紹介
だが事実はこうだ。会社のお盆休みは9日間。残業は希望者のみで、賃金は3倍。さらに日当5万円の食事補助、そして50万円のボーナス。残業しなくても減給なんて一切なし。
それなのに、ネット中が「社員に命を削らせて金を取る鬼畜社長」みたいに叩き出した。
……なら、望みどおりにしてやる。
私は全社員へ通達を流した。
お盆期間中、社員の心身の健康を守るため、社屋を封鎖し停電とする。いかなる理由があろうと残業を禁止。違反者は即刻解雇。
通達を出した途端、残業代で住宅ローンを返すつもりだった連中が発狂した。今や全員、会社の前に押しかけて、扉を開けてくれと泣きついている。
チャプター 1
会社の社員が私のことをネットで告発した。「金で命を買う」だの何だのと言って、お盆休みに残業を強要した、って。
だが事実はこうだ。会社のお盆休みは9日間。残業は希望者のみで、賃金は3倍。さらに日当5万円の食事補助、そして50万円のボーナス。残業しなくても減給なんて一切なし。
それなのに、ネット中が「社員に命を削らせて金を取る鬼畜社長」みたいに叩き出した。
……なら、望みどおりにしてやる。
私は全社員へ通達を流した。
お盆期間中、社員の心身の健康を守るため、社屋を封鎖し停電とする。いかなる理由があろうと残業を禁止。違反者は即刻解雇。
通達を出した途端、残業代で住宅ローンを返すつもりだった連中が発狂した。今や全員、会社の前に押しかけて、扉を開けてくれと泣きついている。
「今年のお盆休みは、きっちり九日間にする」
会議室の最前列。私は両手を机に突き、六十人余りの社員を見渡した。
言い終えた瞬間、下から歓声が爆発する。
「柚希万歳!」
「九日! やっと帰省して娘に会える!」
「うそでしょ……他社は休み削ってるのに、うちは九日も……!」
私が片手を軽く上げると、ざわめきはすっと引いた。
「ただ、みんなも知っているとおり、中村グループのS級案件は、休み明け初日に初稿提出だ。スケジュールはかなりタイトになる」
声の調子は淡々と、感情は乗せない。
「だからこの九日間、会社としては希望者向けに出勤枠を用意する。強制はしない。完全に本人の意思だ」
一拍置いて、肝心の条件を投げる。
「お盆中に出勤する者には、法定の割増に加えて、私の私費でさらに上乗せする。時給は3倍だ。プロジェクト班は日当5万円の食事補助も付ける。七日間入った者には、私が追加で現金50万円の特別ボーナスを出す」
静寂。
空気が死んだみたいに止まった。
次の瞬間、さっきの十倍はある熱狂が沸き上がる。
シングルマザーの村木は、目の縁を赤くして立ち上がった。毎月30万円の住宅ローンに、保育園へ通う息子。
「柚希、私やります! 七日全部……いや、九日全部入ります!」
村木は頭の中で高速にそろばんを弾いている。3倍賃金に50万円。七日働けば、普段の一か月半分に匹敵する。
「私も申し込みます!」
「私も!」
会議室の温度が一気に上がった。
StarPoint Mediaを立ち上げたのは、こういう連中――本気で踏ん張る気がある、そして本気で金が必要な社会人に、公平な場を用意したかったからだ。
出した分だけ、返す。
夢みたいな言葉は要らない。渡すのは現金だけ。
そのときだった。
熱を帯びた空気を、甲高い女の声がぶつ切りにする。
「柚希、そういうのって……やりすぎじゃない?」
全員が声の方を見る。
入社してまだ半年も経っていない企画アシスタントの平原だった。きっちり整えたメイク、片手にはコーヒー。顔は正義感でいっぱい、という表情。
私は視線を向け、冷たく返す。
「やりすぎ? どこが」
平原は立ち上がり、周囲の同僚を見回した。まるで民のために声を上げる英雄気取りだ。
「それ、実質的に残業を推奨してるのと同じです! 休みの不安を煽ってる!」
声がどんどん大きくなる。
「国が休みを決めてるのは、社員にちゃんと休ませるためでしょ? そこにそんな高い残業代をぶら下げたら、周りが出勤してお金もらってるの見て、安心して休めますか? これって、命と引き換えにお金を取ってるのと同じです!」
会議室の熱が、すうっと冷えた。
村木が眉をひそめ、言い返そうとして口を開きかける。だが、数人の若手がうなずく気配を見て、言葉を飲み込んだ。
「命と引き換え?」
私は笑った。笑ってはいるが、目に温度はない。
「平原。さっきからはっきり言ってる。自・主・的・な出勤だ」
「休む方が大事だと思うなら、九日間きっちり休め。給料は一円も引かない。出勤しないからってクビにもしない」
「だがな、自分が頑張りたくないって理由で、他人が稼ぐ機会まで奪うな」
平原は衆目の前で切り返され、顔色が青くなったり赤くなったりする。
「でも、それって職場の不公平じゃないですか? 出勤する人だけそんなにお金もらったら、普通に休む私たちは……気持ちが釣り合わないじゃないですか!」
強盗みたいな理屈に、笑いそうになるのをこらえるのがやっとだった。
「働いて稼ぐのが不公平? 釣り合いが欲しいなら簡単だ。お前も出勤すればいい」
これ以上相手にする気はない。私は机を軽く叩き、結論だけ落とした。
「募集は今日の退勤まで。以上、解散」
私はそのまま踵を返し、社長室へ戻った。
底なしの善意は、感謝を育てない。育つのは欲望だけ――甘やかされて肥えた、でかい赤ん坊みたいな人間だ。
これで終わりだと思っていた。
三十分後、社長室のドアが控えめに叩かれる。
平原が入ってきた。目の周りが赤い。世界一かわいそうなのは自分、とでも言いたげな顔。
「柚希……」
彼女は下唇を噛み、しおらしく言う。
「さっきの会議、言い方がきつすぎました。気にしないでくださいね」
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実の両親は億万長者で、私をすごく可愛がってくれた。私は数十億の財産を持つお姫様になった。それだけでなく、ハンサムでお金持ちのCEOが私に猛烈にアプローチしてきた。
(この小説を軽い気持ちで開くなよ。三日三晩も読み続けちゃうから…)













