紹介
彼は勤勉で向学心に溢れているのに、家はとても貧しいらしかった。
私は彼を大学に行かせるため、自分の治療費さえも、すべて彼に捧げることにした。
けれど、すぐに見てしまったのだ。彼が高級クラブで、金に物を言わせて遊び耽る姿を。
その時初めて知った。彼がしていたのは、底辺の人間を弄び、その愛情を支配するだけのゲームだったのだと。
そして私は、彼に選ばれた、ただの玩具。
治療費がなくて、もうすぐ死ぬだけの、壊れかけの玩具にすぎなかった。
チャプター 1
また胸に鋭い痛みが走る。
私は銀座のクラブの外壁にもたれかかり、夜の冷たい空気を深く吸い込んだ。
ネオンサインがこの通りを白昼のように照らし出しているけれど、私の心の奥でますます深まる恐怖を照らすことはできない。
検査結果はまだバッグの中に眠っている。500万円という手術費用が、まるで巨大な山のように私にのしかかっていた。
いや、もう私にはのしかかってこない。
私の有り金は、三日前にすべて琉太に渡してしまったからだ。
あの時、彼は私の手を握り、その眼差しは私が胸を痛めるほど誠実だった。
「雪花、俺が卒業したら、必ず君を大切にするから」
突然、スマホの画面が光った。SNSに誰かが一枚の写真を投稿したのだ。数日前に警備の仕事をした時に見た、金持ちのボンボンたちの集まりだという。そのパーティーは豪華絢爛で、彼らがアルバイトで稼ぐには途方もない時間がかかるほどのお金が一夜にして使われるらしい。
何気なくそれに目をやった瞬間、私の世界は回転を止めた。
写真の中の男は、高価なアルマーニのスーツを身にまとい、腕のロレックスは光を浴びてきらきらと輝き、けばけばしい化粧をした金持ちの娘を抱きしめている。
背景は豪華なクルーザーの甲板で、隣にはシャンパンタワーが煌めいていた。
その顔を、私はよく知っていた。
長谷川琉太。
つい今朝、彼は今日のバイト代はたったの2000円だったと言い、私にネックレスを買ってあげたいけど、もったいなくて買えないと話していたばかりだ。
ふと、昨夜彼のカバンの中で見つけた本物のネックレスを思い出す——定価50万円の値札がはっきりと貼られたままだった。
その時の私は、きっと彼がお金持ちの同級生のものを預かっているのだろう、なんて馬鹿なことを考えていた。
お金持ちの同級生?
私の手が震える。
写真の琉太は、とても晴れやかに、そして……当たり前のように笑っていた。
これは、お金に困っている人間が浮かべる表情ではない。
「ありえない……」
私は呟いたが、声は震えていた。
大きな笑い声がクラブの中から聞こえてくる。私はかろうじて中へ入り、半開きになった個室のドアの隙間から、革張りのソファに座る若者たちの集団を目の当たりにした。シャンパン、キャビア、輸入物の葉巻、そのどれもが高価なものばかりだ。
私は琉太を見つけた。
「お前ら、あのコンビニの子が俺のためにどこまでやるか、当ててみろよ」
琉太はグラスを掲げ、得意げな笑みを浮かべて言った。
「学費と生活費が必要だって言ったら、有り金全部くれたぜ」
個室に爆笑が巻き起こった。
「マジで? 底辺ってほんと騙しやすいのね!」
甲高い女の声が耳障りに響く。
「貧乏学生を演じただけで釣れるわけ?」
「演じたんじゃない、体験だ!」
琉太は自慢げな声で訂正した。
「これは『底辺恋愛体験』ってやつさ。あの蟻どもが愛のためにどこまでやるか見てみたかったんだ。正直、結果は予想以上に面白かったぜ」
「本当に金、全部くれたのか?」
別の男の声が尋ねた。
「もちろんだ! しかも、お袋さんの形見の安物の指輪まで売って、俺を海外留学させようとしてるんだぜ」
琉太は高笑いした。
「やれやれ、お前らもあいつの感動で泣きそうな顔を見るべきだったな。『あなたのためなら、私が死んだって構わない』だとさ」
個室の笑い声はさらに大きくなり、針のように私の心臓に突き刺さる。
逃げ出したいのに、両足は鉛を注ぎ込まれたように重かった。
脳裏に無数の場面がよぎる。かつて私が見過ごしてきた綻びが、潮のように押し寄せてきた。
彼は一度もキャンパスに行かなかった。私が彼の大学の教室を見てみたいと提案すると、いつも「今日は授業がないから、行っても面白くないよ」と言い訳をした。
同級生について尋ねると、彼の口にする名前はいつも曖昧だった。
「ええと……小田とか、あとは……山本とか」
具体的な名前は一度も出てこなかった。
私が彼の専門科目について興味を示すと、彼はいつも話題をそらした。
「法律は退屈だから、その話はやめよう」
法学部の学生のはずなのに、法律について何も知らなかった。
彼のスマホには大学からの通知が一切届かず、いつ試験があるのかさえ知らなかった。「まだ期末じゃないから」と言っていた。
生活リズムは異様に狂っていて、昼間はよく「図書館に行く」と言っていたが、夜は元気いっぱいで、とても真面目に勉強している学生には見えなかった。
私のお金を使う時は当たり前のように、少しも申し訳なさそうにせず、感謝もせず、まるで当然自分のものを使うかのように振る舞った。
