十本の指を砕かれた私の前で、家族全員が世界チャンピオンのトロフィーに跪いて泣いた

十本の指を砕かれた私の前で、家族全員が世界チャンピオンのトロフィーに跪いて泣いた

渡り雨 · 完結 · 14.4k 文字

216
トレンド
267
閲覧数
12
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

実の兄は、姉のピアノ優勝を守るために、私の十指を握り潰した。

婚約者は、姉に取り入るために人を雇い、私の胎内の子を蹴り落とした。

大火の中で九死に一生を得て、私はようやく目を覚ました。

そして戻ってきた私は、奴らの不倫と謀りの動かぬ証拠を全てネットに晒す。精神が壊れ、家も人生も崩れて土下座する姿を見下ろし、私は冷たく笑って背を向ける――世界の頂へと登り詰めるために。

チャプター 1

「心配するな、智秋。言っただろ。今年の年間ピアノコンクールの優勝は、必ずお前のものだ」

 半分だけ閉まった胡桃の扉。その隙間から、囁きが漏れてくる。

 裕士の声だった。

 私の婚約者。

 彼は今、実の姉である智秋の頬を、まるで宝物でも扱うみたいに両手で包んでいた。

「でも……瑞穂の才能が……」智秋は甘えるように彼の胸に身を寄せる。

「みんな言ってるの。あの子が出たら、私は一生引き立て役だって」

「もう脅威じゃない」

 裕士は智秋の唇に口づけた。あたたかな黄色い照明の下、二人の影がピアノ室で絡み合う。

「帝国音楽学院の院試に集中するため、そして『お前の夢を叶える』ために――あのバカは、自分から休学手続きをした。お前がスタインウェイの最高の舞台へ行くのに、足を引っ張ることはない」

 胃の中が、ぐらりとひっくり返った。

 自分の目が信じられない。

 裕士の勉強のために。ずっと私を妬んできた姉が望む結果を手にするために。私は丸一年かけて仕上げてきたチャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番を捨て、学院に休学願を出した。愛と家族のための献身だと思っていた――まさか、私をいつでも差し出せる生贄扱いしていたなんて。

 私はゆっくりと二歩退き、踵を返す。大理石の廊下を、足音を殺しきれないまま早足で去った。

 学院の建物を出た途端、スマホを取り出し、指導教員の村坂教授へ電話をかける。

「教授……私です、瑞穂です」

 奥歯を噛みしめる。涙と雨が混ざって頬を流れた。

「休学願いを撤回したいんです。今すぐ学籍を戻してください。今年のコンクールに、もう一度申し込みます。はい、絶対に辞退しません」

 電話を切ると、私は車道へ向けて足早に歩いた。頭の中は、奪われかけた全てを取り戻す算段で埋め尽くされていく。

 ――そのとき。

 横断歩道に差しかかった瞬間、眩いハイビームが視界を焼いた。

 きぃぃ、とタイヤが擦れる音。次いで、身体を叩き潰すような衝撃が突き刺さる。

 私は宙へ放り出され、路面に叩きつけられた。血が一気に視界を滲ませ、耳には狂いそうなほどの耳鳴りだけが残る。薄れていく意識の中、黒いランドローバーが停止するのが見えた。

