元カレの結婚式を計画した—私は花嫁だった

元カレの結婚式を計画した—私は花嫁だった

大宮西幸 · 完結 · 27.5k 文字

1.1k
トレンド
11.2k
閲覧数
816
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

午前5時。涼介が私に750万円を振り込んだ。

感謝すべきだったはずだ。でも、彼のノートパソコンで見たメール—「青木藤宮結婚式場の確認」。白いバラとシャクヤク。私が言ったすべての詳細が盛り込まれていた。それから、彼の電話から藤宮有希の笑い声が聞こえた。

わかった。投資会社の副社長と建築家の相続人。私?ただの結婚式プランナーで、退職金を持っているだけ。

3ヶ月後、涼介の母親、青木晶子が私に婚約パーティーの計画を依頼してきた。

私はそれを引き受けた。彼がその指に指輪をはめるのを見たかったから。

パーティーの日、有希さんがステージに上がった。「これは私の婚約パーティーじゃない」

照明が消えた。スクリーンが点灯した。

涼介の顔が映し出され、目が赤かった。

そして、匿名音声チャットで私を支えてくれた見知らぬ人が...

私の足は力が抜けた。

チャプター 1

絵麻の視点

 朝の光が、床から天井まである窓を突き抜け、寝室に鋭い光の線を引いている。私は手を伸ばし、ベッドの向こう側を探る。

 冷たいシーツ。誰もいない空間。

 涼介はまたいない。きっと、もう何時間も前に。さよならも言わずに。私を起こしもしないで。

 眠気を瞬きで追い払うが、頭はまだ霧がかかっている。ナイトスタンドの携帯が震え、画面が眩しすぎるほどに光る。通知が一つ、滑り落ちてきた。

 銀行振込を受信しました。

 心臓が激しく脈打つ。震える指で携帯を掴み、タップして開く。

 金額、7,500,000円。

 備考、「君の夢のために」

 時刻、午前5時23分。

 私はその数字をじっと見つめる。750万円。画面が滲む。もう一度読み返す。手が震える。

 ナイトスタンドに置かれた白いメモカードに、涼介の筆跡が走り書きされている。

「信じてほしい。これは俺たちのためのものだ」

 その言葉は、私を慰めてはくれなかった。胸の中に重くのしかかる。

 信頼。その言葉。

 昨夜のことが蘇る。涼介は私を強く抱きしめ、真剣な表情を浮かべていた。何か大事な用事を片付けなければならない、と彼は言った。私は半分眠りながら、仕事のことだろう、何か取引でもあるのだろうと思い、「わかった」と呟いた。

 でも、これ。このお金。

 これは、まるでさよならみたいだ。

 メッセージアプリを開いて打ち込む。

「涼介、このお金は何?」

 送信。

 すぐに既読がついた。一分が経ち、二分、五分。

 返信はない。

 胸の圧迫感が喉までせり上がってくる。あの慣れ親しんだ恐怖が、何年も心の奥底に埋めてきたはずの恐怖が、頭をもたげる。私では足りないのだという、決して十分ではなかったのだという、いつだって置き去りにされる運命なのだという、あの囁き声が。

