彼の裏切り、私の破滅

彼の裏切り、私の破滅

大宮西幸 · 完結 · 20.8k 文字

461
トレンド
496
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

夫の祖母が心臓バイパス手術を受けたばかりだった。

医師は静養が必要だと言ったので、私はプライベートクラブの最上階を貸し切り、警備員を全員下の階に配置し、二人だけで静かに過ごせるようにした。

突然、入口から甲高い声が響いた——

「みんな見て!ここが私がいつも来るプライベートクラブよ。最上階はブラックカード会員しか入れないの〜」

チャプター 1

 夫の祖母は、心臓のバイパス手術を受けたばかりだった。

 医師からは静かな環境での療養が必要だと言われていたため、私は会員制プライベートクラブの最上階を貸し切りにした。警備員はすべて下の階に待機させ、私たち二人だけで静かで穏やかな時間を過ごしていた。

 突然、入り口から甲高い声が響き渡った――

「みんな、見て! ここが私がいつも来てる会員制クラブだよ。最上階に入れるのはブラックカード会員だけなんだから〜」

 派手なメイクをした若い女が、スパンコールのミニドレスにハイヒールという出で立ちで、気取った足取りで入ってきた。彼女の後ろには、二人の女友達と撮影者がぞろぞろと続いている。

 彼女はカメラに向かって体をくねらせた。「今日はみんなに、トップクラスのセレブ生活がどんなものか見せてあげる。十万『いいね』いったら、次は婚約者のプライベートクルーザーに連れて行ってあげるね〜」

 最上階は貸し切っているはずだ。一階の受付で全員追い返されているはずなのに。この女は無理やり押し入ってきたか、あるいはこのクラブにコネがあるかのどちらかだろう。

 ラウンジの中央まで進み出た彼女は、ようやく隅にいる私たちに気づいた。

 彼女は鼻に皺を寄せ、カメラに向かって鼻をつまんで見せた。「どうしてあんな庶民がここに入れるわけ? こっそり忍び込んだのかな?」

 彼女は私のノーブランドのリネンのワンピースを軽蔑の眼差しで一瞥し、それから車椅子に乗るおばあさまに視線を向けた。「あんなババアと同じラウンジなんてありえない! 突然ぽっくり逝かれたら、私の場所が台無しになっちゃう!」

 二人の女友達がくすくすと笑い声を漏らす。撮影者はレンズをこちらに向けた。

 私は一つ息を吸い込み、冷ややかな声で言った。「本日の最上階は貸し切りです。出て行ってください」

「貸し切り?」安藤里奈はバッグから黒いカードを取り出し、私に向かってひらひらと振った。「これ、ブラックカードなんだけど。最上階どころか、このクラブごと貸し切れるレベルなのよ」

 彼女は薄笑いを浮かべて私を見下した。「その死にかけのババアを連れて、さっさと出て行きなさいよ。あんたたちから貧乏人の臭いがプンプンするのよ」

 そのカードが、陽の光を反射してきらりと光った。

 私の瞳孔が収縮した。

 見覚えがあった。

 悠真の家族カードだ。世界にたった三枚しかない――一枚は私の手に、もう一枚は彼の手に、そして三枚目は……。

 なぜ、それがこの女の手に?

