紹介
中に詰まっていたのは、三十年分の嘘だった。
武田亮太は、私が八歳の時に命を救ってくれた人だ。
誰もが言った――私は彼にすべてを恩義として返すべきだ、と。
十八歳の時、私は大学の出願書類を「添削してほしい」と彼に渡した。彼は進路指導の先生だった。
その時、彼はこう言った。
「莉佳、お前は競争力が足りない。桜華大学は難しすぎる。短期大学を考えた方がいい」
私は信じた。
そしてこの小さな町に残り、家族のレストランを継ぎ、彼と結婚した。
三十年後、彼が死んだ時、私は真実を知った――。
彼は私の出願書類を丸ごとコピーし、かつての初恋相手、狩野絵里に渡していたのだ。
彼女は私の書類で桜華大学に合格し、見事に成功した。
その間、私は三十年もの間、この町に閉じ込められ、未来を奪った男と結婚していた。
――そして目を開けた時、私は1995年9月、十八歳の自分に戻っていた。
今度こそ、誰にも私の夢は奪わせない。
チャプター 1
莉佳視点
雨は降り続き、寝室の窓を叩いていた。今はもう、私だけの寝室だ。亮太が亡くなって三週間が経つというのに、私はまだこの静けさに慣れることができずにいた。
私はクローゼットの前に立ち尽くしていた。周りには段ボール箱が積み上げられている。彼の服、本、彼の人生そのものが、一つまた一つと箱に詰められていく。
また一着、スーツの上着に手を伸ばしたとき、指先が最上段の奥にある硬い何かに触れた。
金庫だ。
金属製の小さな箱で、うっすらと埃を被っている。慎重に下ろしてみると、思いがけない重みに驚いた。結婚して三十年、こんなものを見たのは初めてだった。亮太が隠していたのだろうか? それとも私が、あんな高い場所を見ようとしなかっただけなのか。
私はそれをベッドの上に置いた。正面には小さな鍵穴があるだけで、ダイヤル錠はついていない。私は視線をナイトスタンドに向けた。そこには亮太の遺品――結婚指輪、腕時計、そして何の鍵か分からない鍵がいくつも付いたキーホルダー――を置いてあった。
三つ目の鍵が合った。カチリ、と音がして錠が外れる。
中には、色褪せた青いリボンで束ねられた手紙が入っていた。年月を経て紙は黄ばみ、端は古い布のように柔らかくなっている。それを取り出すと、心臓が嫌な音を立てて鳴り始めた。
一番上の封筒に書かれた差出人の住所を見て、私は凍りついた。桜川市、狩野絵里。
「狩野……絵里」
三十年の中で、亮太が彼女の名前を口にしたのはせいぜい三回くらいだ。「大学時代の友人だよ」「桜華大学で知っていた人だ」「ただの古い知り合いさ」。彼は決して詳しく語らなかったし、私も尋ねなかった。私たちにはここ、青葉町での生活があったのだ。彼が桜川市で知っていた誰かのことなど、気にする理由がどこにある?
だが、もし彼女が単なる「古い知り合い」なら、なぜその手紙がクローゼットの奥の金庫に、厳重に隠されていたのか?
リボンを解く手がひどく震え、手紙を取り落としそうになった。
最初の手紙の日付は、一九九五年九月となっていた。私が高校三年生になったばかりの頃だ。亮太は当時二十五歳、青葉高等学校で進路指導の教師をしていたはずだ。
「亮太へ。
こんなこと、どう頼めばいいのか分からない。もう五回も手紙を書いては捨てたわ。でも、私にはもう後がないの。頼れるのはあなたしかいない。
先月、父さんの会社が倒産したの。それ以来、母さんは抗うつ剤漬けの状態よ。私はいい大学に入らなきゃいけないの、亮太。自分のためだけじゃない。両親のために。もし私が桜華大学か東都学院大学の奨学金を得られれば、私たちの家族が完全に終わったわけじゃないって証明できれば、母さんもきっと……。
私一人じゃ無理なの。成績は悪くないけど、そこまで優秀じゃない。ボランティア活動も……普通。目立つものなんて何もない。私の願書なんて、その他大勢の山に埋もれて消えてしまうのが怖いの。
いつか言ったわよね、私のことはずっと守るって。あれは本気だった? 私を助けてくれる?
