紹介
結婚式の日。純白のドレスに身を包んだ私の隣で、婚約者が叫んだ。
「止めてくれ!女の子が橋から飛び降りようとしている!」
けれど私は、運転手に告げたのだ。
「――車を出して」と。
町中の人々が見ていた。私が人の命より、自分の結婚式を優先した瞬間を。
SNSは瞬く間に炎上し、「#冷酷花嫁」というタグが世界中を駆け巡った。
義母になるはずだった人さえ、私を化け物でも見るかのような目で見ていた。
――でも、もし。
私だけが、彼らの誰も知らない“真実”を知っていたとしたら?
あの「自殺の少女」が、自己紹介もされる前から、私の婚約者の名前を知っていたとしたら?
彼女の出現のタイミングが、あまりにも完璧すぎたとしたら?
彼女の危機が、あまりにも都合よすぎたとしたら?
そう、狂っていたのは私じゃない。
私は何か月も前から、あの女を監視していたのだから。
悪女?怪物?結構じゃない。
全世界が私を断罪するこの舞台で、たった一人、完璧な復讐劇を始めてあげる。
チャプター 1
公園の小さな木製キャビンにある姿見の前に、私は立っていて、鏡に映る自分を見つめた。真っ白なレースのウェディングドレスは体にぴったりと合い、母の真珠のネックレスが窓から差し込む陽光を捉えてきらめいた。
外では、スタッフが準備を進める音が聞こえる。椅子を並べる音、音響機材をテストする音。すべてが計画通りに進んでいた。
「結希ちゃん……」
戸口から聞こえた浅野春美さんの声は震えていた。振り返ると、未来の義母となる彼女が目に涙を浮かべて立っている。淡いブルーのスーツを身にまとい、その手には小さなかすみ草の花束が握られていた。
「本当にきれいよ、結希ちゃん」
春美さんは私の方へ歩み寄ると、優しくベールを直してくれた。
「安樹があなたの姿を見たら、きっと泣いてしまうわ」
浅野春美さん。この二年間、彼女は私の実の母親よりもずっと母親らしかった。安樹の大好物の作り方を教えてくれ、私が病気のときにはスープを届けに来てくれ、私のコーヒーの好みをいつも正確に覚えていてくれた。
今日のこの日を完璧なものにしてくれるものがあるとしたら、それは彼女が私を認めてくれているという事実だった。
「本当にそう思いますか?」と私は尋ねた。急に、心細い小さな女の子になったような気分だった。
春美さんは両手で私の顔を包み込んだ。その温かい、母親のような感触。
「結希ちゃん、あなたは外見が美しいだけじゃない。優しくて、賢くて、強くて……息子が見つけてくれたらと私が祈っていた、そのすべてをあなたは持っているわ」
彼女はハンドバッグに手を伸ばし、小さな箱を取り出した。
「祖母から譲り受けたものなの。……何か、古いものを、って言うでしょう?」
中には、小さな薔薇の彫刻が施された、繊細な銀のブレスレットが入っていた。
「春美さん、いただけません――」
「いいのよ、受け取ってちょうだい」
彼女は優しく私の手首にそれを留めてくれた。
「あなたはもう、本当の意味で私の娘になるのよ、結希ちゃん。ずっと娘が欲しかったの」
娘。本気でそう思ってくれているのだろうか。こんなふうに無条件で受け入れられた経験は、今まで一度もなかった。実の母はいつも、もっとこうすれば良くなるのにと指摘し、何かにつけて批判するところを見つけていたから。
けれど春美さんは、私がすでに完璧であるかのように見つめてくれた。
ウェディングカーがゆっくりと公園の駐車場を出ていく。私は後部座席で、付き添い役の倉持早苗と春美さんの間に座り、両親が前の席にいる。誰もが興奮した様子でしゃべっているけれど、私はただ微笑んで、この瞬間を胸に刻みつけていた。
「安樹が初めてあなたを家に連れてきたときのこと、覚えてる?」と春美さんが笑った。
「あの子、すごく緊張してて、物を落としてばかりいたの。そのときすぐに分かったわ。あなたが特別な人だって」
「グラタン皿を丸ごと落としましたよね」と私も笑みを浮かべて言った。
「うちのキッチンの床一面にね!」
春美さんは手を叩いた。
「でもあなたはただ笑って、片付けを手伝ってくれた。そのときよ。この子こそ、あの子にぴったりの人だって確信したのは」
倉持早苗が身を乗り出して、私のブーケを直してくれた。
「あと十分で、あなたも浅野さんね!」
車の窓から、見慣れた緑渚町の通りが過ぎていくのを眺めた。私の故郷、ご近所さんたち、この町。今日の結婚式のことは、誰もが知っている。昨日、スーパーの渡辺さんが頑張ってねと声をかけてくれた。郵便配達員さんには、わくわくするかい、と尋ねられた。
これだ。これが私のハッピーエンド。誰もが顔見知りのこの小さな町で、私は運命の人を見つけた。浅野安樹と私は、これから一緒に素晴らしい未来を築いていくのだ。
春美さんがくれたブレスレットに目を落とすと、胸に温かいものが込み上げてきた。春美さんがお義母さんになってくれるなら、私たちの子供たちは最高のおばあちゃんを持つことになるだろう。
スマホがメッセージの受信で震えた。お祝いを送ってくれる友人たち、遅れてくるゲストからの道順の問い合わせ。すべてが完璧だった。
「あ、見て」と倉持早苗が窓の外を指さした。
「旧水車橋、この光の中だとすごくきれい」
私は外に目をやった。石造りの橋は実に美しく、午後の陽光が水面に踊る穏やかな川に架かっている。ここは私たちが緑渚町の披露宴会場へと向かうために選んだルートの一部だった。
「安樹がプロポーズしたのは、ちょうどあそこよ」と春美さんが橋を指さして言った。
「全部話してくれたわ。どれだけ緊張していたか、あなたがどんなに泣いていたか……」
「嬉し涙です」
私は婚約指輪に触れながら付け加えた。
「幸せの涙ね」と春美さんも同意した。
橋に近づくにつれ、運転手の加藤真さんがスピードを落とした。後ろには、安樹の付き添い人たちや親戚、家族ぐるみの友人たちが乗った車列が見える。皆が私たちの後について披露宴会場へ向かっている。
あと十五分で着く。安樹は湖畔に設けられた会場で待っているだろう。山崎牧師が私たちの結婚を執り行い、そして私たちは夫婦として幸せのキスをするのだ。
しかし、橋に近づくにつれて、私の胃がずしりと落ち込むような光景が目に飛び込んできた。
橋の上に人影があった。白いドレスを着た若い女が、石の手すりに腰掛け、下の川に向かって足をぶらぶらさせている。
心臓が止まった。
白鳥日菜だった。
いや。今日だけは。今だけは。彼女がどうしてここにいるの?
