紹介
泥だらけの小さな女の子が駆け込んで、慎二に向かって叫びました。「パパ!」
慎二は完全に困惑した様子で、私はただそこに凍りついたように立っていました。なぜなら、この女の子は本当に慎二によく似ていたからです。
女の子は自分の名前は美佳で、慎二と由実の未来からやってきた娘だと言い、両親を元の関係に戻すためにここに来たのだと言いました。
慎二は唖然としていました。すべての来賓も唖然としていました。なぜなら、私の名前は由実ではないからです。
チャプター 1
井上結衣視点
私は白いブーケを手にチャペルの祭壇に立っていた。目の前にはタキシード姿の慎二がいて、あの黒い瞳で私を見つめている。
やっとだ。二年……私たちはついに、ここまで来たんだ。
後ろの席には百人もの招待客が詰めかけている。その半分も知らない人たちばかり。慎二の家の友人、取引先の人々……私がこれから正式に一員となる、彼の世界の住人たちだ。母は最前列でハンカチに顔をうずめて泣いている。その隣には、ベージュ色のスーツに身を包んだ慎二のお母様が座っていた。
招待客たちから囁き声が聞こえてくる。「お似合いの二人ね」「彼女、本当に幸運だわ」「山崎家の結婚式はいつも最高ね」
幸運、ね。私はこの日のためにB市の仕事を辞めた。マンションも、友達も、何もかも捨ててきた。慎二が、自分のキャリアはここにあるから、ここで人生を築こうと言ったから、T市に引っ越してきた。彼を愛していたから、それが私の望むことだと思っていたから、そうしたのに。
パイプオルガンの音が高まり、牧師が厳かな声で話し始めた。「皆様、本日はお二人の結婚式にお集まりいただき......」
心臓が激しく脈打っていた。慎二が私の手を握りしめ、私も握り返す。自分を落ち着かせようと必死だった。あと五分で、私は山崎さんになる。山崎結衣。それが私の新しい名前。
何もかもが完璧だった。誓いの言葉も、演奏も、何時間もかけて準備してきた結婚式の計画が、寸分の狂いもなく進んでいく。人生で一番幸せな日になるはずだった。
牧師の声が、私の思考を遮った。「井上結衣さん、あなたは山崎慎二さんを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しいときも、生涯を共にすることを誓いますか」
言うのよ。はい、誓いますって。それだけでいい。
私が口を開きかけた――その時だった。
チャペルの扉が、凄まじい音を立てて開け放たれた。
その音は壁に反響し、誰もが一斉に振り返った。オルガンの演奏が途中でぷつりと途切れ、突然、しんと静まり返った。静寂を破ったのは、バージンロードを走ってくる小さな子供の足音だけだった。
ピンクのドレスを着た小さな女の子。泥だらけで、髪は乱れ、息を切らしながら走ってくる。
……何、これ。
「パパ!」
その声は甲高く、大きく、そして場違いだった。この瞬間に、あまりにも不釣り合いな声だった。女の子は呆然とする招待客たちの間を、私の両親の前をまっすぐに駆け抜け、私たちの元へと向かってくる。
私の手を握る慎二の手に、ぐっと力が入った。彼の顔を見ると、さっと血の気が引いていた。
「パパ!」少女は慎二のもう片方の手を掴んだ。その時、私ははっきりとその子を見た。その瞳。慎二とそっくりな、茶色い、こげ茶色の瞳。そして顎には、慎二の一族が持つ、あの小さなくぼみがあった。
「私、美佳!」少女は早口で、言葉を次々にまくし立てた。「由実さんとの娘だよ! 未来から来たの! ママがパパのもとを去ったのは、ママのせいじゃない! おばあちゃんのせいなの! おばあちゃんがママを脅したんだ!」
後ろで、慎二のお母様が奇妙な、息を詰まらせるような音を立てるのが聞こえた。
「ママ、結婚式のことを聞いて戻ってきたの」美佳ちゃんは、あの瞳で慎二を見上げながら続けた。「今、空港にいるんだよ、パパ。ママ、あなたを待ってる。でも、今すぐ行かないと、ママは永遠にどこかへ行っちゃう!」
私の持っていたブーケが、手から滑り落ちた。花が床に当たる音を聞くまで、自分がそれを落としたことにさえ気づかなかった。
由実。その名前には聞き覚えがあった。彼が前に口にしたことがある。何でもない、もう終わったことだと言っていた名前。
慎二は、その子をただ見つめていた。口は開いているのに、言葉が出てこない。そして彼の顔が、ああ、彼の顔が、私の目の前で変わっていく。驚きが溶けて、別の何かに。私を吐き気でいっぱいにする何かに。
彼は、希望に満ちた顔をしていた。
まるで、ずっと欲しかったもの全てが空港で待っていると、そう告げられたかのような顔だった。
「慎二?」私は呼びかけた。
