幼馴染と別れた後、ヤクザの若頭と結婚しました

幼馴染と別れた後、ヤクザの若頭と結婚しました

渡り雨 · 完結 · 18.3k 文字

422
トレンド
545
閲覧数
144
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

彼は新宿で最も格式高い料亭で、クラブの歌手のために祝言を挙げていた。

私が襖を開けると、彼らは組員たちが見守る中、ちょうど盃事を交わしている最中だった。

藤原成俊は私に気づくと、苛立たしげな顔で言った。

「ただの儀式だ。血の契りじゃない。」

私は何も言わず、背中を向けてその場を去った。

彼は私が必ず戻ってくると確信していただろう。――東京の裏社会に、私が秋倉会と手を組んだという噂が流れるまでは。

藤原成俊は夜雨も厭わず、私の屋敷の門を狂ったように叩き続けた。

私が扉を開けると、和服の襟元は半ば開け、そこには生々しい吸い痕が覗いていた。

「ご心配なく。血の契りを断っただけ。組を裏切ったわけではありません。」

上半身裸の秋倉拓が階上から降りてきて、私の腰に腕を回す。「どうした、藤原の若。俺ではこいつに不釣り合いだとでも?

チャプター 1

 私は高級料亭の入り口に立ち、祝宴で睦まじく見つめ合う新郎新婦を無表情に眺めていた。

 藤原成俊と白無垢を纏った小林詩織が情熱的に視線を交わし、夫婦の契りを交わす盃を酌み交わしている。ヤクザたちの野次が次々と飛び交い、婚宴の会場全体に響き渡っていた。

「成俊様、早く詩織さんと三三九度の盃を交わしちまえ!」

「詩織さん、こいつは俺たち藤原組の最も大事な伝統なんだ、恥ずかしがるこたねえ!」

 私の眼差しは氷のように冷たく、この茶番劇を静かに見つめていた。

 突如、藤原組の若頭が振り返り、入り口に立つ私に気づくと、その顔は瞬く間に真っ青になった。

 彼は慌てふためき、小声で一言叫んだ。「姉貴!」

 その呼び声は、静かな湖面に投じられた小石のように、婚宴会場の喧騒をぴたりと止めさせた。ひそひそ話も次第に消え、全員の視線が私へと注がれる。空気は気まずさと緊張に満ちていた。

 小林詩織は異変を察し、藤原成俊の背後へ隠れようとする。その手の中の盃は微かに震えていた。

 私は落ち着き払った足取りで彼らに向かって歩みを進める。一歩一歩が正確で、揺るぎない。背中の桜と短刀の刺青が、疼くように痛む。それは雨森組織の跡目としての私の証。十六の歳から、私は雨森組織が認めた次期後継者であり、私の面子、私の誇りは全て組織と繋がっている。

 藤原成俊は私を見ても、気まずそうな素振り一つ見せなかった。

 それどころか、挑発するように小林詩織を抱き寄せ、傲慢に言い放つ。

「詩織が俺たちの伝統的な祝言を体験したいって言うからな。変に勘ぐるなよ、血の契りは交わしてない。藤原組の女はお前だけだ」

 目の前にいる、幼馴染であり、親たちの決めた組織間の縁組によって血の契りを交わした男を見つめ、私の心にあった最後の一片の温もりも、この瞬間に凍てついた。

 この五年、彼は界隈で好き放題に遊び、愛人を次々と変え、東京の裏社会で私の顔に泥を塗り続けてきた。私が耐え忍んできたのは、ただ二大組織の盟約という重責を背負っていたからに他ならない。

 今回、私は背後から木箱を取り出した。中には、藤原家が組織の女に代々受け継がせる和服の帯が入っている。血の契りを交わした際に、藤原の親父殿が自ら私に手渡した信物であり、私が藤原家の嫁であることの象徴だ。

