紹介
3年間連れ添った恋人が、自分を単なる「見せびらかすためのトロフィー」としか扱っていなかったことを知ったのだ。
裏切りへの怒りと、一族に伝わる秘められた才能【宝物鑑定眼】を開花させるという目的のため、彼女はバーで最も危険なオーラを放つ男と一夜を共にするという、無茶な決断を下す。
ただのスリリングな行きずりの関係――。そう割り切っていたはずだった。
しかし翌朝、彼女を待っていたのは衝撃の事実。なんとその男は、あの傲慢な元恋人の叔父であり、街で最も冷徹で強大な権力を持つ男、九条獅堂だったのだ!
逃げ出そうとする彼女の身体を、彼は強い力で抱き寄せ、耳元で危険に囁く。
「俺と肌を重ねておいて、本当にこのまま立ち去れると思っているのか?」
狂い出した運命の始まり。
それは裏切り者への容赦なき復讐の刃となるのか、それとも、さらに甘美で華麗な罠となるのか――?
チャプター 1
柚木結華にとって、二十六歳の誕生日は特別な意味を持つ日だった。
恋人の九条陽向も、彼女がずっとこの日を心待ちにしてきたことを知っている。だからこそ、妙に神妙な顔をして「先に会場で待ってて」とだけ言い残し、サプライズを用意したのだ。
けれど結華は言わなかった。
――自分も、彼に“驚き”を用意していることを。
水晶灯のぬくもりある光がホールに降り注ぐ。ジュエリー界の名家の令嬢の誕生日とあって、H市の上流は次々と集まり始めていた。
結華は三度目の時計確認をした。開宴まであと三十分。なのに陽向は来ない。電話にも出ない。メッセージも既読にならない。
「結華、焦らないで。今の時間帯は道が混むから」
親友の千堂椿が慰めると、すっと立ち上がる。
「私、ちょっとお手洗い行ってくる。それから一緒に外に出て、先に挨拶回ろ。主役がずっと出てこないとか、さすがにないでしょ」
「うん」
結華は小さく返事をした。
トイレの扉が閉まる音がして、ふとテーブルの上に視線を落とす。自分のスマホの画面がふっと光っていた。
椿に知らせようと手を伸ばした、その瞬間――露骨な嫌悪が顔に出た。
LIMEのグループに、スクショが次々と投下されている。
その直後、下品な一文が流れた。
『このスタイル、ヤバい。喉乾くわ』
それだけでは足りないらしい。すぐさま追撃が来る。
『今夜、あいつ何とかして寝るってさ。終わったら感想シェアしてもらおうぜ』
吐き気が込み上げる。結華が立ち上がろうとした時、瞳孔がきゅっと縮んだ。
新たなスクショ。そこには――恋人のアイコン。
指が勝手に画面をタップし、拡大する。ニックネームを見た瞬間、呼吸が止まった。
九条陽向のメッセージ。
『お前ら、ティッシュ多めに用意しとけ。ヨダレと鼻血拭く用な』
『九条さん、配信頼む』
『九条さん、飽きたら俺らにも回してくれよ』
『黙れ。お前らも手出すんじゃねぇ』
『てか、あいつ誰か知ってて言ってんの?』
『お前らの義姉さんだ。俺が飽きるまで、誰にも触らせねぇ』
結華の指先が冷たく固まる。怒りに任せて打ち込んだ。
「……あんたら、頭おかしいの?」
送信する気にもなれず、スマホをテーブルに叩きつけ、勢いよく扉を開けた。
信じられない。三年間付き合ってきた九条陽向。普段は彼女の言うことに逆らわず、尽くしてくれる男だった。
それが裏では――こんな変態じみた会話をしていたなんて。
男たちに勝手に品定めされ、下卑た妄想の材料にされる。
虫を噛み潰したみたいに不快、なんて生易しい。胃の奥がひっくり返るほど屈辱だった。
過去の出来事が、脳裏でコマ送りになる。
柚木家と九条家の縁談。結華は最初、迷っていた。だが三つ年下の陽向がしつこく迫り、友人たちまで感動してしまったのだ。
「三つ下くらいで何よ。年齢以外は文句ないじゃん」
「今はまだ子犬でも、時間かけて躾ければいいの。あんたにだけ尻尾振る“わんこ”にしちゃえば勝ち」
押し切られる形で、結華は渋々頷いた。
それから三年。陽向は“完璧な恋人”だった。瑕ひとつない――そう思っていた。
結華は会館を飛び出し、街を当てもなく歩いた。行き先なんてどうでもいい。ただ、ここから逃げたかった。
急いで出たせいで上着もない。ふと目に入ったネオンが瞬いた。
――酔えば、少しは忘れられる。
扉を押して店に入る。
耳をつんざく音楽。今の心には、それが妙にしっくり来た。
カウンターに腰を下ろし、いちばん強い酒を頼む。喉を焼く熱が流れ込み、涙が勝手に溢れた。胸の奥がじりじりと疼く。
――なんでクズ男のために泣かなきゃいけない。
――今日は私の誕生日。私がいちばん偉い。
――恋がなくても、仕事は失えない。
柚木家の娘には、世間には伏せられた継承がある。
二十六歳の誕生日に人事を経て初めて、鑑宝の才が開く。
その才を得た者は、玉石に触れるだけで真贋を見抜き、さらに四大至宝と心が通うような感覚すら得られるという。
