紹介
翌朝、彼はもういなかった。
残されていたのは、たった一行――「ごめん。君を壊すわけにはいかない」
四年後、杉本俊介が戻ってきた。
あの深い青の瞳も、私が病気になると必ず現れるあの男も、何も変わっていない。
けれど彼は、私を突き放し続けた――「父と娘」だから。この愛は杉本家が築き上げたすべてを壊しかねないから。
だから、私は追いかけ始めた。
カフェ、ジム、役員会議室――彼が行く先すべてに。
「恋しかったかなんて聞くな、佑梨。答えは君が聞きたくないものだ」
「じゃあキスして、俊介。私を愛してないって証明して」
……そして元カレの杉本大和が、家族の晩餐で私たちのことを暴いた。
そして役員会が、彼を解任しようとした。
そして世界中が、私を『恥知らず』と呼んだ――
そのとき、彼はとうとう逃げるのをやめた。
チャプター 1
佑梨の視点
私の手から、ケーキが滑り落ちた。
チョコレートムースが、杉本大和の部屋の床にどしゃっと広がる。ダークブラウンのクリームが、白いラグの上に飛び散った。まるで血のようだ。
「佑梨?」大和がソファーから飛び起き、可愛い女の子を突き放す。彼女の口紅が、彼の首筋にべったりと付着している。鮮やかな赤が、ひどく卑猥に見えた。「なんでこんなに早く帰ってきたんだ?」
早い、ね。まるでそれが問題だと言わんばかりに。
「驚かせようと思って」私の声は、自分でも驚くほど冷静だった。冷静すぎた。「驚いたのは、私のほうだったみたいだけど」
可愛い女の子が、はだけかけたシャツを整えながら、レースのブラをちらりと覗かせていた。そして、勝ち誇ったような笑みを私に向けた。「あなたが佑梨? 大和はあなたのこと、つまらないって言ってたわよ」
怒るべきだ。泣いて、叫んで、物を投げつけるべきだ。
でも私はただ、床に落ちたケーキを見つめて、そこに突っ立っているだけだった。
彼のお気に入りのチョコレートムース。そのパン屋まで街を横切り、四十分も列に並んで手に入れたケーキ。
それが今、台無しになって転がっている。私たちみたいに。この二年という月日みたいに。
大和が歩み寄ってくる。その顔に罪悪感の色は欠片もない。「なあ、佑梨。話がある」
「今さら、何を話すっていうの?」
「お前がそうさせたんだろうが!」彼は激情を爆発させた。「二年だぞ。丸々二年間も、お前は俺に触らせようともしなかった。俺は男だぞ、欲求だってあるんだ! 俺をなんだと思ってたんだ? 坊主かなんかか?」
彼を拒み続けてきたのは事実だ。彼がキスをするたび、彼の手が私の体を下っていくたび、頭の中には別の誰かが現れた。
深い青色の瞳。
耳元で「だめだ」と囁く低い声。
考えてはいけない、彼の名前。
「もういい」大和は手を振った。「終わりにしよう。正直、とっくに冷めてたんだ。お前と付き合うなんて、氷の塊と付き合ってるみたいだったぜ」
ソファーから、あの女の子の忍び笑いが聞こえる。
私は踵を返し、ケーキを踏みつけて歩き出した。クリームが靴にまとわりつき、甘くべたつく足跡をドアまで残していく。
午後七時。蒼光画廊。
私は無意識のうちに、新しい作品を並べていた――灰色と黒だけで描かれた、一連の抽象油絵。今の気分にぴったりだ。
ドアベルが鳴る。
「もう閉店です」顔も上げずに言った。
「知ってる」
その声。
私の手は、空中で凍りついた。額縁が滑り落ちそうになる。
四年。
四年ぶりに聞く声。
でも、体が覚えている。細胞の一つひとつが、覚えている。
ゆっくりと、振り返る。
杉本俊介が、戸口に立っていた。街灯が彼の背後で灯り、そのシルエットを柔らかな橙色に浮かび上がらせている。体に完璧に仕立てられたダークコートを羽織っていた。記憶の中の彼より大人びて見え、顔立ちはよりシャープに、くっきりと際立ち、瞳の奥には何か深みが増している。
でも、あの瞳は変わらない。
深い、青色。海のよう。私が溺れた、あの場所のよう。
私たちは見つめ合う。
空気が濃密になり、息が苦しくなる。
彼の視線が私の顔から首筋へと下り、鎖骨のあたりで一瞬止まってから、慌てたように逸らされた。
でも、その一秒で十分だった。
肌が、燃えるように熱くなるのを感じるには。
「ここで働いてるって聞いたから」四年前より低い声で、彼が言った。「通りすがりだ」
