彼らがケーキを切っているあいだ、私は死んでいた

彼らがケーキを切っているあいだ、私は死んでいた

渡り雨 · 完結 · 20.1k 文字

587
トレンド
769
閲覧数
3
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

私が物置に閉じ込められ、血を流して死んでいく間、婚約者の池谷平良(いけや たいら)は私の妹の手を握り、彼女を慰めていた。

彼は、私の最後の助けを求める電話を一方的に切り、留守電にこう残した。「もし優樹(ゆうき)に何かあったら、婚約は破棄だ」と。

妹はかつて、自分の誕生日の願いはずっと「お姉ちゃんが消えること」だと言っていた。

その夜、彼女の願いは少し早く叶えられた。

けれど、私の魂は決してこの場を離れなかった。

私は、皆が妹を囲んでバースデーソングを歌うのを眺めていた。

そして、彼女が蝋燭の火を吹き消した、その瞬間。私は彼女の耳元で囁いた。

「せいぜい楽しむといいわ。それが、あなたの最後の誕生日になるのだから」

チャプター 1

 深夜23時、家族の笑い声で私の魂は呼び覚まされた。

 彼らはようやく、妹の誕生日パーティーから帰ってきたのだ。

 兄の直人が階段を駆け上がり、私の寝室のドアを激しく叩く。

「友佳! 寝たふりはやめろ! 早く出てこい。優樹が蝋燭を吹き消すのを待ってるんだぞ」

 しばらく待っても返事がないと悟ると、直人は強引にドアを押し開けて踏み込んできた。オーダーメイドのスーツに身を包み、ネクタイも完璧に結んでいるが、その顔には隠しきれない苛立ちが張り付いている。

