紹介
デザイン部のディレクターの席? 本当の娘へ。
何千万円もの価値がある婚約話? 本当の娘へ。
会社中の人間が、彼女という「野良扱いの娘」がどう転げ落ちていくか、笑いものにしようと様子をうかがっていた。
そんなある日、世界限定二十台の高級バイクが会社の前に止まる。降りてきた不良っぽいイケメンが言った。
「妹、兄貴と一緒に帰るぞ」
新谷家の人間「……は?」
そのあとで彼らはようやく知ることになる。
彼女こそ、国内外の美術館の館長たちが面会待ちの列を作る「南先生」と呼ばれるアーティストであり、
新谷グループの全受賞特許の名義人であり、
さらに、伝説の「国家並みの資産を持つ」と噂される周防家の、本当の長女だということを。
大手財閥の若き当主は、封印していた婚約書を取り出し、薄く唇を吊り上げる。
「なるほど。俺の本当の婚約者は、君だったわけか」
チャプター 1
新谷グループ。
新谷南が段ボール箱を抱えてディレクター室から出てくると、廊下にいた社員たちは一斉に視線を向けた。
エレベーターのドアが開き、養父の新谷邦彦、養母の鈴木玉奈、そして二人の実の娘である新谷杏那が中から姿を現す。
「南」新谷邦彦は足を止め、彼女の持つ段ボール箱に視線を落とした。「引き継ぎは終わったのか」
新谷南は静かな眼差しで彼を見つめ、無表情のまま口を開く。「デザイン部のプロジェクト進行表はすでにメールで送りました。顧客データもすべて——」
「お姉ちゃん」新谷杏那が柔らかい声で言葉を遮り、親しげな笑みを浮かべて前に歩み出た。「そういうのは私が少しずつ覚えていくから、安心して。お父さんとお母さんの期待を裏切らないように、デザインディレクターとして全力で頑張るから」
新谷南は彼女に視線を向ける。今日はシャネルのスーツに身を包み、念入りに手入れされた長い髪をなびかせ、いかにもエリートキャリアウーマンといった装いだ。
だが、一ヶ月前に新谷家へ迎え入れられたばかりの頃は、CADの操作すらおぼつかない素人だったと誰が想像できるだろうか。
今や自分のポジションを奪い取っただけでなく、デザインディレクターの職務を全うできると豪語するのだから、まったく図太い神経をしている。
「そうね、杏那は賢いから、何でもすぐに覚えられるわ」鈴木玉奈が言葉を継ぎ、慈愛に満ちた目で新谷杏那の手の甲を叩く。しかし、新谷南に視線を移した途端、その目はあからさまな嫌悪に変わった。「それに比べて南、あなたはね」
嘲笑を含んだ口調で続ける。「あなたの実の父親は障害者で、母親は無職。三人の兄は全員独身で、弟は先天性の心臓病を患っていて、毎月高額な医療費がかかるそうじゃない」
「お母さん、もう言わないで」新谷杏那は心を痛めたような表情を作り、鈴木玉奈を制止する。
彼女は新谷南に向き直り、同情に満ちた目を向けた。「お姉ちゃん、お父さんたちと話し合ったの。会社の規定では退職時の給与は当月分だけだけど、私たちから三ヶ月分の給与を余分に渡したいの。これはその……」
彼女は言葉を区切り、いかにも新谷南を思いやっているかのような態度をとる。「私とお父さんたちからのほんの気持ち。それに、立花さんとの婚約の埋め合わせも兼ねて。お姉ちゃんの家は事情が特殊だし、何かとお金が必要でしょうから」
彼女はわざと立花弘の名前を出した。立花家と新谷家は政略結婚の約束を交わしており、本来なら今年、新谷南と立花弘が結婚するはずだった。しかし新谷杏那が戻ってきたことで、婚約は当然のように彼女のものとなった。
結婚式の招待状は、先週すでに社内中に配られている。
新谷杏那が言い終えると、周囲から社員たちのひそひそ話が聞こえてきた。
「新谷ディレクターの実家って、そんなに苦しかったの? これからの生活、大変だろうね」
「私なら新谷社長に泣きついて、新谷家に置いてもらえるよう頼み込むけどな」
「そうそう、杏那様は優しいから、きっと大目に見てくれるよ」
新谷南は聞こえないふりをし、顔の冷たさをさらに深めた。「必要ありません。契約の規定通りに精算してください。私の正当な報酬は一銭たりとも減らしませんが、不当な金は一銭たりとも受け取りません」
それを聞いた鈴木玉奈は鼻で笑った。「今さら高潔なふりをするの? この二十年間、新谷家で私たちの飯を食い、私たちの服を着ておきながら、受け取るべきじゃないなんて一度でも言ったかしら」
自分の娘の居場所を奪い、長年贅沢な暮らしをしてきたことを思うと、鈴木玉奈は憎しみで胸が張り裂けそうだった。
「鈴木さん」新谷南は顔を上げ、皮肉たっぷりの口調で彼女を見据えた。「この数年間、私が新谷グループにもたらした利益は、あなたたちが私に費やした額を遥かに上回っています。財務部に計算させましょうか」
新谷邦彦は顔を曇らせ、声を荒らげて叱責した。「南、母親に向かってなんて口の利き方だ」
新谷杏那が慌ててとりなす。「お父さん、お母さん、お姉ちゃんを責めないで。お姉ちゃんも、急なことで受け入れられないだけなの」
そう言いながら、バッグから綺麗に包装されたギフトボックスを取り出した。「お姉ちゃん、これ、私からの送別の品。たいしたものじゃないけど、私の気持ちだから」
