控えの選手がキャプテンの彼女を奪った

控えの選手がキャプテンの彼女を奪った

大宮西幸 · 完結 · 19.5k 文字

429
トレンド
429
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

チームが再び勝利を収めたその夜、体育館の歓声は屋根を吹き飛ばしそうなほどだった。

リンクの上では、キャプテンが新しく来たチアリーダー部長を抱きかかえ、ライトの下で旋回しながら滑っていた。スケート靴が美しい弧を描く。チームメイトたちは口笛を吹いてはやし立て、誰かが「告白しろ」と叫び、誰かがスマホで写真を撮っていた。全員が私の登場を待っていた――泣きながらリンクに駆け込んで、膝をついて彼に振り向いてくれと懇願する、いつものように惨めで滑稽な姿を見るために。

でも誰も知らなかった。今この瞬間、私は更衣室の最も奥の物置スペースで、冷たい金属ロッカーに押し付けられていることを。

普段は無口な控え選手が私の首筋を掴み、抑えきれない震えを含んだ声で言った。「本当に後悔しないか?」

私はつま先立ちになって、自分から唇を重ねた。

チャプター 1

 チームがまた勝利をもぎ取った夜、アリーナの歓声は天井をひっくり返しそうな勢いだった。

 リンクの上では、キャプテンが新入りのチアリーダーを抱き寄せ、照明の下でくるりと回りながら滑っている。スケート刃が氷を裂き、きれいな弧を描いた。仲間たちは口笛を鳴らして囃し立て、「告白しろ!」と叫ぶ声もあれば、スマホを構えて撮影するやつもいる。

 みんなが待っているのは、私の登場だ。

 泣きながらリンクへ飛び込み、膝をついて彼に縋りつき、振り向いてくれと懇願する――いつもみたいに、みじめで滑稽な私を。

 けれど誰も知らない。

 その瞬間の私は、更衣室のいちばん奥、用具の収納スペースで、冷たい金属ロッカーに押しつけられていた。

 普段は寡黙な控え選手が、私のうなじを掴んだまま、抑えた声を震わせる。

「……本当に、後悔しないのか」

 私はつま先立ちになり、答えの代わりに唇を重ねた。

 ブレイク・ハートウェルが、あのチアリーダーに告白する――そんな段取りを、チーム全員が知っていた。ブレイクはわざわざ仲間に釘を刺していたらしい。私の耳に入れるな、と。

 でも、世の中に完全な秘密なんてない。面白がりたい誰かが、我慢できずに私へ知らせてきた。

 みんな、私が壊れるところを見たがっている。

 当然だ。長い間、私はブレイクの後ろを追いかけ続けた。その姿を、彼らは嫌というほど見てきたのだから。中学から今まで、私は尻尾みたいに彼にくっついて、バッグを持ってやり、朝食を買ってやり、観客席から彼のゴール一つ一つに歓声を送った。

 だから彼らは決めつけている。私がリンクへ駆け込み、泣いて、どうして捨てるのかと詰め寄るのだと。

 けれど――今回は違う。

 私はアリーナの入口に立ち、ガラス越しに氷上の二人を見た。ブレイクの腕はブルックの腰を抱き、滑りは優雅で、見せつけるように派手だ。彼は生まれつきの主役で、喝采も視線も、最初から欠いたことがない。

