私の娘は彼のアリバイだった

私の娘は彼のアリバイだった

大宮西幸 · 完結 · 15.9k 文字

719
トレンド
719
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

そのアイデアは心春から出た。

私が夕食を作っているとき、彼女がキッチンに駆け込んできて、両腕で私の腰に抱きついて、私を見上げた。

「お母さん、恵子おばあちゃんのところに行ってもいい?二人だけで?女の子だけで?」

「どうして?」と私は尋ねた。

彼女はとても真剣な顔で考えた。「だって、目が覚めてお母さんがいないと、寂しくなるの。お父さんがいても、違うんだよ」少し間を置いて。「恵子おばあちゃんも、きっと私と同じくらいお母さんに会いたいと思ってるよ」

涼太がドアの枠に寄りかかっていた。彼は私に微笑んだ——あの気楽で自信に満ちた笑顔で——そして言った。「娘の言う通りだよ。君はもう何ヶ月も無理してる。旅行に行っておいで。こっちは全部任せて」

皿洗いを終える前に、フライトの予約は完了していた。

あの速さに気づくべきだった。

帰国便に乗る前夜にかけた電話が、すべてを変えた。私は電話を切ったつもりだった。

切れていなかった。

チャプター 1

 言い出したのは心春だった。

 私が夕食を作っていると、彼女はキッチンに駆け込んできて、私の腰に両腕を回し、見上げてきた。

「お母さん、恵子おばあちゃんのお家に行ってもいい? 二人っきりで!女の子トークしたいの!」

「どうして?」と私は尋ねた。

 彼女はとても真剣な顔で考え込んだ。「だって、朝起きてお母さんがいないと、すごく寂しいんだもん。お父さんがいても、なんか違うの」少し間を置いて、「きっと恵子おばあちゃんも、私と同じくらいお母さんに会いたがってると思うな」

 涼太はドアの枠にもたれかかっていた。彼は私に向かって微笑み――あの、余裕のある、自信に満ちた微笑みだ――そして言った。「心春の言う通りだよ。ここ数ヶ月、ずっと無理しっぱなしじゃないか。行っておいでよ。こっちのことは全部任せて」

 私が皿洗いを終える前に、航空券の予約は済んでいた。

 その手回しの早さに、気づくべきだったのだ。

 母の家での五日間。心春は騒がしく、楽しそうで、すっかりくつろいでいた。私は二年ぶりに、朝七時過ぎまで眠ることができた。最後の夜、私は客間から涼太に電話をかけた。――明日の便で帰るわ、心春は今日も楽しそうだった、起きて待っていなくていいからね――いつも通りの他愛のない会話。彼の声は温かかった。穏やかで。いつもの彼だった。

「おやすみ」と私は言った。

「おやすみ」と彼。

 私はスマートフォンを裏返してベッドサイドの棚に置いた。

 その時、再び彼の声が聞こえた。

 通話はまだ繋がったままだった。

「せっかくいいところだったのに、電話してくるなんて」女の声だった。遠慮も、声を潜める様子もない。すっかり自分の居場所であるかのように。

 涼太が低く笑う。「あいつ、本当にタイミングが悪いんだよな」

 衣擦れのような柔らかな音。「あの人、あなたが残業してるってまだ信じてるの? 毎回?」

「毎回さ」

「今回の旅行――本当に、早く帰ってくるかもって心配しなかったの?」

「ああ」彼の声には、どこか誇らしげな響きさえあった。「心春は何て言えばいいか、ちゃんと分かってる。あの子はこういうのが上手いんだ」

「信じられない」満足げな間。「そういうの、たまらないわ。こっちに来て」

 シーツが擦れる音がした。

 そして再び、今度はゆっくりとした彼女の声。「このベッド、大好き。知ってた?」その声には、どこか物思いに沈むような響きがあった。「彼女の枕。彼女が寝る側のマットレス。なんていうか、こういうのってすごく――」彼女は小さく笑った。「あなただって、興奮するでしょう?」

 涼太はすぐには答えなかった。

「君ってやつは」と彼が言った。

「それでも、毎回私のもとに戻ってくるじゃない」

「ああ」

「手錠は彼女のナイトテーブルに戻した? 私が置いた場所に」

「ああ」

「よかった」静かで、満足げな声。「彼女がその引き出しを開ける日のことを、ずっと考えてるの。それを手に取って、いつからそこにあったのか必死に考えようとする彼女の顔。ねえ、その瞬間が見たくてたまらないのよ。分かるでしょう?」

 涼太は何も言わなかった。

 それは、それ自体がひとつの答えだった。

 その後に続く音に、説明は不要だった。

 私はスマートフォンを手に取り、通話を切った。

 部屋の様子は先ほどと全く変わっていなかった。同じ行灯のような間接照明、私が生まれる前から母が使っている同じ綿入れの掛け布団、同じ暗い障子窓。外では、蝉がただ蝉として鳴いている。世界は何も知らないままだった。