 返事をしたかった。ここにいると、部屋の隅にいると伝えたかった。けれど、声が出ない。私はただ宙に浮き、彼が入ってくるのを無力に見つめることしかできなかった。

「まだ寝たふりを続ける気か?」

 直人は大股でベッドに近づく。

「今夜は優樹の成人祝いだぞ。明日まで寝て過ごすつもりなんて言うなよ」

 彼が勢いよく布団を捲り上げる。ベッドの上は、もぬけの殻だった。

 そこにあるのは、枕元に置かれた古びたぬいぐるみと、一冊のノートだけ。ノートの表紙には、黒いインクで数字が書かれている。『88』と。

 直人は一瞬動きを止め、ノートを手に取り、適当に数ページめくった。

 眉間に皺が寄るのが見えた。だが、それはほんの一瞬のこと。次の瞬間、彼はノートをベッドに放り投げた。

「また訳のわからない儀式か?」

 彼は舌打ち交じりに呟くと、スマートフォンを取り出し、私の番号に発信した。

 どこかで着信音が鳴っている。だが、誰も出ない。

 直人は留守番電話に向かって声を荒らげた。

「パーティーに来なかったのは百歩譲って許す。だがな、今は家族全員で優樹の誕生日を祝おうって、ケーキ入刀を待ってるんだぞ。この期に及んで失踪ごっこか?」

「癇癪を起こすなら時と場合を選べ。1時間だけ待ってやる。それまでに戻らなければ、二度と敷居を跨ぐな!」

 彼は通話を切り、踵を返して部屋を出て行った。

 私はその場に漂いながら、廊下の突き当たりに消えていく彼の背中を見送った。

 もし彼があのノートにもう少し目を向けていたら。あの『88回』の記録を真剣に読んでくれていたら、何か違っていたのだろうか。

 けれど、彼はそうしなかった。彼が私という人間を、一度も真に直視しなかったのと同じように。

 階下から楽しげな笑い声が響いてくる。

 私の魂は吸い寄せられるように広間へと漂っていった。そこは煌びやかな照明に照らされ、ピンクとゴールドのバルーンで華やかに飾り付けられている。

 江村家の広間がこれほど賑わったことはかつてなかった。

「部屋にはいないし、電話にも出ねえ」

 直人は広間に戻るなり、忌々しげに言った。

「またどっかに隠れてやがるんだろ」

 父の宗一郎が手にしたワイングラスを置く。あつらえたスーツを着こなし、髪を完璧に撫でつけた彼は、いつもの冷徹な表情を崩さない。

「放っておけ」

 父は冷たく言い放つ。

「あいつを甘やかしすぎたんだ。先に優樹のケーキを切ろう。頭を冷やさせればいい」

 母の美紀子も頷いたが、優樹――私の妹――が突然、母の手を握りしめた。

「ママ」

 優樹の瞳が涙で潤む。

「お姉ちゃんをもう少し待ってあげられないかな?」

 その声は柔らかく、優しさに満ち、顔には姉を案じる表情が浮かんでいる。

 もし私が彼女の本性を知らなければ、本当に心配してくれているのだと信じてしまったかもしれない。

 美紀子は優樹の肩を抱き寄せ、その手を優しく叩いた。

「あなたは本当に優しすぎるわ」

 母は慈しむように言う。

「友佳のくだらない癇癪なんて、あなたには関係ないのよ。あの子はただ、あなたが幸せになるのが面白くないだけなんだから」

 私は天井の下を漂いながら、この“温かい”家族の団欒を見下ろしていた。

 口元に、自然と皮肉な笑みが浮かぶ。

 悲しみでも、怒りでもない。ただ純粋な皮肉。

「お姉ちゃんにメールしてみる」

 優樹がスマートフォンに視線を落とすのが見えた。彼女の指が画面の上を高速で滑る。

『あのクズどものサービスはどうだった? またどっかの男のベッドに潜り込んでるんでしょ? パーティーは最高よ、空気を読んで欠席してくれて感謝してるわ。そのまま消えて』

 だが、優樹はすぐにそれを削除した。

 彼女は打ち直す。今度の内容は、まったく別のものだ。

『お姉ちゃん、どこにいるの? みんな心配して死にそうだよ。私、何か怒らせちゃったかな? 謝るから、早く戻ってきて』

 彼女はスマートフォンを掲げ、両親に見せた。

「見て」

 優樹の声が泣き声に変わる。

「お姉ちゃんに何回もメッセージ送ってるのに、全然返事がなくて……」

 美紀子は画面を一瞥すると、より一層愛おしそうに娘を抱きしめた。

 宗一郎は鼻を鳴らすだけだ。

「わざとだろう。構うな」

 私は半空に浮かび、冷めた目でそのすべてを眺めていた。

 今日は、私が『家族栄誉章』を受け取るはずの日だった。その賞は毎年ただ一人、一族の中で最も優秀な功績を挙げた者に授与される。

 私は三年の歳月を費やし、数え切れないほどの徹夜を重ね、審査委員会に完璧な事業計画書を提出した。

 授賞式の日程を知らされた時、私は自ら「式への出席は不要だ」と告げた。

 あいにく、その日は優樹の成人式と重なっていたからだ。

 けれど、いざその時が近づくと、やはり期待してしまっていた。

 数時間前、私は寝室の鏡の前に立ち、授賞式のために用意したロングドレスに袖を通した。

 鏡の中の私は落ち着いて見えたが、手は震えていた。

 あの瞬間を夢見ていたのだ。壇上に立ち、あのずっしりと重い勲章を受け取る瞬間を。たとえ家族がそこにいなくても、少なくともその瞬間だけは、私の努力が認められるはずだった。

