夫は、もうすぐ出産する私を車に閉じ込めて、元カノの荷物運びを手伝いに行った

夫は、もうすぐ出産する私を車に閉じ込めて、元カノの荷物運びを手伝いに行った

渡り雨 · 完結 · 15.4k 文字

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紹介

病院へ向かう途中、土砂降りの雨が降っていた。

突然、夫が急ブレーキを踏んだ。雨に濡れる元カノを見つけたからだ。

「彼女、一人で子育てしてて大変なんだ。牛乳を部屋まで運ぶのを手伝うだけ。十分で戻る。」

陣痛に苦しむお腹を押さえながら、私は彼に懇願した。「でも、もうすぐ産まれそうなの。すごく痛い…」

しかし彼は、逆に車のドアをロックし、苛立った声で言った。

「サラー、少しは思いやりを持てないのか?彼女、ずぶ濡れじゃないか。」

その十分間で、羊水は流れ尽くし、私は生きるために、血まみれの手でトランクから這い出した。

そして、私が生死の境を彷徨い、緊急手術を受けている、まさにその時。

彼の元カノが、ストーリーを一本投稿した。

動画の中では、私の夫が優しく彼女の髪を拭いており、こんな言葉が添えられていた。

「あなたがいてくれて、よかった。」

チャプター 1

 出産予定日が迫り、夫の平野光希の運転で病院へ向かっていた。

 だがその途中、光希がいきなり急ブレーキを踏んだ。

 彼の視線の先を追うと、そこに小崎美由がいた。

 彼の元カノだ。

 土砂降りの中、彼女は両手に重そうな買い物袋を提げ、胸には牛乳の段ボール箱を抱えている。脇には三歳になる息子が、彼女の服を必死に掴んで歩いていた。

「ここで待っててくれ」光希はシートベルトを外した。

「手を貸してくる」

 彼女が離婚して以来、家の電球が切れれば平野光希、水漏れすれば平野光希、幼稚園の工作でさえ平野光希だ。

 いつだって彼は、呼ばれればすぐに駆けつける。

「光希!」私は信じられない思いで彼を見た。

「これから私の出産で病院へ行くところなのよ! 今だって痛いのに!」

「わかってる。でも美由があの大雨の中、あんな大荷物で子供まで連れてるんだ。一人じゃとても運べないだろ? 見ちゃった以上、知らんぷりはできない。十分で戻る」

「他にいないの? 彼女はここの住人なんだから、先に子供を送ってから二回に分けて荷物を運べばいいじゃない。それか近所の人に頼むとか。どうしてあなたじゃなきゃダメなの?」

 光希はついに振り返り、失望を露わにした目で私を見た。

「サラー、彼女はシングルマザーなんだぞ。君ももうすぐ人の親になるんだ、少しは思いやりを持てないのか?」

 反論する間もなく、窓が軽くコンコンと叩かれた。

 いつの間にか小崎美由がそばに来ていた。

「光希、よかった。ちょっと手伝って……あら、サラーさんも? 二人とも……病院へ? ごめんなさい、急用だなんて知らなくて。わかってたら絶対に声なんてかけなかったわ」

 彼女はそう言って、抱えていた牛乳の箱を持ち上げ直した。その拍子に、重さで赤く食い込んだ手首が袖から覗く。

「光希、早くサラーさんを連れて行ってあげて」

「いい、俺が運ぶ。すぐ済むから」平野光希はドアを開けて車を降り、私を一瞥した。

「車の中で待ってろ」

 ガチャリ。中控ロックが落ちる音がした。

 小崎美由は私に手を振ると、子供の手を引き、もう片方の手で一番重い段ボール箱を自然な仕草で平野光希に渡した。

 男一人と女と子供。三人は互いに寄り添うようにして、建物の陰へと消えていった。

 世界が静まり返り、雨粒がルーフを叩く鈍い音だけが残された。

 その時、腹部が激しく収縮し、痛みが走ると同時に、股間から温かい液体がどっと溢れ出した。

 私は震える手でスマホを取り出し、平野光希に電話をかける。

「光希! 助けて! 破水したの!」受話口に向かって泣き叫んだ。

「早く戻って! 痛い!」

 電話の向こうから聞こえてきたのは、小崎美由の声だった。

「サラーさん、落ち着いて。その叫び声を聞く限り、生まれるのはまだ先よ。本当に産む時って、痛くて声も出ないものなんだから」

「黙って! 電話を光希に代わってよ!」私は悲鳴を上げた。

小崎美由が優しく諭すように言う。

「妊婦さんはホルモンの影響で、情緒不安定になりやすいから」

「サラー」平野光希の声には、押し殺した怒りが滲んでいた。

「一体何をごねてるんだ。荷物を運ぶだけだと言っただろ。十分で戻る」

「嘘じゃない……本当に破水したの……」

 プツッ。電話が切れた。

 もう一度、光希にかける。切断。再度かける。電源が切られている。

「ああっ――」激痛に惨めな叫び声が漏れた。

 ここで死ぬわけにはいかない。私の子供を、こんなところで死なせるわけには。

 冷や汗にまみれた震える指で救急車を呼び、泣きながら状況を伝えた。

 車から出るように指示されたが、車はすでに光希によってロックされている。

 そうだ、トランクに緊急脱出用のレバーがあるはず……。

 身を引き裂くような激痛に耐え、シートベルトを外すと、必死にトランクの方へと体を捻じり、這っていった。

 動くたびに、下腹部を電気ドリルで抉られるような痛みが走る。

 羊水がズボンをぐっしょりと濡らし、冷たく張り付いてくる。

「どこ……どこなの……」暗闇の中を無我夢中でまさぐり、工具箱で指を切ったが、ついにレバーに指が触れた。

 バン!

 トランクの蓋がわずかに開く。

 私は無様にトランクから転がり落ち、泥水だらけの地面に激しく体を打ち付けた。

 冷たい雨水と、生温かく生臭い羊水が混じり合い、太腿を伝って流れ出し、体の下の水溜まりを赤く染めていく。

 意識が暗闇に沈む直前、救急車のサイレンが近づいてくるのが聞こえた気がした。

 ……

「ご家族は?」酸素マスクをつけられながら、看護師が焦った様子で叫んでいた。

「奥さん、すぐに旦那さんに連絡しないと! 番号は?」

 震える手で画面をスワイプし、発信したが、誰も出ない。

 その直後、SNSの通知がポップアップした。

 小崎美由のストーリーだ。

 魔が差したのか、私はそれをタップしてしまった。

 画面に映ったのは数秒の動画。平野光希がソファに座ってくつろいでいる。その後ろに立つ小崎美由が、タオルで優しく彼の濡れた髪を拭いていた。

 動画から小崎美由の甘ったるい笑い声が響く。『本当にバカなんだから。私のためにこんなに濡れちゃって。でも、あなたがいてくれてよかった』

 その瞬間、巨大な悲しみが押し寄せ、息ができなくなった。

 私は彼への連絡を諦めた。

 そして、私たちの結婚生活も諦めることに決めた。

「家族はいません……」私は泣きながら首を振った。涙がこめかみの冷たい濡れ髪に伝う。

「私が自分で、サインします」声は、絶望で枯れていた。

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