 彼女は、どちらのナイトテーブルが私のものか知っている。自分の定位置ができるほど、何度もあのベッドに寝ているのだ。

 私は、涼太が私に語った言葉の数々を思い返し続けた。約束。何か永遠のものを意味していると信じ、私が何年もすがりついてきた、あの特別な言葉たちを。

 出会ったのは高校二年の時。お互いに乗り気ではないグループ課題で一緒になったのがきっかけだった。私は、学校の使われていない地下室を改装するための手書きの平面図を三枚持参した。彼は、私が何かとても珍しいものを持ち込んできたかのような目でそれを見つめ、「説明して」と言った。そして彼は本当に話を聞いてくれた――遮ることも、自分の話す順番を待つこともなく――きっちり二十分間。

 二週間後、学校の事務局からメールが届いた。彼が私に代わって、私の名前だけでその平面図を提出していたのだ。許可を求めることもなく。一言の報告もなく。

 私は怒り心頭で彼を探しに行った。しかし彼は、ただ承認の通知書を私に手渡し、こう言った。「気に入ってもらえたみたいだね」

 まるで、それこそがすべてだと言わんばかりに。

 最終学年になる頃には、私たちは付き合い始めていた。大学は六百キロも離れていて、電話はいつも午前二時を回っていた。ある時、私は「こんな遠距離じゃ、もう続けられない」と彼に告げた。すると彼は、三時間かけて車を飛ばして、深夜の私のアトリエの前に、ひどく不味いコーヒーを二つ持って現れた。真顔で。

「予定が空いてたからさ」と彼は言った。

 そんなはずはなかった。私は彼のスケジュールを把握していたから。でも、その時は何も言わなかった。

 大学三年の時、彼の父親に別の家族がいることが発覚した。十五年間、別の街で、誰も知らなかった二人の息子を育てていたのだ。深夜に電話をかけてきた涼太の声は、感情が完全に抜け落ちていた。私は二時間運転して彼のもとへ向かい、寒空の下、アパートの外で微動だにせず座り込んでいる彼を見つけた。

 私は彼の隣に座り、何も言わなかった。

 長い沈黙の後。

「母さんは、何も知らなかった。二人の関係は本物だと思ってたんだ」彼は静かに口を開いた。「一生をかけて誰かを愛しても、二人で築き上げてきたものが本物じゃないことってあるんだな。母さんは、それが偽物だって知る機会すら与えられなかった」

 彼は自分の両手を見つめた。

「俺は絶対に、誰かにあんな真似はしない」彼は言った。大声ではなかったが、確固たる決意が込められていた。「嘘の上に人生を築かせるような、そんな原因にだけは絶対にならない」

 私は彼の手の上に自分の手を重ねた。私は、その言葉のすべてを信じたのだ。

 私がデザインに向かう姿を見るのは、天職を生きる者を見るようだ、と彼はよく言っていた。それは、心からそう思っている人間の言い方だった――お世辞としてではなく、ひとつの事実として。「これが君の生きる道だ。絶対にやめちゃいけない」

 私たちは結婚した。心春が生まれた。同じ年に彼の会社が成長期を迎え、そのすべての計算式のどこかで――彼の出張、娘の学校のスケジュール、夕食の準備や電話応対、そして「誰かが家庭を支えなければならない」という理由で私が静かに断り続けたプロジェクトの数々――私の名前は、重要な場所から一切消えてしまった。

 これは一時的なものだと、自分に言い聞かせ続けた。この五年間、毎年そう自分に言い聞かせてきた。

 涼太が私の仕事について最後に何かを言ってくれたのがいつだったか、もう思い出せなかった。

 スマートフォンの画面が光った。涼太からではない。思いがけない名前が表示されていた。三浦雅弘。

「葉中央のプロジェクトで、統括責任者のポストが空いた。君のタイミングを見計らって、三週間この席を確保していたんだ。このプロジェクトには君の力が必要だ、奈緒。まだ意欲があると言ってくれ」

最新チャプター

おすすめ 😍

余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

25.1k 閲覧数 · 連載中 · 七海
結婚して5年、夫とは円満だと思っていた。
しかし、運命は残酷だ。

病院で「白血病」という絶望的な診断を受けたその日。
震える足で帰宅した私の目に飛び込んできたのは、夫の裏切りの証拠だった。

私たちの神聖な寝室。
そのベッドの上には、無惨に引き裂かれたレースの下着がわざとらしく残されていたのだ。

それは明らかに、夫の愛人からの宣戦布告。
「あなたはもういらない」と嘲笑うかのような、残酷なマウントだった。

命の期限を突きつけられた日に、愛まで失った私。
絶望の淵で、私はある決断を下す。
離婚当日、元夫が復縁を懇願してきた件

離婚当日、元夫が復縁を懇願してきた件

90.3k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
彼女は代理結婚を強いられたが、運命のいたずらか、昔から密かに想い続けていた人の妻となった。

