私が死んだ後、クズ男は狂ってしまった

私が死んだ後、クズ男は狂ってしまった

鈴 · 連載中 · 643.9k 文字

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紹介

私は藤原浩史を十年間愛してきた。なのに彼は、自分の「高嶺の花」のために、私に変質的な殺人鬼をおびき出させた——私を死なせることだけを望んで。

そしてついに、私は本当にその変質殺人鬼の手にかかって死んだ……

私の死体を目にした彼は、正気を失った。

次に目を覚ますと、私は見知らぬ女の体に生まれ変わっていた。そして隣に横たわっている夫は——まさに、私を惨殺したあの殺人鬼だった……

チャプター 1

私は死んだ。

彼が好きな女を守るために、私を脅して殺人犯をおびき出せと迫った――あの夜に。

死んだあとの私の遺体は標本にされ、ガラスの展示ケースの中に閉じ込められた。

なのに藤原浩史は、突然、気が狂ったみたいに……。

H市、藤原家。

どうしてだろう。死んだはずの魂が、この家に戻ってきた。

「西子、まだ連絡つかないの? もう何日よ」

藤原叔母がソファに腰を下ろし、小さくぶつぶつとこぼす。

「この子、いつもはちゃんとしてるのに……私の電話を無視するような子じゃないわ。何かあったんじゃ……」

私は藤原家の養女だ。十八のとき、この家に来た。

母は藤原叔母のいちばんの親友で、両親が交通事故で亡くなったあと、叔母が私を藤原家へ引き取ってくれた。

「母さん、放っとけよ。もう大人なんだし、何があるってんだ」

藤原浩史は苛立ったように時間を確かめる。

「今日は恵美の誕生日だ。俺、先に行く」

藤原浩史を見て、私は自嘲気味に笑ってしまう。

この人が私の生死なんて気にするわけがない。

昔の私たちは、家族が「幼なじみ」だと言う関係だった。

私はいつも彼の後ろをついて回り、彼は私の手を引いてくれた。

「好きだ」

そう言われた私は、馬鹿みたいに十年も彼を愛した。

でも、若い頃の感情なんて薄っぺらい。

藤原浩史が「本当の愛する人」に出会った瞬間、私たちの間にあったものは、跡形もなく消えた。

「浩史……最近、外で連続殺人の噂が出てるでしょう。若くて綺麗な女の子ばかり狙うって……」

叔母は不安そうに胸元を押さえ、声を落として続ける。

「妙に胸騒ぎがするの。西子に連絡してちょうだい。私が会いたがってるって」

両親が亡くなってから、藤原叔母だけが私を守ってくれた。

母親みたいに寄り添い、実の娘のように可愛がってくれた。

慰めたかった。抱きしめたかった。

でも、もうできない。

それどころか……こんなにも苦しませてしまっている。

「叔母さん、ごめんなさい……」

喉が詰まって声が震える。両腕を広げて抱きしめようとしても、指先は空を切るだけだった。

「恩知らずだな。拗ねてるにしても、母さんの電話に出ないとか……反抗期かよ」

藤原浩史が私のことを口にするとき、そこにあるのは露骨な嫌悪だけ。

あの年。藤原浩史が誘拐犯に車ではねられて怪我をしたとき、私は命がけで連中を引きつけた。

ただ、彼に生きてほしかった。

意識を失う直前、彼は言った。

――西子、俺が一生大事にする。

それが今では、私は「恩知らず」。

「藤原浩史、私、死んだよ。これであなたは自由。やっと解放された」

彼の目の前に立っても、当然、届かない。

「結局、私はずっと……あなたにとって恩知らずだったんだね」

「浩史……あなたが西子と結婚したくないのは分かるけど、婚約はあるのよ。小さい頃から一緒に育って、情もあるでしょう」

叔母は必死だった。

「もう関係も持ったんだし、娶らないなんて……あの子のお母さんに、私、どう顔向けすれば……」

藤原浩史の顔が一段と冷える。

「幼なじみとか、もういい。いっしょに育ったら必ず結婚しなきゃいけないのか?」

吐き捨てるように言った。

「全部あいつの一方通行だ。子どもの頃の約束を盾にして、俺と結婚するために自分から誘ってきた。恥ってもんがない」

全身が震えた。殴りつけようとしても、手はすり抜ける。

「藤原浩史……このクズ……!」

あの夜、狂ったみたいに私に触れたのは彼のほうだった。

なのに事後、私が仕組んだと言い張った。

……。

藤原浩史が家を出ると、私の魂は引きずられるように彼について行き、白野恵美の誕生日パーティーへ向かった。

会場に入るなり、藤原浩史の仲間たちが笑って白野恵美を「嫂子」と呼ぶ。

「嫂子、誕生日おめでとう! 浩史君、今日のために相当気合い入れてるっすよ」

藤原浩史は白野恵美に甘い笑みを向け、周囲の囃し立ての中でプレゼントを差し出した。

「浩史、西子……まだ連絡ないの?」

白野恵美が思い出したように、小声で尋ねる。

私は冷笑した。

――白々しい。私を殺したのは、あんたでしょう。

藤原浩史は眉をひそめる。

「今その話、空気悪くなる」

白野恵美は柔らかく笑った。

「でも……一応、あなたの妹だし。そんな言い方しないで」

「妹?」

藤原浩史は鼻で笑った。

「あいつ、お前を殺しかけたんだぞ。それでも庇うとか、善良すぎる」

白野恵美は藤原浩史に抱きつき、甘えるように頬を寄せた。

「私は平気……」

私は藤原浩史の前に立ち、必死に叫ぶ。

「違う! 私は何もしてない! 私を殺したのは――白野恵美だ!」

「藤原浩史! 私を殺したのは、あいつ!」

届かない。

彼には、聞こえない。

泣き叫んで、説明して、説明して……。

繰り返すうちに、急に疲れた。

藤原浩史は、最初から一度も私を信じたことがない。

「聞いた? 連続殺人犯、まだ捕まってないんだって。もう六体も見つかってるらしいよ。全員、美人」

誰かが話題にする。

「この前、白野恵美さんも狙われてたよな? 浩史君がガチガチに守ってたから助かったけど」

「本川西子が囮になっても出てこなかったってさ。殺人犯にすら相手にされないとか、ウケる」

「な。殺人犯にすら選ばれない女が、白野恵美さんと張り合えるわけない」

藤原浩史の胸が、なぜかぎゅっと縮む。苛立ったように言った。

「その話、今するな」

煙草に火をつけ、また電話が鳴った瞬間、彼は出た。

「……もしもし?」

『藤原浩史さんですか。H市刑警隊です。本川西子さんは、あなたの何にあたりますか』

藤原浩史が勢いよく立ち上がり、周囲に手で合図する。

「全員、黙れ!」

緊張で指先が白くなる。

「本川西子は……妹です」

私はそれを聞いて、ふっと笑った。

死んでもなお、私は「妹」。

『事件現場付近で、彼女の携帯と所持品が見つかりました。確認に来てください』

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