 考えすぎないで。早とちりしないで。

 しかし、私の手はすでに冷や汗で濡れている。

 涼介の白いシャツを一枚羽織ると、生地が指先よりも長く垂れ下がった。キッチンへ向かう途中、書斎のドアが半開きになっているのに気づく。

 机の上には涼介のノートパソコンが置かれ、画面が光っている。

 そのまま通り過ぎろ、と自分に言い聞かせる。だが、足は勝手に前へと進んでいた。

 画面にはメールの受信トレイが広がっている。その件名が、私を激しく打ちのめした。

『青木藤宮結婚式場オプション – 最終確認』

 手にした空のマグカップを落としそうになる。

 藤宮。その名前。偶然のはずだ。クライアントの結婚式かもしれない。涼介が誰かを手伝っているだけかもしれない。たぶん……。

 私はもう書斎の中へと足を踏み入れていた。自分を止める間もなく涼介の椅子に座ると、革のシートはまだ温かい。指がトラックパッドの上を彷徨う。

 三秒。

 そして、クリックした。

 差出人、藤宮有希。

 送信日時、昨日、午後11時47分。

 件名『青木藤宮結婚式場オプション – 最終確認』

「涼介、庭園の会場、完璧だと思うわ。彼女、きっと気に入る。来月の枠で予約しておいたから。忘れずに最終確認してね。あと、お花屋さんが、白いバラとシャクヤクは二週間前には注文が必要だって言ってたわ」

 世界が傾ぐ。

 白いバラとシャクヤク。私の、一番好きな花。涼介がそれを知っているのは、最初のデートで中央公園を歩いているときに私が口にしたからだ。何気なく言った一言。彼は聞いていないと思っていた。

 でも、彼は聞いていた。覚えていた。

 ただ、私のためにじゃない。彼女のために。

 藤宮有希。建築家。彼を子供の頃から知っている女性。彼の世界に属する女性。デザイナーズドレス、チャリティーガラ、繁華街の高級マンション。私とは違う。壊れた家庭で育ち、三ヶ月前までその日暮らしだったウェディングプランナーの私とは。

 下へスクロールする。添付ファイルがあった。花屋からの見積書だ。

「結婚式用の花束――白いバラとシャクヤク、52,500円」

 結婚式用の花束。

 そういうことだったのか、あのお金は。750万円。慰謝料。私を静かに消すための、手切れ金。

 マウスを握るのもやっとなくらい、手が激しく震える。涙が目に込み上げてくるが、瞬きで押し戻す。泣かない。まだだ。

 携帯が鳴る。涼介の名前が画面に点滅する。私は涙を拭い、電話に出た。

「絵麻」彼の声は荒々しく、疲れ切っているように聞こえた。

「振り込み、確認した」声を平静に保とうとするけれど、隠しきれない震えが混じる。

 沈黙。心臓の鼓動が聞こえるほどの、長い三秒。

「大事な準備をするのに少し時間がいる。数週間、俺を信じて待っていてくれないか?」

 信頼。彼女の苗字が入った結婚式の計画書を目の前にして、どうやって信じろと言うの?

 私は携帯を握りしめる指に力を込めた。

「このお金は、どういう意味なの、涼介?」

 その時、聞こえてしまった。背景に響く、女の笑い声が。軽やかで、明るくて、すぐ近くで。

「涼介、こっち来てこれ見て!」藤宮有希だ。

 息が詰まる。

「誰といるの?」

「それは……複雑なんだ」その間が、全てを物語っていた。

「その金は、君のスタジオのためだ。ずっと自分のビジネスをやりたいって言ってたろ?」

 三ヶ月前。夕食の時に一度だけ、そんな話をした。彼はただ「いいね」とだけ言って、話題を変えた。興味がないのだと思っていた。

 それなのに今、突然、750万円?私がこのメールを見つけた、まさにこのタイミングで?

「じゃあ、これは何?手切れ金?」今度は涙がこぼれ落ちたが、声は平静を保った。

「何?違う。絵麻、何を言ってるんだ?」彼は混乱し、傷ついたような声を出した。

 私は彼の上着の袖で顔を拭う。深呼吸をすると、何か冷たいものが胸の中にすとんと落ちてきた。

「なんでもない。わかったわ。ご親切に……どうもありがとう」

「絵麻、待って……」

 通話を切る。携帯がすぐに震えた。涼介からのコールバック。私はそれを拒否し、電源を完全に落とした。

 書斎の床にずるずると座り込む。机に背を預け、膝を胸に引き寄せた。頭上ではノートパソコンの画面がまだ光っていて、あのメールが私を嘲笑っている。

 ようやく、泣くことを自分に許した。大声で泣きじゃくるのではない。ただ静かに、震えながら涙を流す。肩が小刻みに揺れる。涙が涼介のシャツに滴り落ちた。

 わかっていたはずだ。こうなることは予期していたはずだ。青木涼介みたいな男。投資会社の副社長。名門大学で経営学修士号を取得。そんな彼が、私みたいな人間と一緒にいられるはずがない。私たちはもう一年も付き合っているけれど、私はずっと待っていた。彼が、私が彼の世界にふさわしくないと気づくのを。この時が来るのを。

