あの行われなかった結婚式

あの行われなかった結婚式

渡り雨 · 完結 · 25.2k 文字

791
トレンド
1.5k
閲覧数
63
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

私と恋人の悠介が結婚式を挙げる予定だった、その一ヶ月前。彼は、別の女性に私のウェディングドレスを着させ、私たちの家に住まわせろと要求してきました。

すべての始まりは三ヶ月前。彼の「旧友」だという朋子が海外から帰国し、彼女に残された命は一年もないと告げられたことでした。そして一週間前、悠介は私にこう言ったのです。朋子の最後の願いは、死ぬ前に花嫁になることであり、彼女がその相手として選んだ新郎が、彼なのだと。

私は、ずっと拒み続けました。しかし彼は毎日のようにその話を繰り返し、「三年前、自分の会社が危機に陥ったときに助けてくれたのは朋子だ。だから彼女の願いを叶えなければならない」と主張するのです。

当時の私は、怒りで我を忘れるほどでした。

けれど最終的に、私は家を諦め、彼のもとを去りました。

チャプター 1

【郁美視点】

「頭、おかしいんじゃないの?」

 私は悠介を睨みつけた。

「私たち、結婚するのよ。私たちの結婚式なのよ。私が半年もかけて準備してきたの」

「わかってるよ、俺たちのだろ。でも、朋子は――」

「駄目」

 私は一歩後ずさった。

「彼女があなたの親友だろうと関係ない。私たちの式を、他人に譲るなんてありえないわ」

「この家があるのは、朋子のおかげなんだぞ!」

 悠介は苛立ちを隠そうともせず、私を見た。

「三年前のあの契約、この土地を買うためのデカい契約だ。あれは全部、朋子の手柄だったんだ。朋子の実家がクライアントでさ。俺が電話で頼み込んだら、翌日にはもう契約成立だ。あの金がなきゃ、俺たちまだ貯金生活だったんだぞ」

「悠介、あの取引は――」

「朋子なんだよ!」

 彼は私の言葉を遮った。

「朋子の家族が一本電話を入れただけで、全部解決したんだ。わからないか? 俺たちは朋子に借りがある。この家も、朋子がくれたようなもんなんだ」

「恩があるからって、結婚式まで差し出さなきゃいけないの!?」

「朋子はもう長くないんだ、郁美! たった一つの願いなんだぞ。お前は自分勝手すぎる。どうしても――」

「自分勝手?」

 私は愕然として声を荒らげた。

「私が三年もかけて、あなたとの生活を築き上げてきたのに? この家をデザインしたのも私。結婚式を計画したのも私。それなのに、罪悪感があるからって、全部他の女に譲れって言うの?」

「形だけでいいんだ。たった一日だ。頼むよ、これだけなんだ」

「嫌。絶対に嫌。これは私たちの結婚式よ。あなたの結婚式でもあるの。彼女のものじゃないわ」

 悠介は呆れたように私を一瞥すると、財布を掴んで出て行った。

 その日から、彼による冷戦が始まった。電話にも出ないし、メールも返ってこない。

 今朝、私は一人でこの家に来ていた。最後の細々とした仕上げをするために。

 かつてリノベーションをしていた頃、私はいつも悠介に意見を求めた。だが、彼の答えは決まって同じだった。「お前はデザイナーだろ。お前がいいと思うようにすればいい。好きにしろよ」と。

