偽りの夫婦、本当の愛

偽りの夫婦、本当の愛

月見光 · 連載中 · 809.0k 文字

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紹介

彼女は美しく、そして嘘くさい女だった。
彼は、彼女が口にする安っぽい誘い文句を、心の底から軽蔑していた。

だがある日、彼女はぱったりと彼を誘わなくなった。
すると彼は、彼女を腕の中に閉じ込めた。

「俺を誘ってみろ」
「命だってくれてやる」

彼は常に克己復礼を体現してきた男。
――彼女と出会い、その理性を失うまでは。

チャプター 1

ドアが開いた瞬間、ソファーの上で重なり合う二つの体を見て、鈴木莉緒の頭は真っ白になった。

ここへ来るまでの道中、彼女はずっと想像していた。突然、河野辰哉の家に現れて、二年間の遠距離恋愛がついに終わったと告げたら、彼はきっとすごく驚いて喜んでくれるだろうと。

まさか、目に飛び込んでくるのが、こんな見るに堪えない光景だとは、思いもしなかった。

彼女は拳を握りしめる。ソファーの上の二人はあまりにも夢中で、彼女の存在に気づきもしない。

込み上げてくる吐き気を必死に堪え、彼女はスマートフォンを取り出し、録画モードを起動した。

二人が体勢を変えた時、女の方がようやく莉緒に気づき、悲鳴を上げた。

河野も驚き、慌てて毛布を引き寄せて体に巻き付け、女を自分の背後に隠した。

「なんで来たんだ? 何してんだよ!」

莉緒は目を赤くしながら言った。「こんな素晴らしい一幕、もちろん記録してSNSにアップするためよ!」

その言葉を聞いた彼は、背後の女が一糸まとわぬ姿であることも構わず、毛布を自分に巻き付けて床に降り、彼女のスマホを奪おうと向かってきた。

「それ以上一歩でも近づいたら、一斉送信するから」莉緒は脅す。

彼は全く信じていない様子で、さらに前に進む。

彼女はためらわず一斉送信ボタンを押した。

彼は衝撃を受けた。

いつもは優しくて物分かりのいい女が、まさかここまで非情なことをするなんて!

「莉緒、死にてえのか!」彼は怒りのあまり額に青筋を立て、彼女を殺さんばかりの形相だった。

彼女はスマホを掲げる。画面にはすでに110の番号が表示されていた。「警察に通報したわ」

彼は目を大きく見開き、言葉を失った。「お前……」

情け容赦なく、冷酷極まりない莉緒の様子を見て、河野は彼女を指差した。「いいだろう、お前の勝ちだ!」

彼女の目は冷え切っていた。「二年間、犬に餌でもやってたと思うことにする。いいえ、あなたは犬以下よ!」

河野の家を出て、彼女は親友の浅野静香の家へ向かった。

静香の家で五日間過ごす間、静香は五日間ずっと河野を罵り続けた。

その日の朝、莉緒がスマホを見ながら落ち込んでいるのに気づいた静香は、彼女に寄り添って抱きしめた。「あんなクズ男のために、悲しむ価値なんてないわよ」

莉緒は首を振る。「もうとっくに悲しくなんてない。ただ、父(鈴木康平)が持ってきた縁談、受けるかどうか迷ってるだけ」

「何ですって?」

父親が縁談を持ってきたのだ。早く帰ってきて話を聞けと、ずっと催促されていた。

相手の家柄は良く、背が高くてハンサム、しかも一人息子だという。

彼女が結婚に同意さえすれば、相手の家は八桁の結納金を払い、二ヶ月以内に妊娠すれば二十億円の報奨金、そして男女問わず子供を一人でも産めば、その家の若奥様として、数え切れないほどの財産を手にすることができる、と。

静香はそれを聞くと手を叩き、鼻で笑った。「それって、あんたのあの継母の差し金でしょ。本当にそんな美味しい話があるなら、自分の娘を嫁がせないわけないじゃない。どうせとんでもない落とし穴よ」

「何か内情を知ってるの?」

「言ってることは本当よ。でも、肝心な一言が隠されてる」

「うん?」

静香は言った。「その人の名前は森遥人。確かに顔も良くてお金もあって実力もある。昔は九星市の女たちがみんな彼に嫁ぎたがって、嫁げなくても一夜を共にしたいってくらいだったわ」

「森遥人……」莉緒はその名前を呟く。「なんだか聞き覚えがあるような」

静香はふんと鼻を鳴らす。「九星市の人間なら誰でも知ってる名前よ」

そして続けた。「去年、彼が不治の病にかかって、もう長くは生きられないってことが暴露されたの。もともと彼女がいたらしいんだけど、それを知って海外に行っちゃったとか」

「要するに、死にかけの人間ってこと。彼と結婚するってことは、死人と結婚するようなものよ」

なるほど、それはかなり悲惨だ。

静香は唇を尖らせた。「継母がいると実の父親も他人になるって言うけど、本当ね。あんたの継母、あなたを未亡人にさせようって魂胆よ」

「彼が死んだら再婚できるわよ」

静香は目を丸くした。「いや、本気で考えてるの? その男、もう病状が末期なんでしょ? 今頃どんな酷い見た目になってるか。それに、このタイミングで結婚相手を探すなんて、死ぬ前に跡継ぎを残したいって魂胆に決まってるじゃない」