 ドアが開き、雨水の上に降り立ったのは――見慣れた黒いマーチンブーツ。

 実の兄、悠人だった。

 同じ音楽学院の卒業生。私を守るはずの兄が、魂の抜けた処刑人みたいな顔で、こちらへ歩いてくる。

「は……悠人……」

 助けを求めようとした。

 けれど悠人は無表情のまましゃがみ込み、痛みに痙攣する私の両手を、冷たく見下ろした。

 智秋の顔が脳裏をよぎる。悠人は幼い頃から智秋には逆らえなかった。盲目的と言っていいほどに。

 次の瞬間、悠人の大きな手が伸び、私の命そのものだった十指を一気に掴み上げた。

 そして――。

 残酷すぎる力が、容赦なく押し潰してくる。

「ぁあ――!」

 ぱきり、と骨が割れる乾いた音。十指から心臓へ直結する激痛が脳天を貫き、世界が真っ黒に沈んだ。

 翌日。

 重たいまぶたをこじ開けると、鼻を刺す消毒液の匂いが流れ込んできた。

 両手は、分厚いギプスで巻かれている。主治医の小林医師がベッドの足元に立ち、悔しさと憐れみの混ざった目で告げた。

「瑞穂さん……申し訳ありません。指の中手骨は粉砕骨折です。尺骨神経と正中神経に、不可逆的な重度損傷が見られます。今後……ピアノの演奏は、難しいでしょう」

 ピアノが弾けない。

 病室の扉が勢いよく開き、酒臭い悠人が飛び込んできた。目は真っ赤で、ベッド脇に膝をつき、ぐしゃぐしゃに泣き崩れる。

「瑞穂! ごめん! 昨日、バーに行って……ウイスキーを飲みすぎたんだ……! あの雨のせいで、頭がおかしくなって……ほんとに、わざとじゃない! お前をはねるつもりなんか――!」

 その悔恨の顔を見て、胸の奥が言葉にならない冷たさで満たされていく。

 飲酒運転?

 なんて都合のいい言い訳。

 私は目を閉じた。

 指を砕いたときのあの冷酷さを、私ははっきり覚えている。それでも、血の繋がった兄だ。長い沈黙ののち、枯れた声で、たった一言だけ吐き出した。

「……うん」

 しばらくして、病室の外から聞き慣れた足音。

 裕士だ。

「裕士さん、今は面会できません。患者さんは、どなたとも会いたくないと」看護師が入口で制した。

 私はベッドに横たわり、天井の白く眩しい蛍光灯を見つめたまま、扉の向こうの気配を黙って聞く。

「お願いです、一目だけでも会わせてください!」

 裕士の声は、すすり泣きと熱に濡れていた。

「僕は婚約者なんです! 神よ……彼女の手が……彼女がどれほど苦しんでいるか……! 伝えてください。何があっても、たとえピアノが弾けなくなっても、瑞穂は僕の生涯ただ一人の愛だって。来月の結婚式は予定通り挙げます。僕が一生、彼女を支えます!」

 廊下中が感動しそうな告白。

 それを聞くほど、胃の底から吐き気がせり上がる。脳裏には、さっき見たばかりの光景――ピアノ室で智秋を抱き、深く口づける裕士の姿が、何度も何度も焼き付いて離れない。

 彼は外に向けて、そして自分自身に向けて、立派な男を演じている。

 私は何も言わなかった。

 感覚の鈍い十本の指が、ギプスの中でじくじくと跳ねる。屈辱の焼き印。そして、復讐の火種。

 その滑稽な仮面を剥がしはしない。ただ唇を噛み、血の味を確かめながら、この吐き気のする独り芝居を、一言残らず骨の髄まで刻みつけた。

最新チャプター

おすすめ 😍

死に戻り真令嬢の復讐 ~偽りの家族も血の兄も要りません

死に戻り真令嬢の復讐 ~偽りの家族も血の兄も要りません

38.7k 閲覧数 · 連載中 · 凛
前世の橘結衣は、兄たちに尽くし続けた。どんな理不尽にも耐え、健気に笑顔を向け続けた結衣を待っていたのは――お披露目パーティーでの無残な死だった。

破滅を経て死に戻った結衣は、人が変わったように冷徹になる。もう二度と、あの愚かな兄たちのために心を痛めたりはしない。

しかし、冷遇し始めた途端、兄たちの態度が一変する。

「いい加減、そんな冷たい態度を取るな」と迫る社長の長男。

「俺の誤解だったんだ……」と苦悩する医師の次男。

「頼む、やり直させてくれ!」とプライドを捨てて乞うトップスターの三男。

「俺の妹はお前だけだ!」と泣きじゃくる不良の四男。

だが、結衣の答えはひとつだけ。

「みんな、失せて」

復讐と無関心を胸に、彼女は一人の男性の手を取った。

「宮本景太。今日からあなただけが、私のたった一人の『お兄ちゃん』よ」

――しかし、彼女の本当の身分が明かされた時、今度は血縁関係のある「実の兄たち」が押しかけてきて――!?