 そして、今、それが起きた。

 藤宮さんなら納得がいく。彼女は建築家。美しく、エレガントで、成功している。彼の家族とは昔からの知り合い。彼の世界の言葉を話す。

 私は、彼の同僚の披露宴で出会ったただのウェディングプランナー。月収六十万円で、普通のアパートに住んでいる女の子。両親の離婚で、愛なんて続かないと学んだ女の子。

 携帯が再び震える。涼介からの三度目の着信。そして四度目。五度目。私は身じろぎもせず、携帯が震えるのを見つめながら、その一つ一つを数えた。

 三ヶ月前のあの会話を、今ははっきりと覚えている。

「時々、自分のウェディングプランニングのスタジオを開きたいなって思うの。小さくて、心のこもったやつ」

「いいね」涼介はそう答えると、デザートはいるかと尋ねた。

 その時は、彼は興味がないのだと思っていた。でも今はわかる。彼は計算していたのだ。きれいさっぱり別れるのに、一体いくらかかるのかを。

 750万円。場所を借りて、機材を買い、半年分の経費を賄うのに十分な額。私がまさに必要とするであろう金額。彼はこれを計算したのだ。細部に至るまで計画していたのだ。

 これは衝動的なプレゼントなんかじゃない。これは、退職金パッケージだ。

 振動が止まる。静寂。そして、スマホが再び震え、メッセージが殺到する。

 涼介、「絵麻、電話に出てくれ」

 涼介、「俺、何か悪いことしたか?」

 涼介、「どうして急にそんな態度なんだ?」

 涼介、「あのお金は本当に君のスタジオのためなんだ。自分のキャリアが欲しいって、いつも言ってたじゃないか」

 涼介、「絵麻、頼む。何があったのか教えてくれ」

 滲む視界でメッセージを見つめる。一つ一つがナイフのように突き刺さる。彼は混乱している。傷ついている。私がなぜ怒っているのか、本気でわかっていないようだ。

 もしかしたら、本当にわかっていないのかもしれない。彼の世界では、これが普通なのかもしれない。金を与え、問題を解決し、きれいな別れを保証する。

 なぜ藤宮有希なのかと聞きたい。まだ私のことを愛しているのかと聞きたい。これまでの全ては、本物だったのかと聞きたい。

 でも、できない。その答えが、怖くてたまらない。

 両親の離婚から学んだことがある。決して、請い願ってはならない。決して、自分を卑下してはならない。誰かが去りたがっているのなら、気高く背筋を伸ばして行かせてあげるのだ。尊厳が第一。

 指が震えながら、キーボードの上を彷徨う。深呼吸をして、顔を拭い、そして打ち込んだ。

「大丈夫。ただ、少し一人になりたいだけ」

 送信。

 そして、膝に顔をうずめ、ようやく声を上げて、本気で泣いた。

最新チャプター

おすすめ 😍

真の令嬢は万の顔を持つ

真の令嬢は万の顔を持つ

105.7k 閲覧数 · 完結 · 相葉悠衣
吉崎家に「身代わり」として育てられた本物のお嬢様・吉崎直子は、偽物のお嬢様の盗作を暴いた後、逆に追い出されてしまう。周囲の人々は彼女の落ちぶれる姿を嘲笑おうと待ち構えていたが、彼女が数多くの顔を持つことなど誰も知らなかった――国際的ジュエリーデザイナー「Queen」、スポーツの天才プレイヤー「直様」、世界一の女性ハッカー「零(ゼロ)」、神医の後継者……。

傲慢な御曹司・羽島浩介が彼女を救うために骨折し、白石家のお爺さんが彼女を跡継ぎとして認め、林原財閥が彼女の本当の身分を明かした時――なんと、あの見下されていた「田舎者」こそが、真の商業帝国の後継者だったのだ!