彼は私の声を聞いていなかった。彼は美佳を、自分の娘だと名乗るこの小さな女の子を見ていた。そして私の手から、彼の手が……するりと、抜け始めていた。
「そんなこと、あり得ない」と、後ろのどこかで慎二のお父様が言った。
「慎二、あの子の言うことなんて聞くんじゃありません、どう見ても――」慎二のお母様が言いかけたが、慎二は彼女にも注意を払っていなかった。
「由実」と、彼は囁いた。その一言で、私はすべてを悟った。
彼は行くんだ。なんてこと……本当に、私を祭壇に置き去りにして行くつもりなんだ。
「慎二、待って――」
でも、彼はもう動き出していた。タキシードのジャケットを乱暴に脱ぎ捨て、床に落ちるのも構わなかった。窓から差し込む陽光が彼の顔を照らし、そこに浮かぶ感情がすべて見えた。罪悪感――ええ、それもあった。でも、それ以上に、高揚感があった。まるで、ここから一刻も早く逃げ出したくてたまらないというように。
「ごめん」と彼は言った。私にではなかった。彼は美佳ちゃんを見てそう言った。「確かめなきゃいけないんだ」
そして、彼は走った。
百人の招待客を、今やまったく違う理由で泣いている私の母を、すべての人を通り過ぎて、彼はバージンロードを駆け抜けていった。彼の後ろで、扉がバタンと閉まる。
行ってしまった。
彼は行ってしまった。慎二は、ウェディングドレス姿の私をここに残して、行ってしまった。
誰も動かない。百人もの人々が、花婿のいない祭壇に一人で立ち尽くす私を、床に散らばった花を、ただじっと見つめている。すべての視線が突き刺さるようだった。同情している人もいれば、今年一番のゴシップを手に入れたと興奮している人もいる。でも、誰もが私を見ていた。
慎二のお母様が、真っ青な顔で立ち上がった。「佐藤由実……七年前、慎二と付き合っていた女性がいましたの。ご家族との間に誤解があって……私は……ああ、なんてこと。最悪だわ」
私の父はすでに慎二のご両親に怒鳴りつけていた。母は泣いている。誰もが一度に話し始め、その声はどんどん大きくなっていくけれど、私には何もはっきりと聞こえなかった。耳の中でキーンという音が鳴り響いて、すべてを遮断していた。
泣いちゃだめ。この人たちの前で、絶対に泣くんじゃない。
私は無理やり笑顔を作った。ひどく歪んでいる気がした。
「結婚式は中止です」どういうわけか、声は落ち着いて出た。「本日はお集まりいただき、ありがとうございました。披露宴会場でお食事は、どうぞお楽しみください」
人々が動き出し、話し始め、同情的な顔でこちらへ向かってくる人もいれば、ひそひそと囁き合う人もいた。私はただそこに凍りついたように立ち尽くし、まるで他人事のように、周りで起こるすべてを眺めていた。
その時だった。彼女が目に入ったのは。
美佳ちゃん。
彼女は隅の方に一人で立っていた。誰もがもう彼女のことなど忘れていた。噂話や口論や、その他もろもろに夢中で。ピンクの泥だらけのドレスを着た小さな子供が、この混乱の真ん中で、ちっぽけで、迷子のように見えた。
大きな瞳で私を見ていたけれど、その表情は悲しそうだった。してやったりという顔でも、自分のしたことを喜んでいるわけでもない。ただ、悲しんでいる。五歳の子の顔には似つかわしくない、深い悲しみをたたえて。
この子はただの子供だ。慎二と、あの佐藤由実という人の間に何があろうと、この子が望んだことじゃない。
どうしてそんなことをしたのか、自分でも分からない。彼女が、私と同じくらい孤独に見えたからかもしれない。慎二が、何の躊躇もなく彼女をここに置き去りにしたからかもしれない。あるいは、ショックでまともな考えができなかっただけかもしれない。
私は彼女の元へ歩み寄った。近くで見ると、彼女が泣いていたことがわかった。顔の泥の上を、涙が筋になって流れていた。
「ごめんなさい」と、彼女は囁いた。
私はひざまずいた。ドレスはきっと台無しになるだろうけど、もうどうでもよかった。「名前、なんていうの?」
「美佳」
美佳。私の人生をめちゃくちゃにした、この子。
憎むべきだ。激怒すべきだ。でも、怯えたその小さな顔を見ていると、ただ……分からない。疲れて、悲しくて。そして奇妙なことに、行くあてのないこの子を守ってあげたいという気持ちが湧いてきた。
「わかったわ、美佳ちゃん」私は彼女の手を取った。小さくて、べたべたしていて、でも確かな感触があった。「あなたの『パパ』と『ママ』は、二人ともあなたを置いて逃げちゃった。だから今夜は、おばさんのところに泊まりなさい」
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「?」













