紹介
最後まで無事に生き残るために。
私は積極的にヒロインに近づき、彼女を助け、寄り添った。
しかしその後。
彼女は真っ赤な目で、哀れな表情で私を見つめた。
「ずっと私のそばにいてくれるって、言ったじゃない?」
チャプター 1
四月の陽光が、青藤学園の巨大なステンドグラスを透かし、講堂の赤い絨毯に色とりどりの光の斑点を落としていた。
わたくし、白銀涼華は、最前列の来賓席に用意されたベルベット張りの柔らかな椅子に腰を下ろしている。
「新入生の皆さん、ご静粛に」
校長の声がマイクを通して厳かに響き渡る。
「歴史と伝統ある、ここ青藤学園へようこそ……」
形式的な祝辞に、反射的に拍手をしようとした、ちょうどその時。
一行の半透明な文字が、突如として視界を横切った。
『定番のお嬢様登場シーンだな。今期の悪役令嬢は一段と傲慢そうだ』
瞬きをする。疲れ目が見せた幻覚だろうか。
文字列は一瞬で消えたが、すぐにまた新たな文字が浮かび上がる。
『あの胸元の金のバッジを見ろよ。星花クラスのお嬢様は髪の毛一本から爪先まで「わたくしは金持ちです」ってオーラが滲み出てる』
そっと目を擦ってみるが、文字は依然として宙に浮かんだままだ。
奇妙なことに、これが見えているのはわたくしだけのらしい。周りの生徒たちは皆、校長の話に神妙な顔で耳を傾けており、この怪現象に気づく様子はまったくない。
「……星花と月花の皆さんは、在校生の模範となり、本校の栄誉ある伝統を守り続けてくれることを期待しています……」
この学校は各大財団の投資により運営されており、財団の子女たちも多数在籍している。そして財閥系の生徒たちには「星花と月花」という特別な称号が与えられている。
『また階級差別のオープニングトークか。特待生がいじめられる未来しか見えないぜ』
『こういう学校ってリアル版「貴族と平民」だよな』
『悪役令嬢登場✓次はシンデレラヒロインの出番だな』
まるで動画サイトの弾幕のようなコメントが、わたくしたちを品定めするように流れ続ける。
入学式が終わるまで必死に意識を逸らそうとしたが、その文字は消えるどころか、むしろ数を増していく一方だった。
翌日の昼休み。
生徒会の書類を片付けるため、わたくしは校舎の廊下を歩いていた。
角を曲がったところで、数人の生徒が一人の女生徒を取り囲んでいるのが見えた。取り巻きは金のバッジを付けた星花の生徒たち。囲まれている女生徒の胸には、特待生専用のバッジが留められている。
「ねえ、森川さん。あなたのその制服、規定違反じゃないかしら?こんな安っぽい生地、青藤学園の品位を貶めるわ」
取り巻きの一人が、甲高い声で言い放つ。
森川と呼ばれた女生徒は俯き、華奢な身体を微かに震わせていた。だが、その声は凛として落ち着いていた。
「わたくしの制服は校則に則っております。生地も学校指定の標準のものですわ」
わたくしは足を止め、その光景を静観していた。
これまでのわたくしならば、すぐに割って入り、あの特待生に侮辱の言葉を浴びせていたことだろう。
その考えが頭をよぎった、まさにその瞬間。
目の前に、新たな文字が弾けるように現れた。
『悪役の出番キター!』
『「特待生は身の程を弁えるべきですわ」ってセリフが来るぞ、来るぞ』
『白銀様がどうやってヒロインをいたぶるか見ものだな。はぁ、マジで胸糞悪い悪役令嬢!』
驚愕した。
これらのコメントは、わたくしがまだ口にも出していない思考を、完璧に予知している。
馬鹿な!まるでわたくしが何を考えているか、わたくし自身よりもよく知っているかのようだ。
わたくしは踵を返し、その場を離れた。
誰もいない階段の踊り場まで来ると、スマホを取り出して主治医に電話をかける。
「涼華お嬢様。視力検査の結果は全く正常です。問診の上でも、精神的に特に問題は見受けられません」
藤原医師は検査報告書を閉じ、穏やかに告げた。
「おそらくは新学期のストレスによる一時的な幻覚でしょう。少しお休みになれば、すぐに良くなりますよ」
わたくしは黙って頷いた。
その「幻覚」が、この瞬間も止むことなく流れ続けているとは、とても言えなかった。
帰宅後、スマホが短く震えた。取り巻きの一人、御堂真子からのメッセージだ。
『涼華、聞いた?あの森川由紀、またテストの成績を自慢してたんですって。明日の水泳の授業、何か〝アクシデント〟でも起こして、あの子の制服でも隠してやらない?』
スマホの画面を凝視していると、目の前にすかさず新たなコメントが躍り出た。
『学園いじめイベント、定刻通りに開始!』
『これが所謂お嬢様軍団ってやつか?まとめて断罪されろ!』
ぞくり、と背筋が震えた。
これらのコメントはわたくしの思考を読み、周囲の人々の行動まで予測している。
まるで、わたくしたち全員が、見えざる脚本に従って動いている操り人形のようだ。
まさか、わたくしの人生は……何者かによって筋書きが決められているというの?