そして、かつて高みから見下ろしていた偽物のお嬢様は、盗作しかできない道化に過ぎなかった。

全ての仮面が剥がれ落ちた時、全世界が彼女の足元で震撼する――。
双子とヤクザの父親

双子とヤクザの父親

12.3k 閲覧数 · 連載中 · 蜜蜂ノア
予期せぬ運命の巡り合わせで、彼女はクラウンヘイブンで最も権威あるマフィアのボスと関わることになった。その出会いは一人の子供を授かることとなり、彼女は止むを得ない逃避行を余儀なくされた。

六年の月日が流れ、二人は思いがけず再会する。彼女は必死に彼から距離を置こうとするが、運命は異なる計画を用意していた。

驚くべきことに、彼は突然現れ、彼らの愛らしい子供を抱きしめながら、大胆に彼女に詰め寄る。「俺たちの子供を産んでおいて、逃げられると思ったのか?」

彼女は凍りついたように立ち尽くし、言葉を失う。彼こそ、畏怖の念を抱かせる帝国の君主だった。彼女は二人の世界があまりにもかけ離れていて、決して交わることはないと思い込んでいた。

しかし、彼女は知らずのうちに、この不屈の王の真実の愛となっていたのだった。
御曹司に壊される人形

御曹司に壊される人形

23.3k 閲覧数 · 連載中 · キノコ屋
ある交通事故がきっかけで、僕は最愛の人に両足を折られ、監獄に閉じ込められた。

三年後、出所した僕の前に現れたのは、やはり彼だった。

「一生、逃がさないからな」

殺意に満ちた目で、彼はそう言った。

なのに、なぜか僕には、彼の心が深い悲しみに満ちているようにしか見えなかった。
竜王の花嫁

竜王の花嫁

5.5k 閲覧数 · 完結 · AT_Imagination
竜王の花嫁になるって、いったいどういう意味なのだろう?


偉大なるイグナス王国を形づくる七つの村では、毎年欠かさず「選定の儀」が執り行われていた。その儀で村の娘のひとりが選ばれ、恐るべき竜王の花嫁となるのだ。

なぜそんな儀を年ごとに続けるのか、誰にもわからない。これまで選ばれていった花嫁たちが、その後どうなったのかも――。

奴隷にされているのか?

竜の餌にされているのか?

それとも……竜王自身が、彼女たちを喰らっているのか?

それだって否定はできない。王は自分たちとは違う、人ではないのだという噂があるのだから。

それでも、その疑問は執念深く人々の胸を苛んだ。

いったい、花嫁を何に使っているのか――!?

だが、誰も王に問いただそうとはしなかった。逆らうなどという無謀が、どんな運命を呼び込むかが怖かったのだ。

もっとも、そんなことはベラドンナの知ったことではない。今年は彼女の村が花嫁を差し出す番だったが、自分が選ばれるはずがないと彼女は確信していた。

なぜかって?

もちろん、計画があるからだ。そして彼女は、その計画が自分を裏切るはずがないと信じ切っていた……いや、本当にそうだろうか。
全能令嬢の帰還、家族が倒産?

全能令嬢の帰還、家族が倒産?

