呪われた花嫁

呪われた花嫁

大宮西幸 · 完結 · 17.9k 文字

249
トレンド
256
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

ダミアン・ソーンと結婚するために、私は十三回も死にかけた。

三年間で十二回の結婚式を準備し、そのすべてが私の流血で幕を閉じた。

一回目、ブライダルショップで暴走したトラックに跳ね飛ばされ、右足を粉砕骨折した。

二回目、教会でのリハーサル中に天井が突然崩落し、頭から血を流した。

三回目、披露宴のシャンパンに毒が入っており、口から泡を吹いて死にかけた。

……

マンハッタンの上流社会では、私が呪われていると噂されている。

チャプター 1

 ダミアン・ソーンと結婚するために、私は十三回も死にかけた。

 三年で十二回の挙式。そのすべてが、私の鮮血で幕を閉じたのだ。

 一回目は、ウエディングドレスの店に暴走トラックが突っ込み、私は跳ね飛ばされて右脚を複雑骨折した。

 二回目は、教会のリハーサル中に天井が崩落し、頭から血を流して倒れた。

 三回目は、披露宴のシャンパンに毒が盛られ、泡を吹いて危うく命を落としかけた。

……

 マンハッタンの社交界では、私が呪われているとまことしやかに囁かれている。

 それでも、私は彼を愛することをやめなかった。

 十三回目を迎えるまでは。

 あの雨の夜、路地裏で三人の暴漢に囲まれ、七ヶ所も刺された。胸に二つ、腹に三つ、背中に二つ。 血まみれで倒れ、虫の息だったが、奇跡的に助かった。

 傷が癒えた頃、私は偶然にもダミアンとアシスタントの会話を耳にしてしまった。

「ソーン様、今回は本当に彼女が死ぬところでした……もう止めるべきでは? もしお祖父様に知られたら……」

「止めるわけにはいかない」ダミアンは疲れ切った声で言った。「彼女の父親は俺の命の恩人だ。祖父は死んでも俺に彼女を娶らせようとするだろう。だがクソッ、俺が愛しているのはセレナだ。彼女じゃない」

「彼女が諦めない限り、この『事故』は続く。彼女が自分から消え失せるその日までな」

 震える手で、包帯だらけの身体に触れる。涙が音もなく零れ落ちた。

 愛していた男が、長年にわたり私の死を緻密に計画していたのだ。

 だが彼は知らない。今回ばかりは、本当に私と結婚する必要がなくなったことを。

アイヴィーの視点

 私は涙を拭うと、彼を問い詰めることなく踵を返し、一本の電話をかけた。

「ハリソン医師、先日の検査結果ですが……正確な余命を知りたいのです」

 受話器の向こうで、数秒の沈黙が流れる。

「グリーンさん、残念だが……癌が脳にまで転移している。持ってあと一ヶ月だ」

 一ヶ月。

 冷たい壁に背を預け、私は呆然とした後、なぜか笑いがこみ上げてきた。

 ダミアンは私を殺そうとしていたが、癌細胞のほうが彼よりずっと優秀だったらしい。

「アイヴィー?」

 振り返ると、書斎の入り口にダミアンが立っていた。

「顔色が悪いぞ」彼は眉を寄せ、私をじろじろと見た。「傷はまだ痛むのか?」

 私は彼をじっと見つめた。以前なら、その気遣うような言葉だけで涙が出るほど感動していただろう。だが今は、皮肉にしか聞こえない。

 私の沈黙に、ダミアンは苛立ちを見せた。「どうした? また式のことで拗ねているのか?」

「何でもないわ」私は視線を逸らした。

「式のことだが……」ダミアンは一拍置き、宥めるように言った。「最近延期ばかりですまない。だが分かってくれ、俺も忙しいんだ。安心していい、責任は果たすつもりだ……」

「急がなくていいわ」私は冷たく遮った。「いつでもいいもの」

 ダミアンは虚を突かれたように、驚きの表情を浮かべた。

 この三年間、挙式が「事故」で中断されるたびに、私は必死になって次の日程を決めようとしてきた。これほど無関心な態度は初めてだろう。

 彼が何か言おうとしたその時、甘ったるい声が階段から降ってきた。

「ダミアン~? どこにいらっしゃるの? 頭がくらくらして……」

 セレナ・ブレイク――ダミアンの幼馴染だ。階段の手すりに掴まりながら、ゆっくりと降りてくる彼女の顔色は青白い。三ヶ月前、心臓病を再発させてソーン家で療養することになったが、今ではこの家の実質的な主人となっていた。

