学園の不良を好きになったって、何が悪いの?

学園の不良を好きになったって、何が悪いの?

間地出草 · 完結 · 35.1k 文字

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紹介

義理の兄を好きになってはいけない。
不良を信じてはいけない。
──三浦絵里奈(みうら えりな)は、その二つの掟を破ってしまった。

海峰学園高等学校の人気者、藤原海翔(ふじわら かいと)に「汚らわしい間違いだ」と言われ、心を打ち砕かれたその日。
学園一危険と噂される転校生、黒川蓮(くろかわ れん)が現れ、彼女の顎をそっと持ち上げて囁いた。
「仕返し、してみたいか? 俺が教えてやる。」

それはただの遊びのはずだった。
しかし、蓮の「授業」は、初めて会った日に渡された小さなミントキャンディから始まっていた──。

チャプター 1

 深夜2時47分。私はベッドに丸くなり、スマートフォンの青白い光が私の血の気のない顔を照らしていた。

 これは私の密かな儀式――眠れない夜はいつも、口にする勇気のない言葉をすべてスマホのメモアプリに書き留める。書いては消して、まるで何もなかったかのように。

 指がスクリーン上を飛ぶように滑る。

 「もう一度、私におとぎ話を信じさせてくれた人へ: あなたは私が誰かなんて、きっと永遠に知らないでしょう。でも、あなたの笑顔ひとつひとつが、モノクロだった私の世界に彩りを与えてくれます。この二年間、人混みの中であなたを探し、真夜中にあなたの詩をいくつも書き、いつか『好きです』と伝えられる日を夢見てきました。あなたは手の届かない星で、私なんて、いつも隅っこから見上げているだけの影のような存在。でも今夜、卒業を目前にしたこの最後の瞬間に、伝えたい――あなたに恋をしたのは、私の青春時代で最も美しい奇跡でした。もし奇跡があるなら、それが私たちに訪れますように。 ――あなたの知らない、ある女の子より」

 これは、藤原海翔への四十七通目のラブレター。前の四十六通と同じように、三分間だけ存在して、すぐに消される運命。

 指が削除ボタンへと向かう。けれど、まぶたがどんどん重くなっていく。疲れすぎてボタンがはっきり見えない。指はスクリーン上をあてもなく滑って……。

 ピコン。

 軽やかな通知音が、私をはっと我に返らせた。

 LINEの表示:「メッセージは正常に送信されました。」

 私は必死で送信取消ボタンをタップする――「送信取消の期限を過ぎています。」

 心臓が丸一分間も激しく鳴り続けた後、私は無理やり自分を落ち着かせた。

 待って、これって匿名だ。

 この学校には三千人の生徒がいて、告白文を書く女の子なんてたくさんいる。それに私は普段すごく地味だし――誰が私のことなんて思いつく?

 大丈夫。明日にはこの投稿もすぐに埋もれちゃう。

 私はスマホの電源を切り、頭から布団をかぶった。

 夢も見ないまま眠り続け――

 「絵里奈! 大変なことになったよ!」

 紗羅の叫び声で叩き起こされた。壁の時計は午前九時十五分を指している。

 「LINEに史上最高にロマンチックな告白が投稿されたの! 学校中が大騒ぎよ!」彼女はスマホを片手に駆け寄ってくる。

 LINEを開くと、心臓がひゅっと縮こまった。

 「いいね!」999+件。コメント247件。シェア15件。

 コメント欄は爆発していた。

 @チア部のキャプテン真琴:「きゃー、ロマンチックすぎ!」

 @サッカー部の大輝:「海翔、お前モテるなー(笑)」

 @写真部の淳:「これって、明らかに海翔宛だよな?」

 @演劇部の菜々子:「誰なのよ?! 知りたくてたまらないんだけど!」

 「みんなで犯人探しよ!」紗羅が興奮して飛び跳ねる。「投票スレッドまで立ってて、チア部の美鈴ちゃんがトップ独走中!」

 少なくとも、匿名でよかった。私はほっと胸をなでおろす。私が何も言わなければ、誰にもバレない。

 「顔色悪いよ。具合でも悪いの?」紗羅が心配そうに訊いてくる。

 「今日は休んだ方がいいんじゃない?」

 「だめ!」私の反応はあまりに大げさで――紗羅がびくっと後ずさる。「い、いや……今日、化学のテストがあるから。休めない。」

 普通に振る舞うの。ただの傍観者でいればいい。

 大急ぎで朝の支度を済ませ、帽子を目深にかぶり、パーカーで体を包んでから家を出た。

 廊下は噂話でざわついているけど、誰も私には気づかない。

 よし。まだ私は透明人間だ。

 食堂は満員で、どのテーブルもその話で持ちきりだ。

 隅の席を見つけて座っていると、写真部の後輩の愛美ちゃんがやって来た。「あの告白見ました? すっごくきれいな文章ですよね!」

 「うん……」私はサンドイッチを食べながら、俯いたままでいる。

 「誰だと思います?」愛美ちゃんが身を乗り出す。「私は文芸部の子に一票です!」

 「かもね……」私は曖昧に呟く。

 突然、食堂全体が水を打ったように静まり返った。顔を上げると、心臓が止まりそうになった。

 藤原海翔が、中央のテーブルの上に立っていた。窓から差し込む太陽の光が、彼の金色の髪をまるで王冠のように輝かせている。いつもの赤いパーカーを羽織り、手にはスマートフォン。

 何をしようっていうの? まさか……公開で、あの子を探すつもり?