五年間の結婚生活の末に待っていたのは、離婚と愛人契約だけだった。

お腹の子供のことは誰にも告げず、我が子を豪門の争いに巻き込まないよう、離婚後は二度と会わないと誓った。

彼は、またしても彼女の駆け引きだと思っていた。

しかし、離婚が成立した途端、彼女は跡形もなく姿を消した。

彼は狂ったように、彼女が行きそうな場所を片っ端から探し回ったが、どこにも彼女の痕跡は見つからなかった。

数年後、空港で彼は彼女と再会する。彼女の腕の中には、まるで自分を小さくしたような男の子が。

「この子は...俺の子供なのか?」震える声で彼は問いかけた。

彼女はサングラスを上げ、冷ややかな微笑みを浮かべながら、
「ふぅん、あなた誰?」
氷の社長が溶かされていく。ストイックな彼の、灼熱の恋

氷の社長が溶かされていく。ストイックな彼の、灼熱の恋

33.4k 閲覧数 · 連載中 ·
彼女が中村良太郎の娘であるというのか。
人の行き交う喫茶店で、少女の白い顔に重い平手打ちが叩き込まれた。
真っ赤に腫れた右頬を押さえ、彼女の瞳は虚ろで、反撃する気など微塵も感じさせない。
周りの人々は、侮蔑と嘲笑の入り混じった視線を彼女に向け、嘲笑うばかりで、誰一人として彼女を庇う者はいなかった。
自業自得だからだ。
誰のせいで、彼女が中村良太郎の娘であるというのか
父、中村良太郎は建築家として、自身が設計した建物で事故が起きたため、有罪判決を受けて刑務所に入ることになった。
母も心労で入院している今となってはなおさらだ。
黒田謙志。中村奈々の現在のスポンサーであり、今朝、会社で彼女と肌を重ねたばかりの黒田家の長男。
今、彼は、自分の婚約者に跪いて謝罪しろと彼女に命じている。
離婚を告げたら、見知らぬ夫が泣き出した

離婚を告げたら、見知らぬ夫が泣き出した

21.8k 閲覧数 · 連載中 · 神楽坂奏
彼女は十九年間、家に養われた偽の令嬢だった。真の令嬢の身代わりとして、顔も見たことのない瀕死の男に嫁がされることになった。

孤児となった自分の人生は悲惨なものになると思っていたが、姓を変えてからの彼女は、一人で見事に人生を切り開いていった。

彼は海城の権力者の代表格で、手段を選ばず冷酷無情だと噂されていた。彼の傍にいる小さな萌え萌えした子供の生母については、海城最大の謎とされていた。

ある日、彼が病に倒れて昏睡状態の時、なんと女が彼の部屋に忍び込み、彼を襲ったのだ!

彼は全市を挙げて犯人を捜索したが、まさか「元凶」がずっと自分の目の前で跳ね回っていたとは思わなかった。しかも、息子の先生だったのだ!

事が発覚すると、彼は彼女を壁に押し付け、顎を掴んで言った。

「先生、随分と派手に遊んでくれたじゃないか」

彼女は封印されていた結婚証明書を取り出した。

「私があなたを襲ったのは、合法よ」

それ以来、彼は彼女を骨の髄まで愛し、天にも昇るほど溺愛した。

「彼女はなかなかやり手ね。家の若旦那の継母になるために、わざわざ幼稚園の先生になったのよ」

「名門の継母なんてそう簡単になれるものじゃないわ。一ヶ月後には家から追い出されるに違いないわ!」

翌日、彼女はSNSで親子鑑定書の写真をアップし、こう添えた。

【申し訳ございません、実の子でした!】
ブサイクな男と結婚?ありえない

ブサイクな男と結婚?ありえない

96.2k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
意地悪な義理の姉が、私の兄の命を人質に取り、噂では言い表せないほど醜い男との結婚を強要してきました。私には選択の余地がありませんでした。

しかし、結婚後、その男は決して醜くなどなく、それどころか、ハンサムで魅力的で、しかも億万長者だったことが分かったのです!
令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