「うそでしょ」と倉持早苗が息をのんだ。
「あの子、飛び込むつもりじゃ……」
春美さんが心配そうに身を乗り出した。
「加藤真さん、スピードを落として」
でも私には分かっていた。これが一体何なのか、正確に。
「運転を続けてください」
私は加藤真さんにきっぱりと告げた。
「でも結希ちゃん――」と春美さんが言いかけた。
「運転して、加藤真さん。止まらないで」
フロントガラス越しに、白鳥日菜がこちらに向かってくる車列に顔を向けるのが見えた。この距離からでも、完璧に施されたメイクと、丁寧にセットされた髪が見て取れる。
彼女の白いドレスは破れても汚れてもおらず――まるでたった今着たかのように、真新しかった。
彼女はこれを計画したのだ。私たちがここを通り過ぎなければならないことを知っていて、この瞬間の、この場所を正確に狙ったのだ。ずっと見ていて、タイミングを完璧に計っていた。
倉持早苗が私の腕を掴んだ。
「結希、あの子を助けなきゃ!」
「いいえ」
私の声は意図したよりも硬く響いた。
「その必要はないわ」
しかし加藤真さんはすでに車を減速させており、その顔には心配の色が浮かんでいた。
「お嬢様、やはり――」
「運転を続けてと言ったでしょう!」
だが、もう遅かった。
私たちの後ろから、車列の二台目――安樹と彼の付き添い人たちが乗った車――が横に並んできた。助手席に座る安樹の姿が見える。まだスーツ姿で、その表情は鋭く、集中している。
彼の車の窓が下がった。
「結希?どうしたんだ?」
私が答える前に、彼の視線は橋の上の白鳥日菜を捉えた。彼の雰囲気が一瞬で変わった。私がよく知っているあの表情――消防士としての本能が作動したのだ。
「なんてことだ。加藤真さん、車を止めて。車を止めてください!」
「安樹、やめて――」と私が言いかけた。
しかし彼はすでに二台目の車から飛び出していた。車が完全に止まるのを待つことさえしなかった。
「動くな!」
彼は白鳥日菜に向かって叫んだ。その声には、危機的状況の訓練を受けた者だけが持つ威厳がこもっていた。
「動かないで!大丈夫だから!」
これだ。これが彼女の狙った瞬間。彼女は彼を、まさに望み通りの状況に置いたのだ――ヒーローモードで、完全に彼女だけに集中させ、私たちの結婚式の参列者全員を観客にして。
春美さんが私を見た。その目には明らかな困惑が浮かんでいる。
「結希ちゃん、どうして車から出ないの?あのかわいそうな子、助けが必要よ!」
「彼女に必要なのは助けじゃありません、春美さん。注目です」
「なんですって?」
春美さんの声は衝撃に満ちていた。
「結希ちゃん、本気で言ってるの?人の命がかかっているのよ!」
私はようやく車から降りたが、助けるためではなかった。橋から二十メートルほどの距離で、落ち着かせるように両手を挙げている安樹の方へ歩いていった。
「安樹、車に戻って」
彼は振り返りもしなかった。
「結希、110番をお願い。危機管理交渉班の出動を要請しろと伝えろ」
「車に戻ってって言ってるの」
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「どうせ俺から離れられないだろう」
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「今この瞬間から、私の人生から消え失せて!」
初めて焦燥に駆られ、すがりついてくる夫。
その夜、鳴り止まない私のスマホに出たのは、新しい恋人の彼だった。
「知らないのか?」
受話器の向こうで、彼は低く笑った。
「良き元カレというのは、死人のように静かなものだよ?」
「彼女を出せ!」と激昂する元夫に、彼は冷たく言い放つ。
「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
「彼女はクタクタになって、さっき眠ってしまったから」