 私はそれを、藤原成俊の目の前の卓に静かに置いた。

「今日限りで、私たちの血の契りは破棄する。これからはそれぞれ我が道を行き、貸し借りなしとしよう」

 私の声に、一片の震えもなかった。

 藤原成俊の顔色が一変し、その目に意外の色がよぎる。彼は低く脅すように言った。

「その言葉、撤回しろ、雨森若菜。血の契りを解くことが何を意味するか、分かっているだろうな」

 若頭がすぐさま間に入り、とりなそうとする。

「姉貴、どうかお怒りをお鎮めください。この祝言はただの体裁で、両家の盟約に影響はございません。若はほんの座興でして、真の血の伴侶は姐さんだけでございます」

 私は周囲で緊張しながら様子を窺う組員たちを見渡す。彼らの目には、好奇と警戒が満ちていた。

 この瞬間、私はもう、堪え忍ぶだけの雨森若菜ではなかった。

「藤原組長」

 私は藤原成俊の目を真っ直ぐに見据えた。

「あなたの約束にはもううんざりだ。今回は、本当に終わりにする」

 そう言い終えると、私は背を向け、もう二度と振り返らなかった。

 背後から、若頭の切迫した声が聞こえる。

「若、早く姉貴を追いかけてください!今度ばかりはただ事じゃありませんぞ!」

 藤原成俊の傲慢な返事が聞こえてきた。

「心配するな。こんなこと、前にもなかったわけじゃねえ。数日もすれば戻ってくるさ。雨森組織は俺たち藤原組の加護がなきゃやっていけねえんだからな」

 若頭の心配そうな忠告が遠ざかっていく。

「秋倉拓が近頃、東区にえらく興味を示していると聞きます。そして雨森家は丁度……」

 私は振り返らず、そのまま祝宴の会場を後にした。

 藤原成俊はまるで何の影響も受けていないようだった。彼が私の去りゆく背中を一瞥し、大声で告げる。

「祝言を続けるぞ!雨森若菜のことは構うな。詩織が望むものなら、何だって俺が与えてやる」

 小林詩織はその言葉を聞くと、顔に絶妙な驚きを浮かべた。彼女は藤原の和服の袖を掴み、小声で囁く。

「あの帯、見てもいいですか?」

最新チャプター

おすすめ 😍

妊娠を隠して離婚し、彼は後悔した

妊娠を隠して離婚し、彼は後悔した

17.3k 閲覧数 · 連載中 · きりゅう りんか
「彼女が戻ってきた。離婚しよう」
三年にわたる隠し通してきた結婚生活のなかで、夫がそう口にしたのは、綾部栞の実家が危機に瀕し、彼女自身が身ごもっていた、まさにその時だった。
助けを求める彼女に、夫は目を向けることすらしなかった。失意の果てに、栞はふくらみ始めた腹を隠し、離婚届に署名する。

これで互いに違う道を歩むだけだと思っていた。ところが、隠していた孕み腹はやがて露見してしまう。
復縁を切り出してきた元夫に、綾部栞は怒りを叩きつけた。
「この子に会いたければ、跪いて許しを請いなさい」

そう言えば、さすがに諦めるだろう——。
だが、彼女は読み違えていた。相手の、その異様なまでの図太さを。

やがて、雲市で最も賑わう中心街の大型街頭ビジョンに、ある動画が一日中エンドレスで流れ始める。
それは、ひとりの男が地面にひざまずき、ただひたすら復縁を乞い続ける姿だった。
全能令嬢の帰還、家族が倒産?

全能令嬢の帰還、家族が倒産?