 私はスマートフォンを手に取り、最後に家族のグループチャットを確認した。

 そこは、優樹の成人式の話題で埋め尽くされていた。

『ホテルの宴会場、準備完了よ。ピンクがテーマ、きっと優樹も気に入るわ』

『花の手配も済んだ。直人、仕事が終わったら早く帰ってきなさい』

『了解。早めに戻って手伝うよ』

 誰も、私のことには触れていない。

 誰も、今日私がどうしているかなど聞きもしない。

 私は画面を消し、深く息を吸って、部屋を出ようとした。

 裏庭へ出た瞬間、倉庫のドアが乱暴に開かれた。

 そこから三人の見知らぬ男たちが飛び出してきたのだ。

 反応する暇もなく、私は倉庫の中へと引きずり込まれた。

「あなたたち――」

 私は必死に抵抗した。

「どうしてこの屋敷のセキュリティキーを持ってるの!?」

 リーダー格の男が、私の目の前でキーホルダーをぶら下げて見せた。

 それは優樹専用のキーホルダーだった。ピンク色で、彼女のイニシャルのチャームが付いている。

「無駄な抵抗はやめな」

 男が下卑た笑みを浮かべる。

「たっぷり楽しませてもらうぜ」

 私は叫び、暴れ、必死で逃げようとした。

「やめて……」声が震える。

「お願い、死にたくない……」

 返ってきたのは、暴力だけだった。

 地面に押し付けられ、ドレスが引き裂かれる音がし、首筋に激痛が走る。フラッシュが絶え間なく焚かれ、彼らの汚らわしい哄笑が耳元で反響する。

 必死の抵抗の中、指先がポケットの中のボイスレコーダーに触れた。重要な瞬間を記録するのが、私の長年の癖だった。

 私はボタンを押し込んだ。せめて、証拠だけは残さなければ。

 最後の一撃を加えようと身を捩った時、私の後頭部が金属製の棚の角に激しく打ち付けられた。

 生温かい液体が、頭から流れ落ちていく。

 痛みで視界が歪み、急速に暗転していく。

 男たちが狼狽する声が聞こえた。

「おい、血が出てんぞ!」

「やべえ、ずらかるぞ!」

「優樹は殺すなと言ってただろ!」

 彼らは逃げ去った。

 血の海に沈む私を一人残して。

 私は最後の力を振り絞り、床に落ちたスマートフォンへと這っていった。

 震える指で電源ボタンを5回連打する。緊急SOSが起動した。

 スマートフォンが自動的に緊急連絡先へ救難信号と位置情報を送信し始める。

 最初に鳴ったのは、母の携帯だった。

 母の反応が手に取るようにわかる。彼女は着信画面を見て、眉をひそめたはずだ。

「また友佳の狂言よ」

 彼女は宗一郎にそう言って、通話を切った。

 そして、一通のメッセージが届く。

『また優樹の邪魔をする気? もううんざりよ!』

『今日は妹の大切な日なんだから、水を差さないで! 今すぐ緊急連絡先からあなたを削除するわ!』

 スマートフォンは次の番号にかけ続ける。

 父だ。彼もすぐに切った。

 次は直人。

 彼は電話に出たが、一言だけ告げた。

「その手口は見飽きたんだよ。いい加減にしろ」

 最後に、スマートフォンは英介の番号を呼び出した。

 私の婚約者。

「英介……」

 私は消え入りそうな声で訴えた。

「助けて……私は……倉庫に……」

「いい加減にしろ、友佳」

 英介の声は氷のように冷たく、不機嫌だった。

「その手はもう古いんだよ。今夜は優樹が主役だ。安い芝居はやめてくれ! 埋め合わせのプレゼントはするって約束しただろ!」

 彼は電話を切り、私が送った位置情報を無造作に削除した。

 スマートフォンの画面が暗転する。

 冷たい床の上、体から溢れ出した血液が広がり、暗赤色の湖を作っていく。

 意識が霧散していく。

 一日も経てば、あの倉庫から腐敗臭が漏れ出してくるだろう。

 優樹はかつて誕生日に、自分の願いを教えてくれたことがある。私がこの世から消えてほしい、と。

 そうすれば、両親の愛をすべて独り占めできるから。

 今夜、彼女の願いは予定より早く叶ったのだ。

最新チャプター

おすすめ 😍

監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

134.7k 閲覧数 · 連載中 · 鈴木楓花
監禁から1年。ようやく帰宅した今井心晴を待っていたのは、変わり果てた日常だった。
家族は心晴を探そうともせず、あろうことか姉の今井優奈のために盛大な誕生日パーティーを開いていた。
しかも、その横には心晴の元婚約者の姿が……二人は婚約していたのだ。
しかし、心晴はただの被害者ではなかった。
彼女は人知れず巨額の資産と強大なコネクションを築き上げていたのだ。
真実を知った心晴は、復讐の狼煙を上げる。
彼女が選んだ新たなパートナーは、なんと元婚約者の叔父だった。
「これからは私のことを『おばさん』と呼ぶのよ、優奈!」
私が囲っている億万長者

