紹介
空ろ沼の雌狼は皆、十八歳になると誰かと結ばれる運命にある。ただ、選定の館に足を踏み入れるその時まで、相手が誰なのかを知らされないだけだ。
少女たちは純白の装束を纏って中へ入り――頬を上気させ、震え、立っているのもやっとの状態で出てくる。笑う者もいれば、泣く者もいる。だが、中で何が起きたのかを語る者は誰一人としていない。
姉の千早は、この春で十八歳になった。大婆様は彼女に、選定には参加できないと告げた。
それでも、姉は行った。そして、ガクガクと震える足で戻ってきた彼女の太ももの間には血が伝い、その顔には決して拭い去ることのできない満面の笑みが張り付いていた。
私たちの「一族」に、番(つがい)を持たないオスはいない。
空ろ沼の雌狼は皆、十八歳になると誰かと結ばれる運命にある。ただ、選定の館に足を踏み入れるその時まで、相手が誰なのかを知らされないだけだ。
少女たちは純白の装束を纏って中へ入り――頬を上気させ、震え、立っているのもやっとの状態で出てくる。笑う者もいれば、泣く者もいる。だが、中で何が起きたのかを語る者は誰一人としていない。
姉の千早は、この春で十八歳になった。大婆様は彼女に、選定には参加できないと告げた。
それでも、姉は行った。そして、ガクガクと震える足で戻ってきた彼女の太ももの間には血が伝い、その顔には決して拭い去ることのできない満面の笑みが張り付いていた。
チャプター 1
空ろ沼は、鬱蒼とした原生林の奥深くにある。ここに住むのは約六十人――全員が女であり、全員が雌狼だ。私たちは薬草や乾燥させた植物を取引して生計を立てているが、基本的には外界と関わらず、ひっそりと暮らしている。時折、行商人が通りかかることもあるが、彼らが長居することは決してない。
「男たちはどこにいるんだ?」と彼らは尋ねる。
「よそへ出稼ぎに行っています」と私たちは答える。それ以上深く詮索してくる者はいない。
私には二人の姉がいる。千早と楓。私は一番下で――大神家の最後の娘だ。母の番が死んでから、大婆様が私たち三人を育ててくれた。彼女は一族を取り仕切る存在だった。誰が何をするか、誰にその準備ができているか、誰が披露するに値するか、すべてを彼女が決めた。少女たち一人ひとりの好きなお茶から、生まれつきの痣、傷跡に至るまで、大婆様はすべてを記憶していた。誰もが、彼女を温かい人だと言った。
だが同時に、誰一人として彼女に近寄りすぎる者もいなかった。
毎年、選定が終わると、何人かの少女たちが姿を消した。番が見つかったのだと、私たちは聞かされた――新しい頭領たちと共に暮らすために旅立ったのだと。翌朝には彼女たちの寝床は片付けられ、昼前には私物がすべて片付けられていた。その後、彼女たちの名前を口にする者は誰もいなくなった。
一度だけ、尋ねたことがある。私が八歳の時だった。前日に絵美が私の髪を編んでくれたのに、翌朝には彼女のベッドが空っぽになっていたのだ。
大婆様は私の髪の毛を一筋、耳の後ろに優しくかけ直して言った。「あの子は自分の番を見つけたのよ、可愛い子。祝福してあげなさい」
私は彼女を祝福した。そして、二度と尋ねることはなかった。
大婆様は母屋の裏に庭を持っていた――真冬でさえ、一年中花が咲き誇る庭だった。彼女は、土が良いからだと言った。毎年、選定の後に新しい花が咲いた。一度数えたことがある。何十本もあった。
千早は十五歳の頃から、自分の選定の日を指折り数えて待っていた。一族の少女たちは皆そうだった。それが、誰もが口にする、この森から抜け出すための唯一の扉だったからだ。
だからこそ、大婆様から選定には行かせないと言われた時、千早は取り乱した。