お願い。
――絵里」
私はその手紙を二度読み返した。亮太が進路指導の教師として誰かの大学受験を手伝うこと自体は、おかしな話ではない。だが、この手紙には違和感があった。あまりにも個人的すぎる。「ずっと守る」なんて言葉、教師と生徒が交わすものではないはずだ。
私は最初の手紙を置き、二通目を手に取った。
一九九五年十月。
「亮太、
受かったわ。桜華大学への推薦入学……。
……亮太、あの書類に書かれたことが全部嘘だって、あなたは知ってるわよね。私に関しては、何一つ本当じゃない。
罪悪感はあるわ。ええ、少しはね。でも亮太、あなたは私の家族を見たでしょう? 父の破産が私たちをどう変えてしまったか知っているはずよ。私にはこれが必要なの。莉佳には必要ないわ。あの子にはレストランがあるし、母親もいる。あの子には、あの小さな町がお似合いよ。あそこでならうまくやっていける。
それに、正直に言うわね。このチャンスは私にとって全てなの。少しばかりの罪悪感なんて、私の未来に比べれば何でもないわ。莉佳は一生知ることはない、そうでしょ? 絶対にあの子にはバレないようにするって、あなたが言ってくれたんだもの。
ありがとう。あなたには一生頭が上がらないわ。
――絵里」
手紙が手から滑り落ちた。
彼女は、私のことを言っていたのか?
私の父、秋山浩二は、私が十五歳の時に心臓発作で死んだ。私が生まれる前から、家族経営のレストラン秋山食堂を営んでいた父。父が死んだとき、隠していた多額の借金が発覚した。母さん一人では抱えきれず、私が店を継ぐようにして手伝った。皿洗い、接客、在庫管理。学校では完璧な成績を維持しながら、そのすべてをこなしていたのだ。
「ボランティア活動」だって、私がやったことだ。十六歳の時に始めて、毎週木曜日の夜、市民センターの会議室で外国人の家族に日本語を教えていた。
それは私の物語だった。私の現実の人生。私の痛みであり、私が唯一誇りに思っていたことだった。
それなのに、この狩野絵里という女が、そのすべてを盗んだのだ。
うまく息ができない。部屋が横に傾いていくような感覚に襲われる。
私は三通目の手紙をひったくった。紙がくしゃくしゃになるのも構わなかった。
一九九八年六月。
「亮太、
莉佳と結婚するって聞いたわ。
正直言って、驚いた。本気なの? あの子に真実を知られないようにするためだけに、結婚までするつもり? 亮太、それは……あまりにも大きな犠牲よ。もっと多くのものを手に入れられるあなたが、一生あんな田舎娘に縛られるなんて。
それだけの価値があるの? 私たちの秘密を守るためだけに、愛してもいない相手と一生を共にするなんて。
ちなみに、私は桜華大学でうまくやってるわ。いいインターンシップも見つけたし、教授からの推薦状ももらった。大手企業からもオファーが来てるの。感謝してる。本当に。
でも、あなたがそのために何を犠牲にしているかを考えると……。
まあ、いいわ。あなたにはあなたの考えがあるんでしょうね。莉佳はあなたの責任、あなたが救った女の子だもの。あの子に対して義務感があるのね。分かるわ。
このチャンス、無駄にはしない。あなたの犠牲を決して無駄にはしないから。
――絵里」
ページの下の方に、別のインクで亮太の返事が書き込まれていた。後から書き足したに違いない。
「絵里――君のためなら、すべて価値があることだ。莉佳のことは俺が面倒を見る。彼女は幸せになるさ。君さえ成功してくれれば、俺はなんだってできる。いつまでも愛してる。――亮太」
私はその紙を拳の中で握りつぶした。
「君のためなら、すべて価値がある」
箱の中にある次のものを開けた時のことは、よく覚えていない。視界がぼやけていて、自分が泣いているのか、それともただショックを受けているだけなのかも分からなかった。
それは、一九九五年の私の大学出願書類のコピーだった。そのすぐ隣には、別の願書があった。絵里が桜華大学に提出したものだ。
