彼女に花婿を奪われたら、私は竜王を手に入れた

彼女に花婿を奪われたら、私は竜王を手に入れた

大宮西幸 · 完結 · 17.0k 文字

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紹介

これは、人間とファンタジーの種族が共存する時代。人狼がビル群を駆け抜け、雲の切れ間からは時折、巨大な竜の翼がかすめていく。私の一族の「本家」は、この世界で立脚し発展していくために、20年前に竜族とある契約を交わした。

分家の中でも最も冷遇されている娘である私は、竜王の伴侶に選ばれてしまった。契約書には、はっきりとこう記されている。
――私が成人してから5年以内に嫁ぐことができなければ、竜族の領地へと赴き、婚姻の義務を果たさなければならない。

この5年間、私が結婚しようとするたびに、その式はすべて妹のハンナにぶち壊されてきた。
そして今日がその5年目。私はついにウェディングドレスを身にまとい、幼馴染のデレクと結婚するはずだった。

しかし、まさか結婚式が始まるわずか1時間前、ハンナが控室で血を吐いて倒れるなんて思いもしなかった。彼女はデレクの手を握りしめ、自分はもう今月いっぱいも生きられないと泣き叫んだのだ。

そして私の両親は、私の肩を力任せに押さえつけた。
「結婚式をハンナに譲ってあげなさい! この子は死にかけているのよ!」

彼らは何も分かっていない。もし私が今日、デレクと結婚できなければ、竜族の使者たちが私をすぐに連れ去ってしまうということを。

そして私は二度と、ここへは戻れなくなるということを。

チャプター 1

ここは、人間と人外の種族が共存する時代。人狼は高層ビルの谷間を駆け、雲間にはときおり巨大な竜の翼が影を落とす。一族が生き残り、発展するために、本家は二十年前、竜族と一通の契約を交わした。

分家の中でもとりわけ冷遇されてきた娘である私が、竜王の伴侶に選ばれたのだ。契約にははっきりと記されている。成人してから五年以内に嫁げなかった場合、竜族の領地へ赴き、婚姻の義務を果たすこと。

そしてこの五年間、私の結婚式は一度としてまともに執り行われなかった。すべては、妹のハンナに台無しにされたのだ。

今日は五年目。ようやく私は純白のドレスに袖を通し、幼なじみのデレクに嫁ぐはずだった。

――まさか、式が始まる一時間前に、ハンナが血を吐いて控室で倒れるなんて。

彼女はデレクの手にすがり、泣きながら言った。自分は今月を越えられない、と。

その横で、両親は私の肩を左右からがっちり押さえつける。

「ハンナに式を譲りなさい! あの子はもうすぐ死ぬのよ!」

彼らは知らない。私が今日デレクと結婚できなければ、竜族の使者が即座に私を連れ去ることを。

そして一度行けば、もう二度と戻れないことを。

一秒前まで、私は鏡の前に立っていた。真っ白なドレスを見つめながら、少し後にデレクがどんな顔で私を迎えるのか、そんなことを想像していた。

次の瞬間、控室の扉が乱暴に押し開けられた。両親が飛び込んできて、私の肩を左右から押さえつける。

母の声は、有無を言わせない強さを帯びていた。

「ハンナが危篤なの。式はあの子に譲りなさい。あの子は小さい頃からずっと苦労してきたでしょう? 死ぬ前に一度くらい、晴れやかに花嫁になりたいのよ。あなたは条件もいいし、結婚なんてこの先いくらでもできるじゃない」