61.5k 閲覧数 · 連載中 · きりゅう りんか
万能の女神・夏川紅蓮が実家に戻ると、一家は何者かの手で破滅に追いやられた後だった。
父は冤罪で獄中にあり、母は病に伏せっている。
六人の兄たちも、ある者は身体に障がいを負い、ある者は無気力に沈んでいた。
そんな折、家に潜り込んでいた偽令嬢は状況を見るや否や一家を見捨てて姿を消し、さらに屋敷までも奪い取ろうとしていた。
世間は夏川家を「落ち目の負け犬」と嘲笑い、皆がこぞって踏みにじる。

紅蓮が静かに一声を発すれば、暗部より無数の異能の士たちが姿を現し、形勢は一瞬にして逆転する。
父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。

しかし、そんな彼女を指さして嘲る者がいる。
「夏川紅蓮は地味で野暮ったい田舎者だ」と。

何を隠そう、彼女は無数の隠された顔を持つ存在。
神医の令嬢も彼女なら、国画の大家も彼女。
伝説のハッカーも彼女なら、正体不明の謎の女優も彼女。
そして、暗部を統べる首領さえも——彼女なのだ。

そんな折、頂点に君臨する名門の若様が、彼女をそっと腕のなかに抱き寄せた。

「誰が彼女を田舎くさい地味女だと言った? 彼女こそ、俺・諏訪淳行の婚約者だ」

紅蓮が流し目をひとつ送る。

「婚約、破棄しなくていいの?」

「しない」

彼が長いあいだ追い求めてきた決して手の届かない高嶺の花こそが、いま腕のなかにいる婚約者なのだ。
解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。
溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

332.6k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
原口家に取り違えられた本物のお嬢様・原田麻友は、ようやく本家の原田家に戻された。
──が、彼女は社交界に背を向け、「配信者」として自由気ままに活動を始める。
江城市の上流社会はこぞって彼女の失敗を待ち構えていた。
だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
代わりに、次々と大物たちが彼女の配信に押しかけてくるのだった。
「マスター、俺の命を救ってくれ!」──某財閥の若社長
「マスター、厄介な女運を断ち切って!」──人気俳優
「マスター、研究所の風水を見てほしい!」──天才科学者
そして、ひときわ怪しい声が囁く。
「……まゆ、俺の嫁だろ? ギュってさせろ。」
視聴者たち:「なんであの人だけ扱いが違うの!?」
原田麻友:「……私も知りたいわ。」
間違いの刻印 息子と復讐

間違いの刻印 息子と復讐

1.9k 閲覧数 · 完結 · Abdulqudir Yusuf
カミラとキャロラインは、ムーンライト・パックの敬われる戦士団長ジャックの、瓜二つの双子の娘だ。優しく義務感の強いカミラは、アルファのマイケルと婚約し、彼のルナとなる者として選ばれていた。

一方で、大胆で向こう見ずなキャロラインは、姉妹が受ける栄誉をしばしば妬んでいた。

刻印の儀の夜、欲情に呑まれ、酒に酔いしれていたマイケルは取り違え、カミラではなくキャロラインと一夜を共にしてしまう。そして刻印は、誤ってキャロラインの身に刻まれた。

パックの誰もが、キャロラインこそが彼の真の伴侶なのだと信じた。カミラは仲間たちの前で辱めを受け――婚約は破談となり、居場所は双子の妹に奪われたのだ。

裏切られ、見捨てられたと感じたカミラは、禁じられた森へと逃げ込み、疲労と絶望に押し潰されるようにして、その場に崩れ落ちた。
今さら跪く元夫を置き去りに、大富豪の甘い執着愛が始まりました

今さら跪く元夫を置き去りに、大富豪の甘い執着愛が始まりました

20k 閲覧数 · 連載中 · 桜井 ゆい​
夫は私を、別の男のベッドへ差し出した。
あの男にとって、私は自分の出世や欲望のために利用する「モノ」でしかなかったのだ。