「セレナ?」ダミアンはすぐに駆け寄った。「どうした、また発作か?」

「少し低血糖みたいで……」セレナは弱々しく彼の胸に凭れかかり、私を見た。「アイヴィー、ずいぶんやつれたみたいね。傷は痛む?」

「私は平気よ」素っ気なく答える。

「ならよかった」セレナはダミアンに向き直り、甘えるように言った。「ねえダミアン、ラデュレの苺タルトが食べたいの。お医者様も甘いものは良いって……でも今日は限定販売の最終日だから、きっとすごい行列よ。アイヴィーにお願いしてもいい?」

 私は無表情でその茶番劇を眺めていた。この半年、何度も繰り返された光景だ。私は名目上ダミアンの婚約者だが、実態は高給で雇われた世話係に過ぎなかった。

「ああ、もちろんだ」ダミアンは即座に頷き、当然のように私を見た。「アイヴィー、ラデュレに行ってきてくれ」

「暇じゃないの」

 廊下が瞬時に静まり返る。

「何だと?」ダミアンが目を細めた。

「暇じゃないと言ったの」私は繰り返した。

「何か重要な用事でもあるのか?」ダミアンは不機嫌さを隠そうともせず、私に詰め寄った。「アイヴィー、俺に対する当てつけか? 式のことで?」

「当てつけなんかじゃないわ」

「なら行け」命令口調だ。「セレナは体が弱いんだ。それくらいの頼みも聞けないのか?」

 セレナが好機とばかりに彼の袖を引く。「ダミアン、いいわ……アイヴィーにも急用があるのかもしれないし。私、自分で行けるから」

「だめだ」ダミアンは冷ややかに私を睨みつけた。「こいつに行かせる」

「どうして?」私は彼の目を真っ直ぐに見据えた。「ここに住んでいるからといって、あなたの言いなりにならなきゃいけないの?」

「アイヴィー・グリーン!」ダミアンが警告するような声を出した。「自分の立場をよく考えろ。ここはソーン家だ。ここの恩恵を受けている以上、ルールには従ってもらう」

「もし従わなかったら?」私は冷笑した。「どうするの? 追い出す? それとも『身の程をわからせる』つもり?」

 ダミアンの瞳が一瞬、針のように細まった。

「何を言っている?」

 セレナが不穏な空気を察知する。「アイヴィー、今日はどうしたの? なんだか変よ……体の具合が悪いの?」

「私は元気よ」私は背を向けた。「でも苺タルトは買いに行かない」

「アイヴィー!」ダミアンが怒鳴った。「行かないなら、お前の口座を凍結するぞ」

 私の足が止まる。

 なんてこと。あれは私の治療費、命綱だ。

「脅迫するの?」ゆっくりと振り返る。

「脅迫じゃない、事実だ」ダミアンは冷酷に言い放った。「ここに住み続けたいなら、俺の言う通りにしろ。嫌なら荷物をまとめて出ていけ」

「忘れるな」彼の言葉が刃のように胸に突き刺さる。「ソーン家がなければ、お前は何者でもないんだ」

 私は静かに彼を見つめた。心の中に残っていた最後の幻想が、音を立てて崩れ去る。

「分かったわ。行く」

 針のような冷たい雨の中、私はラデュレの前で三時間も並んだ。

 脳腫瘍による激痛が波のように押し寄せ、何度も意識が飛びそうになる。通りすがりの人々が囁いているのが聞こえた。

「なんてこと、あの子死にそうよ」

「雨の中並んで……可哀想に」

 もし彼らが、私の「婚約者」が真実の愛のために私をパシリに使っていると知ったら、どう思うだろうか。

 ようやく苺タルトを手に入れた頃には、すっかり日が暮れていた。私は全身ずぶ濡れで、見るも無残な姿だった。

 帰路の途中、ある高級レストランの前を通りかかり、ふと視線を向けた。

 そして、足が完全に止まった。

 巨大なガラス窓の向こうで、ダミアンがセレナに優しく食事を運んでいるのが見えた。薄暗いキャンドルの光の下、彼の瞳は深い愛情に満ちており、セレナは優雅に微笑みながら、ナプキンで口元を拭った。