 そこへコーチがリンク脇から歩いてきて、眉をひそめた。

「行って止めてこい。やりすぎるな。明日も練習だぞ」

 私は手にしていたスポーツドリンクを見下ろし、そのままゴミ箱へ放り込んだ。

「もう、知らない」

 踵を返して歩き出す。

 背後で、呆気にとられた沈黙が落ちた。続いてひそひそ声が広がる。「何する気?」という声も聞こえたし、ブレイクの滑走音がふっと止まる気配もした。

 振り返らなくても、想像はつく。眉を寄せ、気に入らないものを見るような、あの陰った顔。

 出口へ向かう途中、私はふいに足を止めた。

 背中越しに、議論が一気に膨らむのがわかる。

「ほら、言っただろ!」

「結局、我慢できないんだよ!」

 私は向きを変え、リンク脇へ戻った。ブレイクの口元に、得意げな弧が浮かぶ。ブルックを離し、フェンス際まで滑ってきて、上から見下ろす。

 泣くのを待ってる。縋りつくのを待ってる。

 私は何も言わず、ただ手首を持ち上げた。そして皆の前で、編み込みのブレスレットを解く。

 彼が十六歳の誕生日に、自分の手で編んでくれたもの。三年間、一度も外したことがなかった。

「返す」

 フェンス越しに差し出す。

 ブレイクは受け取らず、鼻で笑った。

「俺はゴミ回収じゃない」

 私は頷いて笑った。肩の力が抜けるような、解放されるような笑いだった。

 それから背を向け、ブレスレットをリンク脇のゴミ箱へ投げ入れる。

 振り返らないままアリーナの扉を押し開け、夜の闇へ歩き出した。

 扉が閉まると同時に、背後のどよめきは遮断された。足を止めない。振り返らない。

 私が去ったあと、リンクには短い沈黙が落ちた。

 仲間たちは顔を見合わせる。ブレイクの顔色は最悪で、視線は凍りつくほど冷たい。

 やがて誰かが沈黙を破った。

「どうせ芝居だろ。気を引きたいだけ」

「女ってそういうもんだしな。今夜中に謝罪メッセ送ってくるに決まってる」

「入口の外で泣いてたりして」

 その慰めを聞いて、ブレイクの表情は少しだけ緩んだ。私と彼は八歳からの付き合いだ。私が「怒って出ていく」真似を何度してきた? 結局いつも、泣きながら戻ってきて、「ごめんなさい」と言って、「拗ねた私が悪かった」と頭を下げた。

 彼は私を知り尽くしているつもりだった。

 ――彼がいなければ、私は何者でもない。そう信じている。

 そう思うと、ブレイクは口角を上げ、ブルックの肩を抱き寄せた。彼女の耳元で何か囁くと、ブルックが照れたように軽く押し返す。仲間たちはまた囃し立て、祝勝の熱はすぐに戻っていった。

