彼の復讐に巻き込まれて

彼の復讐に巻き込まれて

大宮西幸 · 完結 · 20.1k 文字

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紹介

ジュリアンがF1モナコグランプリで優勝した夜。

私は片手に「陽性」と表示された妊娠検査薬を、もう片方の手にお祝いのケーキを持って、そっとドアを開けた。

これが今夜彼が受け取る二つ目のサプライズになるはずだった。

ところが、ドアの隙間から見えたのは、愛人と絡み合う彼の姿だった。

女の艶めかしい懇願する声と、布が引き裂かれる音が混ざり合い、錆びたノコギリのように私の鼓膜を刺した。

そして私は聞いてしまった。この五年間の私たちの生活を否定する、あの秘密を。

チャプター 1

 ジュリアンがF1モナコグランプリで優勝した、その夜。

 私は片手に「陽性」を示す妊娠検査薬を強く握りしめ、もう片方に祝いのケーキを持ち、そっとドアを押し開けた。

 これが彼にとって、今夜二つ目のサプライズになると思っていた。

 しかし、ドアの隙間から見えたのは、愛人と体を絡ませる彼の姿だった。

 女の甘ったるい懇願の声と布の裂ける音が混ざり合い、錆びた鋸のように私の鼓膜を突き刺した。

 そして、聞こえてしまった。私たちの過去五年間を全否定する、あの秘密が。

「この五年間、あいつに向ける愛情のすべてが吐き気を催すほどだった。あいつの母親――あのくそ女が、俺の親父のベッドに潜り込んで家族を壊さなければ、借金を返すために娘を利用する必要なんてなかったんだ」