 私はそれを信頼だと思っていた。私のセンスを信じてくれているのだと。でも今となっては、単にどうでもよかっただけではないかと疑ってしまう。

 その時、ポケットの中でスマホが震えた。

 取り出してみると、「友人」という表示名からのメール通知だった。

 眉をひそめる。心当たりのないアドレスだ。それでも、私はメールを開いた。

 本文はない。添付ファイルが二つだけ。PDFファイルと、動画ファイルだ。

 まずPDFをタップした。それは出生前診断のレポートだった。妊婦の名前は朋子。受胎日は、朋子が悠介の生活に再び現れた時期と、恐ろしいほど一致していた。

 画面の文字が滲んで見えなくなるまで見つめ続けたあと、私は動画ファイルを再生した。

 手ブレのひどい映像。隠し撮りだ。アングルからして、ホテルのベッドに座る悠介の横顔がはっきりと映っている。画面の外から、女の声がした。

『もし郁美さんが、結婚式を譲るのダメって言ったらどうするの?』

 悠介がため息をつく。

『あいつにはバレないさ。いつも通り、あいつと一緒に計画を進めるフリをする。でも当日、バージンロードを歩くのはお前だ。何が起きたか気づいた時には、もう手遅れだよ』

『本当に気づかないと思う?』

 朋子が笑う。

『あんなに長くかけてデザインした家なのに……知ったら絶望して心が壊れちゃうわよ』

『なんとかなるさ』

 悠介は投げやりに言った。

『朋子、俺が一番苦しかった時、助けてくれたのはお前だ。今度は妊娠したお前を、俺が助ける番だ。郁美のことはうまくやる。あいつは俺から離れられないよ』

『家に部屋を用意するから、妊娠中はそこで暮らせばいい。お前が病気で介護が必要だって言えば、郁美は疑わないさ』

 動画が終わった。

 私は呆然と立ち尽くし、スマホの画面を見つめていた。

 指から力が抜け、スマホが床に滑り落ちる。拾う気にもなれなかった。

 この家。私たちの結婚式。すべてが、私の夢、私の心血、私のすべてだった。それなのに、彼は最初からこれを彼女に与えるつもりだったのだ。この家が私にとってどんな意味を持つか、知っていたはずなのに!

 八歳で母を亡くし、半年後に父が再婚した。継母からはいつも邪魔者扱いされ、親戚の家のソファや空き部屋を転々とする子供時代だった。悠介と付き合い始めてから、自分たちの家を持つことを何度夢見たことか。でも彼は、そんなことすっかり忘れてしまっていたのだ。

 瞳が痛み、瞬きをすると涙が溢れ出した。力が抜け、その場に崩れ落ちる。この事実をどう受け止めればいいのかわからない。その瞬間、ようやく理解した。私の意見なんて彼には何の意味もなく、私への愛なんて塵のようにちっぽけなものだったのだと。

 私は涙を拭い、よろめきながらも立ち上がった。

 彼に直接問い質さなければ。本当に、あの動画のように考えているのかを。これが彼に与える最後のチャンスだ。もし彼が私を選ばないなら……その時は、別れるしかない。

最新チャプター

おすすめ 😍

社長秘書のヒミツ恋情

社長秘書のヒミツ恋情

17.4k 閲覧数 · 連載中 · 元知り
一夜の過ちから、彼女は社長の秘密の恋人になった。
借金を返すため、彼と交わしたのは一通の契約書。
「体だけの関係。恋愛感情は一切なし」——そう決めたはずだったが…
二百兆円の棚ぼた

二百兆円の棚ぼた

3.4k 閲覧数 · 連載中 · 文机硯
配達で生計を立てるダメ男、弓場風太郎は、彼女に裏切られ、御曹司に金で辱められた。

彼が絶望の淵にいるまさにその時、突然、思いもかけない横財、十兆円が舞い込んできた。

そこから、彼は逆転の人生を歩み始め、大富豪への道を邁進していく……
セカンドチャンス 億万長者のパパ

セカンドチャンス 億万長者のパパ

4.1k 閲覧数 · 完結 · Olivia
若いころの私は、醜いと見なされていた。ところが思いがけず、端正な顔立ちで金持ちの若い男と同じベッドにいる自分がいて、私たちは子どもまで授かった。

それから何年も経ち、私は息をのむほどの映画スターへと変貌を遂げた。そして再び、あの裕福な青年と道が交わった。だが――胸が沈んだ。彼は私だと、気づきもしなかった……。
竜王の花嫁

竜王の花嫁

5.5k 閲覧数 · 完結 · AT_Imagination
竜王の花嫁になるって、いったいどういう意味なのだろう?


偉大なるイグナス王国を形づくる七つの村では、毎年欠かさず「選定の儀」が執り行われていた。その儀で村の娘のひとりが選ばれ、恐るべき竜王の花嫁となるのだ。

なぜそんな儀を年ごとに続けるのか、誰にもわからない。これまで選ばれていった花嫁たちが、その後どうなったのかも――。

奴隷にされているのか?

竜の餌にされているのか?

それとも……竜王自身が、彼女たちを喰らっているのか?

それだって否定はできない。王は自分たちとは違う、人ではないのだという噂があるのだから。

それでも、その疑問は執念深く人々の胸を苛んだ。

いったい、花嫁を何に使っているのか――!?

だが、誰も王に問いただそうとはしなかった。逆らうなどという無謀が、どんな運命を呼び込むかが怖かったのだ。

もっとも、そんなことはベラドンナの知ったことではない。今年は彼女の村が花嫁を差し出す番だったが、自分が選ばれるはずがないと彼女は確信していた。

なぜかって?

