アクセル全開の恋愛

アクセル全開の恋愛

大宮西幸 · 完結 · 28.7k 文字

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紹介

「結婚することになったの。彼の名前は健ちゃん。」元彼の青村翔太の侮辱に直面し、三浦理恵は偽の婚約者の名前を思わず口走る。

次の瞬間、伝説的なレーサー、松山健一が実際に現れる。
「私の名前は松山健一。友達からは健ちゃんと呼ばれている。」

青村翔太の顔は一瞬にして青ざめる。

そして松山健一が青村翔太の頭にワインを公然と注ぐまで—
「私の妻は完璧に意思表示した。君はチャンスがあったのに、それを捨てたんだ。」

そして皆が彼女が実は一流のF1テスト専門家だと知るまで—
青村翔太は完全に言葉を失う。

チャプター 1

 レーシングカーから降りると、東海地方特有の熱気が壁のように私を襲った。競走服はまだ汗で湿っている。エンジンの轟音は消え、代わりにトラックの周りに集まったチームメンバーたちからのまばらな拍手だけが聞こえた。

「理恵、このラップタイムは凄いだ!先月の記録より三秒も速い!」チームリーダーの一郎さんが、タイミングシートを振りながら飛び跳ねんばかりに喜んでいる。「私たちが設定した比較評価の基準を全部、粉々に打ち砕いたぞ」

 私はヘルメットを脱ぎ、髪をばさりと下ろした。

「これだ。すべてが変わる瞬間だ」

 アドレナリンがまだ血管を駆け巡り、手が微かに震えている。何ヶ月も地道な技術テストを繰り返し、何度も何度も自分を証明してきて、ついに壁を打ち破ったのだ。

「火曜の午後にしては、悪くない結果ね」私は笑みを抑えようとしながら言った。

 でも、誇らしかった。この業界で、ほんのわずかな尊敬でも勝ち取るために戦ってきた三年。今日、私は彼ら全員に自分の本当の実力を見せつけたのだ。

 その時、背後からわざとらしい、ゆっくりとした拍手が聞こえた。

「見事だな」誰かの声が、私の最高の瞬間を刃物のように切り裂いた。「実に大したものだ……まあ、なんだ。女性ドライバーには限界があるが、これは悪くなかった」

 チームメンバーたちが静まり返る。一郎さんは居心地悪そうに身じろぎし、急にクリップボードに強い関心を示し始めた。

 振り返ると、そこに彼がいた——自動車レース界の寵児青村翔太が、まるでこのトラック全体が自分のものであるかのような態度で立っていた。

「青村さん」私は平静を装って言った。「私たちの質素なテスト施設に何の用?」

 彼は肩をすくめ、彼らしい余裕のある笑みを唇に浮かべた。「ライバルの様子を少し見に来ただけさ。もっとも、女性の競技ドライバーがこの世界でどこまでやれるかなんて、たかが知れてるがな」

 三年。あの最悪な別れから、もう三年も経つのに、こいつはまだこんなことを……

「実は」私の返事を遮り、青村翔太の声がトラックに響き渡った。「みんながここにいることだし、素晴らしいニュースを共有したいと思う」

 背筋に冷たいものが走った。

「みんな、集まってくれ!」彼はチームミーティングでも招集するかのように手を叩いた。「これは全員に聞いてもらいたいことなんだ」

 チームメンバーたちは渋々、ゆるい輪を作った。私がまだ息を整えていると、橋田美結が機材テントからマイクを手にこちらへ歩いてくるのが見えた。

 待って。美結がもうここに?

 青村翔太のそばへ向かう彼女の姿を見て、胃がずしりと重くなった。その立ち居振る舞いにはどこか違和感がある――さりげなさを必死で装っているような。

 橋田美結が隣に立つと、青村翔太の笑みがさらに広がった。「美結が、俺の妻になることを承諾してくれた」

 一瞬、聞き間違えたかと思った。美結?私の、美結が?寮の部屋で一緒に面接の練習をしたり、青村翔太が私をどんな風に扱ったか正確に知っていた、あの彼女が?

 私は彼女を見つめ、オチを待った。彼女が笑い出して、青村翔太にバカなこと言わないでとたしなめるのを。しかし彼女は、私の血の気が引くような目で私を見返した。

「おめでとう」自分の声が水の中から聞こえてくるようだったが、そう言っているのが聞こえた。

 美結はすっと背筋を伸ばすと、突然プロのモードに切り替わり、何事もなかったかのように私たちの間にマイクを掲げた。

「実を言いますと理恵さん、今日はテレビ東海スポーツとして来ておりますので」仮面をかぶるように、あのレポーターらしい明るい笑顔を顔に貼り付けながら彼女は言った。「視聴者の皆さんも、理恵さんの近況についてぜひお聞きしたいと思うのですが。何か最近、劇的な進展はありましたか?」

