紹介
アメリアは幼いころから祖母に育てられてきた。ある日突然、マルティネス家の人間が家の扉を叩き、彼女こそ長年行方不明だった娘だと言い張った。
マルティネス家に連れ戻されたアメリアは、身体に障害があるという婚約者まで与えられることになった。
その夜、アメリアはウィリアムの健常な下半身に短剣を押し当てた。「障害者のふりをして私に近づいた……目的は何?」
ウィリアムは、アメリアのスカートの下に突きつけられた冷たい銃口を顎で示した。「利害は一致してる。片がついたら一億やる」
数か月後、アメリアはようやく理解した。ウィリアムの言う「一億」とは、日に何度も求め続け、彼女が妊娠するまで終わらせない――という意味だったのだ。
チャプター 1
バーの薄暗い廊下はひどい有様だった。恐怖で青ざめた若い女が、ゆらゆらと揺れる人波をかき分けて足早に進む。がっしりした男が二人、すぐ背後にぴたりとついてくる。だが角を曲がった瞬間、女の姿はどこにもなかった。
アメリア・マルティネスの心臓は太鼓のように鳴り続けた。彼女は扉に耳を押し当て、外の物音を必死に探る。
「誰だ?」
室内から声がした。
振り向くと、裸の男が立っていた。濡れた雫が肌を伝い、目を奪うほど引き締まった体つきが、いやに堂々としている。
ウィリアム・ブラウンは隠そうともしないまま彼女へ歩み寄った。視線は鋭く、声には危うさが滲む。
「誰に送られた」
扉が叩かれた。
アメリアは息を殺し、ウィリアムから目を逸らせない。彼が自分の存在を露見させるのではないかと怖かった。
緊張が頂点に達したその瞬間、ウィリアムはさらに一歩詰め、手をドアノブへ伸ばした。追い詰められたアメリアは、咄嗟に彼の首へ腕を回し、唇を重ねた。
ウィリアムの動きが止まる。彼女の新しい匂いが、否応なく感覚を満たす。アメリアは大きく見開いた目で反応をうかがいながら、首に回した腕に力を込めた。いつでも絞め落とせそうなほどに。
面白い。
ウィリアムは薄く笑い、片手でアメリアの顎をすくい上げると、低い声で言った。
「キスするなら、ちゃんとやれ」
口づけは深まり、熱を帯びていく。息が絡み、甘く焦らすような吐息混じりの声がこぼれた。
ウィリアムの慣れた手が彼女の腰をなぞり、器用に服をほどいていく。二人の間の熱は増し、アメリアはくらくらして息が上がった。
彼は彼女の脚を自分の腰へ絡ませ持ち上げ、掠れた声で囁く。
「自分で入れろ」
淫靡で抗いがたいその声は、耳元で呪文のように響いた。
アメリアは唇を噛み、もう堪えきれない。手を伸ばし、彼を自分の中へ導いた。
奥まで受け入れた瞬間、二人は同時に息を吐いた。
汗で艶めくアメリアの指が、逞しい胸板を探る。どこもかしこも彫刻のように整っている。
頬に淡い紅が差し、からかうように言った。
「全然、紳士的じゃない。ちっともロマンチックじゃないわ」
返事の代わりに、ウィリアムは強く突き上げ、背後の扉ががたんと震えた。
だが唇は優しかった。耳たぶを甘く噛み、首筋へと口づけを落としていくたび、肌が灼けるように熱くなる。
交わる音はさらに激しく、切迫していった。
扉を揺らす音が頻繁になり、アメリアは堪え切れず最後に声を漏らした。彼にしがみつき、荒い息を吐く。
外で、低い声が囁き合う。
「逃げたんだろ。中にいるのがあいつってわけじゃない」
別の声が返した。
「仮にそうでも、あとで使える情報だ」
声は遠ざかり、立ち去ったことがわかった。
アメリアは力を抜き、一歩下がってウィリアムから離れる。離れ際の湿った音が、室内に妙に響いた。
彼女は気づかないまま、かがんで服を拾い上げ、カードを取り出してウィリアムに差し出した。
「助かったわ。これに二万ドル入ってる。損はさせない」
余韻に浸っていたウィリアムは、そのカードに目を落として面食らい、表情が冷えた。鼻で笑う。
