心にタッチダウン

心にタッチダウン

間地出草 · 完結 · 24.5k 文字

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紹介

松原 莉奈(まつばら りな)は、高峰県でスポーツ記者として初めての取材任務を受けることになるとは思ってもみなかった。しかもその対象は高峰大学アメリカンフットボール部――そこでエースクォーターバックの古賀 真(こが まこと)が、4年前に密かに憧れていた相手だと知る。さらに悪いことに、彼は兄の松原 颯真(まつばら そうま)の親友でもあった。

「颯真の妹、ずいぶん大人になって…しかも綺麗になったな。」
古賀があの深い緑の瞳で見つめてくると、莉奈の心臓は爆発しそうになる。だが彼女は記者、彼は選手――しかも兄の親友。どう考えても叶わない関係だ。

しかし古賀はそうは思っていないらしい。夜の送迎、器材室での二人きりの時間、医療室でのほとんどキスになりそうな瞬間…。悪名高いプレイボーイだと言われる彼は、莉奈が誰なのかを知った上で距離を詰めてくる。彼女は次第に心を奪われ、理性を失っていく。

果たして古賀 真は本当に彼女に恋をしているのか、それとも危険なゲームの駒にすぎないのか――?

チャプター 1

 深夜二時の空港は、まるで廃墟と化した宇宙ステーションみたいに冷え切っていた。

 私は到着ロビーの隅で、凍えるように冷たい壁に背を預けてしゃがみ込んでいた。スマートフォンの画面が点いたり消えたりを繰り返している。フライトが三時間も遅延して、私の忍耐力はとっくに限界だった。新浜市から高峰市への帰路は、想像していたよりもずっと長く感じられた。

 「兄さんの野郎、電話に出ろっての!」七回目の発信をしながら、私は小声で毒づいた。

 やがて、酔っ払った声が応答した。「もしもーし? どちらの可愛いお嬢さんかな?」

 「あんたの妹よ!」私は歯ぎしりした。「空港にいるの。迎えに来てくれるって言ったじゃない」

 「おお、おお……迎えか、もちろん行くとも!」颯真の声は、背後で鳴り響く大音量の音楽にかき消されそうだ。「誰か行かせるからさ、心配すんなって、莉奈……」

 「お兄ちゃん! 聞いてるの? 莉奈だってば、あんたの妹よ!」

 「はいはい、任せとけって……」

 電話は切れた。私はスマートフォンの画面を睨みつけた。あの男、完全に酔っ払ってて、私の話なんて一言も聞いてない。でも、少なくとも誰か寄越すとは言った。一人でタクシーに乗って大学まで帰るよりはマシか。

 三十分後、黒いピックアップトラックが乗降場に滑り込んできた。ドアが開き、長身の人影が降り立つ。

 心臓が、どきりと跳ねた。

 街灯の柔らかな光を浴びる金色の髪、すっと通った鼻筋、忘れようにも忘れられない緑色の瞳……。古賀真だった。高峰大学のクォーターバックで、兄の親友で、そして……高校時代、私が憧れる人。

 兄さんのバカ! なんでよりによって彼を寄越すのよ? 私は慌ててスマホのインカメラで自分をチェックする――髪はぐちゃぐちゃ、口紅は滲んでるし、目の下にはクマ!

 彼は誰かを探しているようにあたりを見回していた。そして、地面にうずくまる私に視線が留まると、その表情が困惑から驚きへと変わった。

 「もしかして……莉奈ちゃん?」彼は信じられないといった声で、こちらへ歩み寄ってきた。

 「えっと……どうも?」私はぎこちなく立ち上がり、ジーンズの埃を払いながら、平静を装おうと努めた。「あなたは……」

 「真だ」彼は手を差し出した。「古賀真。颯真の友達」

 私はわざと一瞬ためらってから、その手を取った。「あ……どうも。松原莉奈です」

 彼の緑色の瞳が、私をじっと観察している。「俺のこと、覚えてる? 家で会ったことあるだろ」

 「えっと……」私は記憶を辿るふりをした。「ごめんなさい、物覚えが悪くて。兄さんの、ご友人でしたっけ?」

 真の表情に一瞬、失望の色がよぎったが、すぐに笑顔でそれを取り繕った。「気にするな、あの頃はまだ子供だったしな。あのバカ、インタビューしたいっていうスポーツ記者を迎えに行くように言ってきたんだ。まさか自分の妹だとはな」

