宝物を見抜く私に、最強の当主が求婚しています

宝物を見抜く私に、最強の当主が求婚しています

もりかわ みおな · 連載中 · 488.5k 文字

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紹介

26歳の誕生日の夜、彼女は絶望の淵に立たされていた。
3年間連れ添った恋人が、自分を単なる「見せびらかすためのトロフィー」としか扱っていなかったことを知ったのだ。
裏切りへの怒りと、一族に伝わる秘められた才能【宝物鑑定眼】を開花させるという目的のため、彼女はバーで最も危険なオーラを放つ男と一夜を共にするという、無茶な決断を下す。

ただのスリリングな行きずりの関係――。そう割り切っていたはずだった。
しかし翌朝、彼女を待っていたのは衝撃の事実。なんとその男は、あの傲慢な元恋人の叔父であり、街で最も冷徹で強大な権力を持つ男、九条獅堂だったのだ!

逃げ出そうとする彼女の身体を、彼は強い力で抱き寄せ、耳元で危険に囁く。
「俺と肌を重ねておいて、本当にこのまま立ち去れると思っているのか?」

狂い出した運命の始まり。
それは裏切り者への容赦なき復讐の刃となるのか、それとも、さらに甘美で華麗な罠となるのか――?

チャプター 1

柚木結華にとって、二十六歳の誕生日は特別な意味を持つ日だった。

恋人の九条陽向も、彼女がずっとこの日を心待ちにしてきたことを知っている。だからこそ、妙に神妙な顔をして「先に会場で待ってて」とだけ言い残し、サプライズを用意したのだ。