 「ここにいるんだろ」彼の声が食堂中に響き渡る。「あの美しい言葉を書いてくれた子」

 私の手は震えだし、サンドイッチがトレイの上に落ちた。

 「あの告白は、今年一番のプレゼントだった」海翔の瞳が、群衆の上を滑っていく。「二年間、ずっと待ってたんだ。本当の俺を見てくれる誰かを」

 食堂は囁き声で騒然となる。「うそ、何する気?」「公開で探すってこと?」「でも、匿名なのに!」

 私が認めさえしなければ、ただの傍観者としてここに座っていれば、何も起こらない。

 「誰だか分かってる」海翔の声が、自信に満ちた楽しげな響きを帯びて、再び鳴り響いた。

 えっ?!

 場内は悲鳴と息をのむ音で爆発する。女の子は皆、自分が選ばれる瞬間を期待して、髪を直し始めた。

 真琴と彼女のチア部隊は、すでに栄光を手にする準備万端とばかりに立ち上がっている。

 はったりよ! 彼が知ってるわけない!

 「三浦絵里奈」

 時が止まった。

 広大な食堂に、雷鳴のようにクリアに、耳をつんざくほどに、私の名前が響き渡るのが聞こえた。

 ありえない。

 絶対に、ありえない!

 全員が――全員が――一斉に振り返り、私を凝視する。

 真琴の顔に浮かぶ衝撃と不信が見える。

 紗羅が信じられないという顔で口を押さえている。

 愛美ちゃんの目が大きく見開かれている。

 食堂にいる三百人もの生徒全員が、まるで宇宙人でも見るかのように私を見つめている。

 どうして彼が知ってるの?!

 「君だろ?」海翔がテーブルから飛び降りると、群衆が自然と左右に分かれた。「写真部で静かに写真を撮っていて、いつもレンズの後ろに隠れて世界を観察している子。一番美しい魂を持った子」

 彼はまっすぐ私に向かって歩いてくる。その一歩一歩が、私の心臓を踏みつけているかのようだ。

 気絶しそう。本当に、気絶しちゃう。

 「わ、私……人違いです……」私の声は、かろうじて聞き取れるほどの囁きだった。

 海翔は私の前にたどり着くと、全員の視線が注がれる中、片膝をついた。

 彼は野球帽の中から小さな花束を取り出した――食堂の外の芝生に咲いていた小さなデイジー。素朴だけど、胸が締め付けられるほど美しい。

 「三浦絵里奈さん」彼の青い瞳が、私の瞳をまっすぐに射抜く。あまりに真摯で、断ることなどできそうにない。「卒業パーティーの相手になってくれないか?」

 食堂は、耳をつんざくような絶叫に包まれた。

 「はいって言え!」「受け入れてあげて!」「きゃー、ロマンチックすぎる!」

 頭が真っ白になる。

 こんなはずじゃなかった。これはただの事故だったのに。

 返事なんて欲しくなかった。スポットライトを浴びたいなんて思わなかった。

 ただ静かに彼を好きでいたかった、それだけなのに。

 でも、彼の優しい瞳を、その手に握られた小さなデイジーの花束を、周りのクラスメイトたちの歓声を聞いていると、「いいえ」と口にすることができなかった。

 だってこれは、私が二年間ずっと夢見てきた光景なのだから。

 たとえそれが、こんなにも突然で、非現実的で、そして……ありえない形で訪れたとしても。

 「私……」涙で視界が滲む。「……はい……」

 海翔は立ち上がり、花束を私の手に握らせた。そして、三百以上の視線が見守る中、そっと私の唇にキスをした。

 食堂全体が大騒ぎになった。

 悲鳴と歓声と口笛が混じり合い、カオスと化す。

 「うそ、絵里奈だって!」「海翔が選んだの?!」「写真部の絵里奈が?!」「信じられない!」

 真琴の怒りに満ちた声が聞こえる。「あの子ですって?! 冗談でしょ?」

 誰かがひそひそ話すのが聞こえる。「あの子、海翔に釣り合うわけ?」

 そして、別の誰かが言うのも聞こえる。「これこそが本当の愛ってやつだよ……」

 こうして、まったく心の準備もないまま、私は藤原海翔の彼女になった。

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