極品の入り婿

H市私立病院の廊下、人々が行き交う。

水原空は弁当箱を手に、妻の柳田美咲に昼食を届けに来ていた。

柳田美咲はH市病院の外来診療部の医師であり、同時に一流の美女でもあった。

国内有名の医学部を卒業した正真正銘の秀才で、しかも抜群のスタイルを持ち、前に突き出た胸と後ろに張り出したヒップは極上品と言われ、これまで多くの男たちに密かに垂涎されてきた。

バン！

突然、曲がり角で水原空はある女性と正面からぶつかった。

「あら？水原空、なんでアンタがここに？」

水原空の胸にぶつかった女性は看護師の制服を着た二十歳そこそこの、容姿はごく普通の女性だった。水原空だと分かると、明らかに眉をひそめ、非常に嫌そうな表情を浮かべた。

水原空はこの看護師の体型をちらりと見た。顔立ちと同様、特に変わったところのない平凡なものだった。

こんな特徴を持ち、しかも彼をこれほど嫌っている人物は、妻の従妹である佐藤明美以外にいるだろうか？

「妻に昼食を届けに来たんだ」

水原空は冷ややかな目で佐藤明美に一言返した。

佐藤明美は即座に軽蔑した口調で言った。「水原空、アンタみたいな無能な男、さっさと従姉から離れた方がいいわよ！従姉みたいな極上の美女は、アンタみたいな無能が手に入れられるような相手じゃないんだから！」

水原空は彼女を一瞥し、無表情で言った。「それで？...」

まるで相手の言葉に何の殺傷力もないかのようだった。

水原空のこの態度を見て、佐藤明美の胸の内に怒りが湧き上がった。

「水原空、やっぱりアンタって無能ね！殴られても殴り返さない、罵られても言い返さない、ただの役立たずじゃない！」

「アンタみたいな無能が、従姉の旦那様を名乗る資格があるの？」

「言っておくけど、従姉に相応しい人なんていくらでもいるのよ！お金持ちの坊ちゃんたちはおいといても、外来診療部の平原医長だけでも、アンタとは比較にならないわ！」

「しかも、平原医長が車で従姉を送っているところ、もう何回も見たんだから！」

「覚悟しておきなさい。いくらアンタが厚かましく従姉にまとわりついても、全く無駄なことよ。従姉はいずれアンタを柳田家から追い出すわ！」

言い終えると、佐藤明美は鼻を鳴らし、肩で水原空を押しのけると、怒って立ち去った。

彼女が去った後、

近くにいた病院スタッフたちも、あれこれと噂し始めた。

「ちっ、誰かと思ったら、水原空っていう無能か！妻は他の男に取られそうなのに、毎日ここに飯を届けに来るなんて！」

「シーッ、声が小さいぞ。彼に聞こえたら、怒るかもしれないだろ？」

「ハハハハ...水原空のような完全な無能が、俺に逆らうなんて、俺が一蹴りすれば向こうの道路まで吹っ飛ぶぜ！」

彼らは大げさに噂し合い、声を隠そうともせず、明らかに水原空に聞こえるように言っていた。

しかし水原空は相変わらず無表情のままだった。

まるでこれらの耳障りな言葉が彼にとって、まったく取るに足らないもののようだった。

理由は単純で、水原空はすでに麻痺していたのだ。

いわゆる修行を完了し、自分の封印を解くため、彼は家族の奇妙な規則を受け入れざるを得ず、常に自分を偽装し、名実ともに無能な婿養子となっていた。

今に至るまで、彼はまだ自分の妻に触れたことすらなかった！

そして柳田美咲も彼を一度もまともに見たことがなく、彼を無能者として扱っていた。

いつでも言い争いになれば、彼を柳田家から追い出そうという構えすらあった！

幸い、彼が柳田家で婿養子として過ごした5年の時間はもうすぐ完了する。一度終われば、彼の封印は解かれ、もはや偽装する必要もなくなり、すぐに戻ることもできる...国家に匹敵する巨大な家業を継ぐために！

自分の一流の医術、絶世の武学を思い返すと...

水原空は突然罵りたくなった。家族のどの馬鹿がこんな考えを思いついたのか、本当に分からない。

どうしても他人の家に入って無能な婿になり、他人のあらゆる嫌がらせに耐え、反撃すれば封印によってさまざまな制裁を受ける...

