紹介
しかし、異母妹の卑劣な罠にはめられ、身に覚えのない汚名を着せられた挙げ句、生まれたばかりの我が子とともに命まで奪われかけた。
すべてを失い、絶望の淵に追い込まれた彼女は、燃え盛る炎の中から奇跡的に生還する。
それから四年。
二人の子どもを連れて故郷へ戻った彼女には、誰にも明かしていない秘密があった。
天才的な頭脳を持つ息子と、心に深い傷を抱えた娘。そして、かつて一夜をともにした謎の男が残した、朱雀の紋様が刻まれた指輪。
帰国早々、彼女は冷徹で近寄りがたい大企業の御曹司と再会する。ところが、彼はなぜか子どもたちに強く惹かれていく。
過去の裏切りに決着をつけるため、そして愛する子どもたちを守るため、彼女は再び運命に立ち向かう。
隠された出生の秘密、交錯する思惑、そして四年前の一夜に秘められた真実とは。
天才ママと二人の愛らしい双子が繰り広げる、痛快な逆転劇と波乱に満ちたラブストーリー!
チャプター 1
「助けて! 誰か……誰か、私の子を助けて……!」
桐生初夏は喉が裂けるほど叫んだ。だが桐生家の人間は彼女を市外れの朽ちた院に閉じ込め、周囲に人影などひとつもない。返事が返ってくるはずもなかった。
腕の中の赤ん坊は全身が紫色に変わり、泣き声は子猫みたいにか細い。今にも、ふっと途切れてしまいそうで。
「やだ……! お願い、赤ちゃん……!」
青白い頬を涙が伝い、身体はがくがくと震える。
「誰か来て! この子を助けて! 私は……私はまだ桐生家の長女よ! 私たちがここで死ぬのを――」
そのとき、ぎい、と木の扉が開いた。
白いミニドレスを着た少女が、ふわりと足を踏み入れてくる。汚れた小さな院には、あまりにも不釣り合いだった。
「お姉ちゃん、まだ桐生家の長女だなんて言えるの? 八か月前の乞食との一件で、桐生家の面子はとっくに地に落ちたでしょ!」
桐生初夏の異母妹――桐生麻衣。
「麻衣……私が悪かった。でも、この子は関係ないの。お願い、病院へ連れて行って……じゃないと死んじゃう。お願い……」
桐生初夏は血にまみれた手を伸ばし、彼女の裾を掴もうとした。
桐生麻衣は容赦なく蹴り飛ばし、鼻で笑う。
「助ける? あんたとその野種、まとめて死ねばいいのに」
「小さい頃からあんたは後継者として育てられて、桐生家の株を50%も握ってる。天の寵児ってやつ。私は? ずっとあんたの影で生きるしかなかった!」
「ねえ、お姉ちゃん。教えてあげる。あんたが身を汚したの、事故じゃない。私が仕組んだの。桐生家から追い出すためにね。びっくりした? あはははは!」
桐生初夏は信じられないというように目を見開いた。
あの一件で名誉は地に落ち、自分自身さえ「腐ってる」と思った。
――それが全部、桐生麻衣の陰謀?
妹として可愛がり、淑女の作法を教え、一流の名門校に入れるために手まで尽くしたのに。
返ってきたのは、恩知らずの牙だった。
「……この、畜生!」
桐生麻衣は桐生初夏の身体を踏みつける。笑みは甘いのに、目は悪鬼よりも冷たい。
「H市じゃあんたは人人に叩かれる存在。だからお父様はもう宣言したの。後継者は私だって。――お姉ちゃん、地獄へ行って」
「桐生麻衣……私が鬼になっても、絶対に許さない……!」
桐生初夏はふらつきながら立ち上がる。瞳の奥に、骨まで凍る憎しみ。
その動きで衣服がずれ、太腿の薔薇の痣がちらりと覗いた。
桐生麻衣の胸が、ひくりと動く。
最近、神崎家が大金をかけて「太腿に薔薇の模様がある女」を探している――神崎家の若様、神崎司の命の恩人だとか。
まさか、あの夜……この女が間違って寝た相手は神崎司だった?