私が囲っている億万長者

10.6k 閲覧数 · 連載中 · ほしの ちなつ
私はただ、心の痛みを紛らわせたかっただけ。

彼は息を呑むほど美しく、落ちぶれていた。夫の裏切りがもたらした傷が完全に癒えるまで、彼をそばに置いておくつもりだった。

お金で彼の付き添いを買い、すべてのルールを私が決め、すべてを完全に掌握しているつもりだった。

けれど、私の隣で横たわるこの男の正体は、彼が語ったものとはまるで違っていた。

魅惑的な笑顔と抗いがたい容姿の下に隠されていたのは、仇敵から身を隠す億万長者の素顔だった。

今や彼は、私の生活に、私のベッドに、そして私の心に――完全に絡みついている。

身を引くことは、彼のそばにいることよりも、もっと危険かもしれない。
お払い箱の杖は、夜に咲く

お払い箱の杖は、夜に咲く

6.4k 閲覧数 · 連載中 · 森川澪
「目が見えるようになった途端、手すりの杖を捨てるのね」

事故で盲目かつ失聴した夫を5年間、溢れる愛で献身的に支え続けた主人公。しかし、五感が戻った夫が最初に抱きしめたのは、かつて彼が愛した初恋の女だった。

家族からも夫からも裏切られた彼女は、未练を一切捨てて離婚を決意。

離婚の理由に「夫の夜の体力不足」という最大の屈辱を書き残し、結婚指輪を捨ててあっさりと家を出る。

夫の好みに合わせてこれまで隠していた「息をのむほど明艶な美貌」を解放し、夜の街へと繰り出した彼女は、一瞬で全場の視線を独占する。

バーのVIP席からその圧倒的な美女を凝視し、なぜか目が離せなくなっている元夫は、まだ気づいていない。それが、自分が「地味で退屈な女」だと見下していた元妻の真の姿だということに……
死に戻り真令嬢の復讐 ~偽りの家族も血の兄も要りません

死に戻り真令嬢の復讐 ~偽りの家族も血の兄も要りません

27.1k 閲覧数 · 連載中 ·
前世の橘結衣は、兄たちに尽くし続けた。どんな理不尽にも耐え、健気に笑顔を向け続けた結衣を待っていたのは――お披露目パーティーでの無残な死だった。

破滅を経て死に戻った結衣は、人が変わったように冷徹になる。もう二度と、あの愚かな兄たちのために心を痛めたりはしない。

しかし、冷遇し始めた途端、兄たちの態度が一変する。

「いい加減、そんな冷たい態度を取るな」と迫る社長の長男。

「俺の誤解だったんだ……」と苦悩する医師の次男。

「頼む、やり直させてくれ!」とプライドを捨てて乞うトップスターの三男。

「俺の妹はお前だけだ!」と泣きじゃくる不良の四男。

だが、結衣の答えはひとつだけ。

「みんな、失せて」

復讐と無関心を胸に、彼女は一人の男性の手を取った。

「宮本景太。今日からあなただけが、私のたった一人の『お兄ちゃん』よ」

――しかし、彼女の本当の身分が明かされた時、今度は血縁関係のある「実の兄たち」が押しかけてきて――!?