「『唯一の兄』だと……? じゃあ、俺たちはお前の何なんだ!?」
間違いの刻印 息子と復讐

間違いの刻印 息子と復讐

1.9k 閲覧数 · 完結 · Abdulqudir Yusuf
カミラとキャロラインは、ムーンライト・パックの敬われる戦士団長ジャックの、瓜二つの双子の娘だ。優しく義務感の強いカミラは、アルファのマイケルと婚約し、彼のルナとなる者として選ばれていた。

一方で、大胆で向こう見ずなキャロラインは、姉妹が受ける栄誉をしばしば妬んでいた。

刻印の儀の夜、欲情に呑まれ、酒に酔いしれていたマイケルは取り違え、カミラではなくキャロラインと一夜を共にしてしまう。そして刻印は、誤ってキャロラインの身に刻まれた。

パックの誰もが、キャロラインこそが彼の真の伴侶なのだと信じた。カミラは仲間たちの前で辱めを受け――婚約は破談となり、居場所は双子の妹に奪われたのだ。

裏切られ、見捨てられたと感じたカミラは、禁じられた森へと逃げ込み、疲労と絶望に押し潰されるようにして、その場に崩れ落ちた。
隠された天才:裏の顔が多すぎて、気づけば世界のトップを震撼させていた件

隠された天才:裏の顔が多すぎて、気づけば世界のトップを震撼させていた件

34.9k 閲覧数 · 連載中 · たけの
私の名前は江川莉奈。

育ての親の一家に家を追い出されたあの日、私は微笑みを浮かべながら、奴らが施しとしてよこした金をゴミ箱へと投げ捨てた。

誰も想像すらできないだろう。この私が、数々の名門貴族や権力者たちが大金を積んで列をなし、首を長くして診察を待つ伝説の名医——【暁】だなんて。

私が時価総額数十億ドルのファッション帝国を裏で支配していることも、ウォール街の株価をたった一回の取引で大暴落させられることも、誰も知らない。私はその正体を、この平凡で冴えない素顔の裏にすべて隠し持っていた。

さらに劇的なことに、私の実の親はこの街で頂点に君臨する最高峰の大富豪だった。

そして私の婚約者——すでに顔を合わせているにもかかわらず、その正体を知らなかったあの男こそ、この街の誰もが名前を聞くだけで震え上がる、ビジネス界の冷酷な死神:梅原晴琉だったのだ。

ある日、彼は私の手を執り、ゆっくりと距離を詰めると、耳元で低く囁いた。

「俺のこの鼓動、今なら感じられるか?」

私は至って真面目な顔で彼の胸に手を当て、大真面目にこう返した。

「心拍数は確かに少し高めですが、非常に健康的です。心配ありませんよ」

彼は一瞬呆気にとられ、それからふっと吹き出した。その瞬間の彼の笑顔に、私の心臓もなぜかドクンと跳ねた。それは、自分自身でも説明のつかない初めての衝動だった。

だが、彼が私の真実に一歩ずつ近づくにつれ……私の心は揺らぎ始めている。自分の最後の秘密を、あとどれくらい隠し通せるのだろうか。

外されるはずのなかった仮面——。だが、あの人が執拗にその霧を剥ぎ取ろうとするとき、私は一体どこへ向かえばいいのだろう?
追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢

追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢

191.5k 閲覧数 · 連載中 · あざ鳥
「お前みたいな偽物の令嬢、さっさと山奥に帰れ!」

孤児だと判明した途端、彼女は養父母から冷酷に家を追い出され、婚約者も本物の令嬢へと乗り換えた。
彼らは、彼女がこれからド田舎で悲惨な生活を送るのだとあざ笑っていた。

しかし、彼女を迎えに来た実の家族は、なんと世界を牛耳る超巨大財閥の一族だった!
さらに、彼女自身もただの小娘ではない。その正体は、世界の医学界が平伏す伝説の天才医師だったのだ。

実家に戻るや否や、彼女は神業のようなメス捌きで次々と難病患者を救い、医療界の権威たちを圧倒していく。その圧倒的な実力に、誰もが恐れる冷酷なトップ御曹司でさえも彼女に惹かれ、無限額のブラックカードを差し出す始末。

一方、彼女を追い出した養父母の家業は倒産寸前に陥り、元婚約者も彼女の本当の姿を知って絶望の淵に立たされていた。
彼らが泣きついて許しを乞うても、彼女は冷たく言い放つ。

