セレブ令嬢にパクリの濡れ衣を着せられたので、その辺の鉄くずでシリコンバレーを驚愕させてやった件

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渡り雨 · 完結 · 15.8k 文字

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紹介

財閥の御曹司は命を受けて私を誘惑し、私の裸の写真を撮って私を社会的に抹殺しようと企んでいた。

真夜中、彼が震える手でその写真を送信しようとしたその時、私は冷笑を浮かべ、彼の臆病さと野心を容赦なく言い当てた。

その夜、彼は私の目の前で全てのデータを消去した。その瞳の奥に宿っていたのは、徹底的な狂熱と服従だった。

後日、彼はダイヤの指輪を捧げ持ち、片膝をついてきた。しかし私はグラスに酒を注ぎながらこう言い放った。

「権力を分け合う伴侶などいらないわ。私に必要なのは、言うことを聞く犬だけよ」

チャプター 1

「バンッ!」

 ピックアップトラックが猛然と突っ込んできて、私は宙に弾き飛ばされた。

 続けて、ドアがきしりと開く音。視界の端に、泥で汚れた古い軍靴が止まった。

 痛みを噛み殺して顔を上げる。次の瞬間、その顔を見た途端に血の気が引いた。

「義康……?」

 父だった。

「誰かと思えば」義康はいやらしく私を舐め回すように見た。

「旧帝大のエリート気取りのビッチみてぇな格好しやがって。死んだ母親が、ずいぶん立派に躾けたじゃねえか、ユカリ」

「頭おかしいの?!」折れた右腕を抱え込み、私は叫んだ。

「今日は大学の期末の追試なの! カンニングしたって濡れ衣を着せられて、やっとのことで弁明の機会をもぎ取ったのに!」

 義康は鼻で笑い、いきなり私の襟首を掴んで引き起こした。折れた骨が軋み、悲鳴が漏れる。

 もう片方の手で、私のリュックを乱暴にひったくると、口を開けたまま路面の水たまりへ中身をぶちまけた。

 教科書、受験票、それから――私がバイトでウェイトレスをして貯めた、しわだらけの1000円札が数枚。全部、汚い水の上に散らばる。

 義康の目がぎらりと光り、獣みたいに飛びついて札をかき集め、ポケットへねじ込んだ。

「返して! それ、学校までのタクシー代と生活費なの!」手を伸ばした瞬間、義康の蹴りが腹に突き刺さり、私は泥水の上に転がった。

「人生語ってんじゃねえよ、ユカリ」義康は私の顔に唾を吐き捨てた。

「お前はスラム生まれだ。体ん中に流れてるのは下賤な血だ、一生貧乏人なんだよ! 金持ちの私立大に受かったくらいで階級が変わると思ってんのか? 寝言は寝て言え!」

 義康は車のドアを開け、運転席に乗り込む前に私を上から下まで値踏みする。

「今回はいい薬だ。次から目ぇ見開け。お前みてぇなのが逆らっちゃいけねえ『大物』ってのがいる。親切に教えてくれる奴がいなきゃ、俺だって知らなかったぜ。俺の娘が、いつの間にかずいぶん『出世』してるってな」

 言い捨てて、トラックは走り去った。私が血まみれで、腕も折れているのに見向きもしない。

「……大物……」私は地面にへたり込み、喉の奥が冷たくなった。

 誰? ここまで執拗に、私を潰したいのは。

 ――だけど、考えている時間がない。

 試験終了まで、あと四十分。

 タクシーを呼ぶ金はない。地下鉄の運賃すらない。病院なんて論外だ。救急車を呼べば、それだけで数万円の借金になる。

 唇を噛み切って意識を繋ぎ、折れた右腕を抱えたまま、二マイル先の大学へ歩き出した。

 カンニングの汚名を背負ったまま退学なんて、絶対に――!

 ようやく、よろめきながら階段教室へ飛び込んだとき、壁の時計の針はぴたりと午前十一時を指していた。

 試験、終了。

「鈴原ユカリさん?」

 教壇の前で、浅野教授が最後の答案を揃えていた。血だらけの私を見ると眉をひそめる。だが、その表情はすぐに落胆へ変わった。

 教室に残っていた学生たちが一斉に振り返る。誰も駆け寄らない。代わりに、ひそひそ声が波のように広がり、露骨な侮蔑と嫌悪が降り注いだ。

「なにこの臭い……スラムの下水にでも落ちたみたい」

「窃盗女がまだ顔出せるの? 学術委員会はさっさと退学にすればいいのに」

「どうせその格好も自作自演でしょ……」

 私は残った力を振り絞って教壇へ向かい、懇願した。

「きょ……教授、途中で事故に……手が折れて……お願いです、問題用紙をください。左手でも書けます。式は全部わかります、私はカンニングなんて――」

「もう結構です、鈴原さん」浅野教授は私の言葉を遮った。「試験は一分前に正式に終了しました。規則は規則です。ここは、言い訳で騒いでいいコミュニティ・カレッジではありません」

「ま、見て。誰かと思えば」

 教室の後方から、悪意そのものみたいな女の声が響いた。

 人垣が、あまりにも自然に道を割る。

 古井貴美が歩いてきた。

「貴美……」私は彼女を睨み据えた。

 義康が去り際に吐いた「大物の報せ」という言葉が、脳裏で反響する。

 この学校で、私と利害が真っ向からぶつかり、金と権力で父を動かせる人間――それは彼女しかいない。

 展示会で私の核となるアイデアを盗み、それどころか私を盗作扱いした、お嬢様。

 貴美は私の前に立つと、鼻をつまんだ。

「ユカリ、そこまでして何がしたいの? みんな知ってるよ。あなたが嘘つきの盗作屋だって。追試の結果が怖いなら、最初から認めればよかったのに」

 彼女が耳元へ顔を寄せる。私たち二人にしか聞こえない声で、笑いを含ませて囁いた。

「試験から逃げるために、自分の手まで折るなんてさ。スラムのドブネズミって、自分にも容赦ないんだね」

 そして、甘く残酷に告げる。

「でももう――最後に噛みつくチャンスも、なくなっちゃった」

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