 誰も気づかない。

 ゴミ箱の中で、古いブレスレットが空き缶に挟まれ、静かに横たわっていることに。二度と、拾い上げられることもなく。

 アリーナを出たとき、空から細い雨が落ち始めていた。

 傘はない。でも取りに戻る気もしない。雨が髪と服を濡らし、ひやりとした冷たさを運んでくる。その冷たさが、頭の中を妙に冴えさせた。

 キャンパスは静かだった。遠くのアリーナから、かすかな歓声だけが届く。私は人気のない道をゆっくり歩き、雨脚が強くなるのに身を任せた。

 脳裏に、前の人生の光景が何度もフラッシュバックする。

 同じ夜。勝利の祝勝会。あのときの私はリンクへ飛び込み、皆の前で膝をつき、ブレイクに泣いて縋った。離れないで、と。

 彼の目は氷みたいに冷たかった。みっともない、見苦しい、気持ち悪い――そう言った。

 仲間たちは腹を抱えて笑い、ブルックは彼の腕に絡みつき、哀れむような目で私を見下ろした。

 そのあと私は学校から退学を勧告された。ブレイクの家も、もう私を助けなくなった。無一文で路上に放り出され、土砂降りの夜、路地裏で倒れた。

 死ぬ間際に、ただ一人だけ私を見つけた人がいる。

 普段は口数が少なくて、控え席のいちばん端にいるような男の子だった。

 彼は上着を脱いで私にかけ、私を抱きかかえたまま雨の中を走った。何度も何度も、私の名前を叫び続けた。

 けれどその頃の私は、もう聞こえていなかった。意識が滲む直前に覚えているのは、彼の熱い涙が私の頬に落ち、冷たい雨に混じっていったことだけ。

 私は立ち止まり、夜空を見上げた。雨が視界をぼやけさせる。それでも、今の私は前よりずっとはっきりしている。

 神様が、やり直す機会をくれたのだ。

 今度こそ、運命を、自分勝手で冷たい男の手に預けたりしない。私を一度も大切にしなかった相手のために、尊厳を捨てたりしない。

 今度は、目を覚ましたまま生きる。

 もっと身勝手に。

 自分のために。

最新チャプター

おすすめ 😍

氷の君と太陽の私

氷の君と太陽の私

36.3k 閲覧数 · 完結 · 鍋部奈
裏切られ、後悔に溺れながら死んだ私は、恐れられ冷酷な婚約者が私を救おうと身を投げる姿を見た。

運命が私を引き戻した——薬を盛られた結婚初夜、彼の腕の中で生まれ変わったのだ。これは私の二度目のチャンス。

かつて逃げ出した男こそが私の運命。彼の狂おしい愛こそが、私の最強の武器。世界が恐れる男を受け入れ、彼の姫となろう。共に、私たちを破滅させた裏切り者どもを灰燼に帰すのだ。

しかし私の突然の献身は、彼に疑念を抱かせる。心を砕いてしまった男に愛を証明するには、どうすればいいのだろう……彼の最も暗い欲望が、私を永遠に縛り付けることだと知りながら。
婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

28.4k 閲覧数 · 連載中 · やもり
裏切りと陰謀が渦巻く世界で、妃那(えな)は突然の誘拐事件に巻き込まれる。
救いの手を差し伸べたのは謎めいた男・葉夜(かなや)だったが、彼の真意は読めない。
一方、妃那の宿敵であり自信家の祈葉(いのか)は、自らの美貌と魅力を武器に黒社会の頂点を目指すが、
思いもよらぬ残酷な試練に追い込まれていく。
誤解と嫉妬、愛と憎しみが絡み合い、
それぞれの思惑がやがて一つの危険な運命へと収束していく――。
名門貴族との甘い結婚

名門貴族との甘い結婚

3.9k 閲覧数 · 連載中 · 佐藤製作所
かつて勘当した娘がホワイトシティで名を馳せたことを知り、愕然とした。産業界の巨人、学術界の権威、そしてAリストの俳優たちが、彼女のおかげで成功を収めたと口を揃えて語った。彼女の元カレは、夢の女性を選んで彼女を捨てたものの、今や彼女を取り戻そうと必死に懇願していた。しかし、彼女のそばには、背が高くハンサムな男性が立ち、「私の妻に何をしているつもりだ?」と宣言した。
その男性こそ、ホワイトシティ一の大富豪だったのだ。
仮面を脱いだ本物の令嬢に、実の兄たちは頭を垂れた

仮面を脱いだ本物の令嬢に、実の兄たちは頭を垂れた

85.4k 閲覧数 · 連載中 · 佐藤製作所
里親の母は私を虐待していたし、義理の姉は最低な女で、よく私をいじめては罪を着せていた。この場所はもう私にとって家じゃなくて、檻になって、生き地獄になっていた!
そんな時、実の両親が私を見つけて、地獄から救い出してくれた。私は彼らがすごく貧しいと思ってたけど、現実は完全にびっくりするものだった!
実の両親は億万長者で、私をすごく可愛がってくれた。私は数十億の財産を持つお姫様になった。それだけでなく、ハンサムでお金持ちのCEOが私に猛烈にアプローチしてきた。
(この小説を軽い気持ちで開くなよ。三日三晩も読み続けちゃうから…)
余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