「こんな時にそんなことする人なんて、変態よ!」

莉緒は静かに言った。「でも、もらえる額は大きいわよ」

「……」

「それに、彼が死んだら私が財産を相続できる」彼女は淡々とした表情で言う。「そしたらお金も自由も手に入る。どれだけ多くの人が羨むことか」

静香は呆気にとられた。「あなた、もしかしてショックで頭おかしくなった?」

「なってないわ」彼女は真顔で答える。「よく考えたの。愛情なんてものはお化けと一緒。噂には聞くけど、見たことはないわ。だからもう追い求めるのはやめる」

「それに、私たちがこんなに必死に働いてるのって、少しでも多くお金を稼いで、経済的自由を手に入れるためでしょ? 今、近道があるのに、どうしてそっちを選ばないの?」

静香は言った。「……なんでかな、妙に理にかなってる気がする」

彼女は笑った。「だって、それが現実だから」

その夜、河野は他人のスマホから莉緒に電話をかけ、彼女を役立たずだと罵った。

電話を切ると、また別の番号でかけてくる。いくつかの番号を着信拒否し、とうとう彼女は電源を切った。

翌日、彼女がスマホの電源を入れると、大量のメッセージが流れ込んできた。

そのほとんどが河野からで、ありとあらゆる罵詈雑言が並んでいた。

LINEのグループは炎上していた。一度も寝たことはないのに、河野はそこで莉緒の胸は豊胸だの、色っぽい顔して清純ぶってるだのと、根も葉もない噂を流していた……。

とにかく、一言一句が耐え難いほど酷かった。

彼女は深呼吸する。起こったこと全てに意味があると信じよう。

神様が、一日でも早くクズ男の正体を見抜けと、あの光景を見せてくれたのだ。

彼女は父親に電話をかけ、彼の提案を受け入れると告げた。

父娘が森家の大邸宅に着くと、森遥人の姿はなく、彼の両親が対応した。

鈴木莉緒が遥人との結婚を承諾したと知り、彼らは隠しきれないほど感激していた。

彼女の要求はただ一つ、まず入籍すること。

理由は、法的に認められたいから。

結婚式に関しては、必要ないと言った。

相手はもちろん異論はなく、むしろ彼女が結婚を嫌がるのではないかと心配していたくらいだ。

双方の意見は一致し、森家の父親がすぐに市役所の職員を自宅に呼び、婚姻届の手続きを済ませた。

その時になって、彼女は遥人の——写真を目にした。

写真の男は静香が言った通り、眉目秀麗で、特にその目は深く力強く、人を惹きつける。

こんな極上の男、余命いくばくもなければ、自分に回ってくることもなかっただろう。

婚姻届が莉緒の手に渡される。彼女は合成されたものとはいえ、そのツーショット写真をじっくりと眺め、まあいいかと妥協した。

森家の母親がキャッシュカードを取り出して莉緒に渡す。結婚式は挙げないが、結納金はそのまま。さらに、生活費として別の一筆もくれた。

とにかく、気前が良く、その額はカード自体が重く感じられるほどだった。

彼女は断ることなく、堂々と受け取った。

再び婚姻届に目を落とし、「森遥人」の三文字を見つめる。彼は、両親が自分を「売った」と知ったら、どんな気持ちになるのだろうか。

父親と共に森家の大邸宅を後にすると、彼は満面の笑みで、とても嬉しそうだった。

「森家から、かなりの見返りがあったんでしょう?」

彼は一瞬固まり、不自然な表情で言った。「何を言っているんだ」

「もう演技はいいわ」莉緒は立ち止まり、彼を見つめた。「あなたたちにメリットがなければ、私のことなんて思い出しもしなかったくせに」

彼の顔に気まずさが浮かぶ。「莉緒……」

彼女は手を挙げて、彼の綺麗事を聞きたくないという意思を示した。

先に歩き出し、淡々と言った。「これで最後よ。もう、連絡してこないで」

静香は、彼女が本当に森遥人と結婚したと知り、その場でぐるぐると回り始めた。

だが、残念ながらもう後の祭りだ。後戻りはできない。

「あんたのお父さん、本当に酷い。火の穴だってわかってるのに突き落とすなんて。あんたも馬鹿よ、なんでそんなあっさり入籍しちゃったの? もし彼があなたを虐待したら、籍を入れてなかったら逃げられるけど、先に入れちゃったら、殺されそうになっても逃げ場がないじゃない!」

静香は焦りと怒りと心配で、目を赤くしていた。

親友が怒ってくれていることに、莉緒の心は温かくなる。彼女は笑って静香を慰めた。「籍は入れたけど、彼の前に顔を出すつもりはないわ」

静香は彼女をじっと見つめる。

莉緒の目は悪戯っぽく輝いていた。考えは少々悪辣すぎるかもしれないが、事実でもある。

「彼、来年の二月まで生きられないって言ってたでしょ? あと三ヶ月もない。それまで隠れてて、彼がもう動けなくなったら、顔を出しに行くの」

彼女の考えは甘かった。現実は残酷だった。

その言葉を口にしてから数日も経たないうちに、彼女の元に使いの者が現れた。

「森様が、奥様にお会いしたいと仰せです」

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