もちろん、計画があるからだ。そして彼女は、その計画が自分を裏切るはずがないと信じ切っていた……いや、本当にそうだろうか。
捨てられたルナの復讐

捨てられたルナの復讐

11k 閲覧数 · 完結 · Sherry
「ご親切なことで」

「ベラ」イーサンの声音が変わった。わたしが嫌というほど知っている、あの警告めいた刃が混じる。「いまのフェイは不安定なんだ。おまえが彼女を恨むんじゃないか、これで群れが割れるんじゃないかって、怯えてる。彼女がいちばん望んでないのは、この子が俺たちの間に入り込むことだ」

「だったら、そんなことしなければよかった」わたしは真正面から彼の目を捉え、こちらの瞳に張りついた氷を見せつけた。「息子のところへ戻って」

「いい加減にしろよ」彼は苛立ちまぎれに髪をかきむしった。「何度言えば――人工授精だ。俺の精子を使ったのはそうだが、フェイと俺は――」

ベラは冷えきった鼻笑いを漏らした。なんて厚かましい嘘。彼女の伴侶は、兄の番と関係を持ち、家族ぐるみで彼女を何も持たせず追い出した。愛人が「正しい」座に収まるために、道を空けるように。哀れな愚か者――彼は、彼女がただの厄介な養女で、簡単に切り捨てて支配できると思い込んでいた。自分が探し求めていた天才的な技術者が、まさか自分のルナだったとは、ついぞ知らずに。

彼が自らを汚した時点で、ベラの中ですべては終わった。彼女は彼を拒み、奪われたものを取り戻した。何年も密かに彼女を愛してきたヴィクターの助けを得て、頂点へと駆け上がっていく。

イーサンが彼女を取り戻そうとしたとき、こう言った。「俺たちの子どもを、父親なしで育てたいのか」

ベラは嘲るように微笑んだ。「その子の父親は、あなたじゃないわ」
再婚後、クズ元夫が私に土下座した

再婚後、クズ元夫が私に土下座した

51.5k 閲覧数 · 連載中 · ニワハナ
長きにわたって、彼女は半身不随となった夫を献身的に看病し、時に自らの身を危険に晒して治験薬の投与にも協力した。自らの健康を蝕まれながら、夫を死の淵から引き戻したのだ。

しかし、夫がついに自力で立ち上がれるほど回復したその日、彼は初恋の女性を腕に抱き、こう言い放った。
「これからの人生、俺は彼女と、彼女のお腹の子を守っていく」

打ちのめされた彼女が離婚を切り出すと、夫は冷徹に彼女の口座をすべて凍結し、無一文のまま家から追い出し、嘲笑うように吐き捨てた。
「俺がいなければ、お前には何の価値もない」

彼女が妊娠検査薬をそっと隠し持ち、すべてに別れを告げて永遠に立ち去るまで、夫が慌てふためくことはなかった——。
億万長者のシンデレラ

億万長者のシンデレラ

47.3k 閲覧数 · 完結 · Laurie
「キスはしない」彼の声は冷たかった。
そうよね、これはただのビジネスだもの……
でも、彼の触れる手は温かくて……誘惑的で……
「処女なのか?」突然、彼は私を見つめた……

*****

エマ・ウェルズ。卒業を控えた女子大生。継母のジェーンと義姉のアンナから虐待を受け続けてきた彼女の人生で、唯一の希望は王子様のような恋人マシュー・デイビッド。世界一幸せな女性にすると約束してくれた人。

しかし、彼女の世界は完全に崩れ去った。継母が老人から結納金として5万ドルを受け取り、彼女を嫁がせることに同意したのだ。さらに追い打ちをかけるように、愛する恋人が親友のビビアン・ストーンと浮気をしていたことを知る。

土砂降りの雨の中、通りを歩きながら、彼女は絶望の淵に立たされていた……

拳を握りしめ、決意した。売られる運命なら、自分で売り手になってやる。

豪華な車の前に飛び出し、立ち止まる。自分の処女は一体いくらの価値があるのだろう……

*****

デイリー更新
運命のゲーム

運命のゲーム

7.6k 閲覧数 · 完結 · Dripping Creativity
アミーの狼はまだ姿を現していない。でもそれがどうした?彼女には素晴らしいパック、親友たち、そして愛する家族がいる。アルファを含む皆が、彼女はそのままで完璧だと言ってくれる。しかし、運命の相手を見つけた彼女が拒絶されるまでは。心を痛めたアミーは全てから逃げ出し、新しい人生を始める。もうオオカミも、パックも必要ない。

フィンレイが彼女を見つけたとき、彼女は人間の中で暮らしていた。彼は自分の存在を認めようとしない頑固な狼に心を奪われる。彼女は彼の運命の相手ではないかもしれないが、彼は彼女をパックの一員にしたいと思う。潜在的な狼であろうとなかろうと。

アミーは彼女の人生に入り込み、パックの生活に引き戻すアルファの魅力に抗えない。彼女は長い間感じなかった幸せを見つけるだけでなく、ついに彼女の狼も目覚める。フィンレイは彼女の運命の相手ではないが、親友になる。パックの他のトップ狼たちと共に、彼らは最高で最強のパックを作るために働く。