 おばあさまと私は顔を見合わせた。同じ冷たい悪寒が、私たちの間を走り抜けた。

 車椅子で衰弱してはいても、おばあさまの威厳は少しも失われていなかった。「お嬢さん、ここはれっきとしたプライベートな空間ですよ。出て行くべきは、あなたのほうです」

 彼女は言葉を切り、カードに鋭い視線を注いだ。「それをどこで手に入れましたか?」

 里奈の表情が一瞬揺らいだが、すぐにまた傲慢な態度を取り繕った。「あんたに尋問される筋合いなんてないわよ! 私の婚約者がくれたの」

「婚約者?」おばあさまが私を振り向いた。

 私の顔色の変化を察取った彼女は、私の手をぽんぽんと叩いた。「慌ててはいけません。悠真に直接訊けばいいことです」

 そして再び里奈に向き直ると、その視線は刃のように鋭くなった。「さあ、あなたの取り巻きとカメラを連れて、私の目の前から消えなさい」

 里奈は一瞬たじろいだ。しかしその時、彼女のスマートフォンの画面がライブ配信のコメントで光った――

「草、このお婆さん強すぎww」

「里奈、完全に論破されてて草」

「てか、本当に貸し切ってたらどうすんの?」

「ないない。ただの貧乏人の見栄っ張りでしょ」

 里奈の顔が真っ赤に染まった。彼女は配信を強制終了した。

「恩知らずのクソババアが」彼女の目は冷酷で悪意に満ちていた。彼女は取り巻きたちに合図を送った。「この二人に痛い目を見せてあげて」

 彼女たちは即座に動いた。

 一人が私の髪を掴み、力任せに引っ張った。もう一人はおばあさまに飛びかかり、掛けられたブランケットをひったくり、車椅子を乱暴に突き飛ばした。

「やめて!」頭皮が引き千切れるように痛む中、私は必死にもがいた。だが何より恐ろしかったのは、おばあさまのことだ。手術を終えたばかりの彼女の体は、どんな衝撃にも耐えられない。

 撮影者はすでに車椅子の後ろに回り込んでいた。

 彼は足を振り上げ、蹴りを入れた。

「やめて――!」

 車椅子が傾き、おばあさまが車椅子ごと冷たい床に激しく叩きつけられるのを、私はただ為す術もなく見ていることしかできなかった。

 彼女の顔色は一瞬にして蒼白からどす黒く変わった。胸をかきむしり、唇を激しく震わせるだけで、一言も言葉を発することができない。

「おばあさま!」

 私は狂ったように女の拘束から抜け出し、おばあさまの傍らに身を投げ出してその体を庇った。

 二人が追いかけてきた。一人が私の肩を押さえつけ、もう一人が手を振り上げて私の頬を平手打ちした。

 一度。二度。三度。

 頬に痛みが爆発した。それでも、私は一歩も動かなかった。

 私は女の一人の手首を捻り上げ、悲鳴を上げて手を離させた隙に、おばあさまを抱え起こして自分の胸に引き寄せた。

 彼女の呼吸は、今にも途絶えそうだった。

「手術したばかりなのよ!」私は絶叫した。「死んでしまうかもしれない! 今すぐ警察を呼ぶわ!」

 里奈は肩を揺らして笑い、メイクを直しながら言った。「死んだからって何よ?」

 彼女はコンパクトをパチンと閉じた。「私の婚約者の資産は数百億円もあるの。彼が一日で稼ぐお金で、あんたの家族なんて十回は買えるんだから。私に逆らって、ただで済むと思ってるの?」

 彼女はしゃがみ込み、口紅でテーブルに円を描いた。「彼、このクラブに出資してるのよ。つまり、私はここの未来のオーナーってわけ。私の場所を汚す前に、さっさと消えなさい」

 まるで自分が世界の主であるかのように振る舞う彼女を睨みつけながら、私は手のひらに爪が食い込むほど拳を握りしめた。

「あなたの婚約者の名前は……」私はゆっくりと口を開いた。「結城悠真、というの?」

 里奈は瞬きをし、それからニヤリと笑った。「なんだ、知ってるんじゃない」

 彼女はワイングラスを手に取ると、私の頭上でそれを傾けた。

 赤ワインが私の髪を濡らし、ワンピースを伝って滴り落ちる。

「彼が誰か知ってるなら――床を綺麗に舐めて、土下座して私に謝りなさい」彼女は腕を組んだ。「じゃないと、彼がここに来たら、あんたたち終わりよ!」

 私は足元に溜まったワインを見下ろした。

 私の中で、何かが音を立てて割れた。

 毎朝出かける前に、私の額にキスをしてくれたあの人。「行ってきます、明日香」と言ってくれたあの人。私だけを永遠に愛すると誓ってくれたあの人。

 いったい、いつから彼は――他の女の婚約者になってしまったのだろうか?