125.1k 閲覧数 · 連載中 · きりゅう りんか
万能の女神・夏川紅蓮が実家に戻ると、一家は何者かの手で破滅に追いやられた後だった。
父は冤罪で獄中にあり、母は病に伏せっている。
六人の兄たちも、ある者は身体に障がいを負い、ある者は無気力に沈んでいた。
そんな折、家に潜り込んでいた偽令嬢は状況を見るや否や一家を見捨てて姿を消し、さらに屋敷までも奪い取ろうとしていた。
世間は夏川家を「落ち目の負け犬」と嘲笑い、皆がこぞって踏みにじる。

紅蓮が静かに一声を発すれば、暗部より無数の異能の士たちが姿を現し、形勢は一瞬にして逆転する。
父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。

しかし、そんな彼女を指さして嘲る者がいる。
「夏川紅蓮は地味で野暮ったい田舎者だ」と。

何を隠そう、彼女は無数の隠された顔を持つ存在。
神医の令嬢も彼女なら、国画の大家も彼女。
伝説のハッカーも彼女なら、正体不明の謎の女優も彼女。
そして、暗部を統べる首領さえも——彼女なのだ。

そんな折、頂点に君臨する名門の若様が、彼女をそっと腕のなかに抱き寄せた。

「誰が彼女を田舎くさい地味女だと言った? 彼女こそ、俺・諏訪淳行の婚約者だ」

紅蓮が流し目をひとつ送る。

「婚約、破棄しなくていいの?」

「しない」

彼が長いあいだ追い求めてきた決して手の届かない高嶺の花こそが、いま腕のなかにいる婚約者なのだ。
解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。
鬼畜社長が離婚後に豹変!?甘えん坊な元夫の執着愛

鬼畜社長が離婚後に豹変!?甘えん坊な元夫の執着愛

68.6k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
篠崎アエミが最も後悔したことは、すべてを捨てて榎田神也と秘密裏に結婚し、卑屈に彼の傍らにいて、自分自身を失ってしまったことだった。

初恋が帰国し、彼女は彼を要らないと言った。

離婚後、彼女は人生の頂点に立った。

トップレベルのデザイナー無憂は彼女だった。
トップクラスの名門が失った令嬢も彼女だった。
手のひらを返せば雲を作り、手のひらを返せば雨を降らせる株の神も彼女だった。
夫と息子に捨てられた私は、幸福という名の檻を抜け出すことにした

夫と息子に捨てられた私は、幸福という名の檻を抜け出すことにした

49.2k 閲覧数 · 連載中 · 白石 茉鈴​
嫁ぐ前は、夢見ていた。幸せな家庭を築けると信じていた。
しかし現実の結婚生活は、私を泥のような惨めな境遇へと引きずり落とした。
夫と息子にとって、私は愛人の飼い犬にさえ劣る存在でしかなかったのだ。
離婚届に淡々と署名する二人の姿を前に、私の心は不思議と静まり返った。
「そう、それでいいわ」
最後に乾いた笑みを浮かべ、私は決別を告げる。
今日で、私たちは正真正銘の赤の他人。
妊娠を隠して離婚します

妊娠を隠して離婚します

38.3k 閲覧数 · 連載中 · ユイ
「絢香、俺から逃げられるとでも思うな!」
九条雅人は彼女の顎を荒々しく掴み、低く唸った。

絢香の頬は屈辱と興奮で真紅に染まったが、その声にはまだ意地が残っていた。「あなたこそ、私に執着しているだけじゃないの?」

雅人は冷酷に鼻で笑った。
「離婚してからどれほど経った? それでもう俺の『ルール』を忘れたか。お前の身体は、今でも俺をこんなによく覚えているくせに。……ほら、咥えろ」

熱を帯び、恐ろしいほどに猛り狂った彼の太いものが、絢香の顔を容赦なく叩いた。

雅人は冷たく笑う。
「俺から離れられるなんて夢にも思うな、絢香。お前は俺だけのものだ」

——

3年間の契約結婚の間、霧島絢香は「雅人が冷徹な人間だから、その心を溶かすことができないのだ」と思い込んでいた。
しかし、彼が桜井陽菜の妊婦健診に付き添い、彼女が少しでも不快な思いをしないよう、見たこともないほどの優しさと甘やかし方で接している姿を目撃したとき、絢香はついに悟った。彼は人を愛せないのではない。ただ、自分を愛していなかっただけなのだと。