「そんなの嘘でしょ」千早の声はひび割れていた。彼女は震えていた――恐怖からではない。怒りからだ。
大婆様は声を荒らげることはなかった。いつだってそうだ。「お前の相手はもう見つけてあるの。ある一族の長よ。古い血筋で、とても気前がいい。ここ数年で誰よりも高い対価を提示してくれているわ」
「だったら、他の子たちみたいに、選定で彼と会わせてよ――」
「駄目よ」大婆様は、千早が背を向ける前にその手首を掴んだ。握る手は優しかったが、その指の関節は白く浮き出ていた。「選定の儀はね、将来の見込みがない少女たちのためのものなのよ、千早。お前にはそれ以上の価値がある」
千早はぴたりと動きを止めた。そして、彼女の表情が変わった――怒りが溶け去り、信じられないといったような、明るい色を帯びたものへと。「私に個人的な買い手を見つけたって言うの?」
大婆様は千早の髪を後ろに撫でつけた。彼女の指先は千早の首筋をなぞり、脈打つ部分でほんの一拍、長く留まった。「何年も前からお前の準備をしてきたのよ、愛しい人。お前は私の最高傑作なのだから」
「大婆様、手が氷みたいに冷たいよ」千早は笑って、その手を振り払った。
大婆様は微笑んだ。何も言わなかった。
私は廊下からその様子を見ていた。大婆様が千早を見るその目は――孫娘を見る目ではなかった。それは、大掛かりな取引を控えた薬草瓶を品定めする時の目だ。ひび割れがないかを確認するような。
選定の日、少女たちは白装束を身に纏い、選定の館の外に列を作った。一階には窓がなく、一年の大半は鍵がかけられている古い石造りの建物だ。彼女たちは一人ずつ中へ入っていった。
出てくる時には、彼女たちは変わっていた。上気した頬。覚束ない足取り。くすくす笑う者もいれば、呆然としている者もいた――まるで、ずっと醒めたくない夢から目覚めたばかりのように。
千早は、出てきた従姉妹の一人を捕まえた。「中で何があるの? 教えて」
従姉妹の顔はまだ桜色に染まっていた。彼女は横目で私を流し見しながら、笑みを噛み殺して言った。「自分で確かめるしかないわよ」
儀式の後、私は大婆様が特定の少女たちを脇へ引き寄せるのを見ていた。彼女が身を乗り出して何かを囁くと、少女たちの目に宿っていた光は静かに消え失せた。彼女たちは頷き、自分たちの小屋群へと歩き出し、荷造りを始めた。
その夜、千早に揺さぶられて私は目を覚ました。
「起きて。選定の館の外で見張っていてほしいの」
「千姉ちゃん、駄目だよ――」
彼女は私の手首を掴んだ。爪が食い込む。「もし大婆様にバレたら、あんたがチクったってことだからね」
「この一族の娘は全員あの扉をくぐれるのに、私だけが許されないなんて」彼女はすでに靴を履き、顎を強張らせていた。「大婆様が何を企んでいようと関係ない。どんな気分なのか、私だって知りたいのよ」
彼女は側面の窓から忍び込んだ。私は外壁に寄りかかってしゃがみ込み、両膝を抱えて待った。
そして――中から音が聞こえた。低く、リズミカルな音。石壁を透して響いてくる。
「千姉ちゃん?」私は扉の隙間に口を寄せて囁いた。「大丈夫?」
「私……っ、ええ……入ってこないで……っ」
彼女の声が裏返った。すすり泣きと、まったく別の何かが混ざったような声。どちらの要素が強いのか、私にはわからなかった。
私は窓の方へ回り込んだ。高すぎる。崩れた石を積み重ね、窓枠にかけた指が白くなるほど力を込めて、体を引っ張り上げた。
蝋燭の灯り。床に落ちる影――千早のものと、他の影。もっと大きく、動いている。一つだけではない。
彼女の白装束は腰までずり落ちていた。むき出しの背中が、規則正しく上下し、弓なりに反っている。
