ロマンスのR

エマラ・ストーン

「エマラ！」

「今行く！」と叫び返し、ピンクがかった赤毛を急いで櫛でとかす。それから櫛を放り投げ、角帽をひっつかんだ。

今日は、髪より帽子のほうが大事なのだ。

階下へ駆け下りると、兄が驚くほどばっちり決めているのが目に入った。まるで私たちに前菜でも運んでくるみたいな、白いスーツに黒いネクタイ姿だ。

「まだ準備できてないの？」母の金切り声が聞こえ、そちらを向く。母はシルバーのガウンにシルバーのアクセサリーを合わせ、まるで人間ディスコボールみたいにきらめいていた。

「準備できてるよ」と私は答える。新品のAC/DCのTシャツと、我ながら最高にクールなダメージデニムの自分を見下ろしながら。

「だめだ、だめだ」父が割って入る。いつもの青いシャツに黒いズボンという、まるでコンピューターでも修理しに行くかのような普段着姿で。

「ドラッグ中毒のティーンエイジャーみたいな格好で出かけるんじゃない。これはお前の卒業式だ。人によっては、結婚式の夜みたいに一生に一度のことなんだぞ。だから、ちゃんとドレスアップしてこい！」父は私に命じた。

「結婚式の夜みたいにドレスアップ？」私は心底わけがわからなくなって聞き返した。

『そもそも、そんな夜に服なんて着るものなの？』

「違う、エマラ！ テイラー・スウィフトのコンサートに行って、ステージに呼び出される時みたいな格好をしろってことだ。さあ、行け！」

『は？ テイラー・スウィフトなんて聴きもしないのに！』

「それから、薬は飲んだのか？」父の命令に従おうとした私の足が、その質問で止まった。

「あ、忘れてた」罪悪感を覚えた子供のように、かろうじて聞こえる声でつぶやく。

「忘れちゃだめよ、ハニー。あなたにとってどれだけ良いものか知ってるでしょ」母に言われ、私は無理に笑顔を作った。「うん」と返事をして、身を翻し、階段を上り始めた。

「僕のこと、受け入れてくれるかな？ すごく緊張する」

兄の自信なさげな声に、足が止まる。「彼ら」って誰？

私は階段の壁に胸を押しつけ、静かに彼らの会話に聞き耳を立てた。

「もちろんよ、ダーリン。あなたはとっても素敵な人だし、もう三年も付き合ってるのよ。彼女のご家族があなたを気に入らないわけないじゃない？」

私の目は、眼窩から飛び出さんばかりに見開かれた。

『イーサン、卒業式でローズの家族に挨拶するつもりなの？』

「うん、でも彼女のお兄さんが僕を嫌っててさ。ご両親にまで変に思われたくないんだ」いつもは自信家な兄が、自信なさげに聞こえる。

『待って……ライアンもそこに来るの？』

「それは何年も前の話でしょ、イーサン。きっと彼も考えを改めてるわよ」母が天使のような声で言うのを聞き、私も考えを改めて、急いで自分の部屋へ向かった。

『もうテイラー・スウィフトのコンサートに行く気分じゃない。ヘンリー・カヴィルに会いに行くみたいにドレスアップしなきゃ！』

別にライノの奴なんてどうでもいい。ただ、あいつが何を失ったのかをその目で見た時、あいつの下着が爆竹みたいに燃え上がればいいってだけ。

『へへへ！』

邪悪な笑みを顔に浮かべ、私はクローゼットを勢いよく開け、自分をサキュバスに変えてくれるようなドレスを探した。がらくたの山を必死にかき分けると、Tシャツ、クロップトップ、さらにTシャツが落ちてくる。

その時、ふと何かが目に留まった。彼がくれた、ピーチ色のドレス。

『ダコタ』。骨の髄まで忘れられない名前。

私はそのドレスを見つめた。わずかな動きで青みがかった色合いにきらめく。私のワードローブの中で唯一、高級感と品格、そして「私は高価なの。だから触らないで」と叫んでいる一着。

『七晩、彼の娼婦をやって手に入れた一着』

彼のことも、彼の部屋も、彼の香りも、彼のいくつもの人格も、彼の怒りも、そして何よりも、彼が私にチャンスをくれと懇願した最後の夜のことも、考えないようにしていた。

でも、私は彼を置いてきた。そうしなければならなかった。自分自身のために。

そして、このドレスが、私の自尊心と一緒に、彼の家から持ち出した唯一のものだった。そして今、私はこのドレスを使って、彼の親友――ライアン・ダミソンを嫉妬させてやるのだ。