26.5k 閲覧数 · 連載中 · 七海
結婚して5年、夫とは円満だと思っていた。
しかし、運命は残酷だ。

病院で「白血病」という絶望的な診断を受けたその日。
震える足で帰宅した私の目に飛び込んできたのは、夫の裏切りの証拠だった。

私たちの神聖な寝室。
そのベッドの上には、無惨に引き裂かれたレースの下着がわざとらしく残されていたのだ。

それは明らかに、夫の愛人からの宣戦布告。
「あなたはもういらない」と嘲笑うかのような、残酷なマウントだった。

命の期限を突きつけられた日に、愛まで失った私。
絶望の淵で、私はある決断を下す。
ブサイクな男と結婚?ありえない

ブサイクな男と結婚?ありえない

97.5k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
意地悪な義理の姉が、私の兄の命を人質に取り、噂では言い表せないほど醜い男との結婚を強要してきました。私には選択の余地がありませんでした。

しかし、結婚後、その男は決して醜くなどなく、それどころか、ハンサムで魅力的で、しかも億万長者だったことが分かったのです!
クズ男の叔父さんと結婚したら、溺愛されすぎ

クズ男の叔父さんと結婚したら、溺愛されすぎ

14.4k 閲覧数 · 連載中 · 佐藤製作所
安田美香は彼氏の藤原辰が本当に自分のことを好きかどうか試そうと思い、自分が誘拐されたふりをして藤原辰を脅したのですが、藤原辰は安田美香のことを全く気にかけず、むしろ安田柔子のことをもっと心配していました。安田美香が失望のどん底にいたその時、クズ男の元カレである叔父の藤原時が駆け込んできました。
社長、突然の三つ子ができました!

社長、突然の三つ子ができました!

96.2k 閲覧数 · 連載中 · キノコ屋
五年前、私は継姉に薬を盛られた。学費に迫られ、私は全てを飲み込んだ。彼の熱い息が耳元に触れ、荒い指先が腿を撫でるたび、震えるような快感が走った。

あの忌まわしい夜から逃げるように去った私だったが、ほどなくして三つ子を妊娠していることに気付く。

五年後、医療界の新星として戻ってきた私は、継母、継姉、実の父へ全ての仕返しを誓う。

その時、彼が現れた。三人の小さな自分そっくりの顔をじっと見つめながら、優しく「パパ」と呼ぶよう子供たちを誘う彼。

ふとシャツのボタンを外し、悪戯っぽく笑って言った――

「どうだい、あの夜の熱をもう一度味わってみないか?」
離婚カウントダウン ~クズ夫の世話なんて、誰がするか!

離婚カウントダウン ~クズ夫の世話なんて、誰がするか!

12.2k 閲覧数 · 連載中 · 水瀬結
あいつらは、私がただの『無力な盲目の妻』だと思っている。……とんだ勘違いだ。

奇跡的に視力を取り戻した私が最初に目にしたもの。それは、愛人と絡み合う『献身的な夫』の姿だった。彼の『揺るぎない愛』など真っ赤な嘘。すべては私の莫大な財産を奪うための策略に過ぎなかったのだ。

今度は私が騙す番だ。証拠を徹底的に集め、彼からすべてを奪い取ってやる。

だが、私の復讐劇は予期せぬ展開を迎える。街で最も強大な権力を持ち、冷徹と噂される大富豪が現れたのだ。彼は私の秘密――目が見えていること――を知っていた。そして、悪魔のような取引を持ちかける。
『俺の個人秘書になって借金を返せ。あの夫への制裁……俺も手を貸してやろう』

愚かな夫は、盲目の私を弱者だと信じ込んでいる。だが彼は間もなく思い知ることになるだろう。
視力を取り戻した資産家の妻ほど、危険な存在はないということを。
離婚を告げたら、見知らぬ夫が泣き出した

離婚を告げたら、見知らぬ夫が泣き出した

24.7k 閲覧数 · 連載中 · 神楽坂奏
彼女は十九年間、家に養われた偽の令嬢だった。真の令嬢の身代わりとして、顔も見たことのない瀕死の男に嫁がされることになった。

孤児となった自分の人生は悲惨なものになると思っていたが、姓を変えてからの彼女は、一人で見事に人生を切り開いていった。

彼は海城の権力者の代表格で、手段を選ばず冷酷無情だと噂されていた。彼の傍にいる小さな萌え萌えした子供の生母については、海城最大の謎とされていた。

ある日、彼が病に倒れて昏睡状態の時、なんと女が彼の部屋に忍び込み、彼を襲ったのだ!

