紹介
六年前の「深淵の戦い」で、黒竜の領主ドラコの心臓は敵の鋭い爪に貫かれた。
私はためらうことなく自らの胸を切り裂き、半分の『魔女の心臓』を捧げて彼の体へと溶け込ませ、彼を死の淵から引き戻したのだ。
それ以来、私は魔力枯渇の苦痛に耐えながらも、彼のために血みどろの戦いに身を投じて玉座への道を切り拓いた。何度も命を落としかけながら、ただ一つ――ドラコが戴冠した暁には私を王妃として迎えるという約束だけを待ちわびていた。
だが、戴冠式の日。ドラコはハーフエルフのアイビーを連れ帰り、あろうことか私に王妃の座を明け渡すよう命じたのだ。
理由は?アイビーが深淵で三年間彼に寄り添い、あまつさえ彼の子を身籠っているからだという。
完全に心が死んだ私は、ドラコへの愛を根こそぎ剥ぎ取る『忘愛の秘薬』を飲み干した。
そして三日後、極北の地へと旅立ち、銀狼族との政略結婚を受け入れることを決意した。
チャプター 1
「セリーナ……本当に、ドラコのこと……もう、完全に好きじゃないの? それで政略結婚までする気?」
大魔女のマヤが背後に立ち、その声には心配と戸惑いが滲んでいた。
私は魔法のローブをトランクへ押し込み、顔も上げずに言う。
「もうその人の話はやめて、マヤ。あいつには……何の感情も残ってない」
「でも、あなたはあの人のためにどれだけ……!」マヤの声が跳ね上がる。
「あなたは『魔女の心臓』を半分、捧げたのよ! それは魔女族にとって、いちばん貴重な力の源泉なのに!」
マヤは諦めきれないのか、魔法で鏡像を凝結させた。私の犠牲を思い出させるために。
鏡の中に映ったのは、六年前――深淵の戦場。
血にまみれた私が銀の刃で自分の胸を裂き、脈打つ半分の心臓を、瀕死のドラコの身体へ押し込んでいく。
私は、その『喜んで差し出していた自分』を見つめ、ただ愚かだと思った。
マヤはなおも続ける。
「それに、この六年の戦争だって。彼に王権を取らせるために、あなたはどれだけ犠牲にした? 戦いのたびに先頭に立って、彼の代わりに致命傷を受けて。交渉のたびに魔力を削って、有利な条件を引き出して。毎回、毎回――」
「もういい」
遮った瞬間、自分でも理由のわからない苛立ちが胸を刺した。
そう、覚えている。全部。
けれどドラコへの感情を失ってしまった今となっては、あれらは他人の物語みたいに遠くて、滑稽で、うんざりするだけだ。
「マヤ。全部、過去の話」私は荷造りを続ける。
「今の私は、ここを出たい。それだけ」
マヤは深く息を吸い、言い方を変えて迫った。
「たとえドラコに気持ちがなくなったとしても、そんなに急いで政略結婚を決めるなんて――」
「どうでもいい。誰に嫁いだって同じ」
「セリーナ!」マヤはさらに焦った。
「銀狼族のカール伯爵がどんな男か知ってるの? 極地でいちばん冷酷無情な狼王よ。噂じゃ、婚約者を三人も自分の手で引き裂いたって――そんな男、伴侶にしちゃだめ――」
答えようとした、そのとき。
扉が勢いよく押し開けられた。
「伴侶、だと?」
入口から響いたのは、ドラコの冷えきった声だった。
ドラコはアイビーを抱き寄せたまま入ってくる。かつて私の心を揺らした暗金の瞳には、いら立ちしか浮かんでいない。
アイビーがすぐに指先でドラコの胸をつつき、甘ったるい声を作る。
「まあ、あなた。きっと明日の戴冠祭の段取りの話よ~。あなたの伴侶として、セリーナも私も、しっかり準備しなきゃね」
小首を傾げて私へ笑いかけた。
「……そうよね、セリーナ?」
私は鼻で笑う。
「伴侶はあんたでしょ。私は違う」
ドラコの顔色が一瞬で沈んだ。
「セリーナ。アイビーは十分に譲歩している。王后の座を二人で分けると言っているんだ。それで何が不満だ?」
鼻を鳴らし、言い捨てる。
「明日の式典は大人しく出ろ。くだらない意地を張るな」
マヤが怒りで震え、私が忘情薬を飲んだことを告げようとした瞬間、アイビーが言葉を被せた。
「あらぁ、セリーナの首飾り、すっごく綺麗~」
アイビーは近づき、私の胸元――月光石のネックレスに視線を吸い寄せる。
「この月光石って、心を落ち着かせる効果があるんでしょう? 最近、妊娠のせいで眠れなくて……私もそんなのがあったらいいのに……」
弱々しくドラコの肩にもたれた。
私は首飾りを見下ろす。
十八の成人のとき、ドラコが極北の氷淵の奥底から持ち帰り、一か月かけて彫ってくれた――誓いの証。
「アイビーに渡せ」
ドラコがためらいなく命じた。
笑うしかない。相変わらず、命令するのが当然だと思っている。
「嫌」
ドラコの表情が険しくなり、大股で詰め寄る。手を伸ばし、奪い取ろうとした。
反射的に私は魔力で身をかわす。
紫の光がぱっと弾け、部屋の空気を震わせた。
次の瞬間、アイビーが可愛らしい悲鳴を上げて倒れ込む。ちょうど拡がった魔力の波に『ぶつかった』かのように腹を押さえ、苦しげに喘いだ。