しかし、水原空も自分がこれほど長く耐えられるとは思わなかった！

確かにこれは人の心を鍛えることができる。

ただ、こんな残酷なことを、もう二度とやりたくはない。

「柳田美咲よ、柳田美咲！お前が本当の俺を見たとき、一体どんな表情をするのか、見てみたいものだ」

しばらくして、水原空は柳田美咲のオフィスの前に到着した。

ドアがきちんと閉まっておらず、ちょうど隙間が残っていた。

「従姉、あなたは水原空のような無能と何の感情もないのに、どうして早く離婚しないの？」

「まさか水原空のような無能の気持ちを考えているの？」

「言っておくけど、さっきまた水原空に会ったわ。破れたズボンに破れたシャツ、サンダル履きで、まるでホームレスみたい。今じゃみんなあいつがあなたの旦那だって知ってるし、あなたの笑い種になってるわよ。本当に恥ずかしいわ！」

「山本様みたいな金持ちの二世たちに興味がないとしても、自分をこんなに貶める必要はないでしょう！」

「ホント、従姉、私の言うことを聞いて、早くあの無能と別れなさいよ！私は今あいつを見るだけでイライラするわ！」

佐藤明美がまた柳田美咲のところに告げ口に来ていることを聞いて、水原空は思わず眉をひそめた。

彼がドアを開ける前に、背後から軽蔑した声が聞こえてきた。

「おや、これは我が病院の雑用係、水原空じゃないか？」

水原空が振り返ると、太めの体型の白衣の男性が立っていた。病院の外来診療部の平原医長、平原俊峰だった。

彼が水原空を雑用係と呼んだのは、先日柳田美咲のオフィスの電灯が壊れた時、水原空が修理を手伝ったからだった。それ以来、平原医長の口では雑用係となり、多くの人の笑い者にもなっていた。

このとき、柳田美咲のオフィスのドアが開いた。

柳田美咲と佐藤明美が一緒に出てきた。

「前にも言ったでしょう、もう食事を届けに来ないで！どうして病院に来るの？それに私はもう食べたわ」

柳田美咲は水原空を嫌そうに見て、明らかに彼が恥ずかしいと思っていた。

水原空は黙ったまま、ただ説明するしかなかった。「お母さんが、あなたは食堂の料理に慣れていないかもしれないと言って、もう一人分作らせたんだ！」

平原俊峰はすぐに嘲笑した。「美咲、この無能は無視しよう。ちょうど今から勤務が終わるし、私は通りの向こうにカップルリラクゼーションルームを予約したんだ。あなたはこの数日疲れているでしょう。後でそのカップルリラクゼーションに行ってゆっくりしませんか？」

こんなあからさまな挑発は、明らかに水原空を全く眼中に入れていないことを示していた。

彼が水原空が柳田美咲の夫だと知っていたとしても何だというのか？

それでも彼はカップルリラクゼーションと言い放った！

まさに水原空の顔に泥を塗るようなものだった！

そばにいた佐藤明美は目をきらめかせ、すぐに笑いながら言った。「従姉、平原医長がこんなに親切に誘ってくれているのに、断らないでよ！」

「早く平原医長と行きなさいよ！」

柳田美咲は何も言わず、水原空を見た。

水原空も何も言わず、怒りもせず、むしろ柳田美咲を見返した。

まるで柳田美咲のどんな決断も、彼は反対しないかのようだった。

これを見て、柳田美咲の心は爆発した。

パン！

柳田美咲は手を振り上げ、一発の平手打ちを水原空の顔に食らわせた。

「水原空、あなたは本当に役立たずね！」

柳田美咲は冷たい口調で、まるで水原空に完全に失望したかのようだった。

水原空は拳を握りしめた。

記憶の中で、柳田美咲は水原空に冷淡な態度をとり、さまざまな軽蔑を示してきたが、

これほど多くの人の前で手を出したことはまだなかった。

わざと自分を怒らせようとしているのか？

結局、水原空は自分を強く抑えた。

5年の時間はもうすぐ終わり、封印も解かれる。彼は今までの努力を台無しにするわけにはいかなかった！

そばで、平原俊峰は冷笑を繰り返した。やはり役立たずだな。柳田美咲も自分の旦那はもう救いようがないと思っているようだ。それなら自分のチャンスが来たのではないか？

へへへ...

そう思うと、彼は柳田美咲の側に歩み寄り、彼女の白い手を取ろうとした。

突然、遠くの廊下から騒がしい声が聞こえ、続いて大勢の人々が集まってきた。