柚木家の錯綜した人間関係を思い出し、結華の目から濁りが消えていった。
――必要なのは、相手。今夜の相手を選ぶだけ。
彼女の存在はすぐ男たちの目を引き、次々と声をかけられた。だが年が離れすぎていたり、見た目が論外だったり。どれも論外。
薄暗い照明の奥、ソファ席に黒いスーツの男がいた。白いシャツのボタンを二つ外し、背もたれに気怠く凭れている。長い脚を組み、グラスをゆっくり回す姿は――高貴な狼みたいだった。
少し離れた場所で女たちがひそひそ囁き合い、そのうちの一人が背筋を伸ばして男へ近づく。
結華の血が熱くなる。
――あの人だ。
「……偶然ね」
知り合いに会ったみたいな軽い足取りで、結華は男へ歩み寄った。女に肩がぶつかったが構わない。そのまま男の隣に腰を下ろす。
「ねえ、旦那さま。もう怒らないで。帰ろ?」
水のように柔らかな声。大きな瞳で、ぱちりと瞬きをする。
強い酒を初めて一気に飲んだ。酔いが回る前に、男を連れ出さなければ。ひとりで夜明けを迎えるわけにはいかない。
隣の女は、二人の親密さに呆然として、すごすごと退いた。
男は去る背中を一瞥し、そして至近距離の結華へ視線を戻す。感情の読めない声で問う。
「今、俺のこと……何て呼んだ?」
背後に人の気配が消えたのを確認し、結華は無邪気に瞬いた。
「ここ、うるさい。場所、変えて話そ」
酒のせいで身体がふわりと柔らかくなり、無意識に男の肩へもたれ、ゆっくりと胸の中に倒れ込む。
「おい」
男が押し返そうとしても、びくともしない。覗き込むと、目が閉じられていた。寝たのか、演技か。
本当に寝ているなら、このまま置けばすぐ拾われる。
九条獅堂は顔を冷たくし、女を横抱きにしてバーを出た。上階のホテルへ向かう。
スタッフは彼の姿に息を呑み、抱えられた女を見てさらに固まり、慌ててドアを開けた。
部屋へ入る瞬間、腕の中の女の手が、かすかに動いたような気がした。
ドアが閉まる。
ベッドへ放り投げた途端、九条獅堂の襟元が引き寄せられ、身体ごと温かな柔肌に引き倒される。
ほどなく室内は甘く乱れた空気に満ちた。
……
結華は狙い通りにやり遂げた。全身がだるく、ベッドに横たわりながら、どうやってこの男を切るか考えていた時――ドアが叩かれた。
「柚木結華! 開けろ!」
「お前が入ったの、見たって言ってる!」
九条陽向の声。どうして追ってきたの――。
朦朧としていた結華の意識が、一気に研ぎ澄まされる。
まだ問い詰めてもいないのに、先に逆上する気?
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二度目の人生こそは平凡な生活を味わおうとしたものの、隠された正体が次々と暴かれ、気づけばまたしても世界の頂点へと上り詰めてしまう。
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「江原安美、たとえ離婚しても、お前は一生、俺の下で喘ぐしかないんだ。」
江原安美はまさか自分がいつか、夫・川崎佑哉と彼の愛人のために結婚指輪をデザインすることになるとは思わなかった。そしてさらに届いたのは、一通の離婚届だった。
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だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
代わりに、次々と大物たちが彼女の配信に押しかけてくるのだった。
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「マスター、厄介な女運を断ち切って!」──人気俳優
「マスター、研究所の風水を見てほしい!」──天才科学者
そして、ひときわ怪しい声が囁く。
「……まゆ、俺の嫁だろ? ギュってさせろ。」
視聴者たち:「なんであの人だけ扱いが違うの!?」
原田麻友:「……私も知りたいわ。」
家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った
公平を期すという名目のもと、兄たちは彼女からリソースを根こそぎ奪い、その尊厳を踏みにじってまで、運転手の娘を支えた。
彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。
生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。
兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。
長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」