最新チャプター

おすすめ 😍

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

268.2k 閲覧数 · 連載中 · 七海
人生最良の日になるはずだった、結婚式当日。
新郎の車から出てきたのは、見知らぬ女の派手なレースの下着だった。

しかも、その布切れにはまだ。生々しい情事の痕跡が残されていた。

吐き気がするほどの裏切り。
幸せの絶頂から地獄へと突き落とされた私。

けれど、泣き寝入りなんてしてやらない。
私はその場でウェディングドレスの裾を翻し、決意した。

「こんな汚らわしい男は捨ててやる」

私が選んだ次の相手は、彼など足元にも及ばない世界的な億万長者で?
夜に沈む

夜に沈む

7.8k 閲覧数 · 連載中 · 洛陽柱
初恋の相手は、百万ドルと引き換えに私を捨てた。そうして私は、望まぬ政略結婚へと追いやられた。

あれから五年。彼が再び私に会おうとした、その時——夫がそのすべてを知ることになる。
すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

26.2k 閲覧数 · 連載中 · 夢物語
冷たい土の中、私はゆっくりと息絶えようとしていた。
視界を染めるのは絶望の闇。そして、耳元に届くのは――従妹・原田紀奈の、歪んだ嘲笑。

「お姉ちゃん、恨むなら自分の甘さを恨みなさい」

父の薬をすり替え、母を死に追いやり、兄の事故さえ仕組んだ。すべては、目の前で笑うこの女の仕業だった。
さらに突きつけられる、あまりにも残酷な真実。

「あなたの婚約者はね、あなたが身を削って得たお金で、私への婚約指輪を買ったのよ?」

――すべてを奪われ、絶望の中で命を落とした、はずだった。

しかし、次に目を覚ますと、そこは見覚えのある「19歳の誕生日パーティー」の会場。
前世と同じように、婚約者の七瀬崚介が私に無実の罪を着せ、謝罪を迫っている。

(……でも、もう私は、あの頃の愚かな人形じゃない)

奪われた人生も、向けられた悪意も、そのすべてを覚えている。
今度は、私が奪い返す番。
裏切り者たちに、地獄以上の絶望を――たっぷり利子を付けて、返してあげる。
余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

47.2k 閲覧数 · 連載中 · 七海
結婚して5年、夫とは円満だと思っていた。
しかし、運命は残酷だ。

病院で「白血病」という絶望的な診断を受けたその日。
震える足で帰宅した私の目に飛び込んできたのは、夫の裏切りの証拠だった。

私たちの神聖な寝室。
そのベッドの上には、無惨に引き裂かれたレースの下着がわざとらしく残されていたのだ。

それは明らかに、夫の愛人からの宣戦布告。
「あなたはもういらない」と嘲笑うかのような、残酷なマウントだった。

命の期限を突きつけられた日に、愛まで失った私。
絶望の淵で、私はある決断を下す。
氷の君と太陽の私

氷の君と太陽の私

97.3k 閲覧数 · 完結 · 鍋部奈
裏切られ、後悔に溺れながら死んだ私は、恐れられ冷酷な婚約者が私を救おうと身を投げる姿を見た。

運命が私を引き戻した——薬を盛られた結婚初夜、彼の腕の中で生まれ変わったのだ。これは私の二度目のチャンス。

かつて逃げ出した男こそが私の運命。彼の狂おしい愛こそが、私の最強の武器。世界が恐れる男を受け入れ、彼の姫となろう。共に、私たちを破滅させた裏切り者どもを灰燼に帰すのだ。

しかし私の突然の献身は、彼に疑念を抱かせる。心を砕いてしまった男に愛を証明するには、どうすればいいのだろう……彼の最も暗い欲望が、私を永遠に縛り付けることだと知りながら。
社長、突然の三つ子ができました!

社長、突然の三つ子ができました!

264.2k 閲覧数 · 連載中 · キノコ屋
五年前、私は継姉に薬を盛られた。学費に迫られ、私は全てを飲み込んだ。彼の熱い息が耳元に触れ、荒い指先が腿を撫でるたび、震えるような快感が走った。

あの忌まわしい夜から逃げるように去った私だったが、ほどなくして三つ子を妊娠していることに気付く。

五年後、医療界の新星として戻ってきた私は、継母、継姉、実の父へ全ての仕返しを誓う。

その時、彼が現れた。三人の小さな自分そっくりの顔をじっと見つめながら、優しく「パパ」と呼ぶよう子供たちを誘う彼。

ふとシャツのボタンを外し、悪戯っぽく笑って言った――

「どうだい、あの夜の熱をもう一度味わってみないか?」
つわり発覚!? 禁欲上司に甘やかされすぎて、胸キュンが止まりません!