だが、あの男は夢にも思っていなかった。
自分がゴミのように投げ捨てた贈り物が、この国で最も恐れられ、最も力を持つ男の「かけがえのない愛する人」になるなんて。

やがて絶望を知り、私の前に跪いて許しを乞う元夫。
その惨めな姿を見下ろす私を、最高峰の男が背後から抱き寄せ、耳元で低く甘く唸った。

「俺の子供を身ごもっておきながら、一体どこへ行こうというんだ?」

――捨てられた妻の反撃と、逃げられない絶対的な愛が、ここから始まる。
離婚した妻の激しいつわり――彼女は妊娠を隠したまま、去っていった

離婚した妻の激しいつわり――彼女は妊娠を隠したまま、去っていった

11k 閲覧数 · 連載中 · ユイ
夫から離婚届を突きつけられたその時、私は妊娠を知った。

彼は冷酷極まりない目で私を見下ろし、「お前なんか、俺にふさわしくない。子供を堕ろして、さっさと出て行け!」と言い放ったのだ。

そして――彼が「運命の女」と盛大な結婚式を挙げたその夜、私は凄惨な交通事故に遭い、命を落とした。

私の死亡診断書を手にした時になって初めて、彼は気づいたのだ。私への愛が、すでに自分の魂にまで深く刻み込まれていたことに。

数年後。私は別の人間として、双子の我が子を連れて戻ってきた。しかし、あの狂気に満ちた男に再び追い詰められてしまう。

「あなたのことは存じ上げません。身の程をわきまえてください」
私は冷たく突き放した。

彼は私を壁に押しつけ、声を震わせながらこう言った。
「……そうか? なら教えてくれ。なぜその子供たちに、俺の血が流れているんだ?」
南から北へ、届かなかった想い

南から北へ、届かなかった想い

15.6k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
結婚して二年、天樹夢子は「任務」を遂行することばかり考えていた——子供を産むこと。しかし夫の陸川北斗は冷たくこう言い放った。「俺に子供を産むだと?お前にはその資格すらない」

怒りに震え、彼女は離婚届を起草。これで全て終わりにしようとしたその時、携帯にメッセージが届いた。

「奥様、ご主人様が今夜お泊まりになります」
追放された偽物の娘、その正体は最強でした

追放された偽物の娘、その正体は最強でした

880.3k 閲覧数 · 連載中 · ゲゲゲ
「本物の娘が見つかった。お前はもう用済みだ」
あの子が現れたその日、私は『偽物の娘』として家を追い出された。
渡されたのは、わずかな小銭と地方行きの片道切符だけ。
さらに婚約者は私をゴミのように捨て、その日のうちに『本物』であるあの子にプロポーズした。

……上等じゃない。せいぜい勝った気でいればいいわ。
だって彼らは、私の【本当の顔】を何一つ知らないのだから。

名門病院が見放した命を救う『天才外科医』。
オークションで数億円の値を叩き出す『伝説の画家』。
裏社会の闘技場で無敗を誇る『影の女王』。
そして――彼らの全財産すら小銭に思えるほどの『真の巨大財閥の後継者』であることを。

今さら元婚約者が土下座で許しを請おうと、本物の娘が嫉妬で狂いそうになろうと、もう遅い。
かつて私に婚約破棄の書類を叩きつけた冷酷で傲慢なCEOでさえ、今や何かに取り憑かれたように私を追い回し、「もう一度だけチャンスをくれ」とすがりついてくる始末。

私を捨てて、自分たちの人生を『アップグレード』したつもり?
笑わせないで。最初から、圧倒的に上の存在だったのは私のほうよ。
マフィア姫の帰還

マフィア姫の帰還

59.3k 閲覧数 · 完結 · Tonje Unosen
タリアは何年ものあいだ、母と義理の妹、そして継父と暮らしてきた。だがある日、ついにそこから逃げ出すことに成功する。

ところがその直後、自分にはまだ外に家族がいるのだと知る。そして本当に自分を愛してくれる人たちが大勢いることも――そんなものは今まで感じたことがなかった。少なくとも、彼女の記憶にあるかぎりでは。

タリアは人を信じることを学ばなければならない。新しくできた兄たちにも、ありのままの自分を受け入れてもらわなければならないのだ。
彼はかつて私を打ちのめした、今度は私が彼を打ちのめす番だ

