離婚は終章ではない

離婚は終章ではない

大宮西幸 · 完結 · 31.3k 文字

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紹介

裕福な家への結婚が夢の実現だと思っていた――上品な装いの女性が私の結婚式に現れるまでは。

彼女は祝杯を掲げ、微笑みながら衝撃的な秘密を明かした。足下にあるこの数億円の豪邸も、身に纏うこのオーダーメイドのドレスも、隣に立つこの完璧な夫でさえも――全ての細部が、彼女自身の手で描いた「設計図」通りに作り上げられたものだったのだ。

そして私は、彼女の幻想を生きる代理の花嫁に過ぎなかった。

私の涙と必死の問いかけに返ってきたのは、夫の冷たい無関心と暴力的な突き飛ばしだけ。「二人の愛」を象徴する階段から転げ落ち、私たちの子供を失った時、彼は振り返りもしなかった。

いいでしょう。この結婚が最初から偽りだったなら、今度は私がルールを書き換える番。

離婚は決して終わりを意味するものではない――特に復讐の脚本がまだ一ページ目をめくったばかりなのだから。

チャプター 1

 やった。ついにやり遂げたんだ。

 星野市の崖の上に建つ邸宅。その庭にある花のアーチの下に立ち、婚約者の九条諒哉の手を握りしめながら、私はまるで夢の中にいるような気分に浸っていた。

 午後の日差しを浴びて白薔薇がきらめき、海風が頬を優しく撫でる。美しく着飾った百人ものゲストたちが、承認の笑みを私たちに向けてくれていた。

 この三百万円のオーダーメイドのウェディングドレスは、妊娠五ヶ月のお腹を完璧に隠してくれている。わずか八ヶ月前、青葉市の狭苦しいアパートにいた私が、今やこの星野市の豪華な邸宅にいるなんて。私はついに、夢見ていたすべてを手に入れたのだ。

 参列席にいる両親に目を向けると、二人ともすでに涙を流していた。

「これを見てみろよ、美咲は本当にやったんだな」父の長谷川健一が震える声で母に話しかけている。「この屋敷、この人たち……俺の人生で、こんなに豪華な光景は見たことがないよ」

 母の長谷川真理子が、父の手を強く握り返す。「美咲にはこれだけの価値があるのよ。あの子は才能があるし、本当に頑張り屋なんだから」

 その言葉に、思わずその場で涙が溢れそうになった。そう、私にはその価値がある。

 私は長谷川美咲。青葉市の田舎出身で、才能と努力だけでここまで這い上がってきた。インテリアデザイナーとして成功しただけでなく、星野市でも指折りの不動産開発業者と結婚するのだから。

 おとぎ話に出てくるようなこの美しい邸宅は、もうすぐ私の家になる。

 周囲のゲストたちが、称賛の声を囁き合っている。

「九条さん、本当に美人を見つけたな」

「彼女、インテリアデザイナーらしいわよ。すごく才能があるんだって」

「映画のワンシーンみたい、完璧なカップルね」

 その言葉を聞くたび、私の胸は誇らしさでいっぱいになった。

 神父が咳ばらいを一つすると、その声は海風に乗って遠くまで響き渡った。「九条諒哉さん、あなたは長谷川美咲さんを妻として迎え、順境にあっても逆境にあっても、健康なときも病気のときも、生涯にわたって愛し支え合うことを誓いますか?」

「誓います」

 諒哉の声は力強く、愛に満ちていた。その青い瞳は、まるで私が世界のすべてであるかのように私を見つめている。

 心臓が早鐘を打っていた。これこそが、私が夢見てきたすべて。これでようやく、両親も私を誇りに思ってくれる。

「長谷川美咲さん、あなたは――」

「待って」

 参列者席の後方から、冷たく澄んだ女性の声が突然響き渡り、神聖な式を遮った。私の体は瞬時に強張り、嫌な予感が全身を駆け巡る。

 全員が振り返り、私も視線を向けた。そこには白いワンピースを身にまとい、芝生の上を優雅に歩いてくる一人の女性がいた。その一歩一歩からは、まるでここが自分の舞台であるかのような自信が溢れ出ている。

 心臓が締め付けられる。本能が危険を告げていた。その女性は美しかった――息を呑むほどに。だが、私を何よりも怯えさせたのは、彼女が醸し出す圧倒的な支配感だった。まるで、この場にいるすべての人が彼女のものであるかのような……。

