婚約者にも裏切られ全てを失った私は、冷徹なはずの義兄様に甘く独占して離してくれません

婚約者にも裏切られ全てを失った私は、冷徹なはずの義兄様に甘く独占して離してくれません

猫又まる · 完結 · 29.1k 文字

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紹介

榊原家の養女として生きてきた20年間。私は、ここが自分の居場所だと信じて疑わなかった。
――彼らが、本物の娘榊原栞奈を見つけるまでは。

「お前はもう用済みだ」

手のひらを返したように冷たい家族。私を追い出すための屈辱的なパーティー。
信じていた婚約者の高遠陽仁は、あっさりと榊原栞奈に乗り換え、私が惨めに捨てられる様を嘲笑う。
誰も彼もが私を蔑み、踏みつけようとする絶望のなか、たった一人、私を守るように立ちはだかった人がいた。

それは、血の繋がらない、冷徹で無愛想なはずの義兄――榊原奏だった。

「行くぞ。こんな場所に、君はもったいない」

強引に連れ出された先は、彼の隠れ家のようなマンション。
凍えた心を温めるスープを作っていた私の背後に、彼が静かに立つ。
野菜を刻む私の手にそっと重ねられた、大きな掌。耳元で囁かれる、熱い吐息。
そして――振り向いた私を待っていたのは、全てを奪うような、熱く深いキスだった。

「もう誰にも君を傷つけさせない。……君は、俺だけのものだ」

チャプター 1

 榊原柚葉視点

「今夜は、最新のスモーキーアイを作るテクニックをご紹介しますね。こちらのアイシャドウは、今年の秋を象徴するカラーでして……」

 手慣れた様子でライブ配信のカメラに説明しながら、私はメイクブラシをまぶたの上で優しく滑らせた。

 画面にはコメントが素早く流れていく。

「柚葉ちゃん、綺麗すぎ!」

「それ欲しい!」

「柚葉様のメイクはいつも完璧!」

 フォロワーが五十万人もいる私は、榊原家の中で確かな居場所を築いたように見えた。そう、あくまで「そのように見えた」だけのことだ。私は榊原柚葉。榊原家の養女で、そこそこ成功している美容系インフルエンサーだ。

「アイシャドウで大事なのは重ねること。必ず薄い色から濃い色へと重ねていって……」

 私が熱心に実演していたその時、階下から突然、激しい口論が聞こえてきた。

 私は手を止め、注意深く耳を澄ませた。養母である榊原莉奈の声だ。ひどく怒っているようだった。

「みんな、今夜はここまで!おやすみなさい!」

 私は慌ててライブ配信を終了し、機材の電源を落とすと、そっとドアへと向かった。

 声がよりはっきりと聞こえてくる。

「やっと実の娘が見つかったのよ!」

 莉奈の声は、抑えきれない興奮で震えていた。

「もう榊原柚葉を追い出す頃合いじゃない?あんな得体の知れない子が、私たちの家に長居しすぎたわ!」

 心臓が止まった。

 得体の知れない子?

「あの子には家から出て行ってもらう時が来たんだ」

 養父である榊原彰人の声は、背筋が凍るほど冷たかった。

「来週の親族の集まりで、榊原栞奈の本当の正体を明かして、彼女こそが私たちの実の娘だと発表する」

 榊原栞奈?誰、それ?

 震える指からメイクブラシが滑り落ち、こつん、と小さな音を立てた。見つかるのが怖くて、私は急いで口を覆った。

 実の娘が見つかった?それで私を追い出すつもりなの?

 その瞬間、世界がぐるぐると回るのを感じた。物心ついた頃から、自分が養子であることは知っていた。でも、榊原家は私をまともに扱ってくれた――少なくとも、娘として見ているふりはしてくれていた。私は……私はずっと、榊原家の一員でいられると思っていたのに。

 突然、目の前に金色の文字が浮かび上がった。

【なんてこと、養父母に追い出されるなんて】

 私は凍りつき、ごしごしと目をこすった。幻覚?

 また別の金色の文字が現れた。

【可哀想に。あいつら、あんたを本当の娘だなんて一度も思ってなかったんだよ】

「ストレスで見ている幻覚に違いない……」

 私はそう呟いたが、文字は目の前ではっきりと見え続けた。

【これは幻覚じゃない!自分の身は自分で守らないと!】

 私は深呼吸をして、無理やり冷静になろうと努めた。この奇妙なメッセージが何であれ、今重要なのは状況を把握することだ。

 私は階段まで抜き足差し足で近づき、影に隠れて盗み聞きを続けた。

「来週の親族の集まりで、あの子をみんなの前で辱めてやるわ」

 莉奈の声は悪意に満ちていた。

「私たちの社交界の全員に、私たち榊原家がようやく本当の娘を見つけたと知らしめたいの」

「いいか、榊原奏には知らせるなよ」

 彰人が釘を刺した。

「あいつはお人好しすぎる。俺たちを止めようとするだろう」

 榊原奏?私の義理の兄?

 またコメントが現れた。

【ほらね?お兄さんはあなたの味方だよ!】

【彼が今のあなたにとって唯一の希望だ】

 心臓がさらに速く脈打った。

 榊原奏……確かに、お兄ちゃんはいつも私に優しかった。子供の頃から私を守ってくれて、穏やかで、思いやりがあった。もし彼にまで見捨てられたら……。

 いや、コメントは彼が私を守ってくれると言っている?

「榊原栞奈は榊原柚葉よりずっと賢いし、ビジネスの才能もある」

 莉奈は続けた。

「何より、あの子は私たちの血を分けた子なのよ!よそ者の榊原柚葉が敵うわけないじゃない」

「その通りだ。高遠陽仁との婚約を破棄させる方法を考えないとな」

 彰人が同意した。

 高遠陽仁?もうすぐ結婚するはずの、私の婚約者?

 めまいがして、倒れそうになった。榊原家から追い出されるだけでなく、婚約者まで失うことになるの?

 コメントは次々と現れた。

【ひどすぎる。全部あいつらの計画通りじゃないか】

【これを止めなきゃ!】

【お兄さんに助けを求めるよ!】

 私は唇を強く噛みしめ、考えを巡らせた。奏お兄ちゃんが本当に私の唯一の希望だ。もし彼に、もっと私のことを気にかけてもらえたら、私を手放したくないと思わせることができたら……。

 大胆な考えが頭に浮かんだ。

 私は静かに自室に戻り、ドアを閉め、まっすぐ化粧台に向かった。友人が、男性をもっと……夢中にさせることができるという特別なものをくれたのを思い出したのだ。

 引き出しを開け、必死に探す。ついに、隅に押し込まれていた小さな小瓶を見つけた。

 無色透明の、無臭の液体。

 私は小瓶を握りしめ、鏡に映る青ざめた自分の顔を見つめた。

「ごめんね。でも、この家に残るためには、こうするしかないの」

 最後のコメントが現れた。

【本当にそれが正しいの?】

 でも、私にはもう他に選択肢はなかった。

 明日、この計画を実行する。奏お兄ちゃんは私の最後の命綱。この家族を、私が持っているすべてを、絶対に失うわけにはいかない。

 たとえ……たとえこんな手段に頼ることになったとしても。

 私は小瓶を強く握りしめた。瞳には、新たな決意の炎が燃えていた。榊原家は私の家、榊原奏は私の兄、そして高遠陽仁は私の婚約者。

 誰にも、彼らを私から奪わせたりしない!

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