紹介
夫は私の全財産を凍結し、三日もあれば泣いて許しを乞うだろうと嘲笑った。
だが、私は戻らない。
七日後。かつての夫の目の前に現れたのは、社交界の頂点に君臨する私だった。
世界を支配する男の腕に抱かれ、自分の息子が他人の女を「ママ」と呼ぶ光景を、冷徹に見下ろす。
私が彼に刻み込むのは、一生癒えることのない「後悔」という名の傷跡。
「教訓」を本当に学んだのは、果たしてどちらだったのか――。
チャプター 1
今日は、市川希美と夏川翔太の結婚七周年記念日だった。
夕食の支度をしているのに、夫も、息子の夏川日向も、まだ帰ってこない。
テーブルの上でスマホがぶるぶる震えた。夏川翔太のアシスタントからだ。
通話がつながった瞬間、向こうから切羽詰まった声が飛んでくる。
「希美さん、まずいです。出ました……」
安原は、いつもなら冷静で落ち着いている男だ。その安原がここまで慌てている。希美の胸も、嫌な音を立ててざわついた。
「どうしたの?」
「今日、夏川さんが、見知らぬ女性と日向くんを連れて遊園地にいたところを盗撮されました。写真、もうトレンド上位です。会社でも抑えが利かなくなってきてて……」
予感が当たった。
希美の身体がびくりと震え、用意していた赤ワインが手元から滑って床にぶちまけられる。赤いしみが、じわりと広がった。
安原は一拍置き、気まずそうに続ける。
「希美さんもご存じのとおり、夏川さんって業界では“理想の夫”のイメージで売ってきたじゃないですか。これ以上燃えると、たぶん……」
「分かってる」
希美は窓の外を見た。少し先の遊園地では、花火がきらきらと夜空を裂いている。
けれど――もう、全部が前と同じじゃない。
「できれば、SNSに夏川さんとのツーショットを上げてもらえませんか。火消しで……」
「……うん」
電話を切った直後、まるで狙い撃ちみたいに、新しいトレンドがスマホへ通知される。
『ニュース!夏川さん、ブレイク中の若手女優と手つなぎ!妻・希美は笑いもの?』
指先で画面をなぞっても、胸の波は不思議なくらい立たなかった。
今日は、夏川翔太の好きな人――伊藤沙梨が帰国して二日目。しかも彼女の二十八歳の誕生日。
写真は少しぼやけていた。弱い照明が夏川翔太の完璧な横顔を照らし、高い鼻筋が影を落とす。彼は伊藤沙梨を見て、浅く笑っていた。画面越しでも、溢れる甘さが分かるほどに。
伊藤沙梨は背中だけ。黒髪が腰まで落ち、細い腰に長い脚。腕の中には、屈託なく笑う夏川日向。――似合いすぎて、言葉がいらない。
コメント欄は爆発していた。大半が夏川翔太と伊藤沙梨の味方だ。
『うわ、このカプ確定でしょ!マネージャー上がりとは格が違うわ』
『前からあのビッチ無理。背中だけで妻より強いって何』
ほんの少しだけ、希美を擁護する声もある。百のうち一つくらい。
『え?七年も付き合ってこれで終わり?芸能界こわ……』
希美は長く息を吐き、スマホを置いた。受け入れるしかない、と静かに思った。
世間の目には、彼女は“伊藤沙梨の幸せを七年盗んだピエロ”に過ぎない。
夏川翔太とは大学の同級生で、同じクラス、同じサークルだった。皆が知っていた。希美が三年間、彼の後を追い続けたことを。
でも彼は、一度だって優しい顔をしてくれなかった。
伊藤沙梨は幼なじみで、キャンパスからそのままドレスへ――そんなふたりだった。けれど人生は、噛み合わない。
あるパーティーの夜。夏川翔太は伊藤沙梨と口論し、浴びるほど酒を飲んだ。
その酒に、玉の輿を狙う女優が薬を仕込んでいた。
心配になった希美が部屋へ駆け込んだ。そこから先は――一夜の過ち。
夏川家の人間に“現場を押さえられ”、祖母が使いを寄越して結納を迫り、夏川翔太は希美と結婚させられた。
当時、希美は泣き腫らした目で必死に弁解した。だが夏川翔太は吐き捨てたのだ。これは彼女が仕組んだ罠だと。それ以来、彼は彼女を骨の髄まで憎んだ。
最初から、間違いだった。
翌日、伊藤沙梨は彼の目の前で希美の頬を思い切り叩き、泣きながら「クズ女」と罵った。
夏川翔太は冷ややかに見下ろし、瞳の底に侮蔑と怒りをたたえていた。
あのとき、彼は彼女の顎を乱暴に掴んで言った。
「市川希美、お前は本当に卑しい。夏川家に嫁げると思うな。俺は絶対にお前なんか娶らない」
本当は、娶る娶らないなんて、どうでもよかった。希美が本当に嫁ぎたかった人は――五年前の、ある雪の夜に死んだ。
ただ、その人に似た眉と目を、どうしても捨てきれなくて。冷たい口調で、平気なふりをした。
けれど結局、彼の妻になった。
妊娠したからだ。
子宮壁が薄く、中絶すれば母になれない可能性が高い、と言われた。
伊藤沙梨はそれを知り、怒って海外へ飛んだ。夏川翔太は引き止めたが無駄で、彼女が旅立つその日に、希美を連れて婚姻届を出し、ネットに向けて結婚を公表した。
あとになって分かった。彼がしていたのは意地の張り合いだ。伊藤沙梨に後悔させ、戻らせるための賭け。自分はその“駒”にすぎなかった。
なら、降りるべきだ。
――最後の一つさえ終えれば。
