異世界に転生して王宮で育児院を設立する

異世界に転生して王宮で育児院を設立する

渡り雨 · 完結 · 20.8k 文字

673
トレンド
673
閲覧数
201
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

異世界から転生した私は、エルファリア王国の王宮で最も地位の低い『月妃』になっていた。

特別な能力もない私は、この魔法の世界でただ静かに暮らしたいだけ。

しかし一年後、同じ宮で暮らしていた夫人が政争に巻き込まれて処刑された。

彼女の遺したわずか三歳の息子、第五王子であるレオンは、誰もが触れたがらない「焼け火箸」となる。

結局、その子は私の住まう臨月殿(りんげつでん)へと預けられることになった。

子供の世話? それなら、まさしく私の専門分野だ。

それから間もなく、ある夫人が魔法の暴走で命を落とし、生後一ヶ月の小さな王女様も私の元へ。

さらにその後、傲慢だったエミリア夫人が王の寵愛を失い、十歳の第一王女までもが私の宮殿にやって来て……。

ちょっと待って! どうして私が王宮で育児院(いくじいん)を開くことになってるの!

チャプター 1

「妃様! これはあまりにも理不尽です! どうして妃様が他人の子供を育てなければならないのですか? ただでさえ資源が不足しているというのに、今度はそれをあの小生意気な王子に分け与えなければならないなんて! あの子は反逆者の息子なのですよ!」

臨月殿の中、私は最後の一粒である貴重な氷晶を果実水《フルーツシロップ》に入れ、それが碧緑の液体の中でゆっくりと溶けていき、微弱ながらも清涼な魔力を放つのを眺めていた。

この氷晶は、私が今月配給された中での最後のひとかけらだ——階級が全てを決定するこの王宮において、最下級の妃である私が分け与えられる魔法資源は、哀れなほどに少なかった。

私の侍女であるルーシーは、まだ私のために腹を立てている。

「妃様! どうして怒らないのですか?」

「誰かがそばにいてくれるのは、いいことじゃない? 私たち二人だけだと、寂しいもの」

私はにこやかに言う。

「ほら、もうお黙りなさい。そろそろ王子様がいらっしゃる頃よ」

間もなく、殿の外から足音が聞こえてきた。

ウィリアムという名の執事がやって来たのだ。

「エイラ妃。国王陛下の命により、第五王子レオン様は臨月殿に移り住み、妃様がその養育を担うこととなります」

ウィリアム執事は恭しく王命を読み上げると、すぐに付け加えた。

「ダイ妃は昨日毒酒を賜り、第五王子は世話をする者がおりませぬ。国王陛下は特別に妃様を月妃《げっぴ》に封じ、引き続き臨月殿にお住まいいただくことといたしました」

ダイ妃の父親が反乱の嫌疑をかけられているという噂はかねてより耳にしていたが、王室の処罰がこれほど迅速かつ無慈悲なものだとは思ってもみなかった。まだ三歳のあの子は、一夜にして母親を失い、権力闘争の無垢な犠牲者となったのだ。

ウィリアム執事の後ろには、押し黙った小さな男の子が立っていた。その子鹿のように澄んだ瞳は、恐怖と不安に満ちていた。

私の心は一瞬で和らぎ、すぐさま表情を柔らげてウィリアム執事に言った。

「第五王子様のお世話は、心を尽くして行います。陛下にどうぞご安心いただくようお伝えください」

男の子は行儀よく私にお辞儀をした。

「レオンと申します。月妃様にお目にかかります」

私が手を取ろうとすると、彼は一歩後ろに下がり、警戒するように私を見つめた。

たかが子供じゃない、私に敵うわけがないでしょう? 今の私は王宮で最も階級の低い妃だけれど、この『エルファリア』という魔法王国に転生する前は、経験豊富で子供たちに大人気の幼児教諭だったのだから!

私は作りたての氷入り果実水を彼の前に差し出した。

「暑いでしょうから、まずは冷たい果実水でもいかがかしら」

レオンは首を横に振った。

「月妃様、ありがとうございます。レオンは暑くありません」

これくらいで私が挫けるわけがない!