「『唯一の兄』だと……? じゃあ、俺たちはお前の何なんだ!?」
追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢

追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢

158.1k 閲覧数 · 連載中 · あざ鳥
「お前みたいな偽物の令嬢、さっさと山奥に帰れ!」

孤児だと判明した途端、彼女は養父母から冷酷に家を追い出され、婚約者も本物の令嬢へと乗り換えた。
彼らは、彼女がこれからド田舎で悲惨な生活を送るのだとあざ笑っていた。

しかし、彼女を迎えに来た実の家族は、なんと世界を牛耳る超巨大財閥の一族だった!
さらに、彼女自身もただの小娘ではない。その正体は、世界の医学界が平伏す伝説の天才医師だったのだ。

実家に戻るや否や、彼女は神業のようなメス捌きで次々と難病患者を救い、医療界の権威たちを圧倒していく。その圧倒的な実力に、誰もが恐れる冷酷なトップ御曹司でさえも彼女に惹かれ、無限額のブラックカードを差し出す始末。

一方、彼女を追い出した養父母の家業は倒産寸前に陥り、元婚約者も彼女の本当の姿を知って絶望の淵に立たされていた。
彼らが泣きついて許しを乞うても、彼女は冷たく言い放つ。

「今さら後悔しても、もう遅いわ」
死んだはずの妻が、自分と「瓜二つ」の双子を連れて帰ってきた

死んだはずの妻が、自分と「瓜二つ」の双子を連れて帰ってきた

193k 閲覧数 · 連載中 · 白石
5年前、身に覚えのない罪で投獄され、身重の体で捨てられた私。
異国の地で必死に生き抜き、女手一つで双子の息子を育て上げた。

平穏を求めて帰国した私だったが、運命は残酷だ。
かつて私を捨てた元夫・ベンジャミンに見つかってしまったのだ。

「その子供たち……俺にそっくりじゃないか」

彼の目の前にいるのは、彼を縮小したかのような「生き写し」の双子。
ベンジャミンは驚愕し、私たちを引き留めようとする。
しかし、息子たちは冷酷な父親を敵視し、断固として拒絶するのだった。

「僕たちを捨てた男なんて、父親じゃない!」

やがて明らかになる、あの日の「火事」の真相と、悪女オリビアの卑劣な罠。
すべての誤解が解けた時、彼が差し出す愛を、私は受け入れることができるのか?

憎しみと、消え残る愛の間で揺れる、会と許しの物語。
マフィア姫の帰還

マフィア姫の帰還

57k 閲覧数 · 完結 · Tonje Unosen
タリアは何年ものあいだ、母と義理の妹、そして継父と暮らしてきた。だがある日、ついにそこから逃げ出すことに成功する。

ところがその直後、自分にはまだ外に家族がいるのだと知る。そして本当に自分を愛してくれる人たちが大勢いることも――そんなものは今まで感じたことがなかった。少なくとも、彼女の記憶にあるかぎりでは。

タリアは人を信じることを学ばなければならない。新しくできた兄たちにも、ありのままの自分を受け入れてもらわなければならないのだ。
不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

364.5k 閲覧数 · 連載中 · 七海
人生最良の日になるはずだった、結婚式当日。
新郎の車から出てきたのは、見知らぬ女の派手なレースの下着だった。

しかも、その布切れにはまだ。生々しい情事の痕跡が残されていた。

吐き気がするほどの裏切り。
幸せの絶頂から地獄へと突き落とされた私。

けれど、泣き寝入りなんてしてやらない。
私はその場でウェディングドレスの裾を翻し、決意した。

「こんな汚らわしい男は捨ててやる」

私が選んだ次の相手は、彼など足元にも及ばない世界的な億万長者で?
伝説の天才、偽りの姿だ

伝説の天才、偽りの姿だ

21.4k 閲覧数 · 連載中 · ショコラ風味
トップ組織のS級エージェントであり、冷徹無情、そして圧倒的な知性を誇った主人公。しかし、仲間に裏切られ、無残にも殺害されてしまう。

だが、目を覚ますと、知能が低いと見下されている「不細工な女子大生」へと生まれ変わっていた。

容姿を嘲笑われれば、自ら開発したスキンケアクリームで誰もが息をのむ美貌へと変貌を遂げる。

知性を馬鹿にされれば、世界最高峰の大学の総長が自らスカウトに訪れ、医学界の権威は秘密の処方を求めて跪き、国際的なトップスターは楽曲の編曲を求めて彼女を追いかける。