スマホには通知が次々と跳ねる。安原からは催促、実家の執事からも「若様はどちらに?」と電話。
希美は額を押さえ、アルバムから夏川翔太との写真を探した。
……ない。驚くほど少ない。しかも、どれも夏川翔太が手で顔を隠していたり、横顔しか映っていなかったり。
堪えきれず、プライベートアルバムを開く。胸が、きゅっと縮む。
墓の前で撮った一枚。彼女だけが抱えている秘密。
夏川翔太という人間を強く意識したのは、墓参りのときだった。消えたはずの記憶と重なるような、あの眉の形――それが忘れられなかった。
でも、いま改めて見れば、似てなどいない。
長いこと探して、ようやく“まともに使える”一枚を見つけた。そこに彼女はいない。
雪の夜。夏川翔太が日向を抱いて窓辺に立ち、外を眺めている。温かな空気だけが写っている。
希美はSNSを開き、文面を打ち込んだ。父子の写真を添える。
『月と雪。そのどちらでもない、あなたは第三の絶景』
世論の風向きが、ようやく少し変わる。
『ほらね、パパラッチの捏造でしょ。似た女優連れてきただけじゃん』
『え、結局浮気なの?夏川さんはっきりして!』
『本人が火消ししてるし解散解散』
それでも夏川翔太をタグ付けする人は多いが、彼は一切反応しなかった。
反応しない――それがいちばんの肯定だ。
騒動がひと段落し、安原から礼のメッセージが届く。希美は短く返したあと、夏川翔太へ電話をかけた。これ以上派手に動けば、ブランドが契約を切りかねない。
……だが、出たのは夏川翔太じゃない。
澄んだ甘い女声。伊藤沙梨だった。
最新チャプター
#169 第169章 決着がつく
最終更新: 9/16/2026#168 第168章 頼みの綱が切れる
最終更新: 9/16/2026#167 第167章 大問題発生
最終更新: 9/16/2026#166 第166章 遺産?
最終更新: 9/16/2026#165 第165章 交通事故
最終更新: 9/16/2026#164 第164章 ごちゃごちゃしている
最終更新: 9/16/2026#163 第163章 入り組んだ
最終更新: 9/16/2026#162 第162章 関係ないとは言えない
最終更新: 9/16/2026#161 第161章
最終更新: 9/16/2026#160 第160章 共喰いだ!
最終更新: 9/11/2026
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私が囲っている億万長者
彼は息を呑むほど美しく、落ちぶれていた。夫の裏切りがもたらした傷が完全に癒えるまで、彼をそばに置いておくつもりだった。
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けれど、私の隣で横たわるこの男の正体は、彼が語ったものとはまるで違っていた。
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今や彼は、私の生活に、私のベッドに、そして私の心に――完全に絡みついている。
身を引くことは、彼のそばにいることよりも、もっと危険かもしれない。
二度目はない 動じず咲く
婚約者は身ごもった愛人を腕に抱き寄せたままそこに立ち、私を鼻で笑っていた。「俺がいなきゃ、お前なんて何の価値もない」
私はきびすを返し、この街で最も裕福な男の扉を叩いた。「ロック氏、政略結婚にご興味はおありですか? 千億ドル相当の株式――それに加え、未来のビジネス帝国も無料でお付けいたしますわ」
不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる
新郎の車から出てきたのは、見知らぬ女の派手なレースの下着だった。
しかも、その布切れにはまだ。生々しい情事の痕跡が残されていた。
吐き気がするほどの裏切り。
幸せの絶頂から地獄へと突き落とされた私。
けれど、泣き寝入りなんてしてやらない。
私はその場でウェディングドレスの裾を翻し、決意した。
「こんな汚らわしい男は捨ててやる」
私が選んだ次の相手は、彼など足元にも及ばない世界的な億万長者で?
家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った
公平を期すという名目のもと、兄たちは彼女からリソースを根こそぎ奪い、その尊厳を踏みにじってまで、運転手の娘を支えた。
彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。
生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。
兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。
長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
社長、突然の三つ子ができました!