「チャリティーパーティーの夜、あいつの母親に本当のサプライズをくれてやる」

 手から妊娠検査薬が滑り落ちた。

 だから、すべては嘘だったのだ。愛し合った五年間は、緻密に練られた復讐計画に過ぎなかった。

 五年にわたる私たちの絆は、すべて偽りだった。

 彼が約束してくれた未来も、偽りだった。

 来週、両親に会うためにチャリティーパーティーに連れて行くと言ったのも、実は私の母を大勢の人の前で辱めるためだったのだ。

 彼が敵と見なす女を。

 冷たい壁に背を張りつけ、爪を壁紙に深く食い込ませる。壁紙が破れそうになるほど激しく。

 私は一歩ずつバスルームへと後退し、震える手で鍵をかけた。

 母のキャサリンに電話をかけた。

「お母さん、ルーカスって人、知ってる?」

 それは彼の父親の名前で、かつてジュリアンが何気なく口にしたものだった。

 電話の向こうで、何かが倒れる音がした。

「誰に聞いたの? リジー、それは前の世代の罪よ……」

「ただ知りたいの。彼が死ぬ前に隠し子を残したかどうか……名前はジュリアン?」

 鉄の味がするまで、唇を強く噛みしめた。

 長い沈黙が続いた。

「ええ」と、母は答えた。

 目を閉じると、涙が頬を伝って落ちた。

 寝室から聞こえてきたジュリアンの言葉が、再び耳の奥で響く。

「あいつが俺の家族を壊し、母親を薬物の過剰摂取で死に追いやり、俺を里親の家に犬みたいに放り込んで餌を漁らせた。この借りは必ず返させてもらう」

 ジュリアンの憎悪に満ちた言葉の一つ一つが、深く心に刺さる。

 最初から、彼は完全にその目的のためだけに私に近づいたのだ。

 涙が止まらなかった。

 母の声が慌てたように変わる。「あの子は両親を亡くしたあと、養子に出されたわ。どうして急にそんなことを聞くの?」

 深呼吸をして、泣くよりも酷い作り笑いを浮かべた。「何でもないわ、お母さん。ちょっと気になっただけ」

 電話を切ると、私は妊娠検査薬をポケットの一番奥に押し込んだ。

 リビングに戻ると、コーヒーテーブルの上に置かれたジュリアンのノートパソコンが目に入った。

 まるで幽霊のような動きで、デスクトップにある「俺の光」というフォルダをクリックする。

 私の写真は一枚もない。ただの一枚も。

 あるのは、何百枚ものアレクサンドラの写真だけ。

 どの一枚にも、撮影者の温もりと愛情が溢れている。

「計画」というサブフォルダまであった。

 開いて中を見る。そこにはホイットモア社の株式分析レポートと、私と母の名誉を失墜させるためのプレスリリースの草稿がいくつも入っていた。

 トラックパッドに一滴の涙が落ちた。

 そういうことだ。

 私に対しては、一歩ずつ緻密に計画を練り、彼女に対しては、惜しみなく「彼の光」として扱っていた。

「何をしてる?」

 弾かれたように振り返った。

 ジュリアンが寝室のドアの前に立っていた。かつて私を優しく見つめていたその目は、今や背筋が凍るほど陰湿で狡猾なものに変わっている。

 私は画面に映るアレクサンドラの眩しい笑顔を指差した。

「アレクサンドラが、あなたの『光』なの?」

 その問いを聞いた瞬間、ジュリアンの気怠げな目は鋭く細められ、大股で歩み寄ってきた。

 彼はノートパソコンを乱暴に閉じた。

「誰が俺の物に触っていいと言った?」

 彼の顔にこれほど恐ろしい表情が浮かぶのを見たのは、初めてだった。

 目を真っ赤に腫らし、震える声で答える。「パソコンを借りようと思って……間違えてそのファイルを開いちゃったの」

 本当は、もっと早く気づくべきだった。

 半年前、競馬場で、彼がアレクサンドラの背中をじっと見つめ、物思いに耽っているのを見た。

 その眼差しは――一途で、熱を帯び、どこか畏敬の念すら混じっていた。

 私は嫉妬に駆られ、彼を試した。「アレクサンドラを見るのが、ずいぶん好きみたいね?」

 あの時、ジュリアンは私の髪を優しく撫でながら、非の打ち所のない甘い声で言ったのだ。

「馬鹿なことを言うな。彼女の横顔が、死んだ母に少し似ていると思っただけさ」

「彼女を見ると、子供の頃の唯一温かかった日々を思い出すんだ」

 私はそれを信じた。

 心を痛めながら彼を抱きしめ、もっとたくさんの愛を注ごうと誓いすらした。

 今思えば。

 当時の私は、とてつもない道化だった。

 ジュリアンが私に迫る。彼から漂う、煙草とアレクサンドラの香水が混ざり合った匂いに吐き気がした。

「アレクサンドラは俺にとって……大切な存在だ」

「俺が一番絶望していた時、世界の果てで野良犬みたいに生きていた時、アレクサンドラが救ってくれた。彼女は俺の理解者であり、運命の相手だ。この感情は、お前のような何不自由なく育った貴族のお嬢様には、一生理解できないだろうな」

 運命の相手。

 理解者。

 その言葉のひとつひとつが、毒を塗った短剣のように私の胸を突き刺し、抉り、そして引き抜かれた。

 私の口元に、苦く哀しみに満ちた笑みが浮かぶ。

「ただのソウルメイトなの?」

 私の苦痛を目の当たりにして、ジュリアンの目に浮かんでいた苛立ちは、一抹の愉悦へと変わった。

「ああ」

 五年間、私とジュリアンはとても上手くやっていた。

 彼はサーキットの王であり、私はピアノの姫。

 私たちは生まれながらの理想の相手であるはずだった。

 だが今夜、彼が優勝を手にした今夜、そして私のお腹の子供が四週目を迎えた今夜……。

 残酷な真実を悟ってしまった。

 ポケットの中の妊娠検査薬をきつく握りしめる。鋭いプラスチックの縁が手のひらに食い込み、手は汗でべっとりとしていた。

 携帯電話を取り出して、彼を問い詰めたかった。

 私たちに子供ができたと伝えたかった。

 だが今、嘘にまみれたこの男を前にして、私にはできなかった。

 父の友人であるルーカスが、家族から見放された隠し子を残したことはずっと知っていた。

 その子の母親であるマデリンが、私の母を自分の人生を狂わせた仇として憎んでいたことも。

 けれど、想像すらしていなかった。

 憎しみに飲み込まれ、復讐の機会を窺っていたその隠し子が……。

 五年間、ベッドを共にした男、ジュリアンだったなんて。

 私は静かに、最後の問いを口にした。

「ジュリアン、このこと以外に……まだ私に隠していることはある?」

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