影がさらに密着していく。
千早の声が一段と高ぶった。彼女は誰にも、やめてとは言っていなかった。
最新チャプター
おすすめ 😍
妊娠を隠して離婚します
九条雅人は彼女の顎を荒々しく掴み、低く唸った。
絢香の頬は屈辱と興奮で真紅に染まったが、その声にはまだ意地が残っていた。「あなたこそ、私に執着しているだけじゃないの?」
雅人は冷酷に鼻で笑った。
「離婚してからどれほど経った? それでもう俺の『ルール』を忘れたか。お前の身体は、今でも俺をこんなによく覚えているくせに。……ほら、咥えろ」
熱を帯び、恐ろしいほどに猛り狂った彼の太いものが、絢香の顔を容赦なく叩いた。
雅人は冷たく笑う。
「俺から離れられるなんて夢にも思うな、絢香。お前は俺だけのものだ」
——
3年間の契約結婚の間、霧島絢香は「雅人が冷徹な人間だから、その心を溶かすことができないのだ」と思い込んでいた。
しかし、彼が桜井陽菜の妊婦健診に付き添い、彼女が少しでも不快な思いをしないよう、見たこともないほどの優しさと甘やかし方で接している姿を目撃したとき、絢香はついに悟った。彼は人を愛せないのではない。ただ、自分を愛していなかっただけなのだと。
絢香は静かに離婚届にサインし、自身の「妊娠診断書」を胸に抱いて彼の元を去った。
だが、絢香が完全に姿を消した瞬間、雅人は狂わんばかりになり、街中を血眼になって彼女を捜し回った。
ついに再会を果たしたとき、雅人の瞳は血走り、その声は掠れていた。
「絢香、俺が悪かった……頼む、俺の元に戻ってきてくれ」
知る前の夜
二日後、インターン先に足を踏み入れると、彼が社長のデスクの向こうに座っていた。
あの夜、私を喘がせた男にコーヒーを運ぶ日々。なのに彼は、まるで一線を越えたのが私のほうだと言わんばかりの顔をする。
***
始まりは賭けだった。終わりは、彼女が決して望んではならないただ一人の男だった。
ジューン・アレクサンダーは、見ず知らずの男と寝るつもりなどなかった。だが、夢にまで見たインターンを勝ち取り、その夜を祝っていた彼女は、勢い任せの無茶な賭けに背中を押され、謎めいた男の腕の中へと導かれる。熱を帯びた気配を纏い、寡黙で、そして忘れられない男。
もう二度と会うことはない――そう思っていた。
ところが初出勤の日、オフィスに入った瞬間――
彼が新しい上司だと知る。
最高経営責任者、その人だったのだ。
たった一夜、無謀に身体を重ねた男の下で働かなければならない。ヘルメス・グランデは権力者で、冷たく、そして絶対に手を出してはいけない存在。けれど二人の間に張りつめた緊張は、どうしても消えてくれない。
距離が縮まるほど、彼女の心と、二人の秘密を守り抜くことは難しくなっていく。
人生を謳歌する
令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む
「瀬央千弥、離婚して」
周りの連中はこぞって彼女を嘲笑った。あの瀬央様がいなくなったら、御影星奈は惨めな人生を送るに決まっていると。
ところが実際は――
財閥の名家がこぞって彼女を賓客として招き入れ、トップ俳優や女優が熱狂的なファンに。さらに四人の、並々ならぬ経歴を持つ兄弟子たちまで現れて……。
実家の御影家は後悔し、養女を追い出してまで彼女を迎え入れようとする。
そして元夫も、悔恨の表情で彼女を見つめ、「許してくれ」と懇願してきた。
御影星奈は少し眉を上げ、冷笑いを浮かべて言った。
「今の私に、あなたたちが手が届くと思う?」
――もう、私とあなたたちは釣り合わないのよ!