桐生麻衣は一瞬考え、赤ん坊を乱暴に奪い取った。
「その可愛い顔、惜しいわね。野種なんて、死ぬなら外で死になさい」
桐生初夏はよろめきながら追いすがるが、身体が弱りきっていた。数歩で膝が崩れ、どさりと地面に叩きつけられる。もう起き上がれない。
「いやぁぁぁっ! 私の子……!」
桐生麻衣は獰猛に笑い、火をつけた。赤ん坊を抱いたまま振り返りもせず去っていく。
院はあっという間に炎に呑まれ、内側から凄惨な叫びが何度も響いた。火の粉が夜空を赤く染め――
――
四年後。
J市国際空港。
肩紐の赤いワンピースに、艶やかな巻き髪。若い女が、左右に小さな手を引いて到着ロビーへ出てくる。
「退屈」
プリンは薄い唇を動かし、スマホのゲームをつまらなそうに終了した。
他人なら一週間かかる謎解きを、彼は十分もかけずに全クリしてしまう。
「さすが、ママの宝物!」
桐生初夏は彼の頭を撫で、近くの警備員をちらりと見てから言った。
「プリン、妹のことお願いね。ママ、荷物取ってくる」
「絶対に走り回っちゃダメよ。ここ、悪い人もいるから」
プリンは鼻梁の黒いサングラスを指で押し上げ、大人ぶって言う。
「ママこそ迷子にならないで。荷物受け取りは右前方」
桐生初夏は案内板を見上げ、照れくさそうに首を傾げた。
「ごめんごめん。ママ、飛行機酔いしちゃってて」
プリンはため息まじりに首を振り、妹の手を引いてベンチへ座らせる。
――その瞬間。
いつも静かで無口な少女が、いきなり手を振りほどき、騒がしい人混みへ向かって走り出した。
小さな背中は、あっという間に群衆に呑まれて消えた。
最新チャプター
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地獄から帰った私を、頂点の男が甘やかすなんて聞いてない
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「離婚してからどれほど経った? それでもう俺の『ルール』を忘れたか。お前の身体は、今でも俺をこんなによく覚えているくせに。……ほら、咥えろ」
熱を帯び、恐ろしいほどに猛り狂った彼の太いものが、絢香の顔を容赦なく叩いた。
雅人は冷たく笑う。
「俺から離れられるなんて夢にも思うな、絢香。お前は俺だけのものだ」
——
3年間の契約結婚の間、霧島絢香は「雅人が冷徹な人間だから、その心を溶かすことができないのだ」と思い込んでいた。
しかし、彼が桜井陽菜の妊婦健診に付き添い、彼女が少しでも不快な思いをしないよう、見たこともないほどの優しさと甘やかし方で接している姿を目撃したとき、絢香はついに悟った。彼は人を愛せないのではない。ただ、自分を愛していなかっただけなのだと。
絢香は静かに離婚届にサインし、自身の「妊娠診断書」を胸に抱いて彼の元を去った。
だが、絢香が完全に姿を消した瞬間、雅人は狂わんばかりになり、街中を血眼になって彼女を捜し回った。
ついに再会を果たしたとき、雅人の瞳は血走り、その声は掠れていた。
「絢香、俺が悪かった……頼む、俺の元に戻ってきてくれ」
私が去った日
けれど最後に彼が選んだのは、私ではなく、彼の初恋の女性だった。
夫は、私の心を深く傷つけただけではない。あの女が私の大切なジュエリーデザインを盗むことを許し、さらには実の息子までも操って、私を「怪物」だと思わせた。
嘘で塗り固められた結婚生活の中で、私は少しずつ自分を失っていった。
息が詰まるような日々。愛されていると思い込んでいた時間。すべてが偽りだった。
けれど、彼らはひとつだけ間違えた。
私を、もう戻れないところまで追い詰めたこと。
私が去ると決めたあの日。
私は、最低な夫も、母親への感謝を忘れた息子も、そして彼らによって壊された過去の自分も、すべて置き去りにした。
親友の支え。そして、私の本当の価値を見抜き、才能を認めてくれたある若き実業家との出会い。
その温かな手によって、私はもう一度、自分自身を取り戻した。
失った誇りを取り戻し、眠っていた才能を開花させ、世界へ羽ばたくデザイナーとして新たな人生を歩み始めた。
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一方で、かつて私を捨てた男は、跪いて許しを乞う。
「戻ってきてくれ」と。
けれど、もう遅い。
私が去ったあの日こそが、私が本当の自分を取り戻した日。
もう二度と、過去には戻らない。