父も追い打ちをかける。

「今月を越えられないんだ。最後の願いくらい叶えてやれ」

私は口を開いた。今日が、私とデレクにとって五度目の結婚式だと告げようとして。

けれど母が先回りして言った。

「デレクはもう同意してるわ」

頭が真っ白になり、私は扉口に立つデレクを見た。彼の視線は揺れている。罪悪感が滲んでいるのに、言葉だけは妙にきっぱりとしていた。

「ごめん。今回の式はハンナに譲って、願いを叶えてやってほしい。……ハンナがいなくなったら、次はもっと盛大なのを必ず挙げる。約束する」

その瞬間、急に、何も言いたくなくなった。

私が黙り込むと、彼らは嬉々としてハンナを囲み、控室を出ていった。残されたのは私ひとり。

床には、私が引きちぎるように外したベールが散らばっている。鏡の中の私は――滑稽だった。

ぶる、とスマホが震えた。画面に表示されたのは当主からの着信。

出る。

「メレディス。君の婚約者がハンナと式を挙げることにしたと聞いた」当主の声が淡々と響く。「今年で五年目だ。これ以上嫁げないとなれば、契約を履行することになる」

私はスマホを握り締めた。

「……承知しています」

「では、同意するのか」

目を閉じると、いくつもの場面が脳裏に流れ込んだ。

デレクとは幼い頃から一緒だった。彼は何度も言った。「大きくなったらお前と結婚する」――と。成人してからは式の準備を進め、周囲の誰もが私たちの結婚を待ち望んだ。

けれどそのたびに、ハンナが壊した。

一年目。式の前夜、ハンナは手首を切った。家族は私を置き去りにして病院へ駆け込み、式は中止。

二年目。式の最中、彼女は動画を送りつけてきた。屋上で飛び降りる、と。デレクも両親も狂ったように飛び出し、私は空っぽになった式場に取り残された。

三年目、四年目。毎回、彼女は別の理由を見つけてきた。交通事故、失踪、誘拐。どんなときも家族は迷いなく彼女を選んだ。

そして今年は、ついに「末期の不治の病」などという、あまりにも都合のいい嘘まで持ち出した。

私は何度も伝えてきた。今年が期限だ、結婚できなければ竜族の領地へ行くことになる、二度と帰れない――と。

それでも彼らは信じなかった。オルドリッジ本家がラングフォード分家の娘を選ぶはずがない、と。契約など脅しで、竜族が本当に来るわけがない、と。

――違う。彼らが間違っている。

「同意します、当主様」私は目を開けた。自分の声は、思ったよりもずっと静かだった。「お迎えの手配を、お願いいたします」

通話が切れる。

窓の外が騒がしい。

私は窓辺へ歩み寄った。庭には、すでに整えられた式場が広がっている。

花のアーチの下。ハンナが私のドレスを着て、デレクの腕に縋るように寄り添って立っていた。顔色は青いのに、笑みだけがやけに甘い。

招待客たちは周囲を取り囲み、次々とスマホを掲げて撮影している。

ウィットマン家の長男の結婚式――その様子は最初から最後まで配信される。私はスマホで配信ルームを開いた。画面にはコメントが流れ、投げ銭の演出が派手に踊る。

「花嫁きれい!」

「ハンナ、長生きして……!」

「デレク優しすぎる。重病の子と結婚するとか、まじ聖人じゃん」

司会の声が響いた。

「それでは、新郎。花嫁にキスを」

私の指が、無意識にカーテンを握り潰した。

デレクは一瞬だけ躊躇した。だが結局、彼は顔を伏せる。ハンナの頬を両手で包み、その唇にキスを落とした。

その瞬間、幼い頃からの記憶が閃光のように脳裏を駆け抜けた。甘いものも、苦いものも、怒りに歪んだものも、すべて。

心の奥で張り詰め続けていた何かが、ぷつりと切れた。

配信ルームのコメントが、狂ったように流れていく。演出も、ひとつ、またひとつと重なる。

その中に、不意に場違いな一文が混じった。

「え? ハンナって姉いたよね。なんで姉は来てないの?」

続けて、悪意が雪崩れ込む。

「その女でしょ。五年もデレクに粘着してたって噂。今デレクはハンナと一緒なんだし、しつこいのは姉の方じゃん」

「うわ、そういう女マジで無理。自分に価値ないくせに他人に突っかかってくるやつ」

この数年、ハンナが欲しがるものは、どんな手を使ってでも私から奪われた。

私が取った賞は「自信をつけさせるため」とハンナに渡された。バイトで貯めた金は親に「借りる」と言われ、ハンナへのプレゼントに消えた。部屋まで明け渡した。「ハンナは体が弱いから日当たりのいい部屋が必要」――そう言われて。

そして今、デレクまで。

私はスマホを置いた。

もう、何も譲らない。

だって私は――もう失うものなんて、何ひとつ残っていないのだから。

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