 二人はあまりにもお似合いで、あまりにも幸せそうだった。

 私は氷雨の中で立ち尽くし、手の中のケーキ箱が雨に濡れるのも気づかなかった。

 彼らはとっくに苺タルトのことなど忘れていたのだ。

 私のことさえも。

 レストランの中の温かな光景を見つめながら、私は笑った。

 十年だ。父が彼を庇って死んだあの日から、私はこの男を十年もの間愛し続けてきた。私の献身がいつか彼を感動させると信じていた。いつか彼が私を見てくれると信じていた。

 だが今、ようやく理解した。

 彼にとって、私は永遠にただの重荷であり、押し付けられた責任でしかない。彼は私に一欠片の真心を与えるくらいなら、何度でも私を殺そうとするだろう。

 私は携帯電話を取り出し、国際電話をかけた。

「ソーンおじい様ですか? 私です、アイヴィーです」

 電話の向こうから、威厳のある老人の声が響く。「アイヴィーか? どうしたんだ、こんな時間に。何かあったのか?」

 私は深く息を吸い込んだ。

「私とダミアンの婚約についてですが……」

 言葉を切り、レストランで寄り添う二人を見つめる。

「破棄させていただきます」

最新チャプター

おすすめ 😍

離婚後、奥さんのマスクが外れた

離婚後、奥さんのマスクが外れた

322.1k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
結婚して2年後、佐藤悟は突然離婚を申し立てた。
彼は言った。「彼女が戻ってきた。離婚しよう。君が欲しいものは何でもあげる。」
結婚して2年後、彼女はもはや彼が自分を愛していない現実を無視できなくなり、過去の関係が感情的な苦痛を引き起こすと、現在の関係に影響を与えることが明らかになった。

山本希は口論を避け、このカップルを祝福することを選び、自分の条件を提示した。
「あなたの最も高価な限定版スポーツカーが欲しい。」
「いいよ。」
「郊外の別荘も。」
「わかった。」
「結婚してからの2年間に得た数十億ドルを分け合うこと。」
「?」
マフィア姫の帰還

マフィア姫の帰還

44.8k 閲覧数 · 完結 · Tonje Unosen
タリアは何年ものあいだ、母と義理の妹、そして継父と暮らしてきた。だがある日、ついにそこから逃げ出すことに成功する。

ところがその直後、自分にはまだ外に家族がいるのだと知る。そして本当に自分を愛してくれる人たちが大勢いることも――そんなものは今まで感じたことがなかった。少なくとも、彼女の記憶にあるかぎりでは。

タリアは人を信じることを学ばなければならない。新しくできた兄たちにも、ありのままの自分を受け入れてもらわなければならないのだ。
追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢

追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢

92.8k 閲覧数 · 連載中 · あざ鳥
「お前みたいな偽物の令嬢、さっさと山奥に帰れ!」

孤児だと判明した途端、彼女は養父母から冷酷に家を追い出され、婚約者も本物の令嬢へと乗り換えた。
彼らは、彼女がこれからド田舎で悲惨な生活を送るのだとあざ笑っていた。

しかし、彼女を迎えに来た実の家族は、なんと世界を牛耳る超巨大財閥の一族だった!
さらに、彼女自身もただの小娘ではない。その正体は、世界の医学界が平伏す伝説の天才医師だったのだ。

実家に戻るや否や、彼女は神業のようなメス捌きで次々と難病患者を救い、医療界の権威たちを圧倒していく。その圧倒的な実力に、誰もが恐れる冷酷なトップ御曹司でさえも彼女に惹かれ、無限額のブラックカードを差し出す始末。

一方、彼女を追い出した養父母の家業は倒産寸前に陥り、元婚約者も彼女の本当の姿を知って絶望の淵に立たされていた。
彼らが泣きついて許しを乞うても、彼女は冷たく言い放つ。