わたくしは真子に返信した。
『やめておきなさい。そんなくだらないことに時間を費やす必要はないわ』
金曜日の午後、生徒会室で溜まっていた書類を整理していた。
そろそろ帰ろうとした時、部屋の隅に置き忘れられた一冊の本が目に留まった。同人誌のようだ。
表紙には見慣れた校舎が描かれ、タイトルにはこうある。
『追放されたくない! 悪役令嬢白銀さんの逆転劇』
好奇心に駆られ、わたくしはそれを手に取って開いた。
――衝撃が、全身を駆け巡った。
そこに描かれていたのは、わたくしの学校生活そのものだった。
青藤学園、星花クラス、そして「白銀涼華」という名の、傲慢なお嬢様キャラクター。
さらに恐ろしいことに、物語のあらすじには、こうはっきりと記されていたのだ。
『悪役令嬢・白銀涼華は、特待生の森川由紀を陥れた罪により、クリスマスパーティーで婚約者から断罪される。衆目の前で全ての悪事を暴かれ、青藤学園を退学処分となるのだった……』
わたくしの指先が、カタカタと震え始める。
目の前のコメントが、狂ったように点滅していた。
『は? なんでここで原作小説見つけちゃってんの?』
『予定より丸々三ヶ月も早いぞ。バグか?』
『え、これストーリーどうなんの?完全にルートから外れるじゃん』
わたくしは同人誌をパタンと閉じ、深く、深く息を吸い込んだ。
これで、全ての辻褄が合った。
謎のコメント。思考を先読みする文字。未来を予言する言葉。
わたくしは幻覚を見ていたのではない。
ただ、〝観られて〟いただけなのだ。
物語の登場人物として。
そして最悪なことに、わたくしはこの物語において、破滅する運命にある「悪役令嬢」らしい。
「平民ヒロイン」を引き立てるためだけに用意され、最後は自らの悪行によって断罪され、笑いものになる……そんな道化役。
拳を、固く、固く握りしめる。
今までに感じたことのない、灼けつくような怒りと決意が、胸の奥から込み上げてきた。
もしこれが、すでに結末の決まった物語だというのなら。
わたくしが、その結末を書き換えてみせる。
悪役令嬢ですって?
笑わせないで。わたくしは、わたくしの人生の主役だわ。
クリスマスパーティー?断罪?追放?
いいえ、お断りよ。
わたくしは、『脚本』通りには動かない。
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……だが、ちょっと待ってほしい。なぜ私には突然、婚約者というものが存在するのか。しかもその相手は、私の大学の教授だという。誰か、説明してくれないだろうか。
家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った
公平を期すという名目のもと、兄たちは彼女からリソースを根こそぎ奪い、その尊厳を踏みにじってまで、運転手の娘を支えた。
彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。
生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。
兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。
長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
隠された天才:裏の顔が多すぎて、気づけば世界のトップを震撼させていた件
育ての親の一家に家を追い出されたあの日、私は微笑みを浮かべながら、奴らが施しとしてよこした金をゴミ箱へと投げ捨てた。
誰も想像すらできないだろう。この私が、数々の名門貴族や権力者たちが大金を積んで列をなし、首を長くして診察を待つ伝説の名医——【暁】だなんて。
私が時価総額数十億ドルのファッション帝国を裏で支配していることも、ウォール街の株価をたった一回の取引で大暴落させられることも、誰も知らない。私はその正体を、この平凡で冴えない素顔の裏にすべて隠し持っていた。
さらに劇的なことに、私の実の親はこの街で頂点に君臨する最高峰の大富豪だった。
そして私の婚約者——すでに顔を合わせているにもかかわらず、その正体を知らなかったあの男こそ、この街の誰もが名前を聞くだけで震え上がる、ビジネス界の冷酷な死神:梅原晴琉だったのだ。
ある日、彼は私の手を執り、ゆっくりと距離を詰めると、耳元で低く囁いた。
「俺のこの鼓動、今なら感じられるか?」
私は至って真面目な顔で彼の胸に手を当て、大真面目にこう返した。
「心拍数は確かに少し高めですが、非常に健康的です。心配ありませんよ」
彼は一瞬呆気にとられ、それからふっと吹き出した。その瞬間の彼の笑顔に、私の心臓もなぜかドクンと跳ねた。それは、自分自身でも説明のつかない初めての衝動だった。
だが、彼が私の真実に一歩ずつ近づくにつれ……私の心は揺らぎ始めている。自分の最後の秘密を、あとどれくらい隠し通せるのだろうか。
外されるはずのなかった仮面——。だが、あの人が執拗にその霧を剥ぎ取ろうとするとき、私は一体どこへ向かえばいいのだろう?
