社長の狂おしいほどの愛

社長の狂おしいほどの愛

渡り雨 · 完結 · 21.3k 文字

428
トレンド
1k
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

結婚7周年の記念日、心臓外科医の雪音は、夫である直樹と彼の秘書の不倫現場を目撃してしまう。さらに、亡き両親の交通事故が、実は直樹によって仕組まれた陰謀であったことを知る。

血の滲むような復讐心と裏切りの痛みに苛まれながら、彼女は白川家の力を借りて自らの死を偽装。冷酷な復讐者へと生まれ変わり、医療詐欺を暴き、一族の事業を奪い返すことで、直樹にその罪の代償を払わせる。

最終的に、過去の愛憎から解き放たれた雪音は、新たな人生へと歩み出すのであった。

チャプター 1

 私たちの七回目の結婚記念日のディナーの席で、彼の個人秘書である麗華が身を乗り出し、スペイン語で囁いた。

「妊娠したわ」

 直樹もスペイン語で応じる。

「本当か? 愛しい人よ」

「もちろん本当よ」

 麗華は声に滲む優越感を隠そうともしなかった。テーブルクロスの下で、彼女の指が直樹の太ももの内側をなぞる。

「ジュネーブでの雨の夜を覚えてる? 私にサプライズがあるって言ったじゃない……」

 直樹の瞳が熱を帯びる。

「覚えているよ。あの夜、君が身につけていた黒いレース……」

「やめて、悪い人ね」

 麗華はくすりと笑い、彼の言葉を遮った。

「奥様がすぐそこにいらっしゃるのよ」

「彼女はスペイン語なんて解さないさ」

 直樹は麗華に語り続ける。

「今夜十時、いつもの場所で。この吉報を盛大に祝わないとな」

 手からカトラリーが滑り落ちた。

 突然、胃の底から吐き気がこみ上げてきた。ここ数日続いていた症状――つわり、倦怠感、そして見て見ぬふりをしてきた兆候の数々。

 直樹は即座に意識を引き戻し、その表情を一瞬にして「献身的な夫」のモードへと切り替える。

 彼は身を屈めて私の食器を拾い上げた。

「ハニー、どうしたんだい?」

 ついさっきまで愛人と子供の話をしていたくせに、今は優しく私の手を握っている。この継ぎ目のない変貌ぶりに、反吐が出そうだった。

 私は手を振り払った。

「二人で何を話していたの?」

「スペインでの治験のトラブルだよ」

 彼の視線が揺らいだ。

「些細なことさ。君に心配をかけたくなくてね」

 直樹は知らない。私が幼い頃からスペイン語を学んでいたことを。私の祖父、白川源次郎はヨーロッパ最大の医療帝国を支配しており、一族の子女には幼少期から少なくとも五ヶ国語の習得を義務付けていたのだ。

 スペイン語――すべて、一言一句理解できていた。

『面と向かって言われる言葉より、陰で言われる言葉の方が重要であることが多い』

 祖父の言葉が脳裏に響く。

『その言葉を理解できるようになりなさい。そうすれば、己の身を守ることができる』

 私はナイフとフォークを置いた。

「お二人で続けて。バルコニーで少し風に当たってくるわ」

 直樹は反射的に立ち上がろうとしたが、麗華が突然小さく咳き込み、胸に手を当てて呼吸が苦しいふりをした。

「少し気分が優れないの……」

 彼女はスペイン語で言った。

 直樹の動きがぴたりと止まり、心配そうに彼女を見やる。

「一緒に行こうか?」

 彼は私に尋ねたが、その視線はすでに麗華の方へと流れていた。

「いいえ、結構よ」

 私は踵を返し、人混みの中を歩き出した。黒木メディカルグループのCEOである直樹は今夜の注目の的だが、心臓外科医長である私は、誰の目にも永遠にただの「黒木夫人」としてしか映らない。

 道すがら、人々が次々とグラスを掲げてくる。

「黒木夫人は本当にお幸せですね」

「直樹さんのような旦那様は稀有ですよ。黒木メディカルの成功したCEOであり、有能で、献身的だ」

 その一言一言が、ナイフのように私の心を抉った。

 この「献身的な」夫が、私の目の前で愛人との子供の名付けについて話し合っていたと知っても、彼らは同じことを言えるのだろうか?