あの忌まわしい夜から逃げるように去った私だったが、ほどなくして三つ子を妊娠していることに気付く。
五年後、医療界の新星として戻ってきた私は、継母、継姉、実の父へ全ての仕返しを誓う。
その時、彼が現れた。三人の小さな自分そっくりの顔をじっと見つめながら、優しく「パパ」と呼ぶよう子供たちを誘う彼。
ふとシャツのボタンを外し、悪戯っぽく笑って言った――
「どうだい、あの夜の熱をもう一度味わってみないか?」
伝説の天才、偽りの姿だ
だが、目を覚ますと、知能が低いと見下されている「不細工な女子大生」へと生まれ変わっていた。
容姿を嘲笑われれば、自ら開発したスキンケアクリームで誰もが息をのむ美貌へと変貌を遂げる。
知性を馬鹿にされれば、世界最高峰の大学の総長が自らスカウトに訪れ、医学界の権威は秘密の処方を求めて跪き、国際的なトップスターは楽曲の編曲を求めて彼女を追いかける。
二度目の人生こそは平凡な生活を味わおうとしたものの、隠された正体が次々と暴かれ、気づけばまたしても世界の頂点へと上り詰めてしまう。
背後には無数の配下を従え、その傍らには彼女を守る冷徹な実力者が寄り添うが、この冷徹な男は何かと嫉妬深く、彼女を翻弄してくるのだった。
跡継ぎ問題に悩む御曹司様、私がお世継ぎを産んで差し上げます~十代続いた一人っ子家系に、まさかの四つ子が大誕生!~
それから六年後——光瑠が子どもたちを連れて帰ってきた。その中に、幼い頃の自分にそっくりの少年の顔を見た瞬間、宴はすべてを悟る。あの夜の“よこしまな男”は、まさに自分自身だったのだ!
後悔と狂喜に押し流され、クールだった社長の仮面は剥がれ落ちた。今や彼は妻の元へ戻るため、ストーカーのようにまとわりつき、「今夜こそは……」とベッドの隙間をうかがう毎日。
しかし、彼女が他人と再婚すると知った時、宴の我慢は限界を超えた。式場に殴り込み、ガシャーン!と宴の席をめちゃくちゃに破壊し、宴の手を握りしめて歯ぎしりしながら咆哮する。「おい、俺という夫が、まだ生きているっていうのに……!」
周りの人々は仰天、「ええっ?!あの薄井さんが!?」
死に戻り真令嬢の復讐 ~偽りの家族も血の兄も要りません
破滅を経て死に戻った結衣は、人が変わったように冷徹になる。もう二度と、あの愚かな兄たちのために心を痛めたりはしない。
しかし、冷遇し始めた途端、兄たちの態度が一変する。
「いい加減、そんな冷たい態度を取るな」と迫る社長の長男。
「俺の誤解だったんだ……」と苦悩する医師の次男。
「頼む、やり直させてくれ!」とプライドを捨てて乞うトップスターの三男。
「俺の妹はお前だけだ!」と泣きじゃくる不良の四男。
だが、結衣の答えはひとつだけ。
「みんな、失せて」
復讐と無関心を胸に、彼女は一人の男性の手を取った。
「宮本景太。今日からあなただけが、私のたった一人の『お兄ちゃん』よ」
――しかし、彼女の本当の身分が明かされた時、今度は血縁関係のある「実の兄たち」が押しかけてきて――!?
「『唯一の兄』だと……? じゃあ、俺たちはお前の何なんだ!?」
隠された天才:裏の顔が多すぎて、気づけば世界のトップを震撼させていた件
育ての親の一家に家を追い出されたあの日、私は微笑みを浮かべながら、奴らが施しとしてよこした金をゴミ箱へと投げ捨てた。
誰も想像すらできないだろう。この私が、数々の名門貴族や権力者たちが大金を積んで列をなし、首を長くして診察を待つ伝説の名医——【暁】だなんて。
私が時価総額数十億ドルのファッション帝国を裏で支配していることも、ウォール街の株価をたった一回の取引で大暴落させられることも、誰も知らない。私はその正体を、この平凡で冴えない素顔の裏にすべて隠し持っていた。
さらに劇的なことに、私の実の親はこの街で頂点に君臨する最高峰の大富豪だった。
そして私の婚約者——すでに顔を合わせているにもかかわらず、その正体を知らなかったあの男こそ、この街の誰もが名前を聞くだけで震え上がる、ビジネス界の冷酷な死神:梅原晴琉だったのだ。
ある日、彼は私の手を執り、ゆっくりと距離を詰めると、耳元で低く囁いた。
「俺のこの鼓動、今なら感じられるか?」
私は至って真面目な顔で彼の胸に手を当て、大真面目にこう返した。
「心拍数は確かに少し高めですが、非常に健康的です。心配ありませんよ」
彼は一瞬呆気にとられ、それからふっと吹き出した。その瞬間の彼の笑顔に、私の心臓もなぜかドクンと跳ねた。それは、自分自身でも説明のつかない初めての衝動だった。
だが、彼が私の真実に一歩ずつ近づくにつれ……私の心は揺らぎ始めている。自分の最後の秘密を、あとどれくらい隠し通せるのだろうか。
外されるはずのなかった仮面——。だが、あの人が執拗にその霧を剥ぎ取ろうとするとき、私は一体どこへ向かえばいいのだろう?













