紹介
チャプター 1
夜も更けた頃、江口雲上(えぐちうんじょう)は接待を終え、午前零時に自宅へ戻った。
二十一歳にして、A市随一の若手富豪として知られる彼は、江口グループの舵取りとして、市内の他企業を大きくリードしていた。
日頃の接待は避けられないものの、今夜は少し飲み過ぎてしまい、玄関まで秘書に支えられての帰宅となった。ふらつきながら寝室へ向かうと、ベッドサイドのランプが柔らかな明かりを放っていた。その微かな光は、視界を完全には明るくせず、暖かく心地よい眠りを誘う雰囲気を醸し出していた。
シャワーを浴び終えた彼は、いつものように全裸で布団に潜り込んだ。
高級シルクのシーツとグースダウンの掛け布団が、まるで雲の中に包まれているかのような心地よさを肌にもたらした。
しかし、今夜の布団には何か違和感があった。潜り込んだ瞬間から感じる温もり。そして、懐かしい香り。何年経っても忘れられない、江口雲上の心の奥底に潜む香り。
ごそごそと動く音がして、なめらかな女性の太ももが彼の腹部に触れ、しなやかな手が首に回された。
一瞬戸惑い、酔いも半分覚めた。暗がりの中、女性の顔は見えない。
どんな女がこんな芸当を?江口家の寝室まで忍び込むなんて!
これまでの女たちは下手な手しか使えず、パーティーの同伴者になりたがるか、甘い言葉を囁くか、せいぜい「偶然」のボディタッチ程度だった。
今回ばかりは感心せざるを得ない!
朦朧とした女性の声が囁いた。
「クマちゃん、おとなしくして。もう寝る時間よ」
江口雲上は顔を真っ赤にした。女性の太ももが自分の下半身に擦れ続けている。だが、それは誘惑ではなく、眠りについた女性の無意識な仕草のようだった。
甘えているという表現の方が相応しいかもしれない。
だが、二十一歳の江口雲上にこんな誘惑を耐えられるはずもない。欲望で全身が熱く火照り、下半身も徐々に硬くなっていく。隣の女性の髪が鼻先をくすぐり、派手な女たちの刺激的な香水とは違う、清々しい香りが漂う。
突然の出来事に戸惑う江口雲上。酔いは完全に覚めた。身体を動かす勇気もなく、隣の女性を起こしてしまえば、言い訳のしようもない。
もしこれが家族の者たちによる罠だとしたら、部屋のあちこちに隠しカメラが仕掛けられているかもしれない。江口雲上は思案した。彼の一挙手一投足が江口グループ全体に関わるため、普段から様々な目的を持った女性たちが近づいてくる。江口雲上はそういった下劣な手段に対して慎重で、嫌悪感を抱いていた。
その時、微かに灯っていた小さなランプのフィラメントが切れた。
部屋は一瞬にして暗闇に包まれた。
すべてが、江口雲上が十三歳の時のあの夜に戻ったかのようだった。
江口グループの後継者として、江口雲上を狙う者は少なくなかった。十三歳の時、敵対勢力に誘拐されたことがある。まだ精神的に未熟な少年が、真っ暗な木造小屋で虫や鼠と過ごした経験は、幼い江口雲上に癒えることのない心の傷を残した。
「閉所恐怖症」と呼ばれる病。
江口雲上は完全な暗闇の密室にいられない。それは彼の体にストレス反応を引き起こす。これが彼が寝る時に必ず小さなランプを付けておく理由だった。
まさか今夜、ランプが切れるなんて。
際限のない恐怖が海水のように江口雲上を飲み込んだ。彼は暗闇の中でもがき苦しんだ。
まず、体温が急激に低下し、氷の彫刻のように冷たくなる。そして、瞳孔が開き、目が虚ろになり、頭が冷静に考えられなくなる。続いて、体が意志と関係なく震え始めた。
この精神的な病は人を死に至らしめる可能性すらある!
眠っていた女性は、抱きしめている人の異変を感じたのか、江口雲上に向き直り、両手で強く抱きしめた。
江口雲上の震えが激しくなればなるほど、女性はより強く抱きしめた。
女性の熱い体温が徐々に江口雲上に伝わり、その手のぬくもりに触れ、彼の思考は次第に落ち着きを取り戻した。今、彼の頭は女性の豊かな胸に寄り添っていた。
それは江口雲上に安心感を与えた。まるで傷ついた子供が母親の胸に抱かれているかのように。
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彼が私の元彼に近づいたのも、すべて私のためだった。
今さら私の墓前で悔いるな
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けれど、私は次第に気づいていった。どの授業でも一番前の席には、いつも同じ真面目な男子学生が座っていることに。
そして、いつも学校の一等奨学金が、同じ名前の生徒に贈られることに。山本宏樹。
いつからか、私は彼の後を追いかけるようになっていた。
大学の卒業式で、山本宏樹は奨学金を得た優秀な卒業生だった。
彼は卒業生代表の挨拶の場で、私が彼の恋人だと公言し、全校生徒数万人の前でプロポーズしてくれた。
あの頃、彼は前途有望な若き社長で、卒業前からすでに自分の会社を立ち上げていた。
一方の私は、骨肉腫だと診断されたばかりで、明日の太陽を見ることさえ贅沢な望みだった。
私は彼のプロポーズを断り、それから治療のために海外へ渡った。
しかし誰もが、私が貧乏な若者である彼を見下し、金持ちの御曹司に乗り換えて海外へ行ったのだと思っていた。
帰国後、彼は私に五百万円を投げつけ、彼と結婚するように言った。
氷の君と太陽の私
運命が私を引き戻した——薬を盛られた結婚初夜、彼の腕の中で生まれ変わったのだ。これは私の二度目のチャンス。
かつて逃げ出した男こそが私の運命。彼の狂おしい愛こそが、私の最強の武器。世界が恐れる男を受け入れ、彼の姫となろう。共に、私たちを破滅させた裏切り者どもを灰燼に帰すのだ。
しかし私の突然の献身は、彼に疑念を抱かせる。心を砕いてしまった男に愛を証明するには、どうすればいいのだろう……彼の最も暗い欲望が、私を永遠に縛り付けることだと知りながら。













