ろす彼の声は、怒りと嫌悪に満ちている。

「家の中でこんなおぞましいものを作るなんて……恥を知れ!」

「ただのクッキーじゃない……」

 パァン! 乾いた音が響き、頬に痛みが走った。

 ハーバートの目は、まるで世界で最も汚らわしいものを見るかのような眼差しだった。

「本当にわからないのか、それともずっととぼけているのか?」

「お前は骨の髄まで腐っているようだな。どれほど極悪非道な人間でも、自分の子には牙を剥かないものだ」

 彼の声は氷のように冷え切り、一語一語がナイフとなって私の心臓を突き刺す。

「それなのにお前は……自分の娘に対して、あんなことをするなんて――」

「お前のような人間とは二度と関わりたくない。ドーラもだ!」

「俺たちはもう終わりだ」

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