国王が第五王子に対して思うところがあるらしく、全く気にかけていないことは知っている。他の妃たちも「反逆者の息子」という嫌疑がうつるのを恐れ、まるで伝染病かのように彼を避けている。私が彼と同じように誰からも気にかけられていない存在なのだと感じさせれば、きっと心を開いてくれるはずだ。

「レオン様、召喚魔法が使えるとお聞きしましたわ。私に教えていただけませんか?」

私は期待に満ちた声で、穏やかに尋ねた。

「私はただの最下級の妃ですので、誰も魔法を教えてはくれないのです」

レオンの目が瞬時に輝いた。

「わ、私、少ししか召喚魔法は……」

「それでもすごいわ! 私は全くできないんですもの。この召喚の達人様に、教えていただくことはできますか?」

レオンは力強く頷き、その顔にようやく歳相応の輝くような笑顔が咲いた。

半日の間、私たちは臨月殿の庭で何匹もの動物を召喚した。レオンの集中した様子を見ていると、私の心に温かいものが込み上げてくる。この子は聡明で感受性が豊かなのだ。ほんの少しの根気と愛情さえあれば、花のように咲き誇ることができる。

「エイラ、明日も一緒に遊べる?」

片付けの時、レオンは期待に満ちた目で、甘えるように尋ねてきた。

「月妃様」から「エイラ」への呼び名の変化は、私が彼の信頼を勝ち取ったことを意味していた。

「もちろんよ」

私は微笑んで言った。

「明日も、明後日も、明々後日も。あなたがここにいたいと思う限り、いつでも私と一緒に遊べるわ」

私たちは、この危機に満ちた宮廷の中で、ささやかな安らぎの空を手に入れた。

私は毎日レオンが健やかに成長するのを見守り、文字の読み書きを教え、『冒険伝説』に登場する勇者の物語を語って聞かせた。

そうして、王宮で冬の宴会が催される日がやってきた。

最新チャプター

おすすめ 😍

命日なのに高嶺の花とお祝いする元社長 ~亡き妻子よりも愛人を選んだ男の末路~

命日なのに高嶺の花とお祝いする元社長 ~亡き妻子よりも愛人を選んだ男の末路~

15.5k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
愛する娘は、夫と愛人の手によって臓器を奪われ、無残な最期を遂げた。

激痛の心を抱えた私は、その悲しみと怒りを力に変え、殺人者たちと運命を共にすることを決意する。

だが、死の瞬間、思いもよらぬ展開が待っていた――。

目覚めた私は、愛する娘がまだ生きていた過去の世界にいた。

今度こそ、この手で娘と私自身の運命を変えてみせる!
真実の愛 ~すれ違う心と運命の糸~

真実の愛 ~すれ違う心と運命の糸~

37.1k 閲覧数 · 連載中 · yoake
彼女は6年間、彼を一途に愛し続けてきた。
億万長者の夫の心を、深い愛情で掴めると信じていた。

しかし衝撃的な事実が発覚する。
彼には愛人がいた―障害を持つもう一人の女性。

彼はその女性に最高の幸せと優しさを与え、
一方で彼女には冷酷な態度を取り続けた。

その理由は、かつて自分を救ってくれた恩人を
その女性だと思い込んでいたから。
実際には、彼女こそが真の恩人だったのに―。
社長、奥様が亡くなりました。ご愁傷様です

社長、奥様が亡くなりました。ご愁傷様です

13.6k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
お金と特権に囲まれて育った私。完璧な人生に疑問を持つことすらなかった。

そんな私の前に彼が現れた―
聡明で、私を守ってくれる、献身的な男性として。

しかし、私は知らなかった。
私たちの出会いは決して偶然ではなかったことを。
彼の笑顔も、仕草も、共に過ごした一瞬一瞬が、
全て父への復讐のために緻密に計画されていたことを。

「こんな結末になるはずじゃなかった。お前が諦めたんだ。
離婚は法的な別れに過ぎない。この先、他の男と生きることは許さない」

あの夜のことを思い出す。
冷水を浴びせられた後、彼は私に去りたいかと尋ねた。
「覚えているか?お前は言ったんだ―『死以外に、私たちを引き離せるものはない』とね」

薄暗い光の中、影を落とした彼の顔を見つめながら、
私は現実感を失いかけていた。
「もし...私が本当に死んでしまったら?」
はるかのノート

はるかのノート

6.6k 閲覧数 · 完結 · 渡り雨
結婚して四年、はるかは癌を患い、死の淵にいた。
そんな中、夫が選んだのは彼の初恋の相手だった。
だが、はるかがこの世を去った後。
彼ははるかの残した日記を読み、正気を失ったのだ。
愛人のために離婚届にサインしたら、元夫が泣いて復縁を求めてきた