けれど結華は言わなかった。

――自分も、彼に“驚き”を用意していることを。

水晶灯のぬくもりある光がホールに降り注ぐ。ジュエリー界の名家の令嬢の誕生日とあって、H市の上流は次々と集まり始めていた。

結華は三度目の時計確認をした。開宴まであと三十分。なのに陽向は来ない。電話にも出ない。メッセージも既読にならない。

「結華、焦らないで。今の時間帯は道が混むから」

親友の千堂椿が慰めると、すっと立ち上がる。

「私、ちょっとお手洗い行ってくる。それから一緒に外に出て、先に挨拶回ろ。主役がずっと出てこないとか、さすがにないでしょ」

「うん」

結華は小さく返事をした。

トイレの扉が閉まる音がして、ふとテーブルの上に視線を落とす。自分のスマホの画面がふっと光っていた。

椿に知らせようと手を伸ばした、その瞬間――露骨な嫌悪が顔に出た。

LIMEのグループに、スクショが次々と投下されている。

その直後、下品な一文が流れた。

『このスタイル、ヤバい。喉乾くわ』

それだけでは足りないらしい。すぐさま追撃が来る。

『今夜、あいつ何とかして寝るってさ。終わったら感想シェアしてもらおうぜ』

吐き気が込み上げる。結華が立ち上がろうとした時、瞳孔がきゅっと縮んだ。

新たなスクショ。そこには――恋人のアイコン。

指が勝手に画面をタップし、拡大する。ニックネームを見た瞬間、呼吸が止まった。

九条陽向のメッセージ。

『お前ら、ティッシュ多めに用意しとけ。ヨダレと鼻血拭く用な』

『九条さん、配信頼む』

『九条さん、飽きたら俺らにも回してくれよ』

『黙れ。お前らも手出すんじゃねぇ』

『てか、あいつ誰か知ってて言ってんの?』

『お前らの義姉さんだ。俺が飽きるまで、誰にも触らせねぇ』

結華の指先が冷たく固まる。怒りに任せて打ち込んだ。

「……あんたら、頭おかしいの?」

送信する気にもなれず、スマホをテーブルに叩きつけ、勢いよく扉を開けた。

信じられない。三年間付き合ってきた九条陽向。普段は彼女の言うことに逆らわず、尽くしてくれる男だった。

それが裏では――こんな変態じみた会話をしていたなんて。

男たちに勝手に品定めされ、下卑た妄想の材料にされる。

虫を噛み潰したみたいに不快、なんて生易しい。胃の奥がひっくり返るほど屈辱だった。

過去の出来事が、脳裏でコマ送りになる。

柚木家と九条家の縁談。結華は最初、迷っていた。だが三つ年下の陽向がしつこく迫り、友人たちまで感動してしまったのだ。

「三つ下くらいで何よ。年齢以外は文句ないじゃん」

「今はまだ子犬でも、時間かけて躾ければいいの。あんたにだけ尻尾振る“わんこ”にしちゃえば勝ち」

押し切られる形で、結華は渋々頷いた。

それから三年。陽向は“完璧な恋人”だった。瑕ひとつない――そう思っていた。

結華は会館を飛び出し、街を当てもなく歩いた。行き先なんてどうでもいい。ただ、ここから逃げたかった。

急いで出たせいで上着もない。ふと目に入ったネオンが瞬いた。

――酔えば、少しは忘れられる。

扉を押して店に入る。

耳をつんざく音楽。今の心には、それが妙にしっくり来た。

カウンターに腰を下ろし、いちばん強い酒を頼む。喉を焼く熱が流れ込み、涙が勝手に溢れた。胸の奥がじりじりと疼く。

――なんでクズ男のために泣かなきゃいけない。

――今日は私の誕生日。私がいちばん偉い。

――恋がなくても、仕事は失えない。

柚木家の娘には、世間には伏せられた継承がある。

二十六歳の誕生日に人事を経て初めて、鑑宝の才が開く。

その才を得た者は、玉石に触れるだけで真贋を見抜き、さらに四大至宝と心が通うような感覚すら得られるという。

柚木家の錯綜した人間関係を思い出し、結華の目から濁りが消えていった。

――必要なのは、相手。今夜の相手を選ぶだけ。

彼女の存在はすぐ男たちの目を引き、次々と声をかけられた。だが年が離れすぎていたり、見た目が論外だったり。どれも論外。

薄暗い照明の奥、ソファ席に黒いスーツの男がいた。白いシャツのボタンを二つ外し、背もたれに気怠く凭れている。長い脚を組み、グラスをゆっくり回す姿は――高貴な狼みたいだった。

少し離れた場所で女たちがひそひそ囁き合い、そのうちの一人が背筋を伸ばして男へ近づく。

結華の血が熱くなる。

――あの人だ。

「……偶然ね」

知り合いに会ったみたいな軽い足取りで、結華は男へ歩み寄った。女に肩がぶつかったが構わない。そのまま男の隣に腰を下ろす。

「ねえ、旦那さま。もう怒らないで。帰ろ?」

水のように柔らかな声。大きな瞳で、ぱちりと瞬きをする。

強い酒を初めて一気に飲んだ。酔いが回る前に、男を連れ出さなければ。ひとりで夜明けを迎えるわけにはいかない。

隣の女は、二人の親密さに呆然として、すごすごと退いた。

男は去る背中を一瞥し、そして至近距離の結華へ視線を戻す。感情の読めない声で問う。

「今、俺のこと……何て呼んだ?」

背後に人の気配が消えたのを確認し、結華は無邪気に瞬いた。

「ここ、うるさい。場所、変えて話そ」

酒のせいで身体がふわりと柔らかくなり、無意識に男の肩へもたれ、ゆっくりと胸の中に倒れ込む。

「おい」

男が押し返そうとしても、びくともしない。覗き込むと、目が閉じられていた。寝たのか、演技か。

本当に寝ているなら、このまま置けばすぐ拾われる。

九条獅堂は顔を冷たくし、女を横抱きにしてバーを出た。上階のホテルへ向かう。

スタッフは彼の姿に息を呑み、抱えられた女を見てさらに固まり、慌ててドアを開けた。

部屋へ入る瞬間、腕の中の女の手が、かすかに動いたような気がした。

ドアが閉まる。

ベッドへ放り投げた途端、九条獅堂の襟元が引き寄せられ、身体ごと温かな柔肌に引き倒される。

ほどなく室内は甘く乱れた空気に満ちた。

……

結華は狙い通りにやり遂げた。全身がだるく、ベッドに横たわりながら、どうやってこの男を切るか考えていた時――ドアが叩かれた。

「柚木結華! 開けろ!」

「お前が入ったの、見たって言ってる!」

九条陽向の声。どうして追ってきたの――。

朦朧としていた結華の意識が、一気に研ぎ澄まされる。

まだ問い詰めてもいないのに、先に逆上する気?

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彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。

生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。

兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。

長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。

兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」

彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」