私が本気で恋していた、あのクソ野郎を。

賭けのために一晩私と寝て、その後、訴追から逃れるためにヨーロッパへ高飛びした男。

アナの言う通り、私の男の趣味は最悪だ。

すぐにドレスに飛び込む。それはまるで、今でも毎日私のインスタをストーキングしている束縛の激しい恋人みたいに、体にぴったりとまとわりついた。肌触りは、最後にこれを着たとき――彼の家を出たときと、まったく同じように柔らかい。

まあ、ダコタがこのドレス姿の私をもう一度見るなんてことは、ありえないだろうけど。

髪を高い位置で結い上げ、背中の開いたドレスにすべてを語らせる。ヌードカラーのリップをさっと塗り、チーク代わりに頬にも少しだけ乗せた。

『ペルフェクト……頭のてっぺんからつま先まで！』

洗面所へ向かい、薬のボトルを手に取る。手のひらの錠剤をじっと見つめてから、便器に放り込み、まるで儀式のように水を流した。

階段を大股で下りると、シルクのドレスの裾が膝の上をかすめる。そして私は声を張り上げた。「準備できたよ！」

「あら、すごくきれいじゃない！」と母がうっとりと声を漏らす。父は「その方がいい」と言いながら、ぐっと親指を立ててみせた。イーサンはというと、いつも通り呆れたように目を白黒させている。

「もう行こうよ。卒業式にこれ以上遅れたくないんだけど」彼はまるで自分だけが卒業するかのように、すでにドアから半身を乗り出しながら、ぐちぐちと文句を言う。

全員で車に乗り込み、私の大学へと向かう。願わくば、この呪われたキャンパスに足を踏み入れるのは今日が最後であってほしい。もし万が一ここに戻ってくることがあるなら、その時は学長と教員全員を中に閉じ込めたまま、この学校を駐車場ごと焼き尽くしてやると誓う。

『アーメン』

敷地内は車でごった返しているわりに人は少なく、私たちは急いでメディアホールの中へ。そこでは私たちの学長であるロジャー・ウィリアムズが、スピーチの真っ最中だった。

本当に、この男はいつだって喋っている。

「もっとドレスを着替えてたら、卒業証書を受け取るのは来年になってたかもな」苗字順に席に着き、卒業式の角帽とガウンを身につけながら、イーサンが私をからかう。

「あなたも着替えた方がよかったんじゃない？ ウェイターみたいに見えるから」私は彼の睨みつけるような視線を無視し、前方にいる学長に集中する。彼はまるで古色蒼然たるケツからでも引っ張り出すかのように、スピーチ原稿を取り出している。

イーサンが身を乗り出してきて囁く。「俺、本当にウェイターに見える？」

その目には本気の心配が浮かんでいる。私は彼を横目でちらりと見ると、囁き返した。「うん。でも、高級なウェイター。ミシュランの星付きレストランって感じ」

彼はまた目を白黒させ、自分の脳みそがまだそこにあるかどうかでも確かめているかのようだ。

「さて、諸君が真新しい学位を手に世に出るにあたり、覚えておきたまえ。成功とはズボンのようなものだ。完璧にフィットすることもあれば……まあ、なんとか合わせようと、必死に引っ張り上げることになる時もある」彼はそう言うと、ステージの上で自身のズボンをぐいと引き上げた。

『このマヌケ、私たちの未来をズボンのきつさに例えたわけ？』

今度は私がイーサンの方に身を乗り出して尋ねる。「ねえ、私どう見える？」感想を聞いてるだけ！

「ハンサム」彼は間髪入れずに言うと、私の口ひげ――唇の上の哀れな産毛を指さし、シェフのキスを送った。

『このクソガキ！』

「さあ、外に出て我々を誇りに思わせてくれたまえ。少なくとも、何か馬鹿げたことでニュースになるのだけは避けるように。卒業おめでとう、2023年度卒業生！」ロジャーはスピーチを終えた。

「座りなさい。まだ終わっていない」学長は一人の学生を叱りつける。彼自身は、まだ演台やステージを離れる気配をまったく見せないというのに。

「本日、我々のもとへ、若き卒業生たちにサクセスストーリーを語っていただくため、特別なゲストがお越しくださっています」彼は芝居がかった間を置いてから、熱狂的に告げた。

「皆様、ハイバーズ・システムの共同設立者兼CEOであり、また、私の個人的なお気に入りの教え子でもある、ダコタ・ブラック氏をお迎えください！」

『聖なる孕みヤギの母様！』

私は椅子から飛び上がった。洗練された黒のスーツに身を包み、身長6フィート4インチ（約193センチ）の威圧感をまとって、まるで狩りをする狼のようにステージを歩く彼を見て、息が喉の途中で止まった。

『一体全体、なんで彼がここにいるのよ？』