 信じられない神経だ。私の元カレとの婚約を発表した直後に、まるで他人行儀にインタビューしようだなんて。

 でも、いいだろう。そのゲーム、受けて立つ。

「ええ、実は」私はカメラをまっすぐ見つめて言った。「来月、結婚するんです。婚約者と、ついに正式に籍を入れることになりました」

 青村翔太の自信に満ちた表情に、一瞬ひびが入った。橋田美結のプロの笑顔が揺らいだ。

「それは……素晴らしいニュースですね」橋田美結はわずかに強張った声でどうにか言った。「視聴者の皆さんも、その謎の男性について、もっと知りたいことでしょう」

 青村翔太がフンと短く笑った。「おいおい、理恵。本気か?結婚だなんて」彼は同情を装って首を振る。「だって、あの後だぞ。一体どんな男がお前みたいな女を――」

「翔太」橋田美結の声には警告の色が滲んでいたが、彼の勢いはもう止まらなかった。

「いや、本気で言ってるんだ。一体どんな切羽詰まった男が――」

「私みたいな女と結婚するって?」私は、氷のように冷たい声で彼の言葉を継いだ。

 青村翔太の笑みが深まる。「お前が言ったんだぞ。俺じゃない」

 その瞬間、私の中で何かがぷつりと切れた。何ヶ月も黙り続け、頭を下げ、周りが私について好き勝手なことを考えるのを許してきた。――ふざけるな。

「ケンちゃん」私は、トラック中に響き渡る声で言った。「それが彼の名前です。彼もレース関係者ですよ」

 青村翔太の自信に満ちた表情が、ほんの一瞬だけ揺らいだ。「健ちゃん?まさか……海外で有名な松山健一か?」

「そのまさかよ」

 一瞬、青村翔太は混乱した顔をしたが、やがて合点がいったように、その顔からすっと血の気が引いていくのがわかった。

 彼はすぐに立ち直り、その笑みは意地の悪いものに変わった。「謎といえば、あの三千万は役に立ってるか、理恵?お前が派手にやらかした時の、あのちっぽけな……示談金でまだ食いつないでるのか?」

 顔にカッと血が上った。示談金。三年前、本当に何があったのかを黙っているために渡された金。ここにいる誰もが、私が罪を認めたから受け取ったのだと思っているのだろう。

 橋田美結は自分の靴を見つめている。やはり弁護はしない。否定もしない。

「なあ、知ってるか?」青村翔太の声には偽りの気遣いが滲んでいた。「美結は本当にいい友達だよ。お前がどうしてるか、逐一俺に報告してくれてたんだ。どんな些細なテストも、どんな小さな成功もな」彼は言葉を切り、その意味が染み渡るのを待った。「コーヒーを飲みながらだと、人はいろんなことを話してくれるもんだよな?」

 胃がずしりと重くなった。彼女と交わしたすべての会話。仕事の愚痴やプレッシャーについて打ち明けた、そのすべてを。彼女は彼に報告していたのだ。

「私のこと、探ってたのね」感情のこもらない、平坦な声が出た。

 橋田美結がようやく顔を上げたが、その瞳に謝罪の色はなかった。「私はジャーナリストよ、理恵。情報を常に把握しておくのが私の仕事なの」

 青村翔太が、鋭く残酷な笑い声を上げた。「いいか、一度ふるい落とされた人間は、二度と這い上がれない。本当に重要な局面で、プレッシャーに耐えられない奴もいるってことさ」

 その時、松山健一がこちらへ歩いてくるのが見えた。

 効果はてきめんだった。青村翔太は話の途中で口を噤み、橋田美結は実際に一歩後ずさった。一郎さんでさえ、クリップボードを見ているふりをやめた。

「青村さん」彼の声は穏やかだったが、なぜかすべての言葉に重みを与えていた。「ここは仕事場です」

提案ではない。断言だ。

 青村翔太の態度は一変し、その声はわざとらしい熱意を帯びたものになった。「松山さん!お会いできて光栄です。こんな東海の片隅に、どういったご用件で?」

「仕事です」松山健一は簡潔に答え、その黒い瞳で目の前の光景を捉えた――橋田美結の肩に回された青村翔太の腕、彼女のマイク、そして私の明らかな動揺を。

 青村翔太は好機と見たのか、笑みを深めた。「実は、ちょうどいいタイミングでした。きっと面白がってくれますよ」彼は私を指差し、まるで余興のように言った。「そこの三浦理恵が、結婚すると発表したんですよ。相手がどこの哀れな男かも教えてくれない。ただ、『健ちゃん』とかいう名前だそうで」彼は嘲りを込めた声で言った。「そいつもレース関係者だと主張してるんです」

 松山健一の表情は変わらなかったが、その声にはぞっとするような静けさが宿った。「健ちゃん……ですか」

 青村翔太はまだ、何も気づかずにニヤニヤしていた。「ああ、たぶん、どっかの無名のメカニックか何かでしょう。正直な話、あのスキャンダルの後で、まともなレーサーが相手にするわけ――」

「私の名前は」松山健一は、一言一言を正確に、鋭く言った。「松山健一だ。だが、友人たちは私を健ちゃんと呼ぶ」

 その後に続いた沈黙は、耳が痛いほどだった。青村翔太は、すっかり静まり返っていた。

 二十分後、私は松山健一と駐車場を横切って歩きながら、まだ彼の告白の衝撃から立ち直れずにいた。

「ありがとう」私はようやく口を開いた。「さっきは、助けてくれて」

 松山健一は歩調を緩め、ポケットに両手を入れた。「私たちは結婚する仲だ。直接そう言えばよかった」

 私はすぐには答えなかった。六ヶ月前に合意した契約結婚が、急に……複雑なものに感じられた。

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