 先月、私が直樹の書斎で予備のスマートフォンを見つけたことなど、誰も知らない。パスワードは私の両親の命日だった――かつて彼は私を抱きしめ、こう言ったものだ。

『雪音、これからは僕が彼らの代わりに君を守るよ。僕の命が尽きるまで』

 そのスマホの中の動画は、日付順に几帳面に整理されていた。

 映っていたのは、オフィスのソファに半裸で横たわる麗華の姿。情事の余韻で頬を紅潮させ、彼女はカメラに向かって微笑んでいた。

「奥様、愛妻弁当を持って下であなたを待っていたわよ。まるでご主人様の帰りを待つ子犬みたいにね。可哀想に、私たちが上で何をしているかも知らないで」

 最も心を打ち砕いたのは、最後の動画だった。

 直樹が後ろから彼女を抱きしめ、肩に顎を乗せていた。

「彼女の話はやめよう。彼女はただの……完璧なカモフラージュさ。僕を善人だと思わせるための道具に過ぎない」

 つまり、彼のためにシャツにアイロンをかけ、すべての記念日を覚え、深夜の帰宅を灯りを点けて待っていたあの日々は――彼にとって、私はただの道具だったのだ。

 彼を立派に見せるための、ただの装飾品。

 怒りで手が震え、胸が強打されたように痛んだ。

 その夜、私はスマホを元の場所へ正確に戻し、白川家のネットワークに接触を開始した。

 祖父が私に残してくれたのは富だけではない。世界中に広がる防護ネットワークをも残してくれていたのだ。

 バルコニーのガラス戸を押し開ける。バッグの中で携帯電話が震えた。

 暗号化されたメッセージだ。

『新しい身分の準備完了。フライトは明日の午後三時。完全なる失踪を実行しますか?』

『実行する。痕跡は残さないで』

『実行後、黒木雪音は法的に存在しなくなります。もし黒木氏が調査を行った場合――』

『彼は調べないわ』

 私は素早く返信した。

『パパになる準備で忙しいもの。それに、道具なんて失くしても代わりがきくでしょう?』

 送信完了の表示が点滅し、消えた。

 その時、背後から聞き覚えのある足音が近づいてきた。

「誰にメールしてるんだ?」

最新チャプター

おすすめ 😍

令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

618.5k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
天才陰陽師だった御影星奈は、かつて恋愛脳のどん底に落ち、愛する男のために七年もの間、辱めに耐え続けてきた。しかしついに、ある日はっと我に返る。
「瀬央千弥、離婚して」
周りの連中はこぞって彼女を嘲笑った。あの瀬央様がいなくなったら、御影星奈は惨めな人生を送るに決まっていると。
ところが実際は――
財閥の名家がこぞって彼女を賓客として招き入れ、トップ俳優や女優が熱狂的なファンに。さらに四人の、並々ならぬ経歴を持つ兄弟子たちまで現れて……。
実家の御影家は後悔し、養女を追い出してまで彼女を迎え入れようとする。
そして元夫も、悔恨の表情で彼女を見つめ、「許してくれ」と懇願してきた。
御影星奈は少し眉を上げ、冷笑いを浮かべて言った。
「今の私に、あなたたちが手が届くと思う?」
――もう、私とあなたたちは釣り合わないのよ!
妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

357.3k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
鈴木七海は、中村健に好きな人がいることをずっと知っていた。それでも、彼との結婚を選んだ。
しかし、結婚して5年後、彼は離婚を切り出した。その時初めて、彼の想い人が私の父の隠し子(私の異母兄弟)だと知った。
離婚を決意した七海だったが、その時にまさかの妊娠が判明した。
偽物令嬢のはずが、実家はまさかの兆円財閥!

偽物令嬢のはずが、実家はまさかの兆円財閥!

169.5k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
中島夏美は中島家で十八年間お嬢様として過ごしてきた。聡明で向学心に富み、W市の令嬢の鑑として、中島家の名声を大いに高めた。
しかし、成人を迎える矢先に、自分が両親の実の娘ではないと告げられた。
生まれた時に、取り違えられていたのだ!
中島家はすぐに実の娘、中島結子を探し出した。
中島結子は表向きはか弱く善良だが、裏ではことあるごとに彼女を陥れた。
 例えば今回、中島夏美が水に落ちたのも中島結子が仕組んだことだった。
前の人生では、彼女は本当に中島結子が過失でやったのだと信じ、あっさりと許してしまった。
まさか、中島結子がその後、ますますエスカレートしていくとは。
中島夏美が持っていたすべて――家族、友人、仕事、チャンス。
彼女はそれを破壊し、奪い取ろうとした!
不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

100.3k 閲覧数 · 連載中 · 七海
人生最良の日になるはずだった、結婚式当日。
新郎の車から出てきたのは、見知らぬ女の派手なレースの下着だった。

しかも、その布切れにはまだ。生々しい情事の痕跡が残されていた。

吐き気がするほどの裏切り。
幸せの絶頂から地獄へと突き落とされた私。

けれど、泣き寝入りなんてしてやらない。
私はその場でウェディングドレスの裾を翻し、決意した。

「こんな汚らわしい男は捨ててやる」

私が選んだ次の相手は、彼など足元にも及ばない世界的な億万長者で?
天使な双子の恋のキューピッド

天使な双子の恋のキューピッド

89.5k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
妊娠中の私を裏切った夫。不倫相手の策略に陥れられ、夫からの信頼も失い、耐え難い屈辱を味わった日々...。

しかし、私は決して諦めなかった。離婚を決意し、シングルマザーとして懸命に子育てをしながら、自分の道を切り開いていった。そして今や、誰もが認める成功者となった。

そんな時、かつての夫が後悔の涙とともに現れ、復縁を懇願してきた。

私の答えはただ一言。
「消えなさい」
溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

214.1k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
原口家に取り違えられた本物のお嬢様・原田麻友は、ようやく本家の原田家に戻された。
──が、彼女は社交界に背を向け、「配信者」として自由気ままに活動を始める。
江城市の上流社会はこぞって彼女の失敗を待ち構えていた。
だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
代わりに、次々と大物たちが彼女の配信に押しかけてくるのだった。
「マスター、俺の命を救ってくれ!」──某財閥の若社長
「マスター、厄介な女運を断ち切って!」──人気俳優
「マスター、研究所の風水を見てほしい!」──天才科学者
そして、ひときわ怪しい声が囁く。
「……まゆ、俺の嫁だろ? ギュってさせろ。」
視聴者たち:「なんであの人だけ扱いが違うの!?」
原田麻友:「……私も知りたいわ。」
不倫修羅場の翌日、財閥の御曹司とスピード婚!?