愛人のために離婚届にサインしたら、元夫が泣いて復縁を求めてきた

8.7k 閲覧数 · 完結 · 渡り雨
「サインしろ。それを書けば、俺たちは離婚だ」
夫である佐藤隆一は無情にそう言い放った。
緘黙症を患う私は、何も言わずに離婚届にサインをした。

「おい、本当に離婚するのか?」と、隆一の友人が尋ねる。
「大丈夫だ。一ヶ月もしないうちに、あいつは俺の元に戻ってくるさ。俺から離れられるわけがない。だって、あいつは声も出せないんだからな」

彼らの会話を、私は黙って聞いていた。
その時、スマートフォンに一通のメッセージが届く。
『京都に旅行でもどう? 気分転換しに』

この瞬間から、私の人生は違う軌道を描き始めた。
妊娠を隠して退職…社長は後悔の涙を零す

妊娠を隠して退職…社長は後悔の涙を零す

12.9k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
予期せぬ妊娠が、報われない愛の現実と向き合わせた時、彼女は気づいた。もう、痛みしかもたらさない愛のために、自分を犠牲にはできないと。かつては希望に満ちていた心は、今は疲れ果て、前に進めなくなっていた。彼女は決意した。この傷つきと願いの循環から抜け出すことを。

しかし、彼女の沈黙と忍耐に慣れていた彼は、彼女を手放すことを拒んだ。彼女の心を取り戻そうと必死になる中で、彼は気づき始めた。本当の幸せは、ずっと彼女の手の中にあったことを...
捨ててから復縁したい?夢を見るな!

捨ててから復縁したい?夢を見るな!

12.1k 閲覧数 · 連載中 · 白夜玲
妊娠8ヶ月の私は、夫に子供を否定され離婚を突きつけられる。
誤解に満ちた過去。そして5年後――

著名な医師となって帰ってきた私と、隠していた子供。
元妻の魅力に抗えないダリアンは、まだ愛していた自分に気づく。

「もう一度結婚してくれ」
後悔の念に駆られた懇願に、私は冷たく返す。

「私と結婚したい?ならば、行列の最後尾に並んでください」
億万長者の夫との甘い恋

億万長者の夫との甘い恋

15.6k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
長年の沈黙を破り、彼女が突然カムバックを発表し、ファンたちは感動の涙を流した。

あるインタビューで、彼女は独身だと主張し、大きな波紋を呼んだ。

彼女の離婚のニュースがトレンド検索で急上昇した。

誰もが、あの男が冷酷な戦略家だということを知っている。

みんなが彼が彼女をズタズタにするだろうと思っていた矢先、新規アカウントが彼女の個人アカウントにコメントを残した:「今夜は帰って叩かれるのを待っていなさい?」
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

11.2k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
溺愛は時に残酷で 〜大企業社長と口の利けない花嫁〜

溺愛は時に残酷で 〜大企業社長と口の利けない花嫁〜

44.1k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
業界では、北村健には愛人がいることはよく知られている。彼は金の成る木のように彼女にお金を注ぎ、彼女のために怒りに震え、命さえも投げ出す覚悟がある。しかし、業界の人間は同時に、北村健には妻がいることも知っている。彼女は口のきけない子で、存在感はなく、北村健にしがみつく菟丝花のような存在だった。北村健自身もそう思っていた。ある日、その口のきけない子が彼に離婚協議書を手渡すまでは。北村健は動揺した。
ブサイクな男と結婚?ありえない

ブサイクな男と結婚?ありえない

46.1k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
意地悪な義理の姉が、私の兄の命を人質に取り、噂では言い表せないほど醜い男との結婚を強要してきました。私には選択の余地がありませんでした。

しかし、結婚後、その男は決して醜くなどなく、それどころか、ハンサムで魅力的で、しかも億万長者だったことが分かったのです!
突然の結婚で、大物に溺愛されました

突然の結婚で、大物に溺愛されました

9.9k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
婚約式の三日前、婚約者が義理の妹と不倫している現場を目撃してしまった彼女。深く傷つき、絶望の中、激しい雨の中をさまよっていた時、一人の男性に助けられる。

「やっと、見つけた」

男性は彼女を大切そうに抱きしめながら、そうつぶやいた。

一夜の過ちから始まった突然の結婚。しかし後になって、その男性が財務部の大臣であり、大手企業グループのCEOだということを知る。そして更に、失われていた8年間の記憶の中に、自分が並々ならぬ身分の持ち主だったという事実が徐々に明らかになっていく……