「わ、私の子……ドラコ、私の子が……」
「アイビー!」
ドラコの顔色が激変する。
直後、凄まじい竜威が私へ叩きつけられた。
「――っ!」
身体が浮き、壁へ激突する。喉の奥が熱くなり、血を吐いた。
マヤが悲鳴を上げて駆け寄り、私を支えながらアイビーを指さして怒鳴る。
「演技よ! 今の、かすってもいないじゃない!」
「黙れ」
ドラコの瞳に暗金の火が燃え上がった。
彼は私の前まで来ると、手を振り抜く。
「ぱんっ!」
頬が横へ弾かれ、口の端が切れて血が滲む。
耳の奥がじんじん鳴り、半分の顔が灼けるように痛い。
「セリーナ。お前の一族を躾けろ」ドラコは氷のように言った。「アイビーと子に手を出すなら、魔女族ごと葬る」
私は口元の血を拭う。
「安心して。これからは、あなたたちから遠く離れて生きる」
「まだ口答えするか!」
ドラコはさらに怒り、乱暴に私の首からネックレスを引きちぎった。そして壁炉の炎へ放り込む。
それからアイビーを抱え、振り返りもせず去っていった。
私は呆然と、月光石が炎の中で溶け、星屑みたいに散って消えるのを見つめた。
――いい。これで、全部清算だ。
マヤが私を起こし、嗚咽混じりに言う。
「ごめんなさい、セリーナ……私が余計なことを……」
私は首を振った。
「あなたのせいじゃない」
身体の傷は痛むのに、心は異様なほど静かだった。
マヤはさらに泣き崩れる。
「最低な竜族……! 離れなさい、セリーナ! 絶対に離れるのよ! いつか必ず、あいつは後悔する!」
私は彼女の肩にもたれ、壁炉の灰を見つめる。
後悔?
それが、私に何の関係がある。
忘情薬はもう効いている。ドラコへの愛なんて、きれいに剥がれ落ちた。
「あと三日」目を閉じる。
「三日後、ここを出る」
二度と、戻らない。
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かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
氷の君と太陽の私
運命が私を引き戻した——薬を盛られた結婚初夜、彼の腕の中で生まれ変わったのだ。これは私の二度目のチャンス。
かつて逃げ出した男こそが私の運命。彼の狂おしい愛こそが、私の最強の武器。世界が恐れる男を受け入れ、彼の姫となろう。共に、私たちを破滅させた裏切り者どもを灰燼に帰すのだ。
しかし私の突然の献身は、彼に疑念を抱かせる。心を砕いてしまった男に愛を証明するには、どうすればいいのだろう……彼の最も暗い欲望が、私を永遠に縛り付けることだと知りながら。
すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む
視界を染めるのは絶望の闇。そして、耳元に届くのは――従妹・原田紀奈の、歪んだ嘲笑。
「お姉ちゃん、恨むなら自分の甘さを恨みなさい」
父の薬をすり替え、母を死に追いやり、兄の事故さえ仕組んだ。すべては、目の前で笑うこの女の仕業だった。
さらに突きつけられる、あまりにも残酷な真実。
「あなたの婚約者はね、あなたが身を削って得たお金で、私への婚約指輪を買ったのよ?」
――すべてを奪われ、絶望の中で命を落とした、はずだった。
しかし、次に目を覚ますと、そこは見覚えのある「19歳の誕生日パーティー」の会場。
前世と同じように、婚約者の七瀬崚介が私に無実の罪を着せ、謝罪を迫っている。
(……でも、もう私は、あの頃の愚かな人形じゃない)
奪われた人生も、向けられた悪意も、そのすべてを覚えている。
今度は、私が奪い返す番。
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ふとシャツのボタンを外し、悪戯っぽく笑って言った――
「どうだい、あの夜の熱をもう一度味わってみないか?」
家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った
公平を期すという名目のもと、兄たちは彼女からリソースを根こそぎ奪い、その尊厳を踏みにじってまで、運転手の娘を支えた。
彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。
生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。
兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。
長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
つわり発覚!? 禁欲上司に甘やかされすぎて、胸キュンが止まりません!