不倫修羅場の翌日、財閥の御曹司とスピード婚!?

110.4k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
田中唯はドアの外に立ち、部屋の中から聞こえてくる淫らな声に、怒りで全身をわなわなと震わせていた!
ここは彼女の新居。彼女と高橋雄大の新居になるはずの場所だ。
部屋の中にある調度品は一つ一つ彼女が心を込めて選び抜き、その配置も隅々まで熟考を重ねて決めたものだった。
中にある新婚用のベッドは、昨日届いたばかり。
明日は、二人の結婚式だ。
それなのに今日、彼女の婚約者はその新婚用のベッドの上で、別の女と情熱的に絡み合っている!
「俺と結婚しろ」
背後の男が突然口を開き、驚くべきことを言った!
「俺の姓は鈴木。鈴木晶だ」男は自己紹介を終えると、言った。「明日の結婚式、俺と高橋雄大、どっちを選ぶ?」
田中唯は心の中で、どちらも選びたくないと叫んだ。
だが、それは不可能だと分かっている。
明日の結婚式は予定通り行わなければならない。キャンセルすれば祖母が心配する。自分にわがままを言う資格はない。
「あなたを選びます」
社長、奥様が亡くなりました。ご愁傷様です

社長、奥様が亡くなりました。ご愁傷様です

163.1k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
お金と特権に囲まれて育った私。完璧な人生に疑問を持つことすらなかった。

そんな私の前に彼が現れた―
聡明で、私を守ってくれる、献身的な男性として。

しかし、私は知らなかった。
私たちの出会いは決して偶然ではなかったことを。
彼の笑顔も、仕草も、共に過ごした一瞬一瞬が、
全て父への復讐のために緻密に計画されていたことを。

「こんな結末になるはずじゃなかった。お前が諦めたんだ。
離婚は法的な別れに過ぎない。この先、他の男と生きることは許さない」

あの夜のことを思い出す。
冷水を浴びせられた後、彼は私に去りたいかと尋ねた。
「覚えているか?お前は言ったんだ―『死以外に、私たちを引き離せるものはない』とね」

薄暗い光の中、影を落とした彼の顔を見つめながら、
私は現実感を失いかけていた。
「もし...私が本当に死んでしまったら?」
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

254.1k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
社長、突然の三つ子ができました!

社長、突然の三つ子ができました!

79.9k 閲覧数 · 連載中 · キノコ屋
五年前、私は継姉に薬を盛られた。学費に迫られ、私は全てを飲み込んだ。彼の熱い息が耳元に触れ、荒い指先が腿を撫でるたび、震えるような快感が走った。

あの忌まわしい夜から逃げるように去った私だったが、ほどなくして三つ子を妊娠していることに気付く。

五年後、医療界の新星として戻ってきた私は、継母、継姉、実の父へ全ての仕返しを誓う。

その時、彼が現れた。三人の小さな自分そっくりの顔をじっと見つめながら、優しく「パパ」と呼ぶよう子供たちを誘う彼。

ふとシャツのボタンを外し、悪戯っぽく笑って言った――

「どうだい、あの夜の熱をもう一度味わってみないか?」
不倫が発覚した日、御曹司が私を連れて婚姻届を出しに行った

不倫が発覚した日、御曹司が私を連れて婚姻届を出しに行った

75.7k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
結婚式を目前に控えた前日、彼女は婚約者が二人の新居で浮気をしているところを発見した。恥辱と怒りに震えながら、彼女は衝動的な決断を下した。唯一、裏切り者の正体を暴いてくれた男性——たった一度しか会ったことのない男性と結婚することを選んだのだ。しかし、新たな夫が夫婦の義務を求めるとは、彼女は夢にも思っていなかった。

彼の熱い唇が彼女の肌を這うと、低く磁性のある声が響いた。「大人しくしていろ。すぐに終わるから」
億万長者の夫との甘い恋

億万長者の夫との甘い恋

72.6k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
長年の沈黙を破り、彼女が突然カムバックを発表し、ファンたちは感動の涙を流した。

あるインタビューで、彼女は独身だと主張し、大きな波紋を呼んだ。

彼女の離婚のニュースがトレンド検索で急上昇した。

誰もが、あの男が冷酷な戦略家だということを知っている。

みんなが彼が彼女をズタズタにするだろうと思っていた矢先、新規アカウントが彼女の個人アカウントにコメントを残した:「今夜は帰って叩かれるのを待っていなさい?」