通りすがり。海外からここまで。よく言う。
「何かご用でしょうか、杉本さん」思いつく限り、最も他人行儀な呼び方を使った。
彼の顎のラインが強張る。「いや。ただ、君が元気でやってるか確かめたかっただけだ」一拍置いて、「彼氏がいると聞いた」
「ええ、います」嘘は滑らかに出た。「順調です」
たった今フラれたなんて知られたくない。彼の影を追いかけて二年間も付き合っていたなんて、知られたくない。
俊介は、落ち着いた足取りで画廊の中を歩く。そして、一枚の絵の前で足を止めた――私が二十一歳のときに描いた絵だ。窓際に立ち、街の灯りを見つめる男の後ろ姿。
裸の後ろ姿。
くっきりと浮かび上がった筋肉。
記憶の中の、彼。
「君がこれを?」彼は絵を凝視し、喉を上下させている。
「ええ」
彼は何も言わなかったが、拳が固く握りしめられるのを私は見ていた。
永遠とも思える時間が過ぎた後、彼はドアの方へ向き直った。
戸口で、彼は立ち止まる。私に背を向けたまま。
「元気でな、佑梨」
そして、ドアが閉まった。
足から力が抜ける。私は床に崩れ落ち、膝を強く打ちつけた。
四年間、彼を想い続けた気持ちが津波のように押し寄せてくる。体が震えるほど激しく泣きじゃくり、爪が掌に食い込んだ。
彼が帰ってきた。
本当に、帰ってきた。
そして私は、まだ四年前のあの夜の影の中で生きている。
あの夜。私の二十一歳の誕生日。
みんなが帰った後、残ったのは私と俊介だけだった。
「酔ってるぞ」彼は階段を上がる私を支えてくれていた。
「酔ってない」私は彼に向き直った。一段下に立って、彼と視線の高さを合わせる。「しらふよ」
そして、私は彼にキスをした。
今度は、彼は私を突き放さなかった。
今度は、彼の腕が私の腰を抱き、壁に押し付け、息もできないほど深くキスをしてきた。
「佑梨……だめだ……」彼の声は掠れていた。
「どうして?」私は彼シャツのボタンを外しながら言った。「愛してる。あなたが欲しい」
「これは、間違ってる……」
「じゃあ、一緒に間違えましょう」
あの夜、私は自分を彼に捧げた。
すべてを。
翌朝、私が目覚めたとき、シーツは冷たくなっていた。
彼は、いなかった。
枕の上に、メモが一つだけ。
「ごめん。君を台無しにはできない」
四年。千四百六十日。
一日たりとも欠かさず、私は彼が帰ってくるのを待っていた。
携帯が震える。
大和からのメッセージだった。「お前の荷物、アパートの外に出しといた。もう連絡してくんな」
私は画面をじっと見つめる。
それから、笑いがこみ上げてきた。
俊介が帰ってきた。
大和にフラれた。
つまり、私は自由だ。
四年前の私は、彼に拒絶されて諦めてしまうような、臆病な女の子だった。
でも、今の私は二十五歳だ。
自分が何を欲しいのか、わかってる。
彼が欲しい。
今度こそ、逃がしたりしない。
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三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
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しかも、その横には心晴の元婚約者の姿が……二人は婚約していたのだ。
しかし、心晴はただの被害者ではなかった。
彼女は人知れず巨額の資産と強大なコネクションを築き上げていたのだ。
真実を知った心晴は、復讐の狼煙を上げる。
彼女が選んだ新たなパートナーは、なんと元婚約者の叔父だった。
「これからは私のことを『おばさん』と呼ぶのよ、優奈!」
私が囲っている億万長者
彼は息を呑むほど美しく、落ちぶれていた。夫の裏切りがもたらした傷が完全に癒えるまで、彼をそばに置いておくつもりだった。
お金で彼の付き添いを買い、すべてのルールを私が決め、すべてを完全に掌握しているつもりだった。
けれど、私の隣で横たわるこの男の正体は、彼が語ったものとはまるで違っていた。
魅惑的な笑顔と抗いがたい容姿の下に隠されていたのは、仇敵から身を隠す億万長者の素顔だった。
今や彼は、私の生活に、私のベッドに、そして私の心に――完全に絡みついている。
身を引くことは、彼のそばにいることよりも、もっと危険かもしれない。