「私、なんて馬鹿だったんだろう……」
涙がこらえきれずに流れ落ちる。
「こんなに明らかな綻びを、全部見て見ぬふりして、彼の言葉を一つ残らず信じてたなんて」
「実は一番笑えるのはさ」
琉太の声がまた聞こえてきた。
「あいつが俺の体を心配してくることなんだぜ。頼むよ、俺たち長谷川家には最高の医療チームがいるっていうのに?」
琉太は得意げに続ける。
「今回のゲームは、実は俺と蜜香の賭けだったんだ。どっちが底辺の人間によりクレイジーなことをさせられるかってね」
「蜜香? 桜庭蜜香か?」
「ああ。あいつは田舎から出てきた大学生に挑戦中で、もうその男に金まで盗ませてるらしい」
琉太は笑った。
「でも、俺の勝ちで決まりだろ。なんせ、あの女がくれた金は、貧乏人にとってははした金じゃないからな」
私は口を覆い、吐き気を必死にこらえた。
胸の痛みはますます激しくなる。心臓発作なのか、それとも心が砕けた痛みなのか、もうわからなかった。
重い足を引きずってクラブを離れると、銀座の街の寒風がナイフのように顔に突き刺さった。
街灯が私の影を長く伸ばしている。それは、この八ヶ月間、私が信じて疑わなかった恋が、いかに滑稽で馬鹿げていたかを物語っているようだった。
またスマホが鳴る。琉太からのメッセージだった。
「雪花、週末スキーに行こうよ。600円の特価チケットがあるんだ。俺たち貧乏学生もたまには楽しまなきゃね~」
600円……さっき見たクルーザーの写真と、彼の腕にあった何百万円もするロレックスを思い出す。
私は道端にうずくまり、ついにこらえきれずにえずいた。
通りすがりの人々が奇妙な視線を向けてくる。きっと、酔っ払った女子大生だと思っているのだろう。
もし彼らが、この「酔っ払い」が自分を猿のように弄んだ金持ちのボンボンに命まで捧げようとしていたと知ったら、もっと大きな声で笑うに違いない。
涙を拭い、私は再び立ち上がった。
どうせ、もう失うものなど何もないのだから。
この命と、愚かで死にたくなるほど馬鹿な心を除いては。
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だが、あいにく。
今この身体の中にいるのは、暗殺組織のトップだ。
地獄の底から這い上がってきた、一人の女だ。
私はまず、元の持ち主が昨夜味わった屈辱のツケをきっちりと払わせ、皮膚に残る毒素を洗い流した。
物理のテストでは満点をもぎ取り、超一流の弁護士を1分1秒の狂いもなく現場へ急行させて私の弁護に当たらせ、果ては市長自らに我が家の門を叩かせ、私の後ろ盾にならせた。
今世において、私に借りのある全ての奴らから、一筆一筆、その代償を血で購わせてやる。
彼はかつて私を打ちのめした、今度は私が彼を打ちのめす番だ
次に、私の両親。
三番目に、私の自由、私の両目、そして生きる理由のすべて。
結婚記念日の日、夫は私を三人の男たちに差し出した。彼は私を犬小屋に閉じ込め、彼の愛人はそばで嘲笑っていた。彼は私に自分の息子の遺骨を食べさせ、それを「慈悲」と呼んだ。
彼は私が汚れていると言った。私は当然の報いを受けているのだと。
しかし、彼が固く信じていたDNA鑑定の結果は嘘だった。あの動画は捏造されたものだった。そして、彼がこれから娶ろうとしている女こそが、私たち全員を破滅させた元凶だった。
私は自殺を試みた。四度。
今は、もう試みない。
彼らは死んだ女を土の中に埋めた。だが間もなく気づくだろう——彼女が地獄をも連れ戻したことに。
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三年にわたる隠し通してきた結婚生活のなかで、夫がそう口にしたのは、綾部栞の実家が危機に瀕し、彼女自身が身ごもっていた、まさにその時だった。
助けを求める彼女に、夫は目を向けることすらしなかった。失意の果てに、栞はふくらみ始めた腹を隠し、離婚届に署名する。
これで互いに違う道を歩むだけだと思っていた。ところが、隠していた孕み腹はやがて露見してしまう。
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「この子に会いたければ、跪いて許しを請いなさい」
そう言えば、さすがに諦めるだろう——。
だが、彼女は読み違えていた。相手の、その異様なまでの図太さを。
やがて、雲市で最も賑わう中心街の大型街頭ビジョンに、ある動画が一日中エンドレスで流れ始める。
それは、ひとりの男が地面にひざまずき、ただひたすら復縁を乞い続ける姿だった。
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「君は、これまで誰も本気で愛したことなどない」
彼は私にそう言った。
反論しようとして、しかし私は何も言えなかった。
なぜなら、ふと心に浮かんだからだ。夫に対して抱いていたもの——それは愛だったのか、それともただの慣れだったのか。そして、私と過去との間に立ちはだかったこの男に抱き始めているこの感情は……一体、何なのか。













