紹介
私の夫、藤原智史——彼の帝国は私の血と汗の上に築かれた。それなのに彼は私のアトリエをあの女に明け渡し、私には"お前にはその資格がない"と言い放った。私の誕生日、彼は私を突き飛ばし、あの女を助けに走った——彼女が起こしたあの火事は、彼女自身が点けたものだったのに。私が本当に署名した日?彼は笑った。いずれ私が這い戻って懇願すると、確信していたから。
でも、松野博は私の夫が一度も見なかったものを見てくれた。私の才能を。本当の私を。彼は私を道具ではなく、宝物のように扱ってくれた——私がもう永遠に失ったと思っていたすべてを、彼は与えてくれている。
今、藤原智史は私が離れていくのをただ見ていることしかできない。彼の会社は崩壊しつつある。そして私の代わりになったあの女?彼女は少しずつ、私になろうとしている。
それで、彼は?
彼はかつて言った——私は彼なしでは生きていけないと。今、跪いて哀願しているのは、彼の方だ。
でも、私はもうそこにはいない。」
チャプター 1
沈村薫子は、夫・藤原智史のスーツのズボンポケットから、真珠付きのレースショーツと、ホテルのルームキーを見つけた。
ショーツは見覚えのないブランド。レースの縁に真珠が細い鎖みたいに連なっていて――少なくとも、自分の趣味じゃない。
カードキーには安田ホテル、1808号室。
指先でそのカードをきつく握りしめる。角が掌に食い込み、じわりと痛みが走った瞬間、麻痺していた思考が少しずつ戻ってきた。
……ふん。今度は誰と寝たんだろ。
沈村薫子は瞬きをして、耐えて、耐えて、それでも耐えきれず。カードキーを握ったまま家を出た。
安田ホテルは東区。車で20分。
何も考えていないようで、全部考えていた。赤信号でふと手元を見ると、指が小さく震えている。
薫子はその手をハンドルに押しつけ、震えを押し殺した。
エレベーターで18階へ。長い廊下。暗い赤のカーペットが足音を吸い込んでいく。
1808号室のドアは、少しだけ開いていた。
薫子は扉の前で足を止め、中から漏れる声に耳を澄ませる。
女の笑い声。甘ったるくて、語尾に媚びが絡む。
そっと押して、隙間から覗く。
リビングのソファで、男と女がキスをしていた。
女はキャミワンピで、男の膝にまたがり、首に腕を回している。スカートの裾は高くたくし上げられ、あの真珠レースの縁が覗いていた。
男はシャツのボタンを開けたまま。片手は女の腰を押さえ、もう片方はソファの背に置いている。
「智史さん……」
女が呼ぶ。吐息の混じった、いやらしい声。
薫子は扉口に立ち尽くし、胸を針金で締めつけられるみたいに痛くて、息ができなかった。
下唇を噛みしめる。鉄錆の味が滲んだ瞬間、力いっぱいドアを押し開けた。
開く音に、女が顔を上げる。頬は赤く、唇は濡れて艶めいている。
次の瞬間、女は男の胸へ隠れるように身を寄せた。
「智史、誰か来た……」
藤原智史が振り返る。まるで薫子が来ることを最初から知っていたみたいに、切れ長の目に驚きは一欠片もない。
彼は女の顎をくい、と持ち上げた。
「気にするな」
そう言って、また口づける。
薫子は、指先まで震えるほど心臓が痛んだ。
五年前。付き合い始めたばかりのころ。彼女は交通事故に遭った。
智史は病院へ駆けつけ、脚を震わせながら医師の手を掴み、膝をついて「助けてください」と懇願した。
縫合中も廊下で待ち続け、出てきたときには目が真っ赤で。理由を聞けば「大丈夫、さっき緊張しすぎただけだ」と笑った。
あのころは、この人は本当に自分を大切にしてくれている――そう信じていた。
だから結婚してから、地方のデザイン会社で部長職のオファーを断った。遠距離は嫌だ、と彼が言ったから。
それでも手放す価値はあると思っていた。
けれど、藤原智史は金を手に入れた途端に変わった。
自分はもう、彼に釣り合わないのだと。
引き留めたことがないわけじゃない。
メッセージを送っても返事はない。食事をしたか尋ねれば「お前には関係ない」。
努力すれば、耐えれば、愛してくれた人は戻ってくる。
あれほど愛し合ったのだから。ずっと、そう思い込んでいた。
でも今、ソファの二人を見て――ふっと、どうでもよくなった。
藤原智史が坂原千尋を離し、薫子を嘲るように見た。
「見物は済んだか? まだなら、もっと刺激的なのもあるぞ。見るか?」
坂原千尋は彼の胸に縮こまり、薫子を見上げて小声で言う。
「智史、やめて。……奥さんなんだし……」
智史は千尋を見下ろし、口角だけ上げた。
「奥さん? こいつが?」
薫子は拳を握りしめたまま、ふいに笑った。目の奥がつんと痛い。
「藤原智史。型にはめたみたいな芝居、楽しい?」
彼の眼底に陰が落ちる。
薫子は息を吸い、どこから湧いたのか分からない勇気で、近くの椅子に腰を下ろした。
「二人芝居を見せたいなら、別に見てあげてもいいよ。無料だし。面子くらい立ててあげる」
智史の顔色が沈む。千尋を放し、一歩ずつ薫子へ近づく。
「沈村薫子。恥ってもんがないのか?」
胸が千切れそうに痛い。それでも薫子は顎を上げた。
「あなたのほうが、よっぽど恥知らずじゃない?」
智史は冷たく薫子を見つめ、ふっと笑う。
「怒ったか? 受け入れられないなら出ていけ。離婚届はそこにある。署名しないのはお前だろ」
薫子は滲む視界を瞬きで追い払う。
一年前、彼はもう離婚届を突きつけていた。
壊れて腐りきった関係を必死に繕おうとしていたのは、自分だけ。
心臓の痛みは、いつの間にか麻痺に変わっていた。
「……いい。あなたがそう言うなら」
それ以上は何も言わず、薫子は背を向けた。
智史は、彼女が本当に出ていくのを見て喉仏を強く鳴らした。
……どういうつもりだ。まさか、ようやく署名する気になった?