「今さら後悔しても、もう遅いわ」
転生して絶縁したら、元家族は破滅に

転生して絶縁したら、元家族は破滅に

38.9k 閲覧数 · 連載中 · ワニノコ
名門古川家の生まれの娘・古川朱那は、前世、父・古川邦夫と三人の兄(礼和、礼希、礼人)が養妹・周防天華を無条件に贔屓し、天華の陰険な陥れに遭い、理不尽に死んだ。
22 歳、天華に陥れられた日に生まれ変わった朱那は、過去の卑屈さを捨て、天華の悪事を暴き、偏心な家族に毅然と立ち向かう。芸能界で演技の才能を開花させ、自らの人生を切り開くため、全力で逆襲する。
終末世界で異空間チート!無限備蓄で兵王様を攻略します

終末世界で異空間チート!無限備蓄で兵王様を攻略します

32.7k 閲覧数 · 連載中 · 夜明けのソラ
渡辺千咲は大学卒業後、人生のどん底に落ち、みじめな思いで故郷に戻った。ところが、幼い頃に覚醒した役立たずの空間が突然見知らぬ男に結び付けられた。

男の方は食料不足、渡辺千咲の方は金欠で、二人は意気投合して互いに協力することになった。

「俺のいる場所では、金やダイヤモンドが地面に落ちていても誰も拾わない」

渡辺千咲はそれを聞いて目を輝かせた。男のいる時空では終末が訪れ、動植物が変異し、土地は耕作不能、水源は汚染され、さらに人類の安全を脅かすゾンビがいるのだった。

中島暁は終末世界で一年間苦しみながらも生き抜き、弾薬も食料も尽きて重傷を負いながらも、最後まで信念を貫き、仲間を見捨てることを拒んだ。

「唐揚げ、肉まん、きれいな水、あなたが欲しい物資なら何でも調達してやる!」

渡辺千咲はもはやみじめではなくなった。クリスタルのエネルギーで肌が白くなり体質が改善され、眼鏡も外せるようになり、金や骨董品が手に入り続けた。

中島暁が終末世界から持ち込んだ書籍、詞曲、漫画……によって、渡辺千咲は一躍文学芸術の大家となった。

祖母や、偽善的で貪欲な親戚たちが泣きながら彼女に許しを求めた。

数年後、記者が渡辺千咲の願いを尋ねた――

「世界平和を願っています」

大げさだと思う人もいたが、後になって戦乱を平定したのも彼女、経済を発展させたのも彼女、薬剤を発明したのも彼女の部下のチーム、ウイルス爆発を救ったのも彼女だったことが分かった。

終末世界で彼女は最後の人類を率い、ゾンビに勝利し、赤い月の終末災害を乗り越えた。

彼女の願いは実現したのだった。
マフィア姫の帰還

マフィア姫の帰還

59.4k 閲覧数 · 完結 · Tonje Unosen
タリアは何年ものあいだ、母と義理の妹、そして継父と暮らしてきた。だがある日、ついにそこから逃げ出すことに成功する。

ところがその直後、自分にはまだ外に家族がいるのだと知る。そして本当に自分を愛してくれる人たちが大勢いることも――そんなものは今まで感じたことがなかった。少なくとも、彼女の記憶にあるかぎりでは。

タリアは人を信じることを学ばなければならない。新しくできた兄たちにも、ありのままの自分を受け入れてもらわなければならないのだ。
不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

392.8k 閲覧数 · 連載中 · 七海
人生最良の日になるはずだった、結婚式当日。
新郎の車から出てきたのは、見知らぬ女の派手なレースの下着だった。

しかも、その布切れにはまだ。生々しい情事の痕跡が残されていた。

吐き気がするほどの裏切り。
幸せの絶頂から地獄へと突き落とされた私。

けれど、泣き寝入りなんてしてやらない。
私はその場でウェディングドレスの裾を翻し、決意した。

「こんな汚らわしい男は捨ててやる」

私が選んだ次の相手は、彼など足元にも及ばない世界的な億万長者で?
今さら跪く元夫を置き去りに、大富豪の甘い執着愛が始まりました

今さら跪く元夫を置き去りに、大富豪の甘い執着愛が始まりました

20.1k 閲覧数 · 連載中 · 桜井 ゆい​
夫は私を、別の男のベッドへ差し出した。
あの男にとって、私は自分の出世や欲望のために利用する「モノ」でしかなかったのだ。

