紹介
今日は週末なので、姉の立花雪乃が経営している店で一緒に食事をするために来ました。
雪乃の店は「ハートシンク」という名前で、都心部の目立たない建物の中にありますが、外観は控えめでも内部は全く別世界でした。
ここは大人向けの体験型店舗で、最新のVR技術を使った特別なサービスを提供し、主に独身の方々の心の癒しを目的としています。
店内には最先端の機器や商品が並んでおり、展示ケースの前を通るだけで、私は恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまいます。
食事を終えると、雪乃が「新しく入荷したVRゴーグルを試してみない?」と声をかけてきました...
チャプター 1
「由夏、新しい機材が入ったのよ。最新のVRゴーグルなんだけど、没入感がすごいの。ちょっと試してみない?」
姉の立花雪乃は私に水を差し出しながら、興奮を隠しきれない様子で声を弾ませた。
「ええっ? わ、私には無理だよ……」
私は慌てて手を横に振り、頬がカッと熱くなるのを感じた。私は十八歳になったばかりの普通の女子で、恋愛経験なんて全然ない。男性と手を繋ぐことすら恥ずかしいのに、そんな体験なんてハードルが高すぎる。
「そんなに緊張しないでよ。ただのAIシミュレーションなんだから、本番ってわけじゃないし。ね、テストに協力すると思ってさ、どんな感じか試してほしいの。ダメ?」
雪乃は顔を近づけ、甘えるような口調で畳みかけてくる。
「お願い、私の頼みだと思って。ね? いいでしょ?」
私は唇を噛み、姉の押しに負けた。内心ではかなり抵抗があったけれど、あくまでバーチャルな体験だ。それくらいなら大丈夫だろうと自分に言い聞かせ、私は小さく頷いた。
「わかった……じゃあ、ちょっとだけ」
雪乃はパッと花が咲いたような笑顔を見せ、私の肩をポンと叩いた。
「さすが、私の可愛い妹! さあ、体験ルームへ行こう」
案内されたのは、店奥にあるプライベートな個室だった。室内はシンプルで、ふかふかのソファといくつかの機材が置かれているだけだ。
彼女は黒いアイマスクを私に手渡した。そこからは数本の細いケーブルが伸び、ソファの脇にあるコントロールパネルへと繋がっている。
「このアイマスクをつけて。姿勢なんだけど……デバイスの効果を最大にするために、ちょっと協力してね」
そう言いながら、彼女は身振り手振りでうつ伏せになり、腰を少し高く上げるよう指示してきた。
「こ、こんな格好……本当にしなきゃダメ?」
その体勢を想像するだけで、顔が熟したリンゴのように赤くなる。あまりにも恥ずかしすぎる!
「大丈夫だよ、ここは完全個室だから誰も入ってこないわ。AIがリラックスできるシナリオを作ってくれるから、いい夢を見るつもりで身を任せて」
雪乃は私の背中を優しく叩き、なだめるように言った。
私は意を決して深呼吸し、震える手でアイマスクを装着した。言われた通りに身体を調整し、腰を高く突き出す。まるで誰かに「弄ばれる」のを待っている人形になった気分で、羞恥心で耳まで焼けそうだった。
視界は闇に閉ざされたが、すぐに耳元から穏やかな音楽が流れ、AIシステムが起動した。
「リラックスしてね、由夏。楽しんで」
雪乃の声が遠ざかり、ドアの方へ向かう気配がした。
「ちょっとお客さんに会ってくるから、三十分くらいで戻るの。そうそう、あとで正樹が店に遊びに来るから、適当に相手しておいてくれない?」
「正樹さんが?」
私は一瞬呆気にとられた。桜庭正樹は私と雪乃の後見人だ。実の叔父ではないけれど、両親が亡くなって以来、経済的に私たち姉妹を支えてくれている。三十五歳で、性格は温厚かつ紳士的。私たちにとっては家族のような存在だ。
ただ……こんな店での私の姿を彼に見られるのは、なんだか気まずい。
「心配しないで、ただ顔出しに来るだけだから。体験が終わったら挨拶してあげて」