だがすぐに否定する。
あいつが離れるはずがない。今の薫子は専業主婦だ。自分が与えている暮らしを失ったら、外で生きていけるわけがない。
そう思うと、智史は鼻で笑い、興味を失った。
……
薫子は車に乗り、窓を下げた。夕暮れの風が流れ込む。
少し冷たくて、頬を撫でるように吹き、最後の朦朧まで吹き飛ばした。
長いこと車内で座り、気持ちを整えてからスマホを取り出す。
約1年、登録したまま一度もかけなかった番号。
コール2回で繋がった。
「沈村薫子?」
穏やかな男の声。
「どうした、急に電話なんて」
薫子は一拍置き、淡々と言った。
「先輩。前に海外支社でデザイン部長が足りないって言ってましたよね。……その席、まだ空いてますか?」
一瞬の沈黙。すぐに笑い声が返る。
「空いてる空いてる。ずっとお前のために取ってある! やっぱりな、いずれ決めると思ってた。あのプロジェクトのリソース、知ってるだろ。国内じゃ二つとない服飾産業チェーンだ。収入も今の10倍だぞ。成果を出せば、将来は支社の最大株主も夢じゃない」
鈴原靖はデザイン業界の第一線にいる男だ。
彼の会社は業界最大級のサプライチェーンを持ち、今年から海外展開を本格化させていて、一年前から薫子に声をかけていた。
彼女が行かなかったのは、藤原智史を離れたくなかったから。
今思えば、全部、自分の独りよがり。
薫子は言った。
「……分かりました。行きます」
向こうがまた一拍沈黙する。あまりに即決で驚いたのだろう。
「本当に? 前は、離れたくないって、考えるって言ってたのに」
薫子は窓の外、ホテルの18階を見上げた。あの部屋の明かりは、まだ点いている。
視線を戻し、すぐには答えない。
正直、心はまだぐちゃぐちゃだ。長年の情は、そう簡単に切れない。
スマホ画面の日付を見て、黙って計算する。
1か月。
国内の仕事の引き継ぎが残っている。最低でも1か月は必要だ。
――なら1か月。結婚に与える最後の猶予。
薫子は改めて口を開いた。声が少しだけ柔らかい。
「こっちで片づけることがあって……1か月くらいかかります。待ってもらえますか?」
短い沈黙ののち、答えが返る。
「いいよ。1か月後、待ってる」
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「しない」
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解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。
追放された私が真の継承者だった件。今さら戻れと言われても、もう手遅れです
けれど、私の本質を隠し通すことは誰にもできない。
隠された私の正体は、この国で最も裕福な一族の継承者。
かつての家族が私を見失っている間に、私は全ての支配者となり、この街の頂点に君臨する男の視線を独占する。
彼が私に捧げる愛は、ただの寵愛ではない――世界を敵に回してでも守り抜く、狂おしいまでの執着だ。
あの野郎が浮気した
その足で、私は新たな職へと向かった。無愛想で、他人を一切寄せ付けないことで知られる男の、個人秘書として雇われたのだ。元夫が私を無理やり連れ戻そうとするたび、新しい雇い主は私の前に立ち塞がり、そして——私自身すら見えていなかった何かを見つめるような目で、私を見た。
「君は、これまで誰も本気で愛したことなどない」
彼は私にそう言った。
反論しようとして、しかし私は何も言えなかった。
なぜなら、ふと心に浮かんだからだ。夫に対して抱いていたもの——それは愛だったのか、それともただの慣れだったのか。そして、私と過去との間に立ちはだかったこの男に抱き始めているこの感情は……一体、何なのか。
妊娠を隠して離婚し、彼は後悔した
三年にわたる隠し通してきた結婚生活のなかで、夫がそう口にしたのは、綾部栞の実家が危機に瀕し、彼女自身が身ごもっていた、まさにその時だった。
助けを求める彼女に、夫は目を向けることすらしなかった。失意の果てに、栞はふくらみ始めた腹を隠し、離婚届に署名する。
これで互いに違う道を歩むだけだと思っていた。ところが、隠していた孕み腹はやがて露見してしまう。
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「この子に会いたければ、跪いて許しを請いなさい」
そう言えば、さすがに諦めるだろう——。
だが、彼女は読み違えていた。相手の、その異様なまでの図太さを。
やがて、雲市で最も賑わう中心街の大型街頭ビジョンに、ある動画が一日中エンドレスで流れ始める。
それは、ひとりの男が地面にひざまずき、ただひたすら復縁を乞い続ける姿だった。
社長夫人の家族調教
アメリアは幼いころから祖母に育てられてきた。ある日突然、マルティネス家の人間が家の扉を叩き、彼女こそ長年行方不明だった娘だと言い張った。
マルティネス家に連れ戻されたアメリアは、身体に障害があるという婚約者まで与えられることになった。
その夜、アメリアはウィリアムの健常な下半身に短剣を押し当てた。「障害者のふりをして私に近づいた……目的は何?」
ウィリアムは、アメリアのスカートの下に突きつけられた冷たい銃口を顎で示した。「利害は一致してる。片がついたら一億やる」
数か月後、アメリアはようやく理解した。ウィリアムの言う「一億」とは、日に何度も求め続け、彼女が妊娠するまで終わらせない――という意味だったのだ。