643.4k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
天才陰陽師だった御影星奈は、かつて恋愛脳のどん底に落ち、愛する男のために七年もの間、辱めに耐え続けてきた。しかしついに、ある日はっと我に返る。
「瀬央千弥、離婚して」
周りの連中はこぞって彼女を嘲笑った。あの瀬央様がいなくなったら、御影星奈は惨めな人生を送るに決まっていると。
ところが実際は――
財閥の名家がこぞって彼女を賓客として招き入れ、トップ俳優や女優が熱狂的なファンに。さらに四人の、並々ならぬ経歴を持つ兄弟子たちまで現れて……。
実家の御影家は後悔し、養女を追い出してまで彼女を迎え入れようとする。
そして元夫も、悔恨の表情で彼女を見つめ、「許してくれ」と懇願してきた。
御影星奈は少し眉を上げ、冷笑いを浮かべて言った。
「今の私に、あなたたちが手が届くと思う?」
――もう、私とあなたたちは釣り合わないのよ!
俺様社長とその婚約者——すれ違う愛

俺様社長とその婚約者——すれ違う愛

16.5k 閲覧数 · 連載中 · 紗良益子
私のバレエダンサーとしてのキャリアが崖っぷちに立たされていたその日、婚約者は別の女と一緒に産婦人科で妊婦健診を受けていた。

問い詰めても、彼は何も答えようとしない。私は決意した——こんな馬鹿げた婚約など、破棄してしまおうと。

その後、私は一千万円を投じて、彼にそっくりな若い男を囲った。

やがて事態は思わぬ方向へと転がり始める。元婚約者との間には、何か重大な誤解が横たわっているようだった。けれど、それが運命のすれ違いなのか、それとも世界が仕組んだ悪戯なのか——私たちはもう、二度と交わることのない道を歩み始めていた。
妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

381.8k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
鈴木七海は、中村健に好きな人がいることをずっと知っていた。それでも、彼との結婚を選んだ。
しかし、結婚して5年後、彼は離婚を切り出した。その時初めて、彼の想い人が私の父の隠し子(私の異母兄弟)だと知った。
離婚を決意した七海だったが、その時にまさかの妊娠が判明した。
家族を離れ、自由を望んでる私は既にある者の虜になった

家族を離れ、自由を望んでる私は既にある者の虜になった

54.2k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
彼氏に裏切られた後、私はすぐに彼の友人であるハンサムで裕福なCEOに目を向け、彼と一夜を共にした。
最初はただの衝動的な一夜限りの関係だと思っていたが、まさかこのCEOが長い間私に想いを寄せていたとは思いもよりなかった。
彼が私の元彼に近づいたのも、すべて私のためだった。
氷の君と太陽の私

氷の君と太陽の私

31.1k 閲覧数 · 連載中 · 鍋部奈
裏切られ、後悔に溺れながら死んだ私は、恐れられ冷酷な婚約者が私を救おうと身を投げる姿を見た。

運命が私を引き戻した——薬を盛られた結婚初夜、彼の腕の中で生まれ変わったのだ。これは私の二度目のチャンス。

かつて逃げ出した男こそが私の運命。彼の狂おしい愛こそが、私の最強の武器。世界が恐れる男を受け入れ、彼の姫となろう。共に、私たちを破滅させた裏切り者どもを灰燼に帰すのだ。

しかし私の突然の献身は、彼に疑念を抱かせる。心を砕いてしまった男に愛を証明するには、どうすればいいのだろう……彼の最も暗い欲望が、私を永遠に縛り付けることだと知りながら。
社長、突然の三つ子ができました!

社長、突然の三つ子ができました!

93.7k 閲覧数 · 連載中 · キノコ屋
五年前、私は継姉に薬を盛られた。学費に迫られ、私は全てを飲み込んだ。彼の熱い息が耳元に触れ、荒い指先が腿を撫でるたび、震えるような快感が走った。

あの忌まわしい夜から逃げるように去った私だったが、ほどなくして三つ子を妊娠していることに気付く。

五年後、医療界の新星として戻ってきた私は、継母、継姉、実の父へ全ての仕返しを誓う。

その時、彼が現れた。三人の小さな自分そっくりの顔をじっと見つめながら、優しく「パパ」と呼ぶよう子供たちを誘う彼。

ふとシャツのボタンを外し、悪戯っぽく笑って言った――

「どうだい、あの夜の熱をもう一度味わってみないか?」
溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

229.9k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
原口家に取り違えられた本物のお嬢様・原田麻友は、ようやく本家の原田家に戻された。
──が、彼女は社交界に背を向け、「配信者」として自由気ままに活動を始める。
江城市の上流社会はこぞって彼女の失敗を待ち構えていた。
だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
代わりに、次々と大物たちが彼女の配信に押しかけてくるのだった。
「マスター、俺の命を救ってくれ!」──某財閥の若社長
「マスター、厄介な女運を断ち切って!」──人気俳優
「マスター、研究所の風水を見てほしい!」──天才科学者
そして、ひときわ怪しい声が囁く。
「……まゆ、俺の嫁だろ? ギュってさせろ。」
視聴者たち:「なんであの人だけ扱いが違うの!?」
原田麻友:「……私も知りたいわ。」