パックの順位を今後10年間決定するパックゲームの時が来ると、アミーは古いパックと向き合わなければならない。10年ぶりに彼女を拒絶した男性を見たとき、彼女が知っていたと思っていたすべてが覆される。アミーとフィンレイは新しい現実に適応し、パックのための道を見つける必要がある。しかし、この予想外の展開は彼らを引き離してしまうのだろうか?
地獄から帰った私を、頂点の男が甘やかすなんて聞いてない

地獄から帰った私を、頂点の男が甘やかすなんて聞いてない

26.3k 閲覧数 · 連載中 · 三日月プリン
「救うのは妹の方だ。お前は強いから、生き残れるだろう」
十八年間、空気のように扱われ、誘拐事件の際にも迷わず切り捨てられた私。
「強さ」という名の言い訳で死の淵に追いやられた私は、地獄の果てで生き延びた。
そして今、全国民が見守る超人気リアリティショーの舞台に、私は「かつての復讐者」として舞い戻る。
家族が偽りの善人面を振りまく中、彼らの仮面を一枚ずつ剥ぎ取っていく最高のショウタイム。
そんな私を面白がり、盤面をひっくり返す男がいた。冷徹なるF1チャンピオン。彼だけは、私の冷酷な正義を肯定し、その権力で私を囲い込む。
さあ、復讐劇の始まりよ。私を「可哀想な犠牲者」だと思っていた報い、その身に刻ませてあげる。
私が去った日

私が去った日

13.7k 閲覧数 · 連載中 · バラへの愛
七年間、私は完璧な妻を演じ続けてきた。

けれど最後に彼が選んだのは、私ではなく、彼の初恋の女性だった。

夫は、私の心を深く傷つけただけではない。あの女が私の大切なジュエリーデザインを盗むことを許し、さらには実の息子までも操って、私を「怪物」だと思わせた。

嘘で塗り固められた結婚生活の中で、私は少しずつ自分を失っていった。

息が詰まるような日々。愛されていると思い込んでいた時間。すべてが偽りだった。

けれど、彼らはひとつだけ間違えた。

私を、もう戻れないところまで追い詰めたこと。

私が去ると決めたあの日。

私は、最低な夫も、母親への感謝を忘れた息子も、そして彼らによって壊された過去の自分も、すべて置き去りにした。

親友の支え。そして、私の本当の価値を見抜き、才能を認めてくれたある若き実業家との出会い。

その温かな手によって、私はもう一度、自分自身を取り戻した。

失った誇りを取り戻し、眠っていた才能を開花させ、世界へ羽ばたくデザイナーとして新たな人生を歩み始めた。

今、私の作品は世界の舞台で輝いている。

一方で、かつて私を捨てた男は、跪いて許しを乞う。

「戻ってきてくれ」と。

けれど、もう遅い。

私が去ったあの日こそが、私が本当の自分を取り戻した日。

もう二度と、過去には戻らない。
長年の結婚生活を終わらせたら、夫と息子が泣きついてきた

長年の結婚生活を終わらせたら、夫と息子が泣きついてきた

13.7k 閲覧数 · 連載中 · 白石 茉鈴​
長年の婚姻生活の中で、夫と息子の目に映る私は、ただの「最大の恥」でしかなかった。

あの女のために、何度も私を置き去りにした二人。そして今回の件で、私はようやく完全に目が覚めた。

彼らは、私の愛を受け取るに値しない。

だから私は、正式に離婚協議書を差し出した。
すると、あろうことかこの二人は、声を揃えてこう言ったのだ。
――本当に深く愛していたのは、私の方だった、と。

ふん、今さら一体、何の真似のつもりかしら。
真の令嬢は万の顔を持つ

真の令嬢は万の顔を持つ

105.7k 閲覧数 · 完結 · 相葉悠衣
吉崎家に「身代わり」として育てられた本物のお嬢様・吉崎直子は、偽物のお嬢様の盗作を暴いた後、逆に追い出されてしまう。周囲の人々は彼女の落ちぶれる姿を嘲笑おうと待ち構えていたが、彼女が数多くの顔を持つことなど誰も知らなかった――国際的ジュエリーデザイナー「Queen」、スポーツの天才プレイヤー「直様」、世界一の女性ハッカー「零(ゼロ)」、神医の後継者……。

傲慢な御曹司・羽島浩介が彼女を救うために骨折し、白石家のお爺さんが彼女を跡継ぎとして認め、林原財閥が彼女の本当の身分を明かした時――なんと、あの見下されていた「田舎者」こそが、真の商業帝国の後継者だったのだ!

そして、かつて高みから見下ろしていた偽物のお嬢様は、盗作しかできない道化に過ぎなかった。

全ての仮面が剥がれ落ちた時、全世界が彼女の足元で震撼する――。