追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢
孤児だと判明した途端、彼女は養父母から冷酷に家を追い出され、婚約者も本物の令嬢へと乗り換えた。
彼らは、彼女がこれからド田舎で悲惨な生活を送るのだとあざ笑っていた。
しかし、彼女を迎えに来た実の家族は、なんと世界を牛耳る超巨大財閥の一族だった!
さらに、彼女自身もただの小娘ではない。その正体は、世界の医学界が平伏す伝説の天才医師だったのだ。
実家に戻るや否や、彼女は神業のようなメス捌きで次々と難病患者を救い、医療界の権威たちを圧倒していく。その圧倒的な実力に、誰もが恐れる冷酷なトップ御曹司でさえも彼女に惹かれ、無限額のブラックカードを差し出す始末。
一方、彼女を追い出した養父母の家業は倒産寸前に陥り、元婚約者も彼女の本当の姿を知って絶望の淵に立たされていた。
彼らが泣きついて許しを乞うても、彼女は冷たく言い放つ。
「今さら後悔しても、もう遅いわ」
追放された偽物の娘、その正体は最強でした
あの子が現れたその日、私は『偽物の娘』として家を追い出された。
渡されたのは、わずかな小銭と地方行きの片道切符だけ。
さらに婚約者は私をゴミのように捨て、その日のうちに『本物』であるあの子にプロポーズした。
……上等じゃない。せいぜい勝った気でいればいいわ。
だって彼らは、私の【本当の顔】を何一つ知らないのだから。
名門病院が見放した命を救う『天才外科医』。
オークションで数億円の値を叩き出す『伝説の画家』。
裏社会の闘技場で無敗を誇る『影の女王』。
そして――彼らの全財産すら小銭に思えるほどの『真の巨大財閥の後継者』であることを。
今さら元婚約者が土下座で許しを請おうと、本物の娘が嫉妬で狂いそうになろうと、もう遅い。
かつて私に婚約破棄の書類を叩きつけた冷酷で傲慢なCEOでさえ、今や何かに取り憑かれたように私を追い回し、「もう一度だけチャンスをくれ」とすがりついてくる始末。
私を捨てて、自分たちの人生を『アップグレード』したつもり?
笑わせないで。最初から、圧倒的に上の存在だったのは私のほうよ。
全能令嬢の帰還、家族が倒産?
父は冤罪で獄中にあり、母は病に伏せっている。
六人の兄たちも、ある者は身体に障がいを負い、ある者は無気力に沈んでいた。
そんな折、家に潜り込んでいた偽令嬢は状況を見るや否や一家を見捨てて姿を消し、さらに屋敷までも奪い取ろうとしていた。
世間は夏川家を「落ち目の負け犬」と嘲笑い、皆がこぞって踏みにじる。
紅蓮が静かに一声を発すれば、暗部より無数の異能の士たちが姿を現し、形勢は一瞬にして逆転する。
父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。
しかし、そんな彼女を指さして嘲る者がいる。
「夏川紅蓮は地味で野暮ったい田舎者だ」と。
何を隠そう、彼女は無数の隠された顔を持つ存在。
神医の令嬢も彼女なら、国画の大家も彼女。
伝説のハッカーも彼女なら、正体不明の謎の女優も彼女。
そして、暗部を統べる首領さえも——彼女なのだ。
そんな折、頂点に君臨する名門の若様が、彼女をそっと腕のなかに抱き寄せた。
「誰が彼女を田舎くさい地味女だと言った? 彼女こそ、俺・諏訪淳行の婚約者だ」
紅蓮が流し目をひとつ送る。
「婚約、破棄しなくていいの?」
「しない」
彼が長いあいだ追い求めてきた決して手の届かない高嶺の花こそが、いま腕のなかにいる婚約者なのだ。
解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。
本物の令嬢は、もう誰にも媚びない ~裏切られた私の、二度目の人生
執事の娘・西川安菜を哀れんで手を差し伸べた結果は、地獄。
兄たちの愛を奪われ、文字通り血を吸い尽くされ、体重は40キロを切った。
追い詰められた私は、絶望のまま窓から身を投げた。
死に際の一言は……「で? これから安菜の輸血はどうするの?」という皮肉。
……のはずだったのに。
目を覚ますと、私は三年前——安菜が泣きつかれてきた「あの日」に戻っていた。
可哀想なフリをする彼女を見つめ、私は笑った。
もう二度と、優しさなんて見せない。媚びもしない。
“親切”に立ち振る舞い、彼女を使用人部屋へ追いやって自立させてあげることにした。
彼女ばかり庇うお兄様たちの機嫌取りも、もう終わりだ。
かつて尽くしまくった元婚約者・石野星紀なんて、視界に入れる価値すらない。
勘違いしないで。
今の私は、ただの「有岡家のお嬢様」じゃないんだから——。