「要らん。治療費にでも取っておけ」
アメリアは眉をひそめた。
「治療費って、何の?」
ウィリアムは言い放った。
「性感染症だ」
「本気なの? 頭おかしいんじゃない!」アメリアは彼の戯れ言に付き合っている暇はなかった。カードを玄関のコンソールテーブルに置くと、身をかがめて下着を拾い上げた。
精液が、すらりとした脚を伝ってとろりと落ちていく。
ウィリアムの喉がきゅっと締まり、怒りと欲望がないまぜになって、かろうじて保っていた理性を叩き割った。
不意を突かれたアメリアが抗議する間もなく、彼は腰をつかんで抱き寄せた。抗議の声は熱い口づけに飲み込まれ、衣服はまた床へと落ちていく。
その夜、二人の情熱は部屋じゅうに痕跡を残した。バルコニーから浴槽、そしてダイニングテーブルに至るまで。
翌朝、ウィリアムが目を覚ますと部屋は荒れ放題で、しかしアメリアの姿はなかった。
ナイトスタンドの上のカードが目に入り、彼の瞳が陰った。
午前十一時三十分。
城のように壮麗な大邸宅で、マルティネス家の面々が一列に座し、その中心には白髪の老婦人がいた。
そこへ男が飛び込んできた。顔面は蒼白で、怯えた声で告げる。「メイベル・マルティネス夫人、アメリア・マルティネス様がご帰宅の途中で行方不明になりました」
メイベル・マルティネスは怒りに身を起こし、叫んだ。「何ですって?」
真の令嬢を迎えるために盛大な晩餐会まで用意したというのに、その当人が消えたというのか。
メイベルは憤怒の形相のまま外へ急いだ。「どうしてこんなことを許したの!」
階段を下りてきたビアンカ・マルティネスは、口元に浮かんだ得意げな笑みをすぐに引っ込め、心配そうな表情を貼りつけた。「おばあさま、どうしたの? 誰かいなくなったの?」
「田舎育ちの子は作法ってものがない。オーウェンが言っていたわ。バーでお腹が痛いからお手洗いを借りるって言って入ったきり、出てこなかったんだって!」
メイベルの顔は怒気で真っ赤だった。
「都会に圧倒されて、道に迷ったのかもしれないわ」ビアンカは伏し目がちに、思案するふりをして言った。「でも、バーで姿を消すなんて……あまりにも雑然としてる」
彼女は携帯端末にちらりと視線を落とし、映像の更新を待った。
時間だけが過ぎ、いまだ知らせはない。
昨夜の薬が、強すぎたのだろうか。
映像さえ手に入れば、アメリアが戻った途端にマルティネス家から追い出せる。
「田舎で育った子は、やっぱり礼儀がなっていない」メイベルは吐き捨てるように言い、晩餐会場へ大股で向かった。「今すぐ探しなさい。正午までに戻らなければ、マルティネス家はあの子を孫として認めない」
「認める気がないのなら、どうしてわざわざ連れ戻したの?」
冷たい声が、少し離れたところから響いた。
近づいてくる人影に、皆が凍りついたように見つめる。
メイベルでさえ息をのんだ。あまりにも似ている――亡き娘、アヴァ・マルティネスに。
一族の視線が一斉にアメリアへ突き刺さり、場は呆然とした沈黙に包まれた。
メイベルに、こんな口を利く者などいなかった。
「あなたがアメリアなの?」メイベルは足早に歩み寄り、頭のてっぺんからつま先まで値踏みするように見た。
アメリアの顔は硬かった。三か月前、見知らぬ者たちが家に押し入り、彼女はエメラルド・シティの名門マルティネス家の後継者だと言い張った。礼儀作法を叩き込むために連れ出され、そして都会へ――家族との胸を打つ再会を、彼女は信じていた。
だが到着するより先に、彼女は薬を盛られた。信じていた誰かに裏切られて。
血のつながりがあっても、忠誠を保証するものではないのだ。
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