だが、あの男は夢にも思っていなかった。
自分がゴミのように投げ捨てた贈り物が、この国で最も恐れられ、最も力を持つ男の「かけがえのない愛する人」になるなんて。

やがて絶望を知り、私の前に跪いて許しを乞う元夫。
その惨めな姿を見下ろす私を、最高峰の男が背後から抱き寄せ、耳元で低く甘く唸った。

「俺の子供を身ごもっておきながら、一体どこへ行こうというんだ?」

――捨てられた妻の反撃と、逃げられない絶対的な愛が、ここから始まる。
全能令嬢の帰還、家族が倒産?

全能令嬢の帰還、家族が倒産?

61.7k 閲覧数 · 連載中 · きりゅう りんか
万能の女神・夏川紅蓮が実家に戻ると、一家は何者かの手で破滅に追いやられた後だった。
父は冤罪で獄中にあり、母は病に伏せっている。
六人の兄たちも、ある者は身体に障がいを負い、ある者は無気力に沈んでいた。
そんな折、家に潜り込んでいた偽令嬢は状況を見るや否や一家を見捨てて姿を消し、さらに屋敷までも奪い取ろうとしていた。
世間は夏川家を「落ち目の負け犬」と嘲笑い、皆がこぞって踏みにじる。

紅蓮が静かに一声を発すれば、暗部より無数の異能の士たちが姿を現し、形勢は一瞬にして逆転する。
父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。

しかし、そんな彼女を指さして嘲る者がいる。
「夏川紅蓮は地味で野暮ったい田舎者だ」と。

何を隠そう、彼女は無数の隠された顔を持つ存在。
神医の令嬢も彼女なら、国画の大家も彼女。
伝説のハッカーも彼女なら、正体不明の謎の女優も彼女。
そして、暗部を統べる首領さえも——彼女なのだ。

そんな折、頂点に君臨する名門の若様が、彼女をそっと腕のなかに抱き寄せた。

「誰が彼女を田舎くさい地味女だと言った? 彼女こそ、俺・諏訪淳行の婚約者だ」

紅蓮が流し目をひとつ送る。

「婚約、破棄しなくていいの?」

「しない」

彼が長いあいだ追い求めてきた決して手の届かない高嶺の花こそが、いま腕のなかにいる婚約者なのだ。
解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。
舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

58.6k 閲覧数 · 連載中 · 桜井 ゆい​
18年間、自分が実の娘でないとは知らずに生きてきた。ある日、荷物をすべて玄関の外に放り出され、街角に立ち尽くす私の前に現れたのは、噂では極貧だという「生家」から迎えに来た、見たこともない「兄」。

ところが、その兄が乗ってきたのはトラクターだった。

ガタガタと揺れるトラクターがたどり着いた先は、まるで古城のような大邸宅。そこで私は思い知る。本当の家族のもとに引き取られた私は、貧しくなるどころか、前よりずっと裕福になっていたのだ。

……だが、ちょっと待ってほしい。なぜ私には突然、婚約者というものが存在するのか。しかもその相手は、私の大学の教授だという。誰か、説明してくれないだろうか。
不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

4m 閲覧数 · 連載中 · 七海
初恋から結婚まで、片時も離れなかった私たち。
しかし結婚7年目、夫は秘書との不倫に溺れた。

私の誕生日に愛人と旅行に行き、結婚記念日にはあろうことか、私たちの寝室で彼女を抱いた夫。
心が壊れた私は、彼を騙して離婚届にサインをさせた。

「どうせ俺から離れられないだろう」
そう高をくくっていた夫の顔に、受理された離婚届を叩きつける。

「今この瞬間から、私の人生から消え失せて!」

初めて焦燥に駆られ、すがりついてくる夫。
その夜、鳴り止まない私のスマホに出たのは、新しい恋人の彼だった。

「知らないのか?」
受話器の向こうで、彼は低く笑った。
「良き元カレというのは、死人のように静かなものだよ?」

「彼女を出せ!」と激昂する元夫に、彼は冷たく言い放つ。

「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
「彼女はクタクタになって、さっき眠ってしまったから」