紹介
私が心血を注いで孵した鳳凰は、私を愛していない。
彼が絢爛たる尾羽を広げて見せるのは、あの偽物の令嬢の前だけなのだ。
六歳で人攫いに連れ去られ、貧民窟で二十年を生きた。公爵夫妻は私を失って一年後、教会から女の子を養子に迎えた。
その子が新たな令嬢として、本来私が受けるはずだった全てを手に入れた。
二十六歳で見つけ出された時、両親の目に映る私への感情は——罪悪感より、圧倒的な疎遠さだった。彼らは自らの手で育てた偽の娘を、私より愛していた。
恨んではいない。
貧民窟の二十年が教えてくれた。誰の愛も期待するな。権力と金だけが、決して裏切らない。
だから彼に三度目の拒絶をされた時、私は闇市の競売場へ足を運んだ。そして全身傷だらけの狼人の奴隷を買い取った。
その瞬間、あの鳳凰が取り乱した。羽毛を逆立て、声を震わせて。
「ご主人様……魔獣は俺一羽だけとお約束されたではありませんか……!」
チャプター 1
公爵邸へ戻って三年目。ようやく一つの事実を認められるようになった――私が丹精込めて孵した鳳凰は、私を愛していない。あいつが絢爛な尾羽を広げるのは、偽の令嬢の前だけだ。
私は六歳のとき人買いに攫われ、スラムに落ちて二十年を過ごした。その間に公爵夫妻は、私を失って一年も経たないうちに教会から一人の女の子を引き取った。
その子は新しい令嬢になり、本来なら私のものだったはずのすべてを享受した。
二十六歳で私は見つかった。両親の目にあったのは罪悪感――それだけではない。もっと大きかったのは、よそよそしさだった。彼らが愛しているのは、育て上げた偽物の令嬢のほうだった。
責める気にはなれない。
スラムでの二十年が、私に叩き込んだ。誰かの愛を当てにするな。裏切らないのは権力と金だけだ。
だから、あいつに三度目の拒絶を突きつけられたとき、私は闇オークションへ行き、傷だらけの狼人の奴隷を買い戻した。
すると、あの鳳凰はようやく焦った。羽毛を逆立て、声まで震わせて言う。
「ご主人様、俺だけ飼うって約束したじゃないか……」
舞台の上には「商品」が次々と押し出されていく。エルフの少女、半獣人の幼子、それから息も絶え絶えの魔獣が数匹。私は本来、情報を探りに来ただけだった。公爵邸から流出した魔法の品がここで転売されている、という噂がある。誰がやっているのか、それを知る必要があった。
あの狼人が引き立てられるまでは。
銀の枷が両手首と足首を締め、鎖が石床をずるずると擦って耳障りな音を立てる。背は高いのに、歩みは遅い。いつ崩れ落ちてもおかしくない。ぼろぼろの上衣が辛うじて肩に引っ掛かっているだけで、覗く肌には青紫の痣がいくつも走っていた。
競売人が狼人の肩をぱん、と叩く。
「さあさあ皆さん! こちらは闘技場から『引退』してきた逸品でございます! 体力抜群、回復力も折り紙付き! 狩り、重労働、あるいは――」
艶っぽく間を置いて、
「個人的なお楽しみにもいかがでしょうか」
周囲の貴族たちがどっと笑う。
「その傷じゃ、何日もたんだろ」
「買って犬の餌にするにはいいな」
「金貨50枚だ。練習の的にちょうどいい」
狼人は俯いたまま、黒髪が顔の大半を隠している。けれど私は見た。氷で鍛えた刃のような獣の瞳。死んだように静かで、それでも奥に反骨が潜んでいる。
いちばん危険なのは、すでに何も持たない者だ。そしていちばん忠実な護衛は、案外そういう場所から生まれる。
「最初は金貨100枚から!」
「120!」
「150!」
あっという間に200枚で止まった。「死にかけのガラクタ」に、これ以上出す者はいない。競売人が槌を振り下ろそうとした、その瞬間。
私は札を上げる。
「500枚」
場内が一拍、凍った。競売人がいっそう愉快そうに笑った。
「お目が高い! 金貨500枚、いちど――」
誰も上乗せしない。
「金貨500枚、さんど! 落札!」
係の者に案内され、私は奥のプライベート個室へ通された。扉が閉まり、鍵の音がする。
個室に残ったのは、私と狼人だけ。
銀月石のランプが宙に浮かび、淡い光を落としている。狼人は部屋の中央に立ったまま、全身を強張らせていた。まるで裁きを待つ罪人のように。
私はゆっくり一周する。背に縦横の鞭痕。まだ血が滲むものもある。肋のあたりには闘技場の焼き印、焦げた皮膚がめくれ上がっていた。前腕には魔法の灼け跡が走り、手首まで伸びている。尾は垂れ、毛並みは乱れている。
「顔を上げて」
彼が顔を上げたとき、私は息を呑んだ。
白い肌。通った鼻梁。切れ長の獣の瞳。眉骨と口元に痣があっても、凄みのある顔立ちは隠せない。鼓動が一拍、遅れた。
公爵邸に美形がいないわけじゃない。エヴァンジェリンの周りには、いつだって整った顔の従者が群れているし、鳳凰のトリスタンも人の姿になれば欠点のない完璧さを纏う。けれど、この顔は違う。傷が壊れものみたいな脆さを与え、瞳の冷たさが危険を匂わせる。その矛盾が、むしろ致命的に美しかった。
「後ろを向いて」
彼が背を向ける。引き締まった背筋、広い肩、くびれた腰。流れるような脊線。筋肉の一本一本が野性の力を語っている。
私は唾を飲み込んだ。
理性は告げていた。必要なのは護衛だ。十分に忠実で、十分に安く、公爵邸の連中に買収されない護衛。けれど今、胸の奥で別の、もっと原始的な欲が騒ぎ立てる。少し前、医師はホルモンの乱れを指摘して「発散」を勧めたばかりだ。
トリスタンは私に触れようとしない。なら、目の前の狼人は――。
私は彼の首の首輪を外した。
彼が私を見上げる。瞳に警戒が走る。