雪乃がそう言い残すと、カチャリとドアが閉まる音がした。部屋には私一人だけが残された。
AIのシミュレーションが始まると、私は徐々に緊張を解いていった。波の音が聞こえ、静かな砂浜にいるような感覚に包まれる。羞恥心や不安が波にさらわれるように消えていく。
確かに、この体験は悪くない。雪乃の店が繁盛するのも納得できる気がした。
どれくらい時間が経っただろう。シミュレーションが終了し、アイマスクから通知音が鳴った。起き上がろうとした瞬間、異変に気づいた。身体が動かないのだ。
アイマスクに繋がれた数本のケーブルが、どういうわけか手首や腰に絡みついている。私はソファの上で固定され、あの恥ずかしい姿勢――お尻を高く突き出した格好のまま、身動きが取れなくなってしまった。
「雪乃? いるの?」
恐る恐る声を上げてみたが、声は震えていた。部屋は静まり返り、何の応答もない。そうだ、雪乃は出かけてしまったんだ。店には今、誰もいない可能性が高い。
力を込めて身体をよじってみたが、ケーブルは細いくせに強靭で、びくともしない。それどころか、もがいたせいでスカートの裾がずり上がり、太ももの付け根まで露わになってしまった。肌に触れる冷たい空気が、今の状況の恥ずかしさを増している。
私は奥歯を噛みしめ、じっと耐えるしかなかった。雪乃が早く戻ってくることを祈りながら。
その時、廊下から足音が響いてきた。コツ、コツ、とこちらへ近づいてくる。そして低い男の声が聞こえた。
「雪乃? 誰かいないのか?」
心臓が早鐘を打った。この声……正樹さんだ!
私は反射的に息を止め、身体を硬直させた。足音はどんどん近づいてくる。
「なんだ、留守か?」
正樹さんの当惑した声が聞こえる。他の部屋をノックしているようだが、やがてその足音は私のいる個室へと向かってきた。
私は唇を強く噛み、彼が入ってこないことを祈った。けれど、よりによってその瞬間、ドアが押し開けられた。
彼の足が止まる気配がした。そして、低く感嘆の声が漏れる。
「おや? これは……新しく入荷したラブドールか?」
心臓が口から飛び出しそうになった。顔が火照りそうだ。
彼……私のことをラブドールだと思ってる!?
動くことも、声を出すこともできない。正体がバレるのが怖かった。だって、今の私はあまりにも恥ずかしい姿だ。スカートはめくれ上がり、素肌を晒し、まるで店に展示された「商品」そのものなのだから。
「雪乃の店も進化したな。こんな精巧なものまで置くようになったとは」
正樹さんの声には好奇心が混じっていた。足音が数歩近づき、直後、温かく大きな手が私のふくらはぎにそっと触れた。
その瞬間、血が凍りついた。彼の手のひらは乾燥していて力強く、ゆっくりと上へ滑ってくる。まるで本当に「ラブドール」の質感を確かめるかのように。
「手触りがかなりリアルだな。人肌のような温もりまである」
独り言のように呟く声には、驚きの色が滲んでいた。
私は必死に歯を食いしばり、声を殺した。恥ずかしさと焦りで頭がどうにかなりそうだ。
もしここで由夏だとバレたら、もう二度と彼の顔を見られない!
しかし彼の手は止まらない。それどころか、指先は太ももの内側へと滑り込んできた。薄い布地越しに伝わる指の熱さが、私を更なるパニックへと突き落とす。
「ほう、今回は随分と質のいい仕入れをしたようだ」
正樹さんは軽く笑った。その低く磁性のある声が、今はただ恐ろしい。
早鐘を打つ鼓動が耳元で鳴り響く。頭の中は真っ白だ。
どうしよう? 早く止めないと取り返しのつかないことになる! でも、今さら声を上げたら、その後の気まずさで死んでしまいそうだ。
その時、彼の手の動きがピタリと止まった。何かに気づいたような、迷うような気配。
そして、彼は低く呟いた。
「……いや待て。何かがおかしい」
心臓がキュッと縮み上がる。
まさか……バレた!?
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