 「スポーツ記者?」私は目を丸くした。「だから電話で話が噛み合わなかったんだ! 私のこと……」

 「高峰日報の記者だよ。あいつのことデートに誘おうとしてる」真は私のスーツケースを掴んだ。「ほら、車に乗って。高峰市の朝は、新浜市より冷えるぞ」

 助手席に滑り込むと、懐かしい男性的な香りと、ほのかなコロンの匂いに包まれた。心臓が早鐘を打ち始めるのを、平静を装って必死に抑える。

 「さてと」彼がエンジンをかける。「高峰市へおかえり、莉奈」

 あの気だるい口調で自分の名前を呼ばれて、背筋がぞくぞくした。

 「ありがとう……真」私は声が震えないように努めた。

 トラックは空港を出て、誰もいない高峰市の高速道路に乗った。緊張で手のひらに汗が滲む。何を話せばいいのか分からない。息が詰まるような緊張感から逃れるため、私は寝たふりをすることに決めた。

 「疲れたか?」彼が優しく尋ねる。「大学までまだ一時間はある。休んでていいぞ」

 「うん……ちょっとだけ」私は目を閉じ、シートに深くもたれかかった。

 最初はふりだったのに、シートヒーターの暖かさと一日の疲れが、本物の眠気を誘った。意識が曖昧になり、眠りと覚醒の狭間を漂う。

 朦朧とする中で、何かが頬を撫でるのを感じた。乱れた髪をそっと直すような、指先の温もり。羽のように軽くて、慎重で、優しい手つき。

 風かな? 私はぼんやりと思った。窓はちゃんと閉まっているのに……。

 「莉奈……」低い声が、私の名前をそっと呼んだ。今まで聞いたこともないような、優しい響きで。

 目を開けて確かめたかったけれど、まぶたが鉛のように重い。夢うつつの感覚が、現実と幻想の区別を曖昧にさせる。

 高校時代の記憶が心に浮かんでくる。あの頃の真は、アメフト部の青と白のスタジャンを着て、太陽の下で金色の髪を輝かせていた。いつも颯真と一緒にキャンパスに現れて、周りには色んな女の子がいた。そして私は、ただのその他大勢で、遠くから彼を見つめているだけ。

 彼の笑顔を、フィールドで汗を流す姿を、裏庭で颯真とフットボールを投げ合っていた午後の光景を思い出す。

 あの頃から、この人は特別なのだと分かっていた。

 トラックが停止した軽い衝撃で、私は少しだけ意識を取り戻した。真が優しく私の肩を揺する。「着いたぞ、眠り姫」

 私ははっと「目覚め」、自分がまだシートにもたれかかっていることに気づいて、顔が一気に赤くなる。

 「送ってくれてありがとう」私は慌てて荷物をまとめ、車を降りる準備をした。

 「どういたしまして」彼は後部座席から私のスーツケースを取り出す。「おかえり、莉奈」

 スーツケースの取っ手に手を伸ばすと、私たちの指先が偶然触れ合った。電気が走ったような感覚に、二人とも動きを止める。

 「あの……真?」私は彼の方を向いた。月明かりの下、彼の瞳は海のように深い。

 「ん?」

 私は一度まばたきをしてから、不意にいたずらっぽい笑みを浮かべた。「ありがとう、クォーターバックさん」

 真の表情が、ぴしりと固まった。彼は目を大きく見開いて私を見つめ、それからゆっくりと口元を綻ばせた。

 「なんだ、最初から覚えてたのか」

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