つわり発覚!? 禁欲上司に甘やかされすぎて、胸キュンが止まりません!

28.1k 閲覧数 · 連載中 · 佐伯綾子
結婚3周年の記念日、私は妊娠検査薬の書き込み(結果)をプレゼントとして夫に贈った。だけど、返ってきたのは1枚の写真――女の胸に添えられた、男の手。その指に光る結婚指輪が、すべてを物語っていた。

それは私の夫の手。――彼は、浮気をしていた。
妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

473k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
鈴木七海は、中村健に好きな人がいることをずっと知っていた。それでも、彼との結婚を選んだ。
しかし、結婚して5年後、彼は離婚を切り出した。その時初めて、彼の想い人が私の父の隠し子(私の異母兄弟)だと知った。
離婚を決意した七海だったが、その時にまさかの妊娠が判明した。
私が彼を滅ぼした――だから、今度はこの命を捧げて守り抜く

私が彼を滅ぼした――だから、今度はこの命を捧げて守り抜く

3.9k 閲覧数 · 連載中 · 南宮
愛する人を殺めた罪の重さ、その疼きを私は決して忘れない。
二度目の生を得た私は、かつて私が踏みにじった孤独な王のもとへ再び舞い戻った。
「未来」という名の禁断の知恵を、唯一の嫁入り道具として。
彼に差し出される毒も、背後に潜む暗殺の罠も、すべて私の視界の中にある。
これは彼を導くための道標であり、魂の誓い。
彼を闇へ堕としたかつての私は、もういない。
今、私は彼を守り抜くために全てを焼き払う、最も鋭き刃となる。
舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

24.9k 閲覧数 · 連載中 · 桜井 ゆい​
18年間、自分が実の娘でないとは知らずに生きてきた。ある日、荷物をすべて玄関の外に放り出され、街角に立ち尽くす私の前に現れたのは、噂では極貧だという「生家」から迎えに来た、見たこともない「兄」。

ところが、その兄が乗ってきたのはトラクターだった。

ガタガタと揺れるトラクターがたどり着いた先は、まるで古城のような大邸宅。そこで私は思い知る。本当の家族のもとに引き取られた私は、貧しくなるどころか、前よりずっと裕福になっていたのだ。

……だが、ちょっと待ってほしい。なぜ私には突然、婚約者というものが存在するのか。しかもその相手は、私の大学の教授だという。誰か、説明してくれないだろうか。
離婚後、奥さんのマスクが外れた

離婚後、奥さんのマスクが外れた

317.2k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
結婚して2年後、佐藤悟は突然離婚を申し立てた。
彼は言った。「彼女が戻ってきた。離婚しよう。君が欲しいものは何でもあげる。」
結婚して2年後、彼女はもはや彼が自分を愛していない現実を無視できなくなり、過去の関係が感情的な苦痛を引き起こすと、現在の関係に影響を与えることが明らかになった。

山本希は口論を避け、このカップルを祝福することを選び、自分の条件を提示した。
「あなたの最も高価な限定版スポーツカーが欲しい。」
「いいよ。」
「郊外の別荘も。」
「わかった。」
「結婚してからの2年間に得た数十億ドルを分け合うこと。」
「?」
監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

69.3k 閲覧数 · 連載中 · 鈴木楓花
監禁から1年。ようやく帰宅した今井心晴を待っていたのは、変わり果てた日常だった。
家族は心晴を探そうともせず、あろうことか姉の今井優奈のために盛大な誕生日パーティーを開いていた。
しかも、その横には心晴の元婚約者の姿が……二人は婚約していたのだ。
しかし、心晴はただの被害者ではなかった。
彼女は人知れず巨額の資産と強大なコネクションを築き上げていたのだ。
真実を知った心晴は、復讐の狼煙を上げる。
彼女が選んだ新たなパートナーは、なんと元婚約者の叔父だった。
「これからは私のことを『おばさん』と呼ぶのよ、優奈!」