彼は全市を挙げて犯人を捜索したが、まさか「元凶」がずっと自分の目の前で跳ね回っていたとは思わなかった。しかも、息子の先生だったのだ!

事が発覚すると、彼は彼女を壁に押し付け、顎を掴んで言った。

「先生、随分と派手に遊んでくれたじゃないか」

彼女は封印されていた結婚証明書を取り出した。

「私があなたを襲ったのは、合法よ」

それ以来、彼は彼女を骨の髄まで愛し、天にも昇るほど溺愛した。

「彼女はなかなかやり手ね。家の若旦那の継母になるために、わざわざ幼稚園の先生になったのよ」

「名門の継母なんてそう簡単になれるものじゃないわ。一ヶ月後には家から追い出されるに違いないわ!」

翌日、彼女はSNSで親子鑑定書の写真をアップし、こう添えた。

【申し訳ございません、実の子でした!】
氷の社長が溶かされていく。ストイックな彼の、灼熱の恋

氷の社長が溶かされていく。ストイックな彼の、灼熱の恋

33.6k 閲覧数 · 連載中 ·
彼女が中村良太郎の娘であるというのか。
人の行き交う喫茶店で、少女の白い顔に重い平手打ちが叩き込まれた。
真っ赤に腫れた右頬を押さえ、彼女の瞳は虚ろで、反撃する気など微塵も感じさせない。
周りの人々は、侮蔑と嘲笑の入り混じった視線を彼女に向け、嘲笑うばかりで、誰一人として彼女を庇う者はいなかった。
自業自得だからだ。
誰のせいで、彼女が中村良太郎の娘であるというのか
父、中村良太郎は建築家として、自身が設計した建物で事故が起きたため、有罪判決を受けて刑務所に入ることになった。
母も心労で入院している今となってはなおさらだ。
黒田謙志。中村奈々の現在のスポンサーであり、今朝、会社で彼女と肌を重ねたばかりの黒田家の長男。
今、彼は、自分の婚約者に跪いて謝罪しろと彼女に命じている。
追放された偽物の娘、その正体は最強でした

追放された偽物の娘、その正体は最強でした

32.3k 閲覧数 · 連載中 · ゲゲゲ
「本物の娘が見つかった。お前はもう用済みだ」
あの子が現れたその日、私は『偽物の娘』として家を追い出された。
渡されたのは、わずかな小銭と地方行きの片道切符だけ。
さらに婚約者は私をゴミのように捨て、その日のうちに『本物』であるあの子にプロポーズした。

……上等じゃない。せいぜい勝った気でいればいいわ。
だって彼らは、私の【本当の顔】を何一つ知らないのだから。

名門病院が見放した命を救う『天才外科医』。
オークションで数億円の値を叩き出す『伝説の画家』。
裏社会の闘技場で無敗を誇る『影の女王』。
そして――彼らの全財産すら小銭に思えるほどの『真の巨大財閥の後継者』であることを。

今さら元婚約者が土下座で許しを請おうと、本物の娘が嫉妬で狂いそうになろうと、もう遅い。
かつて私に婚約破棄の書類を叩きつけた冷酷で傲慢なCEOでさえ、今や何かに取り憑かれたように私を追い回し、「もう一度だけチャンスをくれ」とすがりついてくる始末。

私を捨てて、自分たちの人生を『アップグレード』したつもり?
笑わせないで。最初から、圧倒的に上の存在だったのは私のほうよ。