それは私の夫の手。――彼は、浮気をしていた。
元妻を追う冷酷社長、プライドを捨てて泣き崩れる
私は静かに家を捨て、彼の知らない子供と共に旅立った。
だが、私の消えた世界で、冷酷なはずの夫の歯車が軋み始める。
冷徹な社長の面影は消え、今や彼は狂気じみた執着で、この街のすべてを焼き払う勢いで私を追い求めている。
隠された天才:裏の顔が多すぎて、気づけば世界のトップを震撼させていた件
育ての親の一家に家を追い出されたあの日、私は微笑みを浮かべながら、奴らが施しとしてよこした金をゴミ箱へと投げ捨てた。
誰も想像すらできないだろう。この私が、数々の名門貴族や権力者たちが大金を積んで列をなし、首を長くして診察を待つ伝説の名医——【暁】だなんて。
私が時価総額数十億ドルのファッション帝国を裏で支配していることも、ウォール街の株価をたった一回の取引で大暴落させられることも、誰も知らない。私はその正体を、この平凡で冴えない素顔の裏にすべて隠し持っていた。
さらに劇的なことに、私の実の親はこの街で頂点に君臨する最高峰の大富豪だった。
そして私の婚約者——すでに顔を合わせているにもかかわらず、その正体を知らなかったあの男こそ、この街の誰もが名前を聞くだけで震え上がる、ビジネス界の冷酷な死神:梅原晴琉だったのだ。
ある日、彼は私の手を執り、ゆっくりと距離を詰めると、耳元で低く囁いた。
「俺のこの鼓動、今なら感じられるか?」
私は至って真面目な顔で彼の胸に手を当て、大真面目にこう返した。
「心拍数は確かに少し高めですが、非常に健康的です。心配ありませんよ」
彼は一瞬呆気にとられ、それからふっと吹き出した。その瞬間の彼の笑顔に、私の心臓もなぜかドクンと跳ねた。それは、自分自身でも説明のつかない初めての衝動だった。
だが、彼が私の真実に一歩ずつ近づくにつれ……私の心は揺らぎ始めている。自分の最後の秘密を、あとどれくらい隠し通せるのだろうか。
外されるはずのなかった仮面——。だが、あの人が執拗にその霧を剥ぎ取ろうとするとき、私は一体どこへ向かえばいいのだろう?
二度目はない 動じず咲く
婚約者は身ごもった愛人を腕に抱き寄せたままそこに立ち、私を鼻で笑っていた。「俺がいなきゃ、お前なんて何の価値もない」
私はきびすを返し、この街で最も裕福な男の扉を叩いた。「ロック氏、政略結婚にご興味はおありですか? 千億ドル相当の株式――それに加え、未来のビジネス帝国も無料でお付けいたしますわ」
私が囲っている億万長者
彼は息を呑むほど美しく、落ちぶれていた。夫の裏切りがもたらした傷が完全に癒えるまで、彼をそばに置いておくつもりだった。
お金で彼の付き添いを買い、すべてのルールを私が決め、すべてを完全に掌握しているつもりだった。
けれど、私の隣で横たわるこの男の正体は、彼が語ったものとはまるで違っていた。
魅惑的な笑顔と抗いがたい容姿の下に隠されていたのは、仇敵から身を隠す億万長者の素顔だった。
今や彼は、私の生活に、私のベッドに、そして私の心に――完全に絡みついている。
身を引くことは、彼のそばにいることよりも、もっと危険かもしれない。