彼はかつて私を打ちのめした、今度は私が彼を打ちのめす番だ

2.6k 閲覧数 · 連載中 · 桐島遥希
彼らが最初に奪ったのは、私の子供だった。

次に、私の両親。

三番目に、私の自由、私の両目、そして生きる理由のすべて。

結婚記念日の日、夫は私を三人の男たちに差し出した。彼は私を犬小屋に閉じ込め、彼の愛人はそばで嘲笑っていた。彼は私に自分の息子の遺骨を食べさせ、それを「慈悲」と呼んだ。

彼は私が汚れていると言った。私は当然の報いを受けているのだと。

しかし、彼が固く信じていたDNA鑑定の結果は嘘だった。あの動画は捏造されたものだった。そして、彼がこれから娶ろうとしている女こそが、私たち全員を破滅させた元凶だった。

私は自殺を試みた。四度。

今は、もう試みない。

彼らは死んだ女を土の中に埋めた。だが間もなく気づくだろう——彼女が地獄をも連れ戻したことに。
あの野郎が浮気した

あの野郎が浮気した

11.9k 閲覧数 · 連載中 · 水無瀬
夫の浮気を目撃した瞬間、私は泣きもしなければ叫びもしなかった。冷えたままの手つきで離婚届を偽の業務委託契約書に紛れ込ませ、彼に判を押させただけだ。あと三十日もすれば、彼は私を失う——ただ静かに、その時を待つ。

その足で、私は新たな職へと向かった。無愛想で、他人を一切寄せ付けないことで知られる男の、個人秘書として雇われたのだ。元夫が私を無理やり連れ戻そうとするたび、新しい雇い主は私の前に立ち塞がり、そして——私自身すら見えていなかった何かを見つめるような目で、私を見た。

「君は、これまで誰も本気で愛したことなどない」

彼は私にそう言った。

反論しようとして、しかし私は何も言えなかった。

なぜなら、ふと心に浮かんだからだ。夫に対して抱いていたもの——それは愛だったのか、それともただの慣れだったのか。そして、私と過去との間に立ちはだかったこの男に抱き始めているこの感情は……一体、何なのか。
終末世界で異空間チート!無限備蓄で兵王様を攻略します

終末世界で異空間チート!無限備蓄で兵王様を攻略します

32.6k 閲覧数 · 連載中 · 夜明けのソラ
渡辺千咲は大学卒業後、人生のどん底に落ち、みじめな思いで故郷に戻った。ところが、幼い頃に覚醒した役立たずの空間が突然見知らぬ男に結び付けられた。

男の方は食料不足、渡辺千咲の方は金欠で、二人は意気投合して互いに協力することになった。

「俺のいる場所では、金やダイヤモンドが地面に落ちていても誰も拾わない」

渡辺千咲はそれを聞いて目を輝かせた。男のいる時空では終末が訪れ、動植物が変異し、土地は耕作不能、水源は汚染され、さらに人類の安全を脅かすゾンビがいるのだった。

中島暁は終末世界で一年間苦しみながらも生き抜き、弾薬も食料も尽きて重傷を負いながらも、最後まで信念を貫き、仲間を見捨てることを拒んだ。

「唐揚げ、肉まん、きれいな水、あなたが欲しい物資なら何でも調達してやる!」

渡辺千咲はもはやみじめではなくなった。クリスタルのエネルギーで肌が白くなり体質が改善され、眼鏡も外せるようになり、金や骨董品が手に入り続けた。

中島暁が終末世界から持ち込んだ書籍、詞曲、漫画……によって、渡辺千咲は一躍文学芸術の大家となった。

祖母や、偽善的で貪欲な親戚たちが泣きながら彼女に許しを求めた。

数年後、記者が渡辺千咲の願いを尋ねた――

「世界平和を願っています」

大げさだと思う人もいたが、後になって戦乱を平定したのも彼女、経済を発展させたのも彼女、薬剤を発明したのも彼女の部下のチーム、ウイルス爆発を救ったのも彼女だったことが分かった。

終末世界で彼女は最後の人類を率い、ゾンビに勝利し、赤い月の終末災害を乗り越えた。

彼女の願いは実現したのだった。