二つの志望理由書には、全く同じことが書かれていた。
私の物語だ。一言一句違わずに。
あの志望理由書を書いた時のことを覚えている。深夜二時まで起きて、泣きながら書いた。あの数年間の苦しみを言葉にするのは、あまりにも辛かったから。
亮太はそのすべてを奪ったのだ。私の志望理由書をコピーして、それを絵里に渡したのだ。
私は携帯電話を掴み、ネットで「狩野絵里」を検査した。
彼女の会社紹介ページが一番上に表示された。
「狩野絵里
戦略担当役員、投資会社勤務
学歴:桜華大学経営大学院」
その下には、二〇二〇年の経済雑誌の記事があった。「困難を乗り越えて成功した起業家、狩野絵里の軌跡」
クリックして記事を開いた。
そこには、彼女の「波瀾万丈な歩み」が綴られていた。
亮太は、私がそれを決して知ることのないように立ち回ったのだ。私と結婚し、この青葉町に縛り付け、真実に気づく可能性のある人間から私を遠ざけ続けた。
すべてが回り始めた。胸がひどく痛み、息ができない。
彼は私を愛してなどいなかった。一度たりとも。
私はただ、彼が処理すべき問題に過ぎなかったのだ。彼が人生を盗み出し、プレゼントのように誰かへくれてやった、その被害者。私が口をつぐみ、小さく縮こまり、この町に永遠に閉じ込められたままでいるように、彼は私と結婚したのだ。
胸の痛みが激しくなる。助けを呼ぼうと叫ぼうとしたが、声が出ない。
私はベッドの横に倒れ込み、手紙が辺りに散らばった。最後に目に入ったのは、亮太の筆跡だった。「いつまでも愛してる」
私のことじゃなかった。いつだって違ったのだ。
彼は私の三十年の人生を盗んだ。すべてを奪った。
目の前が真っ暗になった。
「はっ……!」
息を呑んで目を覚ました。心臓が痛いほど激しく脈打っている。胸の痛みはない。床に手紙も落ちていない。私はベッドの上で、シーツに絡まっていた。
だが、部屋の様子がおかしい。
壁にはポスターが貼ってある。高校時代に大好きだったバンドのポスターだ。それから、秋山食堂の初給料で買った桜華大学の記念品。机の上は教科書で埋め尽くされている。鏡を覗き込むと、何十年も見ることのなかった顔がそこにあった。
十八歳。私は十八歳だった。
転げ落ちるようにベッドから這い出し、ナイトスタンドの上のカレンダーに手を伸ばした拍子に、目覚まし時計を倒しかけた。
一九九五年九月六日。
高校三年生の九月第一週。志望校確定まで、あと一ヶ月。
私はちょうど、大学出願書類の一式を亮太に渡したばかりだった。「目を通すのを手伝ってあげるよ」という言葉を信じて。
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祖母や、偽善的で貪欲な親戚たちが泣きながら彼女に許しを求めた。
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終末世界で彼女は最後の人類を率い、ゾンビに勝利し、赤い月の終末災害を乗り越えた。
彼女の願いは実現したのだった。
二度目はない 動じず咲く
婚約者は身ごもった愛人を腕に抱き寄せたままそこに立ち、私を鼻で笑っていた。「俺がいなきゃ、お前なんて何の価値もない」
私はきびすを返し、この街で最も裕福な男の扉を叩いた。「ロック氏、政略結婚にご興味はおありですか? 千億ドル相当の株式――それに加え、未来のビジネス帝国も無料でお付けいたしますわ」
不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる
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「彼女を出せ!」と激昂する元夫に、彼は冷たく言い放つ。
「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
「彼女はクタクタになって、さっき眠ってしまったから」