 私は無意識にウェディングドレスの裾を撫でつけた。突然、自分が詐欺師になったような気分に襲われる。

「絵里?」諒哉の声には、明らかな動揺とパニックが混じっていた。「な……何しにここへ?」

 絵里? 諒哉の口からそんな名前は一度も聞いたことがない。だが、その呼び方……そこに含まれる親密さと慣れ親しんだ響きが、私を恐怖で満たした。

 絵里は私たちの元へと歩み寄ると、手に持ったシャンパングラスを掲げ、ゲスト全員に向けて完璧な笑みを浮かべた。「幸せなお二人に、乾杯させていただきますわ」

 彼女は諒哉に向き直ると、その瞳に複雑な感情を宿して言った。「おめでとう、諒哉。私が設計した家でお二人が暮らすのを見られるなんて……本当に感動的だわ」

 まさか、そんなはずはない。

 私は信じられずに首を振った。「 どういうこと? 何を言っているの?」私の声は震えていた。頭の中で、耳にした言葉を必死に否定しようとする。

 絵里は優雅にシャンパンを一口啜ると、骨の髄まで凍りつくような笑みを私に向けて言った。

「長谷川さん、あなたの旦那様のために私が作ったこの『未来の我が家』、気に入ってくれるといいのだけれど」

 彼女は小さく笑った。「建築デザインからインテリア、庭のレイアウト、そして今日の結婚式のプランニングまで……すべて私がプロデュースさせていただいたの。いかがでしたでしょうか?」

 な、なんですって……!?

 私は、心を奪われたこの邸宅を、涙が出るほど感動したこの完璧な結婚式を見回した。これらすべてが、別の女が作り出したものだというの?

 世界がぐらりと傾いた気がした。まるで宇宙全体が、私の浅はかさを嘲笑っているかのようだった。

 参列席が騒然となり始めた。

「あの女、誰なんだ?」

「彼女のデザインってどういうことだ?」

「諒哉、これはいったいどういうことなんだ?」

「絵里、飲みすぎだぞ」諒哉の声は硬く張り詰めており、額には脂汗が滲んでいるのが見えた。「ここはそんな話をする場所じゃない」

 彼は彼女を庇っている。私の夫が、別の女を守ろうとしているのだ。

「飲みすぎ、だって?」絵里は突然ふらつき、本当に酔っているかのように見えた。「そうかもね……来るべきじゃなかったわ……」彼女の声は震え始め、その瞳には涙が光っていた。「ただ、かつて私たちが一緒に描いた未来を、誰が歩んでいるのか見たかっただけなの」

 私たちが一緒に描いた未来? 心臓を無残にえぐり取られたような気がした。

 その瞬間、諒哉の表情が一変するのを私は見た。彼は迷うことなく絵里の方へと歩み寄ると、手を伸ばしてよろめく彼女の体を支えたのだ。

 私たちの結婚式で、大勢の人が見ている前で、彼は別の女を選んだ。

 激しい怒りが全身を駆け巡った。叫び出し、説明を求め、この偽りのウェディングドレスを引き裂いてやりたかった。だが、体が動かない。

「美咲、この状態で彼女に運転させるわけにはいかない」彼は私の方を見ようともせずに言った。「俺がホテルまで送ってくる。お前はとりあえずゲストの対応をしていてくれ」

「諒哉!」私の声は必死だった。「結婚式を放り出して行くなんて――」

 だが言い終わる前に、諒哉はすでに絵里を支えながら早足で立ち去っていた。花のアーチの下、膝の力が抜け、立っているのがやっとの状態の私一人を残して。私は下唇を強く噛みしめ、皆の前で崩れ落ちないよう必死に耐えた。

「な……何が起きているんだ?」父が愕然として立ち上がった。「美咲、あの女は誰なんだ?」

 母はすでに泣き崩れていた。「あの子が……かわいそうな私の娘が……」

 ゲストたちのざわめきは大きくなり、その言葉の一つひとつがナイフのように私に突き刺さった。

「新郎が結婚式で花嫁を置き去りにするなんて、どういう状況だ?」

「あの絵里って女、ただ者じゃないぞ。九条さんのあのかばい方を見ただろう」

「なんてこと、恥ずかしすぎるわ。もしあれが私の娘だったら、すぐに連れて帰るのに」

 妊娠五ヶ月の体で、私はただ一人そこに立ち尽くしていた。皆の視線に晒されながら、私のすべての夢が詰まっていたはずのこの邸宅を、初めて「本当の意味」で見た気がした。

 結局のところ、私はずっと誰か別の人のラブストーリーの中で生きていただけだったのだ。

 海風は刺すように冷たくなり、日差しは陰ったように感じられた。私はそっとお腹に手を当てた。恐ろしい考えが脳裏をよぎる。もしこの結婚式さえも絵里のデザインだとしたら、諒哉が私に向けてくれた愛のうち、どれだけが本物だったのだろう?

 諒哉が絵里と共に消えていった方向を見つめ、ついに涙が溢れ出した。そして、あの二人が描いた未来には、どんな秘密が隠されているというのだろう?

 人生で最も美しい日になるはずだったこの日は、最大の悪夢へと変わってしまった。私、長谷川美咲は、妊娠中の花嫁でありながら、大勢の人の前で夫に捨てられたのだ。

 この美しさのすべては、最初から私のものではなかったのだろうか?

 それとも私は最初から、他人のラブストーリーにおける、ただの「代役」に過ぎなかったのだろうか?

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