二度目の人生こそは平凡な生活を味わおうとしたものの、隠された正体が次々と暴かれ、気づけばまたしても世界の頂点へと上り詰めてしまう。

背後には無数の配下を従え、その傍らには彼女を守る冷徹な実力者が寄り添うが、この冷徹な男は何かと嫉妬深く、彼女を翻弄してくるのだった。
不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

3.5m 閲覧数 · 連載中 · 七海
初恋から結婚まで、片時も離れなかった私たち。
しかし結婚7年目、夫は秘書との不倫に溺れた。

私の誕生日に愛人と旅行に行き、結婚記念日にはあろうことか、私たちの寝室で彼女を抱いた夫。
心が壊れた私は、彼を騙して離婚届にサインをさせた。

「どうせ俺から離れられないだろう」
そう高をくくっていた夫の顔に、受理された離婚届を叩きつける。

「今この瞬間から、私の人生から消え失せて!」

初めて焦燥に駆られ、すがりついてくる夫。
その夜、鳴り止まない私のスマホに出たのは、新しい恋人の彼だった。

「知らないのか?」
受話器の向こうで、彼は低く笑った。
「良き元カレというのは、死人のように静かなものだよ?」

「彼女を出せ!」と激昂する元夫に、彼は冷たく言い放つ。

「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
「彼女はクタクタになって、さっき眠ってしまったから」
全能令嬢の帰還、家族が倒産?

全能令嬢の帰還、家族が倒産?

44k 閲覧数 · 連載中 · きりゅう りんか
万能の女神・夏川紅蓮が実家に戻ると、一家は何者かの手で破滅に追いやられた後だった。
父は冤罪で獄中にあり、母は病に伏せっている。
六人の兄たちも、ある者は身体に障がいを負い、ある者は無気力に沈んでいた。
そんな折、家に潜り込んでいた偽令嬢は状況を見るや否や一家を見捨てて姿を消し、さらに屋敷までも奪い取ろうとしていた。
世間は夏川家を「落ち目の負け犬」と嘲笑い、皆がこぞって踏みにじる。

紅蓮が静かに一声を発すれば、暗部より無数の異能の士たちが姿を現し、形勢は一瞬にして逆転する。
父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。

しかし、そんな彼女を指さして嘲る者がいる。
「夏川紅蓮は地味で野暮ったい田舎者だ」と。

何を隠そう、彼女は無数の隠された顔を持つ存在。
神医の令嬢も彼女なら、国画の大家も彼女。
伝説のハッカーも彼女なら、正体不明の謎の女優も彼女。
そして、暗部を統べる首領さえも——彼女なのだ。

そんな折、頂点に君臨する名門の若様が、彼女をそっと腕のなかに抱き寄せた。

「誰が彼女を田舎くさい地味女だと言った? 彼女こそ、俺・諏訪淳行の婚約者だ」

紅蓮が流し目をひとつ送る。

「婚約、破棄しなくていいの?」

「しない」

彼が長いあいだ追い求めてきた決して手の届かない高嶺の花こそが、いま腕のなかにいる婚約者なのだ。
解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。
冷徹CEOと決別した天才画家

冷徹CEOと決別した天才画家

1.9k 閲覧数 · 連載中 · 森川澪
「お前などただの身代わりに過ぎない。妹の命を奪った罪、一生かけて生殺しで償え」

結婚初夜、冷徹な夫から愛する妹の「身代わり」として手ひどく扱われた主人公。

その直後、彼女は妹の策略によって「殺人犯」に仕立て上げられ、夫の手で陰湿な地下室へと監禁されてしまう。

病気の母親の治療費を人質にすべての財産を奪われ、暴雨のなか妹の墓前に跪かされた彼女に下されたのは、「胃がん末期」という非情な余命宣告だった。

夫への愛が完全に死んだ彼女は、母親を救うため、自身の天賦の才である「絵画」で生き残ろうと抗い始める。しかし、冷酷な夫は彼女の最後の希望さえも容赦なく踏みにじり、さらなる絶望の深淵へと追い詰めていく。