絢香は静かに離婚届にサインし、自身の「妊娠診断書」を胸に抱いて彼の元を去った。

だが、絢香が完全に姿を消した瞬間、雅人は狂わんばかりになり、街中を血眼になって彼女を捜し回った。

ついに再会を果たしたとき、雅人の瞳は血走り、その声は掠れていた。
「絢香、俺が悪かった……頼む、俺の元に戻ってきてくれ」
人生を謳歌する

人生を謳歌する

2.7k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
大学生である私は、兄の家に住んでいた。兄嫁は魅力的で優しく、彼女のすべてが私が理想とする女性像そのものだった。青春真っ只中の私は、彼女と親密になることを夢見ることが多かった。そのような考えが間違っていることは十分にわかっていたので、できるだけ彼女と接しないようにしていた。しかし、驚いたことに、兄が勃起不全であることを知り、彼らは長い間夫婦生活を送っていないことがわかった。彼女は子供を強く望んでいて、兄が彼女を妊娠させることができないために、何度も涙を流していた。ある夜、彼女は私の部屋に入ってきて、「私に子供を授かってくれないか?」と尋ねた。パニックと興奮の間で、私は彼女の目を見ることができなかった。私はどうすればよかったのだろうか?
偽りの仮面

偽りの仮面

12.2k 閲覧数 · 連載中 · 彩月遥
夫が私に抱くのは、愛の伴わない性的な欲望だけ。
彼は、私との間に子供を授かることさえ望んではいない。

そればかりか、外では他の女性と戯れ、私の心を深く傷つける。

逃げ出したい。強く、自立した女性になりたい。
そう願う私を、しかし、彼が手放すつもりは毛頭ないようだった……。
天才デザイナーの私と三つ子を、大富豪は取り戻したい

天才デザイナーの私と三つ子を、大富豪は取り戻したい

64.4k 閲覧数 · 連載中 · 月岛澪
実の父親と継妹にハメられ、私は瀧本知暁と一夜の過ちを強制された。
屈辱に塗れ、身一つで夜逃げするように国を去った私は、その後に彼の「三つ子」を身ごもっていることに気づく。

――6年後。
私は世界に名を馳せる天才デザイナーとなり、奪われたすべてを取り戻すために帰国した。
しかし、悪辣な嘘に目を曇らされた知暁は、私を激しく憎み、「仇敵」として冷酷に立ちはだかる。

やがてすべての真実が白日の下に晒された時、彼は己の過ちに絶望し、プライドを捨てて泣きながら私に許しを乞うた。
だが、傷つけられた私の心はもう戻らない。私は彼の懇願を、冷徹に突き放した。

――もう遅いわ。あなたを一生、許すつもりはない。

そう誓ったはずの私だったが、予想だにしない誤算があった。
私たちが産んだ愛らしい三つ子たちが、今さら戻りたいと泣く父親の、まさかの最強の味方として動き出したのだから。
追放された私が真の継承者だった件。今さら戻れと言われても、もう手遅れです

追放された私が真の継承者だった件。今さら戻れと言われても、もう手遅れです

141.6k 閲覧数 · 連載中 · 星埜雪奈
家族に捨てられ、私はようやく偽りの温もりを切り捨てた。
けれど、私の本質を隠し通すことは誰にもできない。
隠された私の正体は、この国で最も裕福な一族の継承者。
かつての家族が私を見失っている間に、私は全ての支配者となり、この街の頂点に君臨する男の視線を独占する。
彼が私に捧げる愛は、ただの寵愛ではない――世界を敵に回してでも守り抜く、狂おしいまでの執着だ。