言い終わるや否や、彼女は手を伸ばして新谷南の持つ段ボール箱を引っ張った。身をかわそうとしたが、すでに遅かった。
段ボール箱が床に落ち、数部の中身が滑り出て、磨き上げられた大理石の床に散乱する。
「これ、来シーズンの主力製品のデザイン画じゃないか!」誰かが息を呑み、驚きの声を上げた。
これは新谷グループのトップシークレットであり、今年度の収益を左右するものだ。
廊下は一瞬にして静まり返った。
鈴木玉奈が真っ先に反応し、青筋を立てて叫んだ。「新谷南! あんた、会社のデザイン画を盗み出すつもりだったのね!」
「こんな紙くず、盗んでどうするんですか」新谷南は冷笑を漏らす。
これらのデザイン画はすべて彼女が一本一本の線を描き上げたものだ。幼い頃から一度見たものは忘れない天才的な記憶力を持っており、頭の中にあるイメージは、この数枚の紙切れよりも遥かに鮮明だった。
「じゃあ、どうしてあんたの箱に入っていたのよ!」鈴木玉奈の金切り声が響く。「現行犯なのに、まだ言い逃れする気! これをライバル会社に売り飛ばして金に換えるつもりだったんでしょう」
「新谷南、見損なったわ! 新谷家が長年養ってきた恩を仇で返すなんて、とんだ恩知らずね」
新谷杏那も口元を押さえ、目を赤くして言った。「お姉ちゃん、お金に困っているなら私たちに相談してくれればよかったのに。どうしてこんなことを……これがお父さんと会社全体の結晶だって知っているはずなのに」
彼女は新谷邦彦に向き直り、声を詰まらせる。「お父さん、お姉ちゃんを責めないで。きっとやむにやまれぬ事情があって、魔が差しただけなの。どうか警察には通報しないで」
「杏那! あなたは優しすぎるのよ。こんなことをしでかした以上、責任は取らせるわ」鈴木玉奈は憎々しげに新谷南を睨みつけ、歯を食いしばった。
ある部門の責任者もたまらず声を上げた。「新谷ディレクター、これはあなたが悪い! 杏那様はあなたのことをこんなに思っているのに、どうしてこんな真似ができるんですか」
「ええ、こんな人だとは思わなかった。普段はあんなに高潔ぶっていたのに、会社の機密を盗むなんて」
非難の声が次々と上がり、そのすべてが新谷南に向けられていた。
しかし彼女は一言も発さず、ただ身をかがめて一枚ずつ図面を拾い集めた。
ビリッ——
紙を引き裂く音が、静まり返った廊下にやけに響き渡る。
粉々になった図面が、雪の破片のように新谷南の手から舞い落ちた。
「新谷南、気が狂ったの!」鈴木玉奈が金切り声を上げる。「それは来シーズンの主力デザインなのよ!」
「ただのゴミです」彼女は冷たく嘲笑した。「こんなレベルの代物、タダでやると言われても場所を取るだけです」
新谷邦彦は顔を青ざめさせ、怒りを押し殺して言った。「この図面がどれほどの価値があるか、分かっているのか」
新谷南は淡々とまぶたを上げる。「あなたたちにとっては千金の価値があるでしょうが、私にとっては一文の価値もありません」
そして新谷杏那に視線を移す。「ついでに忠告しておきますが、新谷グループが過去五年間で受賞したすべてのデザインの特許権者欄には、私の名前が記載されています。契約に基づき、退職後はこれらの特許の使用権を回収する権利が私にはあります」
新谷杏那の顔から血の気が引いた。
彼女は次第に険しくなる三人の顔色を楽しみながら、一言一言はっきりと告げた。「明日以降、新谷グループが引き続きこれらの特許を使用する場合、弁護士を通じて内容証明を送ります」
鈴木玉奈は怒りで全身を震わせた。「この親不孝者! よくもそんな口が叩けるわね。新谷家が長年育ててやったというのに。あなたの持っているものはすべて、新谷家が与えたものなのよ!」
そう言うなり高く手を振り上げ、新谷南の白い頬に向かって平手打ちを食らわせようとした。
新谷南の瞳が冷たく光り、身をかわそうとしたその時、骨ばった大きな手が鈴木玉奈の手首をがっちりと掴んだ。
氷のように冷たい男の声が、数人の背後からゆっくりと響き渡る。「こいつがあんたの娘か? 親不孝者だと罵る前に、自分にその資格があるかどうか鏡でも見てみろ」
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(この小説を軽い気持ちで開くなよ。三日三晩も読み続けちゃうから…)
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けれど、手の痛みより、引き裂かれた心の痛みのほうが遥かに強かった。
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その瞬間、ふと強烈な疲れを感じた。
ああ、もういいや。
5年間の結婚生活。
私は彼を許すのをやめ、自分自身を解放することにした。
氷の君と太陽の私
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だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。
長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」