天才デザイナーの私と三つ子を、大富豪は取り戻したい
屈辱に塗れ、身一つで夜逃げするように国を去った私は、その後に彼の「三つ子」を身ごもっていることに気づく。
――6年後。
私は世界に名を馳せる天才デザイナーとなり、奪われたすべてを取り戻すために帰国した。
しかし、悪辣な嘘に目を曇らされた知暁は、私を激しく憎み、「仇敵」として冷酷に立ちはだかる。
やがてすべての真実が白日の下に晒された時、彼は己の過ちに絶望し、プライドを捨てて泣きながら私に許しを乞うた。
だが、傷つけられた私の心はもう戻らない。私は彼の懇願を、冷徹に突き放した。
――もう遅いわ。あなたを一生、許すつもりはない。
そう誓ったはずの私だったが、予想だにしない誤算があった。
私たちが産んだ愛らしい三つ子たちが、今さら戻りたいと泣く父親の、まさかの最強の味方として動き出したのだから。
元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる
私を見捨てた男ではなく、彼が一番恐れていた「危険な叔父」が、暗闇から現れた。
その腕の中だけが、この二年で初めて私を孤独から救い出した。
「次、誰かが君を傷つけたら、こうするんだ」 渡された銃の重みが、私の心に深く刻まれる。
私は逃げ出したかったはずなのに、いま、彼の甘い視線から離れられずにいる。 救いなどいらない。
ただ、この危険な男の「所有物」になりたい。
偽りの仮面
彼は、私との間に子供を授かることさえ望んではいない。
そればかりか、外では他の女性と戯れ、私の心を深く傷つける。
逃げ出したい。強く、自立した女性になりたい。
そう願う私を、しかし、彼が手放すつもりは毛頭ないようだった……。
私が去った日
けれど最後に彼が選んだのは、私ではなく、彼の初恋の女性だった。
夫は、私の心を深く傷つけただけではない。あの女が私の大切なジュエリーデザインを盗むことを許し、さらには実の息子までも操って、私を「怪物」だと思わせた。
嘘で塗り固められた結婚生活の中で、私は少しずつ自分を失っていった。
息が詰まるような日々。愛されていると思い込んでいた時間。すべてが偽りだった。
けれど、彼らはひとつだけ間違えた。
私を、もう戻れないところまで追い詰めたこと。
私が去ると決めたあの日。
私は、最低な夫も、母親への感謝を忘れた息子も、そして彼らによって壊された過去の自分も、すべて置き去りにした。
親友の支え。そして、私の本当の価値を見抜き、才能を認めてくれたある若き実業家との出会い。
その温かな手によって、私はもう一度、自分自身を取り戻した。
失った誇りを取り戻し、眠っていた才能を開花させ、世界へ羽ばたくデザイナーとして新たな人生を歩み始めた。
今、私の作品は世界の舞台で輝いている。
一方で、かつて私を捨てた男は、跪いて許しを乞う。
「戻ってきてくれ」と。
けれど、もう遅い。
私が去ったあの日こそが、私が本当の自分を取り戻した日。
もう二度と、過去には戻らない。
全能令嬢の帰還、家族が倒産?
父は冤罪で獄中にあり、母は病に伏せっている。
六人の兄たちも、ある者は身体に障がいを負い、ある者は無気力に沈んでいた。
そんな折、家に潜り込んでいた偽令嬢は状況を見るや否や一家を見捨てて姿を消し、さらに屋敷までも奪い取ろうとしていた。
世間は夏川家を「落ち目の負け犬」と嘲笑い、皆がこぞって踏みにじる。
紅蓮が静かに一声を発すれば、暗部より無数の異能の士たちが姿を現し、形勢は一瞬にして逆転する。
父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。
しかし、そんな彼女を指さして嘲る者がいる。
「夏川紅蓮は地味で野暮ったい田舎者だ」と。
何を隠そう、彼女は無数の隠された顔を持つ存在。
神医の令嬢も彼女なら、国画の大家も彼女。
伝説のハッカーも彼女なら、正体不明の謎の女優も彼女。
そして、暗部を統べる首領さえも——彼女なのだ。
そんな折、頂点に君臨する名門の若様が、彼女をそっと腕のなかに抱き寄せた。
「誰が彼女を田舎くさい地味女だと言った? 彼女こそ、俺・諏訪淳行の婚約者だ」
紅蓮が流し目をひとつ送る。
「婚約、破棄しなくていいの?」
「しない」
彼が長いあいだ追い求めてきた決して手の届かない高嶺の花こそが、いま腕のなかにいる婚約者なのだ。
解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。
社長秘書のヒミツ恋情
借金を返すため、彼と交わしたのは一通の契約書。
「体だけの関係。恋愛感情は一切なし」——そう決めたはずだったが…
冷酷非道な大物との政略結婚を強いられ、私は開き直った
ヤクザの家に生まれた宿命を恐れるあまり、私は幼馴染の周防文哉のもとへ逃げるように嫁いだ。
けれど結婚から五年――私は家畜のように囚われ、夫とその愛人に蹂躙され続けた。息絶えようとするその瞬間、最後に目に映ったのは、私の目の前で絡み合う二人の姿だった。
【転生】
再び目を開けると、婚約が公の場で発表されたあの瞬間に戻っていた。
周防文哉が愛おしそうに私を見つめ、優しく囁く。
「俺と結婚してくれ。」
次の瞬間――若きヤクザの組長が私の腕を掴み、力強く抱き寄せた。銃口は真っ直ぐ周防文哉に向けられている。
彼が、私の代わりに答えた。
「――断る」













