『自分の』誕生日に、私は死にかけていた

『自分の』誕生日に、私は死にかけていた

渡り雨 · 完結 · 17.1k 文字

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紹介

私の誕生日は、本当の意味で私のものだったことなど一度もなかった。

誰もが、妹が快適で、幸せで、守られていることばかりに気を配っていた。

彼女がわざと、私がアレルギーを持つカモミールティーを淹れてきても、周りは「妹の好意を無下にするな」と、私に無理やり飲ませた。

兄は、私が妹に嫉妬していると思い込み、私を地下室に閉じ込めた。そして家族全員で、妹の誕生日を祝いに出かけてしまった。

婚約者さえも、誰も彼もが私のことを忘れていた。

地下室に横たわりながら、私は気づいた。痛みよりもっと恐ろしいことがあるのだと——

私は、替えのきく存在なのだと。

あの日、私は自分の家族に関する真実を悟った。

「私の」誕生日だというのに、私は死にかけていた。それでも、誰も私を選んではくれなかった。

チャプター 1

 病院の正面玄関を出た瞬間、強烈な日差しに目が眩んだ。

 一週間。

 その間、家族からは電話一本、メール一通さえ来なかった。私の安否を気遣う連絡は、皆無だった。

 退院の手続き中、看護師が尋ねてきた。

「お迎えの方は?」

「いません」

 私は短く答え、背を向けて歩き出した。同情に満ちた視線など、もう二度と見たくなかったから。

 家までの道のりは短いが、ひどく時間がかかった。誰も私を必要としない、誰も私を気にかけていないあの家になど、帰りたくなかったのだ。

 抗うつ剤の副作用で思考は鈍り、感情はまるでスポイトで吸い取られたかのように空虚だった。

 玄関のドアを開けると、リビングから賑やかな歓声が聞こえてきた。

「我が家の芸術の天才、彩香に乾杯!」

 父の國友がシャンパングラスを高く掲げている。

 皆が彩香を囲み、壁一面には彼女の絵が飾られていた。

――あれは本来、私の場所だったはずだ。あの画廊との契約も、元々は私のものだったのに。

 私は入り口で立ち尽くしていた。まるで部外者のように。

 私がクリニックで心が壊れていた間、彼らは彼女を祝っていたのだ。私がどこにいたのかさえ知らずに。いや、そもそも興味すらないのだろう。

 婚約者の学人は、彩香の隣に座っていた。私の姿を認めた瞬間、彼は慌てて立ち上がり、彩香の腰に回していた手を引っ込めた。

「理亜?」

 彩香が私に気づく。

「数日間どこに行ってたの? まさか、お父さんとお母さんが私に画廊と契約させたからって、怒って家出してたんじゃないわよね?」

 私が怒ると分かっていて奪ったくせに。いつの間にか、私が悪いことになっている。

 学人が綺麗に包装された箱を差し出した。

「誕生日おめでとう、理亜」

「今日は私の誕生日じゃない」

 私は淡々と言った。

 部屋が、しんと静まり返る。

 勇人が鼻で笑った。

「どうせ今日帰ってきたくなかったんだろ。俺たちが明日祝ってやるのを待ってるつもりなんだ」

 そう、私たちの誕生日。彩香は七月十五日、私は七月十六日。

 だが、我が家の習わしでは同日に祝うことになっている。ケーキは一つ、蝋燭は二本。彩香が先に願い事をし、私は永遠にそれを待つだけの役回り。

「今夜のレストランの予約、確認してくる」

 勇人はそう言って部屋を出た。学人も「ベランダで電話してくる」と言い訳し、誰よりも早く逃げ出した。

「お姉ちゃん、顔色が悪いよ」

 彩香が心配そうに近づいてくる。

「ここ数日、画廊の契約の話で私も気が張ってて……でも、安眠効果のあるお茶のおかげで助かったの」

 彼女は湯気の立つカップを持ってきた。

「これ、お姉ちゃんのために淹れたカモミールティーよ。よく眠れるから」

 カモミールの香りが鼻を突く。彼女は知っているはずだ。私がカモミールアレルギーだということを。

 十歳の時、初めて飲んで救急搬送されたあの日。彼女は隣で、喉を腫らして呼吸困難に陥る私を見ていた。

 ――それとも、わざと忘れたふりをしているのか。

「妹がこんなに心配してくれてるのよ。好意を無駄にするもんじゃないわ」

 母の美由紀が穏やかに諭すように言った。

 私はカップを見つめ、拒もうとした。

「理亜」

 父の声が鋭くなった。

「彩香がわざわざ用意してくれたんだ。おめでたい席で、いつまでもそうやって水を差すな」

 ほら、やっぱり。家族の誰も私を気にかけてなどいない。誰も私のアレルギーなんて覚えていないのだ。

 父がカップを私の前に押しやる。

「飲め。妹の気持ちを無駄にするな」

 私は席に着き、カップを手に取った。全員の視線が突き刺さる。彩香の瞳に、勝利の光が一瞬だけ宿ったのが見えた。

 私は一気にそれを飲み干した。

 これが彼らの望みなら、それでいい。冷たい病院のベッドの方が、この「家」と呼ばれる場所よりはマシだったかもしれない。

「気分はどう?」

 彩香が聞く。

 喉の奥がむず痒くなり始めていた。

「彩香が聞いてるだろ。帰ってきて早々、その態度はなんだ」

 父がテーブルを叩く。

「私、カモミールアレルギーなの」

 私は静かに言った。

「でも大丈夫。もう全部飲んだから」

 母が狼狽する。

「え? どうして早く言わないの? 私たちは知らなかったし……」

 彼女は急いで水を汲んできて飲ませようとしたが、私は拒絶した。

 彩香の目から、瞬く間に涙が溢れ出した。

「ごめんなさい、お姉ちゃん! アレルギーだなんて知らなくて……ただ、このお茶が私に効いたから、お姉ちゃんにも良くなってほしくて……教えてくれればよかったのに……」

「泣くんじゃない、お前は悪くないぞ」

 父はすぐに彩香の元へ行き、慰め始めた。

「今日は彩香の誕生日だろう。悪いのは理亜だ。いつも家族とコミュニケーションを取ろうとしないから、こうなるんだ!」

「そうよ理亜、見てごらんなさい、妹がこんなに悲しんでるじゃない!」

 母も泣きじゃくる彩香を抱きしめる。

「あの子は善意でやったのよ!」

 彩香の涙はいつもタイミングが完璧だ。彼女は常に被害者で、私はいつも聞き分けのない加害者になる。

 彼らは彩香を囲み、慰め、あやす。今の私の気分を聞く者はいない。アレルギー反応を心配する者など、一人もいない。

 呼吸が苦しくなってきた。

 けれど私はただそこに立ち尽くし、見慣れた茶番劇を眺めていた。かつて感じていた憤りは、嘘のように消え失せていた。代わりに訪れたのは、凪のような静寂。

 そうか。心の底から期待を捨てれば、もう絶望することもないんだ。

「ごめんなさい」

 私は言った。

「全部、私が悪いの」

 部屋が凍りついたように静まり返る。全員が驚愕の表情で、私を見つめていた。

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