「今さら後悔しても、もう遅いわ」
監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

91.4k 閲覧数 · 連載中 · 鈴木楓花
監禁から1年。ようやく帰宅した今井心晴を待っていたのは、変わり果てた日常だった。
家族は心晴を探そうともせず、あろうことか姉の今井優奈のために盛大な誕生日パーティーを開いていた。
しかも、その横には心晴の元婚約者の姿が……二人は婚約していたのだ。
しかし、心晴はただの被害者ではなかった。
彼女は人知れず巨額の資産と強大なコネクションを築き上げていたのだ。
真実を知った心晴は、復讐の狼煙を上げる。
彼女が選んだ新たなパートナーは、なんと元婚約者の叔父だった。
「これからは私のことを『おばさん』と呼ぶのよ、優奈!」
すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

39.2k 閲覧数 · 連載中 · 夢物語
冷たい土の中、私はゆっくりと息絶えようとしていた。
視界を染めるのは絶望の闇。そして、耳元に届くのは――従妹・原田紀奈の、歪んだ嘲笑。

「お姉ちゃん、恨むなら自分の甘さを恨みなさい」

父の薬をすり替え、母を死に追いやり、兄の事故さえ仕組んだ。すべては、目の前で笑うこの女の仕業だった。
さらに突きつけられる、あまりにも残酷な真実。

「あなたの婚約者はね、あなたが身を削って得たお金で、私への婚約指輪を買ったのよ?」

――すべてを奪われ、絶望の中で命を落とした、はずだった。

しかし、次に目を覚ますと、そこは見覚えのある「19歳の誕生日パーティー」の会場。
前世と同じように、婚約者の七瀬崚介が私に無実の罪を着せ、謝罪を迫っている。

(……でも、もう私は、あの頃の愚かな人形じゃない)

奪われた人生も、向けられた悪意も、そのすべてを覚えている。
今度は、私が奪い返す番。
裏切り者たちに、地獄以上の絶望を――たっぷり利子を付けて、返してあげる。
婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

68.7k 閲覧数 · 連載中 · やもり
裏切りと陰謀が渦巻く世界で、妃那(えな)は突然の誘拐事件に巻き込まれる。
救いの手を差し伸べたのは謎めいた男・葉夜(かなや)だったが、彼の真意は読めない。
一方、妃那の宿敵であり自信家の祈葉(いのか)は、自らの美貌と魅力を武器に黒社会の頂点を目指すが、
思いもよらぬ残酷な試練に追い込まれていく。
誤解と嫉妬、愛と憎しみが絡み合い、
それぞれの思惑がやがて一つの危険な運命へと収束していく――。
妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

501.2k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
鈴木七海は、中村健に好きな人がいることをずっと知っていた。それでも、彼との結婚を選んだ。
しかし、結婚して5年後、彼は離婚を切り出した。その時初めて、彼の想い人が私の父の隠し子(私の異母兄弟)だと知った。
離婚を決意した七海だったが、その時にまさかの妊娠が判明した。
私が彼を滅ぼした――だから、今度はこの命を捧げて守り抜く

私が彼を滅ぼした――だから、今度はこの命を捧げて守り抜く

8.2k 閲覧数 · 連載中 · 南宮
愛する人を殺めた罪の重さ、その疼きを私は決して忘れない。
二度目の生を得た私は、かつて私が踏みにじった孤独な王のもとへ再び舞い戻った。
「未来」という名の禁断の知恵を、唯一の嫁入り道具として。
彼に差し出される毒も、背後に潜む暗殺の罠も、すべて私の視界の中にある。
これは彼を導くための道標であり、魂の誓い。
彼を闇へ堕としたかつての私は、もういない。
今、私は彼を守り抜くために全てを焼き払う、最も鋭き刃となる。
伝説の天才、偽りの姿だ

伝説の天才、偽りの姿だ

11.9k 閲覧数 · 連載中 · ショコラ風味
トップ組織のS級エージェントであり、冷徹無情、そして圧倒的な知性を誇った主人公。しかし、仲間に裏切られ、無残にも殺害されてしまう。