「名前は?」
「……ない」掠れた声が答える。「闘技場じゃ番号だけだ」
「私はスローン。今日からあなたはケイン。私の護衛よ」
ケインが目を細める。
「誰を殺せばいい?」
私は一瞬、言葉を失った。
スラムは色々教えてくれた。盗み、嘘、刃の上の生き方。けれど殺しだけは、私は最後まで手を出さなかった。なのにこの狼人は、「今日の献立は?」と尋ねるみたいに当たり前の顔をする。
「まだ決めてない。でも、その前に……」
私は彼の肩に手を置く。ぴくり、と筋肉が硬直した。
「したこと、ある?」
獣の瞳が大きく見開かれる。
「……何を」
「男と女がすること」
ケインは後ずさり、背が壁に当たる。尾が落ち着きなく揺れた。
「俺は……殺すことしか」
「奇遇ね」
つま先立ちになって、私は彼の唇に口づける。
「私も初めて」
彼は石像みたいに固まった。
肩から首へ、私の手が滑る。指先が首輪の擦れ痕に触れた。肌は熱い。心臓の鼓動が、胸を破って飛び出しそうなほど速い。
数秒後、ケインが震える手を上げ、恐る恐る私の腰に添えた。
「……本当に、いいんですか」唇が絡む隙間で、声が震える。「俺は下賤な狼人で……闘技場の、廃棄物で……」
私は答えず、彼の腰の枷を外した。
じゃらり、と銀の鎖が床に落ちる。
ケインの瞳が見開かれ、押し殺してきた感情が底で爆ぜた。次の瞬間、彼は身を翻し、私を柔らかな寝台へ押し倒す。粗暴で、それでも必死に抑えた動き。許された途端に獲物へ飛びかかる獣――ただし本気で噛み砕かないよう、自分自身に言い聞かせている獣。
「ご主人様……」首筋に顔を埋め、掠れた声が漏れる。「痛くしてしまう……どうすればいいか、わからない……」
「大丈夫」
私は傷だらけの背を抱きしめた。
「一緒に覚えればいい」
銀月石の光が個室にゆらゆらと巡る。帳の外にはオークションの喧騒。それでもここには、初めて優しさに触れる二人がいる。不器用に、真剣に、互いの体温の中で慰めを探して。
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自業自得だからだ。
誰のせいで、彼女が中村良太郎の娘であるというのか
父、中村良太郎は建築家として、自身が設計した建物で事故が起きたため、有罪判決を受けて刑務所に入ることになった。
母も心労で入院している今となってはなおさらだ。
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今、彼は、自分の婚約者に跪いて謝罪しろと彼女に命じている。
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しかし、結婚後、その男は決して醜くなどなく、それどころか、ハンサムで魅力的で、しかも億万長者だったことが分かったのです!
今さら私の墓前で悔いるな
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けれど、私は次第に気づいていった。どの授業でも一番前の席には、いつも同じ真面目な男子学生が座っていることに。
そして、いつも学校の一等奨学金が、同じ名前の生徒に贈られることに。山本宏樹。
いつからか、私は彼の後を追いかけるようになっていた。
大学の卒業式で、山本宏樹は奨学金を得た優秀な卒業生だった。
彼は卒業生代表の挨拶の場で、私が彼の恋人だと公言し、全校生徒数万人の前でプロポーズしてくれた。
あの頃、彼は前途有望な若き社長で、卒業前からすでに自分の会社を立ち上げていた。
一方の私は、骨肉腫だと診断されたばかりで、明日の太陽を見ることさえ贅沢な望みだった。
私は彼のプロポーズを断り、それから治療のために海外へ渡った。
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三日三晩の拷問の末、彼女の遺体は海水で腐敗していた。
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実の両親は億万長者で、私をすごく可愛がってくれた。私は数十億の財産を持つお姫様になった。それだけでなく、ハンサムでお金持ちのCEOが私に猛烈にアプローチしてきた。
(この小説を軽い気持ちで開くなよ。三日三晩も読み続けちゃうから…)
不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる
しかし結婚7年目、夫は秘書との不倫に溺れた。
私の誕生日に愛人と旅行に行き、結婚記念日にはあろうことか、私たちの寝室で彼女を抱いた夫。
心が壊れた私は、彼を騙して離婚届にサインをさせた。
「どうせ俺から離れられないだろう」
そう高をくくっていた夫の顔に、受理された離婚届を叩きつける。
「今この瞬間から、私の人生から消え失せて!」
初めて焦燥に駆られ、すがりついてくる夫。
その夜、鳴り止まない私のスマホに出たのは、新しい恋人の彼だった。
「知らないのか?」
受話器の向こうで、彼は低く笑った。
「良き元カレというのは、死人のように静かなものだよ?」
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「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
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