だが、目を覚ますと、知能が低いと見下されている「不細工な女子大生」へと生まれ変わっていた。

容姿を嘲笑われれば、自ら開発したスキンケアクリームで誰もが息をのむ美貌へと変貌を遂げる。

知性を馬鹿にされれば、世界最高峰の大学の総長が自らスカウトに訪れ、医学界の権威は秘密の処方を求めて跪き、国際的なトップスターは楽曲の編曲を求めて彼女を追いかける。

二度目の人生こそは平凡な生活を味わおうとしたものの、隠された正体が次々と暴かれ、気づけばまたしても世界の頂点へと上り詰めてしまう。

背後には無数の配下を従え、その傍らには彼女を守る冷徹な実力者が寄り添うが、この冷徹な男は何かと嫉妬深く、彼女を翻弄してくるのだった。
本物令嬢の正体がばれました

本物令嬢の正体がばれました

141.5k 閲覧数 · 連載中 · ワニノコ
新谷南は新谷家で二十年も育てられたのに、本当の娘が戻ってきた途端、あっさり家を追い出された。

デザイン部のディレクターの席? 本当の娘へ。
何千万円もの価値がある婚約話? 本当の娘へ。

会社中の人間が、彼女という「野良扱いの娘」がどう転げ落ちていくか、笑いものにしようと様子をうかがっていた。

そんなある日、世界限定二十台の高級バイクが会社の前に止まる。降りてきた不良っぽいイケメンが言った。

「妹、兄貴と一緒に帰るぞ」

新谷家の人間「……は?」

そのあとで彼らはようやく知ることになる。

彼女こそ、国内外の美術館の館長たちが面会待ちの列を作る「南先生」と呼ばれるアーティストであり、
新谷グループの全受賞特許の名義人であり、
さらに、伝説の「国家並みの資産を持つ」と噂される周防家の、本当の長女だということを。

大手財閥の若き当主は、封印していた婚約書を取り出し、薄く唇を吊り上げる。

「なるほど。俺の本当の婚約者は、君だったわけか」
世界が彼女を選んでも、私は私を裏切らない。〜愛の終わり、私の始まり〜

世界が彼女を選んでも、私は私を裏切らない。〜愛の終わり、私の始まり〜

35.1k 閲覧数 · 連載中 · 鈴木楓花
「彼女が死にそうなのに、もっと寛大になれないのか?」

夫はそう言った。

だから、私は寛大になってあげた。

私たちの娘が、彼女のせいで引き起こされたアレルギー発作で救急搬送されたとき、夫が付き添うはずだった時間を、寛大にも彼女に譲ってあげた。

一生に一度クラスのプラチナチケットだって彼女に譲った。夫が「彼女の方がそのチケットにふさわしい」と言ったから。

実の娘から「お母さんが代わりに死ねばよかったのに」と呪いの言葉を吐かれても、私は耐え抜いた。

けれど――彼が私の同情を引くために狂言誘拐を仕組んだと私を非難したとき、私の寛大さは限界を迎えた。

私は離婚届を彼の顔面に叩きつけてやった。彼は鼻で笑い、自分が不届き者(私)の命綱だとでも思っているようだった。

彼がどれほど愚かな勘違いをしているか、すぐに思い知ることになるわ。
彼女を誘惑して、一夜で虜になった

彼女を誘惑して、一夜で虜になった

94.6k 閲覧数 · 連載中 · 月見光
結婚して三年——
彼は毎晩、私を抱きながらも、心はいつも“好きな人”にあった。
私は必死に「今泉夫人」としての役目を果たし、
愛のない結婚を繋ぎとめようとしていた。

けれど、妊娠がわかったあの日——
最愛の夫は私を手術台に押しつけて言った。
「小島麻央、子供とお前、どちらかしか生かせない。」
その言葉で、私の世界は雲散霧消した。粉々になった心を抱えて、私はすべてを捨てて去った。
──再会した時、
私はもう、かつての小島麻央ではなかった。
世界を驚かせるほど、美しく、強く、生まれ変わったのだ。跪く元夫が囁く。「麻央、帰ってきてくれ……」私は微笑んで答えた。「ごめんなさい。もう男には興味ないの。」その瞬間、彼は私を抱き寄せ、低く笑った。
「昨夜の君は、そうは言わなかっただろ……?」